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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学編
12/474

自己紹介

 

  校長や教育関係者の長ったらしい話が終わり、それらから解放された生徒たちは、教室に戻ると少しずつ会話を始めていた。


「あ、お前入試の時の、受かってたんだな!」


「そっちこそ!」


 入試で顔を合わせていた生徒だったのか、和気藹々と話を始める2人組。


 残念なことに、悠馬が実技試験中に見た顔は、ほとんどがクラスにいなかった。


 何せ、出会った生徒のほとんどは、何者かによってボコボコにされていた。


 最初は悠馬自身が氷漬けにしたし、次は連太郎が酷い異能で受験生を虐めていた。


 美月と合流した時に見ていた生徒たちはあまり強そうではなかったからか1人も見当たらないし、最後に出会った大部隊になっていた赤黒混合のメンバーたちも、夕夏が一撃で仕留めたからかどこにも見当たらない。


 かと言って、女子たちに囲まれてキャッキャウフフしている夕夏や、美月に話しかける度胸は持ち合わせていない。


 現に、男子生徒の大半は夕夏か美月をチラチラと見て、チャンスを伺っているように見えた。


 そんな中で悠馬の隣に座っている女子生徒と、悠馬の左後ろに座っている女子生徒は、会話に参加していなかった。


 悠馬の隣にいるのは、金髪の外国人だ。

 横から見た感じ、髪が短かったら美青年という言葉が似合いそうなスタイルだ。


 失礼だからそんなこと口にはしないけど。

 背中の中間あたりまで伸びた長い髪を指でクルクルと回しながら、つまらなさそうにしている。


 そして左後ろにに座っている女子は、なにやら小難しそうな本を読んでいる。


 入試で夕夏と共に行動していた加奈という女子生徒だ。


 彼女とは試験中に少しだけ会話を交わしたが、少し気難しそうだったし、群れることが好きなタイプじゃないように見えた為、友達の夕夏の元には向かっていないのだろう。


「へい!そこのイケメン!」


 悠馬が周りの様子を観察していると、背後から肩を軽く叩かれ振り返る。


 振り返った先には、先程美月に微笑みかけられたとはしゃいでいた男子が座っていた。


「俺は桶狭間通!よろしくな!」


 くしゃくしゃの笑顔で自己紹介をした通は、右手を出しながら握手を求めてくる。


「俺は暁悠馬。よろしくな。通」


 差し出された手を握る悠馬。それを勢いよくブンブンと振った通は、笑顔そのままにこれで友達だな!と歯を見せながら笑って見せた。


「あ、ああ」


 半ば強引に友達にさせられた気もしたが、それでも友達ができたことが嬉しかった悠馬は、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。


「んでさ、友達としてお願いがあるんだけどいいか?」


「なに?」


「あの女子に囲まれてる、亜麻色?っつーのか?の髪の色の可愛い女子と、銀髪の女子から連絡先聞いてきてくれねーか?ほら、俺ってチビだしさ。こういうのって、イケメンのお前らの仕事だろ?」


 申し訳なさそうな表情1つせずに、常識はずれなことを言ってみせる通。


 前言撤回だ。こいつと友達になれたことはちっとも嬉しくない。


 まさかこの為だけに友達になろうとしたのかと、神経を疑ってしまうほどだ。


 僅か数秒で手のひら返しをした悠馬は、先程まで浮かべていた笑みを徐々に戻すと、無表情になってしまった。


「無理だ」


「ぇえ!頼むよぉ、友達だろぉ?飯奢るからさ〜」


「いくらお願いをされようが、俺はあの女子の中に突っ込む度胸は持ち合わせてない。他を当たってくれ」


 ほら、こっちに歩いてきてる白髪の好青年男子とかにさ。


 どれだけ自分をイケメンと褒めようが、あんなに仲良く会話をしている女子の中に入る度胸のない悠馬は、通が口を開くたびに「いやだ」「無理だ」と返事をする。


「おい通!入学早々前の席の奴に迷惑かけんなよ!初対面だろ!」


 悠馬の方へと近づいてきた白髪の好青年は、通と知り合いだったようだ。


 通は注意をされると、うぐっ…と言って静かになった。


「で、でも初対面じゃねえぞ!俺実技試験でこいつ見たもん!お前も見ただろ!八神ぃ!」


 初対面と言われたのが納得いかなかったのだろうか。

 顔を強張らせながら悠馬を指差した通は、フー、フー、と鼻息を荒くしながら八神を睨みつけた。


「あのな!あれは俺たちが一方的に見てただけだったろ!」


「ああ…あの時の2人組?」


 そこまで言われて、連太郎と話していた時に様子を伺っている影があったことを思い出した悠馬は、2人の会話の内容を理解したように首を縦に振った。


「ほらぁ!初対面じゃなかったぁ!」


「いや、顔までは見えなかったから実質初対面じゃね?」


 ドヤ顔で勝ち誇っている通に対して、悠馬はそう告げる。


 それを聞いた八神は、フッと鼻で笑ってみせると、ほらな。と呟いて通をバカにしたような目で見た。


「そんなぁ…」


「俺は八神清史郎。よろしくな」


「ああ、俺は暁悠馬。よろしく」


 八神から差し出された手を握り返す。

 先程の通とは違って、手をブンブンと振られない、軽い握手だ。


「そんじゃあ、八神聞いてこいよ。お前顔だけはいいからよぉ!このクラスで2番目って認めてやるよ!」


 悠馬が頑なに連絡先を聞くことを断ったせいか、次の矛先は八神へと向いた。


 しかし2番目って、誰が1番なんだろう?

 八神と悠馬は、顔を見合わせて首を傾げた。


「このクラスで1番かっこいいのって誰なんだ?」


 八神の質問に、悠馬は同調するように頷く。

 その光景を見た通は、一度長いため息を吐くと、机をバン。と軽く叩いて口を開いた。


「チッ、これだから自覚のねえイケメンたちは害悪で困るんだよ。1番は悠馬で2番目が八神!3番目がこの俺様だ!」


 てっきり、1番カッコいいのはこの俺様だ!とでもいうのだろうと予想していた2人だったが、想定外の答えに顔を見合わせる。


 お互いに顔を見合わせて出た答えは、確かにかっこいい。という答えだった。


「いや、八神が1番だろ」


「は?悠馬だろ」


 通の発言によって譲り合いが始まる。


 悠馬の中学校生活は悲惨なものだった。

 入学して直ぐにテロに巻き込まれ、事情聴取や保護観察、そして親権の譲渡などの様々な手続きで、福岡の中学校に通うはずだったのに、2ヶ月遅れで祖父の住む東京の中学校へ編入。


 編入直後の悠馬は病んでいた為、誰にも声をかけられずに、アイツ暗すぎだろwてか喋れないんじゃね笑というような陰口を叩かれながら生活をしてきた。


 勿論、3年になればそこそこ会話も交わすようにはなったものの、2年間で出来た溝を修復出来るまでには至らなかったし、女子に告白されたこともなかった。


 チョコレートを貰った事はあったけど。


 だから悠馬は、自分がカッコいいなどという自覚が一切なかった。


 対する八神。

 八神の中学校生活は、ごく普通そのものだった。


 同じ学校に通うほとんどの男子と絡みがあって、基本誰とでも仲良くできる。加えて大体のスポーツも平均以上に熟せるという、ハイスペック男子である。


 そんな八神がモテないはずもなく、女子から告白された事は両手で数えられないほどあった。因みに、男から告白された事もあった。


 しかし、その誰とも付き合うことのなかった八神。


 理由は本人のみぞ知るが、自分がモテていた事くらい気づいているだろう。


 これは所謂イケメンの謙遜というやつだ。行きすぎると嫌味にしか聞こえない、「いや、俺なんかより君の方がずっとカッコいいよ!」という、あの何度も聞くと虫唾が走る発言だ。


 通はその経験があるのか、2人の譲り合いを冷ややかな目で見つめながらため息を吐く。


「ってか、お前が3番目はねえよ。顔が普通でも性格が歪みすぎてる」


 このままじゃラチがあかないと判断したのか、八神は悠馬との譲り合いを中断すると、冷たい渾身の一撃を通に放つ。


「な!オメェ!普通って言うな!俺は普通って言われるのが1番嫌なんだよ!何度言えばわかるんだよ!それに性格歪んでるってなんだよ!」


「ははは。そういやそんな事も言ってたな!ごめんごめん!何って、第1を志望した理由がハーレム作りたいからって、そりゃ歪んでるよ!」


「はぁ!?ハーレムは男の夢だろ!なぁ!悠馬!」


 悠馬に何を期待しているのか、目を輝かせた通は、美月や夕夏、その他の女子をチラッと見ると、ソワソワとし始める。


 何故、通がこんなにもハーレムという言葉を女子の前で平気で言えるのか。


 それには、ちゃんとした理由があった。

 第5次世界大戦。3年前に終結したその戦争では、科学兵器の殆どが意味をなさない、異能の力を持つ人間同士の争いが主流となっていた。


 当然のことだが、自分よりもレベルの高い能力者と遭遇すれば、高確率で死んでしまう。加えて、各国では戦争を批判したテロが同時に起こり、戦時中という事もあり対応が遅れ、結果として大量の犠牲者を出すこととなっていたのだ。


 世界大戦に加え、各地で起こったテロ。そして食糧事情。


 様々な要因が重なり、世界の総人口は20億人も減少してしまうという大事件にもつながっていた。


 日本支部も、同じような結果を辿っていた。

 高位能力者を失い、新博多以外でも起こったいた小さなテロの数々。


 超高齢化社会と言われていた日本支部にとって、若者がテロや戦争で死ぬというのは、超の付くほどの大ダメージだった。


 そんな背景があって、2年前、日本支部政府は一夫多妻制度を導入した。


 各国も似たり寄ったりだ。減りに減った自国の国民を増やし、あわよくば効率よく大量に高位の能力者を誕生させたい。そんな事を考えている国もあるだろう。


 日本支部のように、一夫多妻を採用した国々は現在、通のような一昔前まではクズ男と罵られるような男を大歓迎しているのである。


「まぁ、正直な話魅力的ではあるけどさ」


 可愛い女の子たちと、幸せな家庭を築く。それは魅力的なことだ。

 しかし悠馬には後ろめたい過去と、異能があった。


 結婚するという事はつまり、交際していた時は隠すことが出来ても、過去の話をしなければならない日が必ず来る。


 だからこそ、結婚なんてできない。そう諦めた悠馬の顔を見て、通は何か勘違いをしたのか、悠馬の肩に手を当て笑みを浮かべた。


「好きな子に振られたんなら、俺が相談に乗ってやるぜ。お前みたいなイケメンでも振られるんだな!」


 悠馬が誰かに振られたのだと勘違いしているようだ。ニヤニヤと笑いながら、通はザマァ見ろ!と言いたげな瞳で悠馬を見る。


「残念だけど、俺は振られてない」


「ケッ、これだからイケメンは」


 その返答が気に食わなかったようだ。

 唾を吐き捨てそうな勢いでそっぽを向いた通は、美哉坂ちゃん可愛いなぁ。癒されるなぁ。などと呟きながら、悠馬と八神の方を振り返る事はなかった。


「そろそろ席に着け。ホームルームを始める」


 入学式前とは違い、ゆっくりと扉を開いて入ってきた女教師。


 それに気づいた八神は、悠馬に手を振ると自身の席へと向かっていく。


 女子たちも、スーツを着た女教師の声を聞いて、それぞれの席へと着き始めた。


「このクラスを3年間担当することになる千松鏡花だ。風邪や怪我で担任が変わる事はあるだろうが、基本的には3年間変わることがないからよろしく」


 異能島の国立高校は、3年間同じクラスでクラス替えがないという、高校にしては結構珍しい部類に属するシステムを採用している。


 つまり、良く言えば仲の良い子と3年間同じクラスで過ごせる、悪く言えば、1年生の頃に嫌われ、ハブられても2年でクラスが変わる事もないため、卒業まで嫌われハブられ続けるという、天国であり地獄のようなシステムなのだ。


「そしてこの島のルールについてだ。合格通知にも書いてあったが、一発退学のものだけおさらいしておく。まずはレイプ、強姦。これは未遂であっても一発退学。お前らの人生は一発でエリート街道から外れ地に落ちる。次に万引き。しないとは思うが、この島の万引きは本土ほどうまくいかないからよぉく気をつけておけ。3つ目は無免許での運転。これもまぁ、島の中では無理だろう。バレた時点だ即刻退学だ。そして4つ目。これは結構な頻度で起こっているが、私的な理由で異能を使用した挙句、相手に大怪我を負わせてしまった場合。ただの怪我なら停学で済まされる事もあるが、大怪我、つまり骨折や身体に残る傷を負わせた場合も退学だ。あとは学校の秩序を乱す行為。肝に命じておくように」


 他にもまだまだあるのかもしれないが、一発でレッドカードを頂くものの内容だけを上げてくれた鏡花先生。


 男子も女子も、いきなり退学の話が来るとは思っていなかったのか、ほんの少し萎縮している。


「言い忘れていた。一発退学の場合は理事会からの怖いお仕置きも待っている。退学になっても、生きて本土に帰れるといいな」


 ニヤリと不気味な笑顔を浮かべながら、鏡花はコツン。と教卓を鳴らした。


 沈黙が数秒続く。本当に生きて帰れないんじゃないか?という疑問が浮かんだからだ。異能島から退学になった生徒の話なんて、一度も聞いたことがなかった。それってつまり、そういうことなんじゃないのか?という不安が、生徒たちの心の中に渦巻く。


「さて、それじゃあ最後の説明だ。君らの寮は、入試の時に指定したモノがそのまま使用可能になっていることは、最低でも入学式の前日に入寮したお前らなら知っているはずだな?その寮に、教材と携帯端末が用意されているはずだ。もし教材が足りない場合は携帯端末を使って第1に連絡、そして携帯端末がなかった場合は、友達に端末を借りて第1に連絡、若しくは、第1までご足労願おう。明日の時間割も携帯端末に記載されているはずだ。授業初日から遅刻はするなよ。以上。帰っていいぞ」


 鏡花がそう締めくくると、待ってました!と言わんばかりに女子生徒たちが立ち上がり、廊下へと出ていく。おそらくこの後どこかお出かけにでも行くのだろう。クラスに残っている生徒たちも、既に友達はできた様子で和気藹々と話し始めていた。


「なぁ悠馬、このあと暇か?」


「悪い、俺昨日島に来てさ。荷物の整理とかしないといけない」


 背後から肩を叩かれ、遊ぼうと言いたげな通に、申し訳なさそうな表情で答える。


「そっかぁ、そりゃあ仕方ねえな!じゃあ明日の放課後遊ぼうぜ!」


「ああ。また明日も誘ってくれ」


 既に今日の予定が決まっている悠馬は、手を振って来る通に手を振り返すと、足早に教室を抜けて自身の寮へと向かった。

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