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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
130/474

夏の女子会?

 騒がしい寮内


 いつもはひとりきりで、使い切れないほどの大きさの美哉坂夕夏の寮は、いつもとはまた違った雰囲気で、賑やかになっていた。


 今日は8月2日。


 夏休みが始まり早くも1週間が経過した、蒸し暑い日だ。


 無論、夕夏の寮は全く暑さを感じさせない。


 冷房はガンガンで、快適なスローライフを送れそうな、最高の環境だ。


「夕夏、今日の夜の準備、終わった?」


「うん!ばっちり準備できてるよ!安心して!」


 銀色の髪の少女が、台所で何かを切りながら、夕夏へと確認する。そんな彼女の左腕には、悠馬から誕生日プレゼントで贈られた、ピンクゴールドの腕時計が見える。

 

 リビングでなにかのセットを始めている夕夏は、美月に元気よく返事をすると、時計を見上げて、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「私、何気にこういうのするの初めてかも…友達同士でバーベキューなんて、憧れてたの!」


 そう嬉しそうに話すのは、花咲花蓮。


 今までお外でバーベキューなどという経験をしたことがない彼女は、人生初の体験に、心を躍らせていた。


「あはは。花蓮さん、今の時間から心待ちにしてたら、本番まで保たないよ?」


「そうね〜、あと4時間もあるわけだし…それと美月、私のことは花蓮って呼んで!」


「わかった。花蓮!」


 2回目の顔合わせだというのに、すっかりと打ち解けたのか、ニコニコと笑いながら話す2人。


 その2人の笑顔には、どちらかが我慢しているという風には、全く見えない。


 今日の予定。それはアメリカ支部の一件で、アルカンジュとアダムが付き合ったことの報告と、そして迷惑をかけたことの謝罪などなどを含んだ、当事者たちでのお疲れ会のようなものだ。


 まぁ、どちらかというと2人が付き合ったことのお祝い会と言ってもいいだろう。


「夕夏、買い出し完了〜」


 花蓮と美月が和気藹々と話をしている最中。


 大きな袋を手に持ち、ゆっくりと扉を開いた美月の親友、湊は、袋を床に置くと、警官のように敬礼をしてみせる。


「ありがとう湊さん、そしてごめんね?こんなに早くから呼び出して…」


 本来なら、バーベキューまで4時間も時間に余裕があるため、家でゆっくり〜とか、友達とお出かけ〜とか、色々と予定もあったかもしれない。


 申し訳なさそうに謝る夕夏を見た湊は、にっこりと笑顔を浮かべると、口を開いた。


「ううん。今日1日は暇だったし、ちょうど良かった。ところで、この前の一件って、どういう風に説明する予定なの?」


 この前の一件。


 流石にアメリカ支部が暁闇を調査しようとしていて、偶然見つけたアダムとアルカンジュを誘拐しようとした。などという説明は、口が裂けてもできない。


 ニュースを見る限りじゃ、表沙汰にはなってないようだし、話をややこしくするだけだ。


「あー…それはその、アダムくんに恨みのあるチンピラに絡まれて〜っていう設定にしてるよ」


 中学時代にアダムにボコボコにされたチンピラが、偶然アルカンジュを発見し、彼女を脅しの材料にしてアダムを呼び出し、復讐をしようとしていた設定。


 幸いなことに、現場を知っているのは限られた人物のみ。


 口の軽い碇谷や、ベラベラと話す美沙は状況を知らなかった為、納得してくれることだろう。


「そっか。まぁ、妥当な言い訳かな」


「うん、ところで湊、今日は珍しくオシャレしてるけど…どうしたの?」


 いつもはラフな格好、可愛い服なんかは全く着ない湊が、今日はネックレスまでつけて、何かを意識してるようにも見える。


 いつも近くにいる美月は、湊の異変にいち早く気づき、問いかけた。


「えぇ…っと…私も少し…前に進もうかな…って。いつまでも殻に篭ってたら、ずっと変われないような気がするから…」


 花蓮と夕夏には聞こえないように、美月の耳元で囁く。


 彼女もようやく、前へ進む決意をしたようだ。


 過去に親友の自殺をその目で見てしまった湊は、これまでずっと、自殺の原因となった〝男〟という存在を、毛嫌いしてきた。


 そんな湊は、先日の一件で、何かが変わったようだ。


「私、もう遅いかもしれないけど、美月みたいに、大切な異性を見つけたいなって。暁くん見てたら、ちゃんとした男もいるんだって、そう思えたから」


「湊も悠馬に告る?」


「それは絶対ナイ」


 どうやら悠馬のことは恋愛対象として見ていないらしい。


 悠馬のことをちゃんとした男と評価した湊だったが、それ以上でもそれ以下でもなかったようだ。


 美月は断言した湊を見て、クスッと笑う。


「夕夏さん、こちらも資材の調達は完了しましたよ。炭に金網、そしてバーベキューコンロも、完璧です」


 本日5人目の来訪者は、真里亞だ。


 手ぶらには見えるものの、おそらく荷物が多かった為に、寮の外に荷物を置いてきているのだろう。


 夕夏へと報告を終えた真里亞は、額に汗を流しながら、扇風機の置いてある場所へと向かう。


「ありがとー!真里亞ちゃん!」


「いえいえ。碇谷くんが手伝ってくれたので、かなりスムーズに進みました」


『え"っ?』


 夕夏のお礼と、そして真里亞から返ってきた言葉。


 想定外の人物の名前が聞こえたような気がした4人は、まさか、聞き間違いだよね?と言いたげな表情で、真里亞を見た。


 真里亞といえば、1年生の中でもトップ3に入ると言われる美人。


 胸と身長は残念なものの、それをカバーするほどの容姿を持っていて、そして指示も的確な為、Cクラスではかなり慕われている存在だ。


 対する碇谷と言えば、パッとしない、南雲の腰巾着。


 性格的には通とよく似たお調子者タイプで、すぐに調子に乗って痛い目を見る。女子からは敬遠されがちなキャラだ。


 容姿だってごく普通で、真里亞とは天と地ほどの差がある人物だ。


 そんな碇谷と、2人きりで荷物運びをしていたというのだから、4人が驚くのも無理はないだろう。


「まぁ、容姿は全く好みじゃありませんけど。碇谷くん、案外男気があって、可愛いんですよ?」


「へ、へぇ…」


「悠馬くんの方が可愛いと思うけどな…」


 碇谷が可愛い。


 おそらく真里亞は、合宿の肝試しでビビりながらも強がる碇谷のことを言っているのだろうが、それを知らない4人からして見ると、わけのわからない話だ。


 突然碇谷のことを男気があって可愛いなどと言い始めた真里亞に、頭大丈夫?と聞きたくなるレベルで。


「ま、いいじゃありませんか。付き合うわけでもありませんし、ここに居る4人が、碇谷くんを狙っているわけでもないのでしょう?ならば、誰も不快な思いはしてませんし」


「そ、そうね…」


「うん…」


 ここにいる誰も、損をしたわけでも、不快になったわけでもない。


 ただ単に、意外すぎる組み合わせに驚きの声が出ただけだ。


 人間の好みっていうのは、人それぞれだから面白い。


 万人ウケするであろう悠馬をスルーする湊や、悠馬から脱線し碇谷と親しくする真里亞。


「ところで花咲さん、初めましてでこんな話をするのは如何なものかとも思ったんですが、初デートはどうでしたか?」


「えっ!?私?」


「はい。盗撮されてましたよ?ネットで見かけました」


 何気に初対面の、真里亞と花蓮。


 花蓮のオーラに臆することなく声をかけた真里亞は、つい2日前、悠馬と花蓮が訪れたベアーランドでのデートがどうだったのかを、興味津々で尋ねる。


「あ、それ私も気になる!」


「私も聞かせてほしいな」


「私も」


 悠馬と花蓮の2人きりデート。


 年頃の女子、しかも女子だけの空間ともなると、歯止めは聞かない。


 何をしたのか、全く知らない夕夏と美月、そして湊も真里亞の質問に便乗し、花蓮を食い入るように見る。


「えぇ…特に何もしてないわよ…普通に手を繋いでデートしたくらいよ。お互いの好きなアトラクションに交互に乗って、美味しいご飯を食べて、最後に花火と夜景を見ながら、その…キスをしたくらい」


「え!?花咲さんと暁くんって、もうそこまで進んでるの?」


「アイドルなのに、意外と積極的なんですね」


 キスをしたと聞いて、驚く湊と真里亞。


 彼女たちからして見ると、キスというのはもっと後、付き合って一年後にするものとでも思っていたのだろうか?


 実際はもう、夜の本番行為までしているのだが、それを知らない2人は驚き、そして夕夏は、少し頬を赤らめる。


「唇って柔らかい?」


「どんな感触なんですか?」


「どんなって…うーん…柔らかいよ?あとは…なんか、気持ちいいかしら…」


 キスの経験がないであろう2人。


 悠馬の彼女たちは経験があるため、食い入るような質問はしないが、経験がない2人は、貴重な経験者の話を参考にしたいようだ。


「え、気になる」


「そんなに気になるなら、悠馬で練習すれば?」


「なんでそうなるんですか」


「それは遠慮しておきます」


「そ、そうだよ花蓮ちゃん!流石にそれは…!」


「今は3人だけのもの!付き合ってるならまだしも、悠馬を安い男にはしたくない!」


 気になるなら悠馬で練習すればいい。


 そんなわけのわからない提案した花蓮に猛反発の夕夏と美月、そして最初からそんな提案を受け入れる気のない2人は、花蓮を見て、苦笑いを浮かべる。


 この女、一体彼氏をなんだと思っているんだろうか?


 独占欲が強そうな見た目の花蓮が、二股、三股を許しているのですら意外なのに、他人にキスまで許そうとするのだから、驚きもするだろう。


「あはは。冗談よ。そもそも悠馬が拒みそうだしね」


「ところで夕夏と美月は?デートしたの?」


「お家デートなら」


「私も」


 美月と夕夏のデート。


 そもそも悠馬と付き合っていること自体、ここにいるメンバーしか知らないため、外でのデートはしていない。


 本来お家デートとは、そこそこのデート回数を重ね、「それじゃあ、次は私の家に来てみない?」「え?いいの?」と、親密度を重ねてたどり着くものなのだが、いきなりそのハードルをぶち壊している2人は、躊躇いもなく答える。


「…何するの?寮だって、セ◯◯◯くらいしか…」


「わー!してない!してないよ湊!私してないよ!」


 つい先ほどまで、前へ進むと話をしていた湊が、明らかにドン引きしたような表情を浮かべていたため、慌てて訂正する。


 美月は悠馬と、肉体関係には発展していない。


 付き合いたてということもあってか、夕夏と花蓮とはまた違った、初々しい関係を続けているのだ。


「私は膝枕とか…ご飯作ったりとか?あとは一緒にテレビ見たり…」


「通い妻っ!」


「夫婦っ!」


 寮の中ですることなんて、限られているし、何をするのかくらい薄々予想はしていたものの、そのどれでもない答えが返って来た2人は、口々にそう呟く。


 年頃の高校生男女と言えば、一度快楽を知ってしまい、猿のように盛っていてもおかしくないというのに、わざわざ寮まで来て、ご飯を作ったりテレビを見たりだぁ?


 笑わせんな!


 予想の斜め下の発言をした夕夏に安心しながらも、期待外れな答えが返って来て、少し残念な気持ちにもなる。


「えへへ。悠馬くん、膝枕好きなんだよ?この前なんか、ぐっすり眠っちゃって。結局3時間くらい膝枕してたんだ〜」


「なんですかそれ…」


「つまんなそう…」


 絶対に面白くないだろそれ。


 膝枕3時間耐久、しかも彼氏は眠ってるというふざけた状況。


 互いに膝枕を3時間無言でしている光景を想像した2人は、つまんないという結論に至り、引きつった表情を浮かべる。


「楽しいよ!好きな人の寝顔見れるんだよ!可愛いし!よしよししたくなるの!」


「あ…そうですか…」


「前々から思ってたけど、夕夏と付き合った男って絶対ダメ人間になると思うの。完璧すぎるし、甘やかし過ぎるし…」


 夕夏=完璧。


 自分が何かをやらずとも、全て夕夏が解決してしまうのだから、何もしなくていい。


 そんなイメージがある湊は、悠馬がダメ人間になるのではないかと不安視しているご様子だ。


「大丈夫だよ!悠馬くんはオンオフ切り替えれる人だし、料理以外は、多分私より完璧だし…」


 料理はセンスの欠片すら感じないものの、どうやら悠馬は、それ以外の部分では夕夏に勝る可能性があるようだ。


 現に異能ではすでに悠馬の方が格上なわけだし、ダメ人間にはならないだろう…


「へぇ…本当かな?美月」


「え?うん?悠馬はダメ人間にならないと思うよ?だってすでに、別の意味でダメ人間だし」


 許嫁を後回し、闇堕ち復讐最優先、鈍感野郎。


 これ以上落ちることはないだろうと考えている美月は、湊に対して容赦のない言葉を告げる。


「うわ、美月本当に付き合ってるの?」


「うん。付き合ってるし、悠馬のことはよく知ってるつもり。だから断言できるの」


「へぇ、そうなんですか?ではこうしませんか?これから4時間ほどの空き時間、暁くんの生態についてお話をしましょう。きっと楽しいですよ?」


「いいねいいね!」


「やろやろ!」


 真里亞の提案により、幕を開けた女子会。


 彼女たちはこれから4時間ほど、自分たちが今日、何をしにここへ来たのかを忘れるほど、悠馬について話すのだった。

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