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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アメリカ支部編
110/474

誘拐事件?

 湊の口から発せられた、衝撃の事件。


 それは彼女が第4区前に到着する、十数分前の出来事。


 事件は時刻21時を回り、ショッピングモールが閉店する直前に起こっていた。


「はぁ…なんとか間に合いましたね…」


 アダムへの誕生日プレゼントを買い終えたのか、嬉しそうに紙袋を抱っこするアルカンジュと、それを見て安堵のため息を吐く真里亞。


 異能島の補導時刻は22時。


 当然、それまでショッピングモールが開いているはずなどもなく、そして補導された時、ショッピングモールにギリギリまでいたからこんな時間になった。という言い訳も受け付けないために、こういった商業施設、そして飲食店の9割は、21時に閉店となる。


 そんな中で、ギリギリ買い物を終えた真里亞が安堵するのは、当然のことだろう。


 しかし問題はこれからだ。


 予定の時刻よりも30分以上オーバーしている挙句に、告白の台詞すら考えていない。


 ここから先は完全ノープランである。


 安堵も束の間、問題は山積みであることを思い出した彼女は、頭を抱えた。


 もちろん、美月だって、湊だって、夕夏だって同じ気持ちのはずだ。


 日本人は時間にせっかちだと言うが、実際にそうなのかもしれない。


 当の本人であるアルカンジュは全く焦っていないのだから、国民性の違いというヤツか。


「ま、告白が成功すればそれでいいんですけど」


 そんなアルカンジュを横目に、成功すれば何も文句はない。といった表情を浮かべた真里亞は、目の前から現れたガタイのいい人物と激突する。


「あっ…とすみません。余所見をしていました」


「いや。いいんだ。ぶつかったついでに、ちょっと聞きたいことがあって。お嬢ちゃん、聞かせてくれないか?」


「はぁ?道案内ですか?」


 珍しい事もあるものだ。


 真里亞はぶつかった人物と目を合わせた瞬間、そんな単語が頭を過ぎった。


 身長は190センチ後半だろうか。


 ずっと顔を見上げていると首が痛くなりそうな身長差と、ガタイのいい身体。


 金髪の髪に、茶色の瞳。


 彼が異能島の学生でないことは、一目瞭然だった。


 年齢的には30近いくらいで、教員というわけでもなささう。


 異能祭が終わった後だというのに、一体何をしに来たのだろうか?


「いや、道案内は間に合ってる。俺が聞きたいのは、この島で1番強い生徒って誰かなー?と思ってな」


「あらら。少し野蛮な質問ですね。見たところこの島の生徒ではなさそうですし、お応えするわけにはいきませんよ。貴方が犯罪者だという可能性もありますので」


 真里亞の的確な判断。


 こんな時期に異能島にきて、1番強い生徒を探して回るなんて、幾ら何でも怪しすぎる。


 普通の生徒なら、ノリと気分で答えてしまいそうな質問ではあったものの、警戒心の強い真里亞に質問したのは間違いだった。


「まずは訂正させてくれ。俺はこの通り、日本支部からの招待客だ。犯罪者じゃない」


 警戒する真里亞に対して、胸元に下げたプレートをアピールする外国人男性。


 そこには、来賓と書かれた、シルバーのプレートが掛けてあった。


 真里亞は、プレートを見ると同時に、深々と頭を下げて謝罪をする。


「これは大変失礼しました。来賓の方とは気づかずに、無礼を働いてしまい申し訳ございません」


「いいんだ。いきなり大人に声をかけられたら、驚いてしまっても無理はない。こっちが来賓のプレートを見せなかった不手際だし、君が謝ることじゃないよ」


 外見からは考えられないほど、温和な笑みを浮かべる外国人。


 彼らにとって、人を欺くことなど朝飯前だ。


「それで、聞かせてくれないか?この島で1番強いって言ったら、誰だと思う?」


「みなさんは誰だと思いますか?」


「え、いきなり質問されても、ねぇ?」


「双葉先輩か、暁くんとか?」


 真里亞の話題振りに反応した、湊と美月。


 彼女が警戒心を解いた為か、2人もすっかりと警戒心を解いて、外国人の質問にすんなりと答えている。


「そこのお嬢ちゃんと、金髪のお嬢…ちゃ…」


 有力な情報をメモしながら、穏やかに質問をしていくアメリカ支部兵。


 しかしながら、その男の茶色の瞳は、夕夏。ではなくその横に立っていたアルカンジュを見て、大きく見開かれた。


「…どうしてここに…人工セラフ化実験、被験体のアルカンジュがいるんだ…」


「何か言いましたか?」


 小さな声で囁く外国人。


 彼の声が聞こえなかった真里亞が一歩前へ出ると同時に、真里亞を軽く押し退けた男は、アルカンジュの元へと歩み寄り、ガッシリと肩を掴む。


「お前、アルカンジュだろ」


「は…い…?」


 軽く押し退けられた真里亞が睨みつける中、そんな彼女には目もくれる事もなく、アルカンジュの方だけを見つめる。


 アルカンジュは何が何だかわからない様子で、キョトンとした表情を浮かべていた。


「まさかこんなところで発見するとは…帰るぞ、アルカンジュ。お前を今から保護する」


 何も知らない様子のアルカンジュを強引に掴み、引っ張ろうとする外国人。


「ひ…!離してください!」


 そんな彼の手を強引に振り払ったのは、他でもない、怯えた表情を浮かべたアルカンジュだった。


 何かを思い出した様子の彼女は、外国人の手を払うと突然走り始める。


「ちょ!アルカンジュさん!」


「待て!アルカンジュ!」


 真里亞が叫ぶと同時に、叫び声をあげる外国人。


 アルカンジュが逃走したことがよっぽど緊急事態だったのか、走り始めようとした彼を止めたのは、夕夏だった。


「真里亞ちゃん。アルカンジュちゃんをよろしく。そして…貴方は一体何者なんですか?彼女、怯えてましたけど」


 外国人を右手を伸ばして制止させた夕夏は、真里亞がアルカンジュを追いかけていく姿を横目に、真剣な表情で尋ねる。


「さっきも言っただろう?俺は来賓客だよ、ほら。プレートもある」


「でしたら、セントラルタワーまでお送りしますので、きちんと手続きを踏んでからアルカンジュちゃんに会ってください。こっちです」


 夕夏の冷静な対応。


 彼女はつい先ほどの行動と、そして発言に違和感を覚えていた。


 強い生徒を教えてくれ。そんな質問、来賓客がするわけがない。


 もしかすると、どこかの企業の引き抜きなのかもしれないが、その場合だと、理事に聞く方が手っ取り早いし、ノコノコと1人で出回る意図もわからない。


 それに、アルカンジュを見つけて、驚いたような様子。


 だというのに、アルカンジュはこの男のことを知らない様子だった。


「困るぜ嬢ちゃん…」


「何が?困るんですか?」


 そのままセントラルタワーへと向かおうとする夕夏に、慌てた男は身振り手振りでそれを止めようとする。


 しかしそれは、逆効果だ。


 上げ足を取られ、何が困るのかを尋ねられた男は、困ったような表情を浮かべた後に、諦めたような表情になる。


「ま、仕方ないか。無垢な学生に手をあげるのは気がひけるが、お嬢ちゃんたちを出汁にすれば、きっとアルカンジュも現れるだろう」


 観念した様子の男を見た夕夏は、安心したように瞳を瞑ると、直後、腹部に鈍い痛みが響き、目を見開いた。


 夕夏の目の開いた先にあるのは、大きな拳。


 外国人の男が、夕夏の腹部を殴ったのだ。


 鈍い痛みと同時に、身体に力が入らなくなった夕夏は、虚ろな瞳になりながらその場に崩れ落ちる。


「夕夏っ!」


「逃げ…」


 薄れゆく意識の中で、逃げてと呟こうとする夕夏。しかしながら、その言葉を言い終える前に、夕夏はその場からピクリとも動かなくなる。


「湊、逃げて!」


「え?な!は?美月は!美月はどうするのよ!逃げよう!一緒に逃げようよ!」


 レベル10の夕夏がやられた。


 当然、異能での戦いじゃない上に、不意打ちだった為、負けるのは確定していたようなものなのだが、湊をパニックに陥れるには十分すぎるものだった。


「無理。2人じゃ逃げ切れない。湊より私の方がレベルは高いから!だから逃げて、警察でもなんでもいいから助けを呼んできて!」


 パニックになっている湊の背中を押して、右手を透過させた美月。


 目には見えないが、美月は今、闇の異能を使っている。


 美しい紫色の瞳の一部分を漆黒に変えながら、不可視の闇でできた剣を振り下ろす。


 それを難なく回避した外国人は、警戒したように距離をとる。


「湊!お願いだから早く行って!」


 湊と二手に分かれて逃げたところで、相手は成人男性。


 普通の走力じゃ到底敵わない。


 ならば異能で時間を稼ぐしかない。


 レベル8の湊が残るより、レベル9の美月が残った方が、断然いいに決まっている。


 そして美月の異能は、闇だ。


 親友である湊には、絶対に見られたくない異能。


 湊の秘密を知っていたとしても、口が裂けても言えなかった秘密。


 湊が見ていては、闇の異能は使い辛すぎる。


 透過を使いながら、闇を隠して戦わなければならない美月は、冷や汗を流しながら湊へと叫ぶ。


「わ、わかった!すぐに!絶対に助けを呼んでくるから!待ってて!」


 恐怖で体が竦んでいたのかはわからないが、美月の叫び声によって、ようやく走り始めた湊。


 そんな彼女を見送った美月は、安心したような表情を一度だけ浮かべ、そして目の前にいる男を冷たく睨みつけた。


「…貴方、犯罪者なの?」


「悪人と一緒にしないでくれ。我々は正義の味方だ」


 美月の質問に対して、ニヤリと笑って見せる外国人。


 胸元につけてあるプレートは、偽物だ。


 この人物、この外国人は、アメリカ支部アリスの指令によって暁闇の調査へと赴いたメンバーの1人。


 ジャクソンから抜擢され、本作戦に参加しているメンバーの1人である。


「へぇ…野蛮な正義の味方。何の罪もない少女を、ピンチになったから殴って気絶させて、正義の味方気取り?笑わせないでよ」


 湊がいなくなったことを確認した美月は、辺りを闇で侵食しながら、歪んだ笑みを浮かべる。


「私の友達…傷つけた覚悟はできてるんだよね?」


「…まさかこの女が…!」


 アリスの言っていた、暁闇なのか?


 朽ちていく木々を見て、それが間違いなく闇の異能であることを悟ったアメリカ支部兵は、一歩後ずさると拳を前に突き出し、格闘技の試合のようなポーズをとる。


「素手でやる気なんだ。腕、斬り落とすよ」


 美月は最初から、ここで決着をつけるつもりでいた。


 湊を逃したのは、救援を呼んできてもらう為じゃなくて、自分の異能を知られない為。


 美月は人生で初めて怒っていた。


 今まで、虐げられてきた美月は、自分自身のために怒るということが出来なかった。


 多少怒ることはあったものの、闇の異能を発動させてまで何かをしようとしたのは人生で初めてだ。


 ようやく楽しく過ごせるようになった、高校生活。


 そんな中で、ようやく出来た友達を傷つけられた。


 容赦しない、今ここで確実に斬り刻む。


 悠馬が悪羅を目にした時と同じく、感情が制御できていない美月は、構えをとったアメリカ支部兵へと闇でできた刀を向けると、冷たい眼差しで一気に闇を放出した。


「はぁ…はぁ…闇にはそんな使い道もあるのか」


「!?」


 闇の刀を伸ばすようにして、アメリカ支部兵を貫こうとした美月。


 しなしながら、その刀には手応えはなく、少し離れた距離には、大きく息切れをしているアメリカ支部兵がいた。


「それが貴方の異能?犯罪者向きの、逃げることに特化した異能ね」


「そう思うかい?しかし、お嬢ちゃんが暁闇だというのなら、その余裕も納得がいく。本気でいかせてもらうぞ」


「まるで今の回避、手を抜いてたみたいに言うのね。見栄っ張り」


 次で決めると断言した男を、不満そうに見つめる美月。


 いつの間にか、美月の瞳の色は真っ黒に変わり、悠馬と同じような、歪んだ笑みを浮かべていた。


「っ!」


 はや…


 別に、油断をしていたわけじゃない。


 煽りはしたものの、最大限の警戒は怠っていなかった美月は、自分が一体何をされたのかもわからないまま、腹部に打ち込まれた拳へと目を落とした。


 鈍い痛みで、呼吸ができない。


 一切反応できなかった。目で追えなかった。


 薄れゆく意識の中で、必死に対抗できる闇の異能を発動させようとする美月だったが、その抵抗は虚しく、彼女はその場へと倒れた。


「…俺でも倒せる…ということは、人違いなのだろう」


 アメリカ支部兵、デルタ。


 彼の異能は、体力を消耗した分だけ、自身の速度を速くできるという異能だ。


 その気になれば、悠馬の鳴神を超える速度で動くことも可能だろう。


 つい先ほど美月を気絶させた一撃は、体力の2割分の異能を発動させた。


 ストックができるわけでもない上に、体力をかなり消耗する異能。


 デメリット多いものの、使いこなせた時のメリットは大きい。


 大きく肩で息をしながら、気絶した夕夏と美月を抱えたデルタは、耳につけていた無線に向かって、一度だけ声をかけた。


「こちらデルタ。アルカンジュを発見した。有力そうな情報を持っているであろう2人を確保した為、これより拠点へ戻る」

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