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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学編
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入学式

 春。

 満開の桜が等間隔に並んでいる綺麗な道を、景色を楽しみながらゆっくりと歩く。


 寸分の狂いもなく綺麗に並べられた赤いレンガ調の歩道を歩く悠馬は、ひらひらと舞うピンク色の桜と、すぐ近くを歩く自分と全く同じ制服を着た学生を見て、少しだけ笑みを浮かべていた。


 ここ、異能島の通学路を通るのは入学試験以来だ。


 異能島の合格発表というのは、わざわざ高校に向かい合否を確認するのではなく、ネットからの合格確認、そして後日合格者の自宅に書類を発送という、極めて簡単な方法で合格確認をできる。


 そして悠馬は、黒の王を務めていたということもあり、当然合格通知が届いていた。


 真新しい、新品特有の香りを放つ制服に身を包み、真新しいカバンを片手に持ち、第1異能高等学校へと向かう。


「やっほー!」


「あ!湊さん合格してたんだ!久しぶり〜!」


 入学試験の時はあれほど学生で溢れかえっていた人通りも、本日、入学式になれば潰れかけのお店程度だ。


 ちらほらと見える通学路を通っている生徒の数は、2.30人にも満たない。


 今年の入学試験の結果、合格者数は94人。

 受験者は約9000人いたらしいから、倍率は噂通り約100倍だったようだ。


 そんな振るいにかけられて生き残った生徒たちなのだから、当然相当な実力者たちなのだろう。


 辺りを見回して見ると、そこそこ強そうな生徒たちが多い。


 ちなみに補足だが、この異能島には9つの国立高校と、10の私立高校が建っている。


 9つの国立高校の入試倍率はとんでもないが、私立の方は四捨五入しても安定の二桁くらいらしいし、それなりに合格人数も多いらしい。


 目的地、入学式の会場である第1異能高等学校の門の前に辿り着いた悠馬は、立ち止まることなく、門に前に建てられていた祝 入学式の看板と、学校名が書かれたプレートを一瞥し、そのまま階段を登った。


 入試の時は人が多くて、人の流れと教員たちの声に従って移動していた為さほど不安ではなかったが、人通りも少なく、教員がどこにいるのかもわからない為、どこに行けば教室にたどり着けるのか非常に不安だ。


 階段を登った真正面に見えるのは、高さ50メートルはあろうかという大きな時計塔と、その真正面に配置されている、中世風の噴水。


 そして、大きな時計塔から左へと目をやると、2月に入学試験を受けた会場である、綺麗な校舎だ。

 右へと目をやると、時計塔よりも小さな円柱型のタワーと、こちらも真新しい校舎が見える。


 どうやら、渡り廊下と時計塔を経由して、両サイドの校舎を行き来できるように設計されているようだ。


 それを把握した悠馬は、カバンの中から合格通知の書類を取り出すと、自分の割り振られたクラスと教室の場所を確認する。


 西側校舎1年Aクラスと書かれているが、突然西と言われたってわからない。

 太陽が沈む方が西だから…と考えた悠馬は、左側の校舎だ!と答えを導き出し、自信満々に西側校舎の昇降口へと向かった。


 途中、綺麗な花壇や小さな水路、まるで夢のような空間を通過していく。


 その先に見えてくる、入試の時に出入りをした玄関。


 あの時は緊張していなかったといえば嘘になるし、人通りも多かった為、周りの景色に気を向ける余裕なんてなかったが、こうして入学式前に景色を見てみると途轍もなく美しい。


 まるでこの世の楽園ではないのか?と錯覚してしまうほどだ。


 流石は国が莫大な資金を投じて作ったと言われる異能島だ。


 実際はこれから勉強地獄の全寮制なのだが、そんなことを特に気にした素振りを見せない悠馬は、上機嫌に昇降口の中へと入った。


 入試の時はブルーシートが敷いてあり、そこに靴を脱ぐ形になっていたが、今回はそうではないようだ。


 真っ白な塗装を施されているステンレス製の下駄箱の前に立った悠馬は、手に持っていた合格通知を眺め、下駄箱の番号を確認した。


 悠馬は1年Aクラスの出席番号が1番な為、昇降口に入って突き当たりを左に曲がって、一直線に行った先の左上の角が下駄箱のようだ。


 1-A01という紙が刺さっているプレートを見た悠馬は、その下駄箱を開き、靴を入れた。


 カバンから新品の上靴を取り出し、土足厳禁と書かれた看板の横で上靴を履く。


 辺りには同じく、今日が入学式の新1年生がチラホラと見えるが、みんなお友達は合格していなかったのか、1人で廊下を進んでいく。


 異能島の入試は日本でもトップの倍率な訳だし、仲良しペアで入試を受けたとしても、両方落ちるのは簡単でも両方受かるのは難しいのだろう。


 悠馬はそんなことを考えていたが、金髪のふざけた男が頭に浮かび、首を振った。


 案外友達ってのは受かるかもしれない。


 昇降口から廊下へ抜けると、真っ白な廊下と、真っ白な壁。そして廊下にある窓ガラスから見える外の景色は、完全に商売としてお金を稼げるほど、美しい植物たちの景色だった。


 西校舎へと入る通り道でも見たが、一般人が見ることはないであろう学校の外側もきちんと整備されているようだ。


 廊下に立ててある、新 1年生の教室はこの階段を登った二階にあります。という看板を目にした悠馬は、昇降口を抜けて廊下へと入ったすぐ左側にある階段を登って上の階層へと向かう。


 ペタペタと、真新しい上履きの音が、シンと静まり返った階段に響き渡る。


 後ろを見て見ると、誰も来ていなかった。


 もしかすると遅刻なんじゃないか!?と慌てて腕につけていた安物の時計を確認した悠馬は、集合時間の15分前であることを確認してから、安心して階段を登った。


 一階と同じく、真っ白な廊下と真っ白な壁、そして外から見える綺麗な景色をそのままに、ずらりと並んでいる教室。


 90人弱しかいない新1年生に、この大量な教室は必要ないだろ。と言いたくなるほど扉が並んでいる。


 そのほとんどの扉の上には、クラスの名が書いてある室名札はあるものの、白紙のままだった。


 予想通りというか、金の無駄遣いというか。

 奥にある教室以外は空き教室のようだ。


 7つほど先にある教室の室名札を見た悠馬は、そこに1年C組と書かれていることに気づき、そっちの方向へと向かい始めた。


 歩き始めて直ぐに、窓から外の景色を眺めて見る。


 何気なく見たその景色だったが、悠馬はその景色を見た直後に、窓際に寄った。


 綺麗な花畑と、配置をよく考えられて置かれたであろう木々の真ん中に、東屋が見える。


 きっとああいうところで、美男美女カップルが昼休み中にあーんをしてもらったりして、優越感に浸るんだろうな。


 自分がそうなりたいという邪な気持ちを持っていたものの、それにはなれないと自覚していた悠馬は、せめて友達を作ってご飯を食べて見たいな。と小さな妄想を企てる。


 Cクラスの室名札を過ぎると直ぐに、Bクラスの室名札が見えてくる。そして1番奥に見えた、Aクラスの室名札を見た悠馬は、歩くペースをほんの少しだけ早めると、手に汗を握りながら教室の目の前へとたどり着いた。


 ここから始まる新生活の第一歩。

 アイツに復讐するために必ず必要となる力の使い方を学べる場所。


 教室の扉の前に貼ってある席順をみながら、そんなことを考えていた悠馬だったが、すぐにその思考は中断され、絶望することとなった。


 悠馬の名前は〝あ〟から始まる。大抵の場合、出席番号が1番なのだ。


 その為、イベント毎では事ある毎に1番前にされるし、入学直後の席順ともなると当然、そのシステムが採用される。


 そろそろこのシステムやめない?

 心の中でそう嘆いた悠馬の席は、扉を開けてすぐ左の、1番人の通行量が多く、そして最も教師に当てられやすい1番前の右角の席だった。


 内心で絶望しながら、死んだ魚のような目をして扉を開く。


 すると、クラス内にいた生徒たちからは、一斉に視線が向けられた。


 その不意打ちな視線に気圧された悠馬だったが、現れた人物が知り合いじゃなかったことを把握したからか、関わりたくないと思ったのか、ほとんどの生徒は視線を逸らして黙り込む。


 やっぱり、みんな緊張してるんだ。

 緊張していたのが自分だけじゃないことを確認した悠馬は、少し安心した様子で自分自身の席に座った。


 教室も綺麗な空間だ。

 ちょうどいい照明の明るさと、床は昔ながらの木目調。その木目がいい味を出していて、教室内に温かみを出している。


 壁は廊下と同じく真っ白で、前と後ろにある黒板は真っ白なホワイトボードとなっている。


 そして机と椅子。中学校の時と違って、明らかに高級感が滲み出ていた。


 同じ机と椅子のはずなのに、中学校の時よりほんの少し黒く、そして傷1つ付いていない。


 これ壊したらかなり高いんだろうな。

 という言葉が脳裏によぎり、少しだけ足が震える。


 良い意味で、中学校とは全く違った空間だった。


 時計を見上げると、時刻は9時40分。

 集合時間が50分で、入学式の入場開始が10時だと書いてあったから、そろそろクラスメイトたちが登校してくる頃だろう。


 悠馬がそう考えた矢先、前と後ろの扉が開き、ゾロゾロと新入生が入ってくる。


 中には友達同士で合格したのか、ヒソヒソと笑いながら会話をしている女子生徒もいるが、大抵の生徒は無言だ。


 おそらくバス通学なのだろう。

 5人ほど生徒が入ってきてから、新たに生徒が入ってくる様子はない。


 20人ほどの生徒が揃ったことから、残りの10人ほどは、悠馬よりも一本遅い電車に乗っているのか、それともバスで来るのだろう。


 悠馬が時計を見ると同時に、教室の前の扉が開いた。


 その勢いの良い扉の開き方に、ほんの少しだけ体を震わせる生徒たち。


 きっちりとしたスーツに身を包み、メガネをかけている女教師は、何も言わずに教卓まで歩いていくと、教卓に手をついて口を開いた。


 特徴があるとするなら、肩甲骨近くまである髪を、ポニーテールにしていることくらいだ。


「まだ教室に到着していない生徒もいるが、今ここに到着している生徒たちは出席番号順に整列して待機をしておくように。わかった奴から、荷物を置いて廊下へ出ろ」


 生徒たちは少し緊張した表情で教室の外へと向かっていく。


 それと入れ替わるようにして入ってきた女子生徒2人。


 悠馬は彼女たちのことを知っていた。

 実技試験で対面した加奈と夕夏だ。走って来たのだろうか、少し髪が乱れている気もする。


 それに続くように、男にしてはやや小柄で黒髪の男子生徒と、こちらは好青年という一言が相応しい、白髪に青目の男子生徒が現れる。


 悠馬は遅れて入って来た生徒たちを見ながら、廊下へと出た。


 廊下へ出ると、銀髪の生徒が歩いていた。

 男女問わず彼女のことを見つめ、綺麗、可愛いという声が上がっている。


 彼女は悠馬が入学試験で協力した、篠原美月だ。


 結局、あれから連絡先も何1つ交換していなかった悠馬と彼女は、お互い合格したのかどうかもわからずに、ちょっとした不安を抱きながら入学式を待っていた。


 美月と悠馬の目が合い、美月は少しだけ笑ってみせた。


「うぉ、あの子今俺の方見て笑ったぜ?いきなりモテ期きたー!」


 背後から緊張感のない声が聞こえて振り返る。


 そこに居たのはつい先ほど、夕夏たちの後に入ってきた黒髪で小柄な男子生徒だった。


 どうやら自分が微笑みかけられたと勘違いしているようだ。


 若干はしゃいでいるし、悠馬としても、美月が自身に向けた笑みなのかどうかもわからなかった為、彼を放っておくことにした。


「よし、揃っ…」


「すみませーん、遅れました〜」


 女教師が、人数を数え出すと同時に、全く緊張感のない、まるで何年間も通った学校で話しているような軽いノリで現れた男子生徒に視線がいく。


 その後ろからも、校則違反じゃないのか?と思うほどスカートを短く履き、胸元のボタンを開けている女子生徒と、何かの本を真剣に読んでいる女子生徒が続いて来る。


 1番最初の軽いノリの金髪男は、悠馬のよく知っている連太郎だ。

 同じクラスなのは知っていたが、初日から遅刻寸前で、しかもあんな軽いノリで来るとは思っていなかった。


 アイツと友達だったってことは、周りには黙っておこう。


「荷物を置いたらすぐに整列しろ」


 少し怒気を強めて女教師が言葉を発したことにより、連太郎はドタバタと教室の中に入って、荷物を置いたらすぐに出て来る。


 2人の女子も、荷物を置くとすぐに出てきた。


「よし。これで30人全員揃ったな。いいか?今から式場に移動をする。道中話すのは自由だが、式中はくれぐれも雰囲気を壊さないように。わかったな?」


『はい』


 クラスの大半の生徒が返事をして、女教師は歩き始めた。


 これが悠馬の、新たなスタートだ。


 期待と不安の中、悠馬は少しだけ頬を緩めると、緊張とは程遠い表情を浮かべて女教師の後に続いた。

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