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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学編
13/474

悠馬と美月

 第1異能高等学校の入学式も終わり、寄り道したい気持ちを抑えながら寮へと帰宅する。


 入学試験の時と変わらぬ、必要最低限の生活用品しか置いていない寮の中に、中くらいの段ボールが1つ。そしてその横に、本日学校で説明があった教材たちと、どの教材が何冊あるかが書いてある、納品リストが置いてある。


 それを一瞥した悠馬は、教材をスルーして段ボールを開き中身を覗き込んだ。


 必要最低限のものしか入っていない。下着に衣服、たったのそれだけだ。

 悠馬は基本、物を買わない。理由は単純に、復讐には必要ないものだし、欲しいものがあったとしても、祖父に頼むのは気が引けたからだ。


「我ながら少なすぎて笑えるな」


 自分が想像していたよりも、遥かに少ない自身の荷物。それを見て思わず笑ってしまう悠馬は、十数秒笑い続けると、急に真顔になって携帯端末を触り始めた。


「ところでこれはバグなのか?」


 これから始まる、異能島での3年間の生活。その中で最も重要とされるものがある。

 それは国から支給されたこの無償の携帯端末だ。

 携帯端末は、スマホと同じく自分の好きなアプリを入れれる上に、異能島内の連絡先を交換している友達となら、自由に連絡のやりとりができる。どうやら本土の連中とは連絡できないらしいが。まぁ、携帯端末の他にスマホも持っている生徒たちからすれば全く関係のないことだろう。


 それに加えて、携帯端末には異能島内のすべての名所や、観光スポット、ショッピング施設などの情報が手軽に検索できる地図アプリがダウンロードされている。(これは入試の時とは違って、名前を検索しても位置情報が出なくなっていた。)

 そして学校の時間割を見ることのできるアプリ、学校からの連絡の確認、極め付けは異能島でのショッピングの支払いは、この携帯端末1つで終わってしまうのだ。

 使用方法的には、ICカードと同じだ。

 通帳か現金で携帯端末にチャージをして、端末内にチャージされたお金で支払いが可能になる。

 なので基本的に、この携帯端末を持っていれば異能島内のどこでも買い物ができるし、何処へでも行くことが可能なのだ。


 そして悠馬がバグかと心配しているのは、上記に記述した、最後者のシステムである。


 悠馬は祖父から、お前の父親と母親が稼いだお金だ。俺はこれを使う気にはならんかったから、この金で高校生活を好きに過ごせ。仕送りはやらん。と、実質絶縁宣言をされていた。


 父親が小さな会社の社長だったということもあり、手渡された通帳の中に入っていた遺産は、数千万という、高校生では使い切れないであろう金額だった。

 悠馬はそれを使わなかった祖父を見直すと同時に、どう使おうかと悩んだ挙句、とりあえず携帯端末に10万円チャージして見たのだ。


 するとどうだ?10万円だけしかチャージを行わなかったはずなのに、瞬く間にチャージが増えて、入学式が終わる頃にはチャージ残高が99999999円。つまり約1億円のチャージが完了していたのだ。


 それに気づいた悠馬は、寮に帰りチャージ履歴の確認を行い、自分自身がチャージした10万円の履歴しか残っていなかった悠馬は、残りの約1億円を誰がチャージしたのか、それとも何かのバグなのかと首を傾げていたのだ。


 もしかすると、自分がチャージした以上のお金を使ったら退学で、家にヤバそうなスーツを着た男たちが来るんじゃないのか。とか、そんな不安が脳裏によぎる。異能島ならやりそうだ。いや、やりかねない。


 考えれば考えるほど不安と恐怖が募っていく。


 この件を本日寮で会う約束をしている人物に相談しようと思っている悠馬は、時計を見て驚いた表情を浮かべた。


 寮に戻ってから、1時間近くが経過していた。


「アイツ、自分から誘っておいて何処で何をしたんだよ…」


 思わず毒づく悠馬。

 今日、悠馬が通の魅力的な誘いを断ってまで寮に戻ってきたのは、荷物を整理するためじゃない。

 入学式が終わると、机の中に一通のメモが入っていたからだ。その差出人に予想がついた悠馬は、遊びたかった気持ちを抑えて寮へと戻ってきた。


 それなのに、メモを書いた当の本人が予定の場所に来ないというのは、大変遺憾である。

 ベッドへ駆け寄って、制服のままそこへと飛び込んだ悠馬は、深いため息を吐きながら枕に顔を埋めた。


「俺の高校生活…」


 別に、ひたすら楽しみたいわけではなかったが、本格的な授業が始まるまでは学べる技術なんてないわけで、トレーニングは夜にやればいいだけだ。そう考えていた悠馬にとって、こうした放課後から夜にかけての時間というのは、心待ちにしていた息抜きの時間というやつだった。


「それなのにアイツ…」


 俺の息抜きの時間をボッチで過ごせって言ってるのか!?なんて野郎だ!などと、心の中で叫び、ベッドをドカドカと蹴る。


 そんな中、ピーンポーンと高らかなインターホンの音が寮内に鳴り響き、悠馬は枕からガバッと頭をあげた。

 キッチンの前についてあるカメラ付きのインターホンを無視して玄関へと向かった悠馬は、勢いよく扉を開けた。


「いくらなんでも遅…」


 そこまで言ったところで、約束した人物の後ろに、面倒な奴が控えているのを見て悠馬は嫌そうな顔を浮かべた。


「なぁ、美月。お前、絶対に1人で待ってろって言ってたのに、なんで男連れてきてるの?」


 申し訳なさそうな表情の美月の後ろに、ニマニマと笑いながら両手でピースをして煽ってくる連太郎。

 その光景を冷ややかな目で見つめる悠馬は、美月の弁明を待った。


「わ、私だって、1人で行こうとしたんだよ?でも、クラスの女子に色々と話しかけられて時間かかっちゃって…やっと抜け出したと思ったら、次はこの人に追いかけられて…聞けば暁くんの友達だって言うし、それなら大丈夫なのかなー?って」


 悠馬が聞きたかった、なんで遅れたのかの理由と、なぜ連太郎がいるのかの理由をきちんと答えた美月は、最後にごめんなさい!と付け加えると、深々と頭を下げた。


「まぁ、いいよ…」


「そいじゃあお邪魔しまー!」


「お前は外で待ってろ」


 美月の謝罪を受け入れたところで、待ってました!と言わんばかりに悠馬の寮に入ろうとする連太郎。

 それに反応した悠馬は、連太郎を軽く押しのけると、美月の手だけを引いて扉に鍵を閉めた。


「え?え?」


 理解が及んでいない美月と、ため息を吐く悠馬。

 扉からはドンドンと叩く音が聞こえ、寮内にはインターホンの音が高らかに響き渡っている。


「暁くん、あの人友達じゃなかったの?」


「友達というか…うーん、出来れば友達にはなりたくなかった奴?」


 マジなストーカーじゃない?と言いたげに、青ざめた表情をした美月が携帯端末を取り出したところで、警察に通報しそうな勢いだと判断し、知り合いではあるという説明を行う。


「あ、でも待って。私は全然良いけど、暁くん以外に聞かれたくない話をするから少しどこかへ行ってもらうってことは出来ない?」


「わかった」


 悠馬が美月の誤解を解くために、扉の鍵に手をかけたところで、彼女はそう告げた。

 おそらくイジメの話だと判断した悠馬も、それをすんなりと承諾した。


 鍵を開くカチンという音と共に、扉が勢いよく開かれる。


「おまたせ!」


 扉から差し込んでくる光とともに、金髪の男が入ってくる。


「別にお前のことは誰も待ってねえよ。それと、割と真剣な話があるから、お前はその話が終わるまで二階にいろ。異能を使って盗み聞きしたらお前とは絶交するからな」


 連太郎の異能は、植物を操るだけではない。植物ともう1つ、聴覚強化という、一定の距離の会話や物音を正確に聞くことができるという優れた異能だ。

 本人曰く、1キロ圏内なら大体聞き取れるらしい。その異能を使うことを禁止した悠馬は、二階へ続く階段へと連太郎を押しやる。


「へいへい。じゃあ、話終わったら扉叩いてくれよー?」


 連太郎は言い返すそぶりもなく、すんなりと承諾すると二階の部屋へと消えていった。


「さ。リビングへ行こうか」


「うん」


 美月を連れて、リビングへと向かう。

 ダイニングに置いてある椅子に座った悠馬は、美月を向かいの椅子に座らせ、入学試験の時と同じ構図になるような状態になった。


「それで、話って、どうしたんだよ?」


「2つあるけど、まず暁くんに1番関係してそうな事から」


「なんか暁くんって距離感あって寂しいな…」


 悠馬は少し、調子に乗っていた。その理由は、今日の入学式で通にクラスで1番かっこいいと言われたからだ。少しはそのことをアピールしたい悠馬は、まず最初に、美月と距離を詰める作業から始めた。


「じゃあ、悠馬?」


「うん!それがいい!」


 案外すんなりと行くものなんだな。机の下で拳を握りガッツポーズをした悠馬は、続けざまに放った美月の話を聞いて、驚くこととなった。


「入学試験で悠馬が倒した、桜たちのこと覚えてる?」


「ああ。忘れるわけないだろ」


 あれだけ派手なことをしたんだ。忘れられるわけがないし、美月の顔を見るとセットで思い出すと言っても過言ではない。


「あの子たち、入学試験が終わって実家に帰省したその翌日から行方不明なの。警察も事件として捜査してるんだけど、悠馬、変なことしてないよね?」


 どうやら、美月は自分がお願いしたばかりに、悠馬が何かしでかしたのではないかと不安になっているようだ。少しそわそわとしながら、そう尋ねる。


「知らないよ。流石に俺だって、手段は選ぶ。警察にお世話になるような真似、俺ならしないよ」


 一切の心当たりがない悠馬。

 まさか、入試から入学式の間に、そんな事件が起こっていたとは、思いもしなかったような表情で答えた。


「そもそも、俺は篠原からあのいじめっ子たちを消してとはお願いされていないし、そんなお願いだったら多分断ってる」


「そうだよね。うん。よかった。安心した」


 美月は自分のせいで起こった行方不明事件じゃないと判断したのか、安堵の表情を浮かべ、一呼吸置いた。


「2つ目。悠馬には言わなきゃいけないことがある。私の隠し事」


 そう告げた美月は、制服の上着を脱ぐと、下に着ていた白いワイシャツを捲り上げて素肌を悠馬に晒した。

 悠馬は咄嗟に目を瞑る。


「待て。待て待て待て。落ち着け!確かに入試の時の俺は勘違いして変なことを言ったけど!ごめん!」


 自分のせいで美月が服を脱ぎ始めた。

 慌てて目を塞ぎ、首を振りながら謝罪をした悠馬は、恐る恐る目を開き、彼女の腹部にあった傷痕を目にした。


「…入試の時に言ったよね。イジメで車に撥ねられたって」


 気まずい雰囲気が、2人の間に流れる。

 自分が想像していたよりも、遥かに大きな傷を負った美月。これではもう、周りには素肌を晒せないだろうし、女子高生が期待しているような、夏にビキニを着て女子友達と遊ぶなんてことはできない。


「ごめん…流石にそれはどうしようもない」


 自分の異能じゃ、その抉れてしまい、サッカーボールほどの大きさの手術痕を治せない。それを知っていた悠馬は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ!いや!治して欲しいわけじゃないの。そりゃあさ、治せるなら治して欲しいけど…これは私のケジメ。悠馬に隠し事をしながら、守ってもらうなんて、そんな卑怯なことしたくない」


 彼女自身はケジメだと言った。それを聞いた悠馬は、「そっか」とだけ告げると、机を跨いで手を伸ばし、震えながらシャツを捲っていた美月のシャツを下ろした。


「大丈夫。約束はちゃんと守る。お前がちゃんと笑って卒業できるように、な」


 そう言って美月に笑いかけた悠馬の表情は、少し寂しそうに、申し訳なさそうに見えた。

 まるで自分は隠し事をしているような、それを申し訳なく思っているような。


「さて。これで話は終わりなんだよな?上にいる奴を呼ぶけどいいか?」


「う、うん。私邪魔なら帰るけど」


 用が済んだからか、連太郎と悠馬の邪魔をしてはいけないと思っているのか、美月は制服の上着を羽織ると、立ち上がろうとする。


「いや。連太郎が篠原に付いて来たってことは、多分篠原にも話したいことがあるからだと思うんだ。だからここに居てくれ」


「ねぇ、自分のことは悠馬って呼ばせといて、私のことは篠原って、他人行儀すぎない?」


「じゃ、じゃあ…美月?」


「うん。待ってる」


 久しぶりに女子のことを下の名前で呼んだ。耳まで真っ赤にした悠馬は、その場から逃げるようにして二階の連太郎を呼びに行った。


「はいはい連太郎くんだよ〜!」


「要件を言え要件を」


 美月から見ると新鮮なノリの会話だったが、悠馬は聞き飽きている様子だ。早く本題に入れと言わんばかりに悠馬に小突かれた連太郎は、「ひどいなぁ!」などと呟きながら本題に入った。


「悠馬、お前、篠原さんには隠し事しない方がいいんじゃなーい?」


 その言葉を聞いた瞬間、悠馬はビクッと震え、連太郎を睨みつけた。さっきの冷めた視線ではなく、怒りの篭った視線だ。


「隠し事?」


「そうそう!悠馬はぎょ」


「やめろ。話すな」


 勝手に隠し事を話そうとする連太郎にそう忠告した悠馬。

 辺りを見渡すと、氷でできた槍のようなモノが5本ほど、連太郎の首を向いて待機して居た。


「おい悠馬、後から苦しくなるのはお前の方だぜ?話せることは先に話して、縁切っといた方がいいと思うけど」


 その行動に対して、連太郎は驚いたそぶりもなく、ヘラヘラとした表情ではない、鋭い視線で悠馬にそう告げた。


「…わかった。俺から話すからお前は何も言うな」


 連太郎の言うことも一理あると思ったのか、少し考えるような素振りを見せた悠馬だったが、覚悟を決めたのか、自分の過去について話し始めた。


 それは三年前の、あの日の話。

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