表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アメリカ支部編
109/474

定刻通り

 7月24日、時刻は20時半。


 定刻通りに集合場所へと辿り着いていた悠馬は、いつもと変わらぬ様子で、横を歩いている花蓮と手を繋いでいた。


「うっわ、薄気味悪い所ね。まさかそのアルカンジュちゃんって人、こんなところで告白するつもりなわけ?」


 不安そうに悠馬を見る花蓮。


 彼女の心配の理由は進行方向、つまり真正面の荒んだ土地に原因していた。


 彼らの正面に見えるのは、第4区、通称旧都市。


 合宿の際にアダムが話していた、異能島七不思議などという話に出てきた土地だ。


 監視カメラもなく、立ち入りが固く禁じられている空間。


 異能島へ通う生徒たちは、度胸試しなどと言って、おふざけで侵入している生徒も多いようだが、何が起こるかもわからない、不気味な場所だ。


 そしてここが、本日の会場。


 設定上では、本日ここで肝試しをすることになっている。


「いや、流石に移動するだろ…ここで告白は…なぁ?告白までの流れは、夕夏とか、真里亞とかが考えてくれるって聞いたから、流石にないだろ…」


 ムードのかけらもない。


 もし仮にここで好きな人に告白されたとするなら、センスを疑うレベルだ。


 第1でも可愛い女子たちが協力するのだから、ここでの告白はない。ないと願いたい。


 そう心の中で強く願っている悠馬だが、若干の不安は拭いきれずにいる。


「お!暁!と花咲さぁん!」


 アルカンジュの告白のことを心配する2人。


 そんな彼らの元に現れたのは、Bクラス、アダムの友人である碇谷だった。


 花蓮がいるということもあってか、やけに上機嫌にスキップしてくる碇谷。


 こいつを今すぐ蹴飛ばしてやりたい。


 そんな気持ちに囚われた悠馬だが、花蓮の前でそんなことは出来ないと、大人しく足を引く。


「…誰?悠馬」


「こいつは碇谷。とんでもなくバカだ」


 上機嫌な碇谷に、聞こえないように小さく囁く花蓮。


 初対面の花蓮は、碇谷の名前など知らない。


「初めまして、碇谷くん?いつも悠馬がお世話になってます」


「あはは、敬語はよしてくださいよ花咲さん。同い年なわけですし〜」


「お前もその気持ち悪い敬語をやめろ。そして俺の彼女に色目を使うな!」


 デレデレと花蓮に擦り寄ってくる碇谷に、怒鳴り声をあげる悠馬。


 目の前で彼女が言い寄られるのを見るのは、気分のいいものではない。


「あ、そうだったな!悪い!ついつい!」


「それじゃあ、よろしくね。碇谷くん」


 悠馬に追い払われて、花蓮から距離を置いた碇谷。


 そんな彼に向かって、罵ることもなく話をする花蓮は、いつも覇王に見せるような態度ではなく、営業スマイルだ。


 きっと、悠馬のために、アイドルとしての花咲花蓮を演じてくれているのだろう。


「はい〜、末長くよろしくお願いします〜」


「おーおー、集まってますなぁー!加奈さん!」


「予定時刻なんだから、集まってるに決まってるじゃない」


 仲良さげに現れた、美沙と加奈。


 定刻に集まるのは常識だと言いたげな加奈だが、残念なことに本日の主役たちは集まっていない。


 まぁ、主役は遅れてくると言うし、そういうものなのかもしれないが。


「あ、久しぶり美沙」


「おお!花蓮じゃん!来てたの?」


「うん、飛び入り参加しちゃった!」


「花蓮ちゃん、知り合いなのか?」


「うん、だって私と美沙、モデルしてたし」


 久しぶりと話をする2人。


 美沙と花蓮は、異能島に入学するよりも前、モデルとして共に活動をしていたこともあった。


 残念なことに、悠馬はモデルに一切興味などなかった為知らなかったが、2人は連絡先を交換する程度には仲が良かった。


「いやぁ、花蓮の言ってた王子様が悠馬だとは思わなかったんですけど!」


「あはは!名前言ってなかったもんねー」


 仲睦まじくお話をする2人。


 そんな光景を眺めていた悠馬は、興味なさそうに歩いている加奈の元まで近づくと、声をかける。


「珍しいな。赤坂がこういうイベントに参加するなんて」


 基本イベントごとに参加することのない加奈。


 理由は定かではないが、噂などを聞くからに、自分の親の職業が関係しているのかもしれない。


 彼女の父親は、大物政治家。


 裏では悪いことをしている、お金でなんでも揉み消しているなどという噂もある、胡散臭い政治家の娘なのだ。


 そんな理由もあってか、女子たちは彼女と距離を置いている。


 いや、加奈自身が距離を置いているというべきか。


「夕夏に誘われたからよ。それ以外の理由で、私が来るはずないじゃない」


 入学前、中学時代からの幼馴染である夕夏。


 他の女子とあまり関わりがないと言っても、夕夏と仲のいい加奈は、どうやら彼女のお誘いを断れなかったようだ。


 ちょっと不服そうに悠馬に返事をした加奈は、小さな石段に座り込む。


「暁くんは?貴方だって、私と似たり寄ったりでしょう。結構ノリ悪いし」


「あはは…酷い言われようだな…」


 席が近いということもあってか、悠馬のことをよく分析している。


 ノリが悪いのはお互い様だろうと言いたげな加奈。


「事実でしょう?」


「ま、そうだけどさ。俺は合宿でアダムと同じ部屋だったし。アルカンジュもクラスメイトだしさ。素直に応援してあげようかと思って。ほら、もし仮に2人が付き合ったって、俺にはメリットもデメリットもないわけだしさ」


「素直に…ね」


 素直、という単語に反応をした加奈は、空を見上げると、小さなため息を吐く。


「私、貴方が羨ましいわ。暁くん。私は素直になんてなれないから」


「素直になれない、ね」


 悠馬には、加奈と似た経験があった。


 それはつい先日、異能祭で花蓮に許嫁破棄宣言をした時だ。


 自分の気持ちに素直になれなかった。


 自分の気持ちを抑えて、花蓮に別れを告げた。


 それは決して楽なことではなかったし、素直になれないっていうのは、凄く苦しいことだ。


 ただひたすら感情を溜め込んで、その怒りや苦しみ、何もかもが行く宛もなく、頭と胸の中をぐるぐると渦巻く。


 とても気分がいいものとは言えない。


「いつか素直になれたらいいな」


「無理よ。そんな日、一生訪れないから」


 素直になるには、自分の気持ち次第だ。


 覚悟だって必要だし、恐怖も感じる。


 変なアドバイスをするわけでもなく、いつかと告げた悠馬は、にっこりと笑みを浮かべ、冷たい眼差しの加奈を見る。


「ま、今日はお互い、2人の恋を応援しようよ」


「そうね。そうしましょう」


「お待たせしました〜!ごめん、道に迷ってさ!この辺バスも何もないし!」


 加奈と悠馬が話を終えてすぐ。


 ほんの少しだけ息を切らしながら、その場へ到着すると同時に言い訳から入るアダムは、頭をかきながら、申し訳なさそうに頭を下げる。


「おーおーアダムくん。アダムくんが遅すぎて、大半の女子は帰っちゃったぞ〜?」


「え"っまじですか?」


 定刻より10分ほど遅れての到着。


 そんなアダムに対して、ニヤニヤと笑いながら嘘をついた美沙は、その言葉を間に受けて、驚く彼を見てケラケラと笑う。


「あはははは!冗談よ!冗談!まだ到着してないだけ!ほら、女の子には準備がたくさん必要だからさ?」


 女の子の準備。


 それは私服の確認であったり、お化粧であったり、様々。


 男には一生わからない事だとは思うが、自分が遅刻したから、みんな帰ったわけではないことを知ったアダムは、安心したようにホッと一息吐く。


「んで!この人が花咲花蓮さん?スッゲェ可愛いな!悠馬、オレが告ってもいいか?」


「お前、その冗談アルカンジュの前で言ってみろよ」


 アダムがアルカンジュのことを好きだと知っている悠馬は、冗談だということを知りながら容赦のない発言をする。


「う…そ、それは…」


 アダムにとっては、効果抜群だ。


 通とは違ったタイプの、すぐに冗談を言うお調子者のアダムにとっては、ダメージが大きい。


 好きな人がいるというのに、彼氏持ちの女の子をナンパし始めた罰だ。


 言い返すことのできないアダムを見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた悠馬は、花蓮の元へと歩み寄ると、まるで碇谷とアダムを牽制するように、2人を見る。


「ひゅーひゅー!バカップルー!悠馬、やるときはやる男じゃん!いっつもは陰キャみたいに黙ってるのに!」


 学校では基本的に無口。


 自発的には話そうとしない悠馬が、珍しく他人を脅すような発言をした。


 そんな珍しい光景を目にした美沙は、冷やかすように笑いながら、悠馬を見る。


「ば、バカにするなよ!」


「そうよ!私たち、バカップルじゃないわよ!訂正しなさい!美沙!」


「いんやぁ〜、これはバカップルですよ〜ねぇ?碇谷くん〜」


 バカップルじゃないと全力否定する2人。


 実際、悠馬も花蓮も、互いのこととなるとバカになるのだが、自覚症状がないため、美沙の発言には納得がいかないご様子だ。


「あ?ああ!國下さんの言う通りだと、俺は思う!」


「くそ…!バカリヤ!鼻の下伸ばしやがって…!」


 彼氏持ちの花蓮よりも、フリーの美沙の言いなりになるという、卑劣な戦法。


 鼻の下を伸ばしながら、美沙の援護をし始めた碇谷を怒ったように睨みつけた悠馬は、アダムがつけた蔑称で碇谷を呼ぶ。


「んだとぉ!」


「はっ、そもそも俺は学年8位の学力を持ち合わせてるんだ。俺がバカなら、第1に通ってる生徒は9割バカなんだよ!はははは!」


「悠馬、今のアンタは本当にバカっぽいわ…」


 バカかどうかは、学力で決まるわけじゃない。


 だというのに、学力だけで判断をする悠馬は、割と本気でバカなのかもしれない。


 呆れたご様子で悠馬を止めた花蓮を見た碇谷と美沙は、互いに顔を見合わせると、勝ち誇ったような笑みを向け合う。


「うぐぐ…」


「っていうかさ〜、花蓮と悠馬って、ぶっちゃけしたわけ?セッ…」


「はい美沙さ〜ん?それ以上先を言うと、色々とマズイことになるからやめましょうかー?」


 ぶっちゃけた話を始めようとする美沙。


 彼女が最後まで言い切る前に言葉を塞いだ花蓮は、感情のない笑みを浮かべながら美沙へと歩み寄る。


「え?なに?もしかして悠馬、不能?」


 怒った様子の花蓮を見て、何か不満があるのではないかと勘違いをする美沙。


「いや!違うから!ちゃんと使えるから!」


 不能と言われたのが納得のいかない悠馬。


 ぶっちゃけ、花蓮と悠馬は、経験済みだ。


 しかしながら、そんなことは他人の前では言えない。


「初々しー…何よ、さっさとおっ始めなさいよ。青姦でもなんでも」


「美沙!ちょっとぶっ込みすぎ!黙ってなさいよ!順序ってのがあるでしょ!」


「はいはいー」


 ギャーギャーと賑やかになる、夜の第4区前。


 この辺りは寮もないため、苦情はないだろうが、もし仮に寮があったのなら、絶対に苦情が入っている。


「しっかし、遅くないか?アルカンジュ」


「他の奴も遅いなぁ…」


 賑やかな空間での、アダムの一言。


 肝心なことを忘れつつあった面々は、今日はアダムの誕生日であって、アルカンジュの告白を手伝うという重要なお仕事を思い出す。


 時刻は既に、21時を回っている。


 補導の時間まで、残り1時間。


 予定よりも30分も遅れている上、連絡すらない。


「確かに、いくらなんでも遅すぎる。ちょっと私、連絡してみる!」


 告白の言葉選びでも迷っているのか、それとも迷子なのか。


 ちょっとした不安感を抱きながら、1人道の端へと寄った美沙は、携帯端末を取り出し、そして画面をつけると同時に声を上げた。


「ちょっと!圏外なんですけど!」


「何?美沙の携帯端末壊れたわけ?仕方ないわね、私が夕夏に…って…あれ?私の携帯端末も圏外なんだけど…」


「俺のも圏外だ…」


 各々が携帯端末を確認し、全ての携帯端末が圏外になっていたことが判明する。


「え?何?ここ電波入らないの?」


「いや…それはないと思う…だってオレ、ここまで地図アプリで位置情報確認しながら来たわけだし…」


 美沙の疑問を否定するアダム。


 ここに来るまでに迷っていたアダムが、携帯端末で位置情報を確認しながら来たというのだから、全員が圏外になる、などという可能性は極めて低い。


「お化けだったりして」


「ひっ…ちょ、やめろよ赤坂さん!」


 加奈の発言にビビる碇谷。


 合宿の時と同じく、マジな心霊体験らしきものは、死んでもごめんなようだ。


「…何か聞こえてこないか?」


「お、おい!暁まで何言い出すんだよ!やめろって!」


 追い討ちをかけるような、悠馬の発言。


 しかしながら、悠馬は碇谷を脅したわけではなく、本当に何か音が聞こえたから口を開いたのだ。


 しんと静まり返った第4区前に、パタパタと響く足音。


 全員が全員、まさかお化けじゃないだろうな?と身構える。


「うっ…」


 そしてようやく現れた、白い影。


 月明かりに照らされながら、大きく肩で息をする女子生徒は、Aクラスの湊だった。


「あれ?湊…」


「助けて!暁!夕夏が襲われて!美月が!美月が!」


 泣き叫ぶような湊の声。


 美沙の声など無視して発せられた声は、静かな夜の道に、大きくこだました。

今日ってハロウィンらしいですよ(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ