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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
124/474

いざ、デートへ。

朝早く。夏休みということもあってか、人気のない噴水広場にて精一杯のおめかしをした少女。


その姿はさながら、ドラマの主演を演じるモデルのようだ。


…いや、正確にはモデルなのだが。


しかし今回は撮影などではなく、完全オフのカレシとのデート。


待ちに待った、何気に初かもしれない、デートなのだ。


七夕祭りでもデートはしたのだが、こうして素顔を晒してのデートは初。


待ちきれずに30分も前に到着してしまった彼女、花蓮は、真っ白な清楚さを漂わせる半袖のシャツに、黄色のヒラヒラのスカート。


髪には黒とピンクの二色でデザインされているリボンに、可愛らしい紫色のピアスにヒールを履き、カレシのことを待っていた。


待ち合わせの10分前。少し大きめの真っ白なTシャツに、黒色の半ズボンをはいてその場に現れた悠馬は、夏休みが始まったこともあってか、青色のピアスを耳につけている。


花蓮が噴水の前で待っていることに気づいた悠馬は、ちょっとだけにやけると、大きく手を振る。


「ごめん花蓮ちゃん。待った?」


「ううん。ぜーんぜん!」


正確には十分ほど待っていたのだが、それを口にしなかった花蓮は、手の触れ合う距離まで歩み寄ってきた悠馬の手を握り、「行きましょ?」と笑顔を向ける。


「あ、うん!行こっか」


蝉の鳴き声が響く中、駅へと向かう。


向かう先は、学校や寮などが一切建っていない、第23学区の遊園地だ。


夏休みが始まって、早5日。


おそらく大体の生徒は、調子に乗り夜更かしなどをして、不健康な生活を送っているのだろう。


歩いている学生の姿は、夕方近くと比較すると、少ないように感じる。


が。


花蓮のオーラは周りと違うようで、べったりと悠馬の腕を掴むその姿を見た周りの生徒たちからの声が、かなり聞こえてくる。


「うぉ…!花咲花蓮じゃん、めっちゃかわいくね?俺もあんなことされてぇな〜」


「いやぁ、暁マジ羨ましすぎだろ。でもよ、俺らもラッキーだよな。朝から花咲花蓮を見れるなんて!」


第1の栗田や山田、モンジと違って、他校生の口からは、暴言や妬みの声は聞こえてこない。


それを少し嬉しいと感じながらも、特に反応することもなくスルーする2人は、駅へと向かう。


駅へとたどり着いた悠馬と花蓮は、携帯端末を改札口にかざし、駅へと入る。


駅の中も人は少ない。


いつもならば、通学前の生徒たちで賑わっている駅も、夏休みともなると、田舎路線じゃないのか?と不安になる程お客さんが少ないものだ。


これが続けば、間違いなく電車の本数は1時間に1本になる事だろう。


…しかし、悠馬と花蓮のいる向かいのホーム、第7学区行きのホームは、少し人が多い。


「花蓮ちゃん、第7高校の周りって、人気の施設でもあるの?」


「うん、異能島で1番大きいプールがあるわよ」


異能島で、最も大きいプール。


学生、しかも暇を持て余しているとなると、海やプールに行こうと思うのは、必然的な判断だろう。


向かいのホームにいる学生たちの持ち物、少し大きめのカバンやバッグ、そして浮き輪を手にしている生徒を見た悠馬は、花蓮の話を聞いて納得する。


「おーい!花咲さーん!」


悠馬がそんな考察をしていると、向かい側から大きく手を振る、2人組の女子生徒たちの声が聞こえてくる。


その2人に手を振り返してあげる花蓮は、可愛らしい笑顔を浮かべていた。


「友達?」


「いいえ。知らない人よ」


花蓮から返ってきた、なかなかに冷たい返事。


花蓮の性格は、基本的に冷たい。


悠馬の前ではベタベタと甘えてくるものの、普段は覇王と接するような刺々しい言葉を吐くのが彼女だ。


そんな花蓮を見た悠馬は、手を振ってくれた女子生徒たちが、本当に知らない人なのか不安そうなご様子で、駅のホームへと流れてきた電車を見る。


プシュー。という音を立てて、ゆっくりと開く電車の中へ手を繋いで乗り込んだ2人は、辺りをキョロキョロと見回し、空いている席を探そうとする。


しかしながら、その行動は意味もないものだった。


探すまでもない。全席空席。


悲しいほど人のいない電車だったようだ。


田舎路線でももう少し人はいるだろ…と言いたくなるほどのガラガラ具合だ。


もしかすると、みんなプールにいって、遊園地は貸切状態なのかもしれない。


期待のような、不安のような気持ちを抱きつつ、扉近くの席に座った2人は、初々しく辺りをキョロキョロと見回していた。


そう。七夕祭りではお祭りの雰囲気でノリノリの2人だったが、今回は雰囲気もクソもない。


しんと静まり返った空間に、2人きりなのだ。


「こういうの…結構緊張するわね」


「そ、そう…だな…けど意外かな…花蓮ちゃんも緊張するんだ」


モデルやアイドルとして、様々な緊張を体験してきたであろう花蓮。


そんな彼女が緊張をしているというのは、素直に驚きだった。


それだけ自分のことを意識してくれているのかもしれない。


そんな嬉しさに駆られながら、少し冷やかすように口を開いた悠馬の頬は、少しだけ赤いようにも見える。


「あ…当たり前じゃない…私がどれだけ、こんな日を夢見てきたと思ってるのよ…」


照れ臭そうに、頬を真っ赤に染める花蓮。


その姿は、今まで一度も見せたことのないような、完全にデレた花蓮の姿だった。


「すごく嬉しくて、あんまり眠れなかったんだから…」


そう呟いた花蓮を見た悠馬は、つい先日の出来事を思い出し、心の中で美月へと感謝をする。


***


なぜ美月に感謝をしているのか。


その理由は、2日前夜の出来事にさかのぼる。


夏休みということもあって、明日のことは何も考えなくていい。


朝早く起きなくていいし、学校に勉強しに行かなくても良い。


そんな幸せな夏休みを満喫していた悠馬は、美月と向かい合うようにして、椅子に座っていた。


その光景は、入学試験の時、悠馬の寮に訪れた時の構図と、よく似ている。


「〜♪」


「なぁ美月」


好きな人とようやく付き合えたからか、それとも、腹部の傷がなくなったからか。


やけに上機嫌に鼻歌を歌う美月を見た悠馬は、そんな彼女を見つめながら、真剣な眼差しで口を開いた。


「なーに?悠馬」


「あ、あのさ…湊さんには…俺たちが付き合ってること、言ってるよな…大丈夫だよな?」


美月と付き合い始めた。


それは3日前の話なのだが、美月が湊に話しているのかわからない。


もし話していなかったとしたら、湊は激怒し、そこそこ上がった親密度も、皆無になることだろう。


「あれ?言ってなかったっけ…私、悠馬が目覚める前に、湊にきちんと、私の気持ちを伝えたの」


美月が退院し、悠馬が眠っている1日の間。


その間に、美月は湊に、自分の気持ちを伝えていた。


「少し驚いてたけど。どこかの誰かさんと違って、私の気持ち、気づいてたみたい」


「へ、へぇ…」


合宿の肝試しで美月がアピールしたというのに、それでも気づかなかった悠馬。


おそらく美月の言う何処かの誰かさんとは、悠馬のことなのだろう。


自覚症状のある悠馬は、気まずそうに視線をそらす。


「女心もわからなくて、鈍感って…最悪な組み合わせ…」


「…いや…別に鈍感ってわけじゃ…」


「好意に気づかない時点でそれは鈍感なの!」


「すみません…」


敵意には敏感だが、好意には疎い悠馬。


その原因は間違いなく、闇堕ちしている自分に自信がないのと、そして勘違いナルシスト野郎だった時が恥ずかしい。といったものなのだろう。


女心がわからないのは、経験と知識の問題だ。


「デートとか普段どこに行ってるの?」


「え?まだ行ったことないよ?」


「んんんんんん?」


七夕祭りをデータとカウントしていいのか、良くないのかイマイチ理解できていない悠馬。


花蓮がお面をつけてのデートだったし、実質ノーカンだと判断した悠馬は、なんの戸惑いもなく、デートをしたことがないと断言した。


「ちょっと待って?付き合って1ヶ月よね?」


「うん。そうだよ?」


「…悠馬、一回病院で脳みその検査してもらったほうがいいんじゃないの?」


普通、1ヶ月も付き合っていればデートの一回や二回、行っているはずだ。


てっきり悠馬もデートしていると思っていた美月は、キョトンとした表情の悠馬を見て、辛辣な発言をする。


「美月、酷くね?」


「酷いのは悠馬。そんなだから、今日だって2人とも寮に来てくれないんじゃないの」


「うぇ?」


自分は特に、間違ったことをしてない。


そう考えている悠馬にとって、2人が寮に来てくれない理由は自分が原因だと告げられるのは、かなり驚くものだったらしい。


変な声を漏らした悠馬は、目を見開く。


「デートって、何気に女子の夢だよ?それなのに、1月も経ってデートの話もしてこないんだから、心も離れるに決まってるじゃん。逆に今まで、何考えて生きて来たの?」


大好きな彼とデート♪的なノリで、夕夏も花蓮も、悠馬とのデートを心待ちにしていたことだろう。


それなのに悠馬は、2人とデートもせずに、付き合うということで満足して1ヶ月過ごして来た。


正確には、デート以上の行為はしているのだが、それを知らない美月にとって、2人がここへ来ない理由=悠馬が鈍感でつまらないから。という理由になっていた。


「え、デートってほら、いい雰囲気の時に誘ったりさ?下調べとか、色々あるし!外出許可証だって…!」


「どこ行くつもりなんですかね〜?悠馬さん。異能島の中でも、デートスポットはたくさんあるはずなんですけど〜?それに、付き合ってるんだからどのタイミングで誘われても嬉しいに決まってるじゃん!ほんと、バッカじゃないの?」


馬鹿な悠馬。


一体どこに行くつもりでいたのかは知らないが、外出許可証を申請して、本土へ行くことをデートと思っていそうだ。


そんな悠馬を一喝した美月は、携帯端末を取り出すと、何かを検索して、悠馬へと見せる。


「いーい?先ずは花咲さん!彼女は夏休み期間中はモデルの仕事で忙しいだろうから、今日中に連絡を入れて、デートの約束をすること!」


「そんないきなり言われても…心の準備とかさぁ?」


「乙女か!別れたくないなら早く連絡!別れたいなら構わないけど!」



***



ありがとう美月。お前の言った通りだった。


美月に言われた通り、デートを実行している悠馬は、嬉しそうな花蓮を見て、心の中でそう呟く。


今日の行き先は、異能島第23学区にある、大型遊園地のベアーランドでのデートだ。


23学区丸ごと遊園地という、その広大な大きさのテーマパークは、異能島に通う学生なら、必ず一度は行っておきたい、有名なスポットとしても良く知られている。


デートをすると言えば、無難な場所だろう。


あまり遊園地に行ったことがない悠馬は、少し緊張しつつも、今日の予定を脳内で再確認する。


朝の9時半、ベアーランドの開園時間に遊園地へと到着、チケット代を支払ってから、そこからは花蓮の好きなアトラクションや、パレードを見て過ごす予定だ。


そしてお昼は、少し高価そうなところでご飯を食べて、夜は……だ。


なんかスカスカじゃね?と思うかもしれないが、悠馬が好きなアトラクションオンパレードで無理やり好きなものを強要するよりも、花蓮の好きなアトラクションに乗りたい。という気持ちがあってのことだ。


基本行く場所と、大まかな時間帯しか決めていない悠馬は、地図を脳内には入れているものの、花蓮の好きなものを最優先で回って行くつもりでいる。


「わぁ…!見て悠馬!見えて来たよ!ベアーランド!」


「すげぇ…!画像で見るより、ずっと大きいな…!」


子供のように、電車のガラスに手をついて外の景色を眺める花蓮。


それに釣られて、花蓮と同じように外の景色を見た悠馬は、某ネズミの王国にも引けを取らない景色を見て、嬉しそうな声をあげる。


大きな観覧車に、高いレール。その上をジェットコースターが走っていて、いかにもテーマパークな雰囲気を醸し出している。


『間も無く、第23学区、ベアーランド前。お降りの際は、忘れ物がないようお願いします』


電車の中に放送が響き、もうすぐで予定の場所へと到着することを知る。


楽しそうに外の景色を眺める花蓮を見て微笑んだ悠馬は、ゆっくりと彼女に手を伸ばし、空いている手を握る。


「さ?行こうか。花蓮ちゃん」


「ええ!行くわよ、悠馬!」


本当にありがとう、美月。


お前が色々と女心を教えてくれたおかげで、今日のデートは順調に、そして楽しく過ごせそうだ。


再度心の中でそう呟いた悠馬は、右手の温かな温もりを感じながら、開かれた駅のホームへと降り立った。

まともなデートは初(?)ですね。七夕はまぁ…花蓮ちゃんお面つけてたので…

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