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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
132/474

真夏のBBQ

「肉うめえ!」


「夕夏焼くの上手い!」


「あはは、褒めてくれてありがとう!照れるな〜」


 夏と言えど、夜は日差しがないため、少しだけ肌寒い。


 まるで砂漠に解き放たれたような真っ白な砂、そして微かに聞こえるさざ波の音、美しい月明かり。


 星々が照らす砂浜では、焼けた肉の香りと、そして楽しげに話す人々の声が聞こえて来る。


「…なんでこうなったんだ?」


 そんな光景を横目で見ていた悠馬は、独り言のように呟いた。


 無論、バーベキューをするのは、最初から知っていた。


 悠馬が疑問を抱いているのはそこではない。


「おい桶狭間!紙皿持って来いよー!」


「おっけおっけ!今持ってく〜!」


 悠馬の思考を遮るように、大声で叫ぶ、碇谷と通。


 そう、今日のバーベキューは、アルカンジュが肝試しを偽装した告白を執り行った際よりも、遥かに多くのメンバーが来ていたのだ。


 通に連太郎、八神に南雲、そして愛海や夜葉などなど。


 肝試しの時のメンバーに加えて、各々の仲のいいグループが合流するという、闇鍋のような状態になっているのだ。


「どうしたの?悠馬。ハブられちゃった?」


 少し離れたところで紙皿を手にしている悠馬。


 そんな彼に声をかけたのは、彼女の1人である、美月だった。


 真っ白なTシャツに身を包み、銀髪の髪をなびかせて歩くその姿は、とても美しい。


「美月…いや、人が多いなって思って」


「あー…それはね、アルカンジュさんがさ?やっぱりこういうイベントごとは、人が多い方がいいな〜って言ってたから、とりあえずみんなの知り合いを手当たり次第呼んだ感じかな」


「なるほど。全く知らなかったから、驚いた」


 まぁ、人数が少ないよりも、人数多くしてワイワイした方がいい思い出になるし、男子組で割り勘する金額も安くなりそうだから、問題はなさそうだ。


 疑問が晴れた悠馬は、満足そうな表情を浮かべると、ゆっくりと横に座った美月を見て、首をかしげる。


「どうかしたのか?」


「ありがとう悠馬。悠馬のおかげで、今年の夏は水着も着れる。外でたくさん遊べる。二学期からは体育もできる…私のやりたかったこと、悠馬のおかげでぜーんぶできるようになったんだよ?」


 悠馬が美月とゴッドリンクしたシヴァの結界の恩恵、〝再生〟の副産物として、一生消えないハズだった腹部の傷が癒えた美月。


 それは彼女にとって、人生の中でもトップクラスに嬉しかったに違いない出来事の1つだろう。


 病院の屋上でも話していた一件だが、改めて感謝の気持ちを告げた美月。


 その無垢な笑顔を見た悠馬は、思わず身を乗り出して彼女へと顔を近づけると、唇が触れ合うほどの距離まで接近する。


 なんて可愛いんだ。


 心臓の高鳴る鼓動が、火照る顔が、理性が…抑えられない。


 このままキスをしてしまいたい。


「おい悠馬ぁ!!!近い!離れろボケェ!」


「うぁ!?」


 受け入れるように、近づくことも離れることもせずに、その場で瞳をつぶった美月。


 そんな2人を妨害したのは、聞き慣れた男の声だった。


 誰も見ていない


 そう思ってキスをしようとした2人は、飛び跳ねるようにして距離を置く。


「通…」


 くっ…邪魔しやがって…せっかくいいところだったのに…


 2人の口づけを邪魔して来た、黒髪小柄の男子、通。


 美月のことを好きだと豪語していた通からしてみれば、悠馬が美月と接近しているのが気にくわないのだろう。


「それなー!暁近づきすぎー!」


「さすがに彼女いる前でそれはNGじゃない?」


 通に声に釣られるようにして、近づいて来る夜葉と愛海。


 彼女たちの表情は、少し怒っているように見える。


「え?あれ?美月さぁん?」


 美月が付き合っていることを湊が知っている=夜葉と愛海も知っている。


 勝手にそんな考えをしていた悠馬は、厳しい眼差しで近づいて来る3人を見て、冷や汗を流す。


「ごめん…湊以外には言ってないよ…」


「うん、この光景を見ればわかる」


「テメェ!俺の篠原さんに手え出すなよ!」


「ちょっと桶狭間!アンタのものじゃないわよ!」


「そうよ!調子に乗らないで!」


 悠馬と美月のいい雰囲気は、一気に修羅場へと化す。


 通の俺のもの発言を聞いた愛海と夜葉が食ってかかり、調子に乗ってしまった通は、一歩後ずさる。


「ご、ごめんなさい…」


「これ以上変なこと言ったら許さないからね桶狭間」


「暁くんもだよ?」


『はい…』


 なんで美月の彼氏の俺まで忠告を受けるんだ…


 心の中でそう呟きながらも、面と向かって言い返すことのできない悠馬は、従順な下僕のように首を縦に振る。


「いこいこー!美月!」


「え!あ、ちょっと!」


 くそ!いい雰囲気だったのに!


 美月の手を引き去っていく2人と、メンタルブレイク中の通。


 トボトボと歩いていく通の姿は、失恋した男子そのものだ。


 まぁ、無視でいいや。


 通の恋愛事情など知ったことではないし、勝手に強く生きて欲しい。


「よっ、悠馬」


「おお、八神…」


 またしても1人になってしまった悠馬。


 そんな悠馬に声をかけて来たのは、クラスメイトの白髪美少年、八神だった。


 彼は頭がとんでもなく悪く、猿よりも馬鹿らしい。


「いやぁ、生の花蓮様は可愛いな〜」


 手に持っていた紙コップの中の飲み物を一気に飲み干し、そう呟く八神。


 ついに様付け…行くところまで行ったな。


「当たり前だ。花蓮ちゃんは完璧なんだ。可愛いに決まってる」


 彼女を褒められて鼻高々の悠馬は、紙皿に乗っていた冷えた肉を咥えながら、ドヤ顔をする。


 彼女のことを褒められて、悪い気になる男なんてほとんどいない。


 碇谷のような、褒めてるのか貶してるのかわからないようなのはダメだが、可愛いと言われたら、だろ〜?とニヤニヤしてしまうものだ。


「あはは。お前って、花蓮様のこと本気で好きなんだな」


「今更だな。言っとくが、俺はお前よりもずっと前から花蓮のことが好きだったんだ。本気に決まってる」


「そかそか!いや、完敗だよなぁ…お前と花蓮様が付き合った時は、ちょっと気が動転したけど、今はもう、素直に応援するしかない」


 ちょっと気が動転したレベルじゃなかったけどな。


 掴みかかって来たり、叫び声あげたり。


 あれでちょっとなら、マジな時は想像がつかない。


「応援してくれるんだ?」


「当たり前だろ?だって、正直な話花蓮様は雲の上のような存在だし。お前が別れたところで、俺が付き合える可能性なんて、俺が異能王になる並みに低いと思うぜ?」


「そんなにか?」


「そんなにだよ。それならさ、お前の友達として、花蓮様を少しでも眺めておきたいなーって。ほら、あの笑顔。こっちまで癒される」


 悠馬と八神がベラベラと話しているその時、女子たちに囲まれ、笑顔を浮かべる花蓮の姿があった。


 それを指差した八神は、屈託のない笑顔を浮かべていた。


「はは。お前は碇谷と大違いで安心した」


「碇谷?…ああ、南雲の側付きの…」


「あいつはとんでもないクソ野郎だ。注意しておけ」


 碇谷に恨みのある悠馬は、南雲のためにせっせと肉を回収する碇谷を指差す。


 アイツだけは、少し苦しんでもらいたい。


 昼間の一件だけじゃ気が済んでいない悠馬は、悪魔のような笑みを浮かべる。


「お、おう」


「ぬぁーに2人で話してんだ?お前らって、ソウイウ関係なのかな〜!」


「うわぁ!?」


「連太郎…」


 次から次へと…


 背後から驚かすように現れた連太郎を見た悠馬は、明らかに嫌そうな表情を浮かべる。


 連太郎と悠馬は、互いの秘密を共有しあってはいるものの、性格は真反対。


 陽気、というか、クスリでもやってそうな連太郎のテンションについていけない悠馬からしてみると、通常テンションの連太郎は特に、関わりたくない存在でもあった。


「いやぁ、まさか悠馬に、そっち系の趣味があったなんてなぁ」


「ねえよ!変なこと言うな!ってか帰れ!」


「うっわ、ひどくね?せっかく来てくれたお友達に帰れだなんて〜…暁悠馬はクソ野郎だー!」


 本当に帰って欲しい。


 心からそう願う悠馬の本音を聞いた連太郎は愉快そうに声を荒げ、周りに聞こえるようにアピールする。


「お前、あとで覚えとけよ!バーベキュー代、お前だけ割り増しで請求してやるからな!」


 悠馬の逆襲

 連太郎は家の仕事を手伝っているわけで、使えるお金も碇谷や八神、通といった普通の学生よりも多い。


 親からのお金を簡単に引き出せる連太郎なら、割り増し請求しても問題ないし、このくらいしないと気が済まない。


 連太郎に苦しんで欲しい悠馬は、ニヤニヤと笑いながら彼を見つめる。


「割り増しは…うーん…」


「お前は最近俺を冷やかしすぎたんだ。肝心な時もふざけるし、俺の苦労も知らずに…だからお前にも、苦労してもらいたいんだ。わかるだろ?一緒に苦しもう?」


 ついでに馬鹿みたいにお金下ろして親に怒られろ。


 そんな期待を込めた悠馬は、綺麗な笑顔を浮かべていた。


 しかしそれは、美しく見えるが、悪魔そのものだ。


 悠馬のことをよく知っている連太郎は、苦笑いを浮かべながら一歩後ずさる。


「きょ、今日は冷やかさないからさ?1.5割増し以内で抑えてくれよ?な?」


「もっと出せるだろ?」


「お前は鬼か…!悪魔か!」


 さらにカツアゲをしようと、金額を割り増ししてくる悠馬に仰け反った連太郎は、これ以上一緒にいてもラチがあかないと思ったのか、一目散に駆け出していく。


「俺の勝ちだ…!」


 今日は珍しく、連太郎を言い負かせた!


 いつもは冷やかされ、そしてオモチャのように扱われている悠馬が、異能島に入って2度目の撃破に成功した。


 1度目は美月と入れ替わったときに、夜葉や愛海、そして湊に連太郎に触られたと言ってキレさせた。


 あの時の連太郎の顔は実に傑作だった。


 今回はその次くらいに傑作の表情だっただろう。


「悠馬…お前って案外、子どもっぽいよな」


「そうかな…?」


「うん、羨ましいな、そういうの」


 何かを思い出したのだろうか?


 連太郎を言い負かして歓喜する悠馬と違い、ここではなく、遠くの何かを見ているように視線を動かした八神は、自嘲気味に笑ってみせる。


「?」


「俺もそんな風になれたら…って。よく思うんだ。そうすれば、もっと自分を好きになれたのかな…ってさ」


「お前、自分のこと嫌いなのか?」


「ああ。大嫌いだよ」


 クラスでもトップクラスのイケメン。レベルだって10とまでは行かないが9で、異能島に通う学生の中でも、かなり高い水準。


 スポーツ万能で、Aクラスではクラス委員も務め、友達も多い。


 八神に唯一欠点があるとするなら、それは学力くらいのものだ。


 だから、ほとんど欲しいものを手にしている八神が、何故自分のことを好きになれないのか。


 それが悠馬には、理解できなかった。


 自分のように、後ろめたい過去でもあるのか?


 それとも何か、病気でも隠しているのだろうか?


 そう考える悠馬は、異能祭で、朱理とデートをしていた時のことを思い出す。


 八神の知り合いかはわからないが、八神のことを期待外れだと言っている2人組がいた。


 親が偉大な人ほど、子どもが背負う期待も大きい。


 例えば、異能王が子どもを育てていたら?


 きっと将来はすごい人になる。すごい異能を使えるに違いない。


 世間では調べもしていないのに、勝手な憶測が行き交い、そしてその期待は全て重圧へと変わっていく。


 異能がすごければやはりすごかったんだ!で解決するが、異能が大したことがなければ、周りの目も自然と厳しくなってくる。


 やっぱり親だけか。親がすごいけど子どもは大したことないんだな。と。


 勝手に期待をして、勝手に手のひらを返していく。


 きっと八神は、それに耐えきれなかったんだろう。


 だから自分自身を、好きになれずにいる。


「いやぁ、ほんと、子どもの時から人生やり直したい気分だよ!そしたらもうちょっとうまく、今頃何も考えずに、可愛い子とお付き合いでもできてたのかなー!って!」


「ドーナツ屋の店員オススメだぞ。性格は知らないけど顔は可愛かったし、年上お姉さんだぞ」


「あはは、それは死んでも御免だ!」


 入学してすぐの、ドーナツ屋さんでの出来事。


 ナンバーズと知るや否や、連絡先を聞き出そうとしてきた店員のことをお勧めした悠馬は、拒絶した八神を見て鼻で笑ってみせる。


 悠馬は性格を知らないと言ったが、あの女は間違いなく、金銭目当て、将来の有望株たちを、食い漁っているクズな女性だろう。


「ま、楽しくいこう。俺らの人生、まだ始まったばかりだろ?」


「ああ。そうだな。あと70年近くは生きなくちゃいけないんだった。今凹んでたら、70年後まで保たないもんな」


「はは、たしかに」


 笑い合う悠馬と八神。


 少しは迷いが晴れたのか、微笑む八神は、賑やかになる砂浜を眺めながら、誰にも聞こえないよう、小さなため息を吐いた。


「ほんと、うらやましいよ」

そろそろあの人の…

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