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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アメリカ支部編
106/474

夏といえば、肝試しだろ?

 7月24日。


 期末テストも終わり、あと2日もすれば夏休み。


 夏休みといえば、海に花火、プールに友達とのお出かけ。


 夏の行事を思い浮かべながら廊下ではしゃぐ生徒たちの前には、大きく張り出された、なにかの順位表があった。


 その順位表は、1位から92位までがランキングされており、2人退学者が出ている1学年の全生徒と、ちょうど同じ数だけ。


「ぎゃー!まじかよ!俺80位なんだけど!」


「はっはー!俺は40位!真ん中よりも上だ!」


 お互いの順位を口にしながら、悲鳴や歓喜の声を上げる生徒たち。


 今現在、こうして1年の生徒たちが確認しているのは、期末テストの総合順位表だ。


 つい1週間ほど前に終わった期末テスト。


 早くもその結果が、合計得点として、廊下に張り出されているのだ。


「へっへー、俺様は46位。ちょうど中間地点だったぜ!悠馬、お前はどうなんだ?」


 ちょうど真ん中の順位で、喜んでいる通。


 いつもはおふざけばかりしている様子の通が、最下位じゃない。


 こいつがちょうど真ん中なんて、なんかもう、この世の中の何もかも信じられなくなりそうだ。


 通=猿以下などという偏見を抱いていた悠馬は、テストの順位表を横目に、ドヤ顔をする通を見て絶句する。


「お前…カンニングしたのか?」


「はぁ!?んなわけないだろ!テスト前に勉強するのは基本中の基本!俺様は中学ん時からこの島に通ってんだから、勉強くらいちゃんとしてんだよ!これもモテる男の秘訣だ、よーく覚えておいたほうがいいぜ?」


 先輩ヅラをする通。


 それもそのはず、通は中学から異能島に在学し、中学校の入試でも、数十〜数百にもなる倍率の中で生き残るほどの学力を持ち合わせていたのだ。


 その言葉を自分より順位の悪い奴らに言って欲しい。


「へぇ…ありがとう。感謝しとくよ」


 モテる男の秘訣などと、モテていない男が言っても説得力がない。


 口には出さないものの、適当な返事で調子に乗る通をあしらった悠馬は、自分の順位を探し始める。


 1週間の停学があったといえど、それなりに予習と復習は頑張った。


 わからないところは夕夏や花蓮に聞いたし、他の問題もほぼ完璧に解けるようにしていた。


 だからきっと、それなりに順位は高いはずだ。


「ま…」


 じで!?


 順位表を通より上、つまり45番から、1位側に見始めた悠馬は、自分の順位を見つけ出し、目を見開く。


「ははぁん、まぁ、そういう日もあるさ。俺より順位が低かったんだろ?いいじゃねえか、お前には可愛い彼女がいるんだから、慰めて貰えば!」


「8位…」


「…は?いや、は!?」


 ぷるぷると震える指で、8位を指差す悠馬。


 そこには間違いなく、1年A 暁悠馬 928点と表記されている。


「合計1000点満点で928て…え?お前まさか、平均92.8点!?なんだよそれ!レベルも高くて勉強もできてその容姿とか!お前こそカンニングしてんだろ!」


 異能島のテストは、10教科100点満点の、合計1000点で採点される。


 その1000点満点の中で、900点以上ということはつまり、平均点は90点超え。


 つい先ほどまで、悠馬に勝ち誇っていたご様子だった通は、想定外の事態が起きてしまったせいか、かなりパニックなご様子で、何度も悠馬と順位表を交互に見る。


「悪いが、カンニングはしてない。ちゃんと勉強したからな」


「クッソ…!八神とお前には負けたくなかったのに…!俺、お前には完敗じゃねえか…!」


 悔しさを露わにする通。


 どうやら通は、悠馬と八神に、何か1つでもいいから勝ちたかったご様子だ。


 通の発した、お前〝には〟という単語からして、八神のテスト結果は悲惨なようだが。


「その様子だと、八神には勝てたのか?」


「アイツには猿でも勝てる」


「え…?」


 八神が猿以下だと?


 八神はAクラスのクラス委員をやっているし、通常は温厚な性格では頭良さそう。などという偏見を抱いていた悠馬は、通の発言を聞いて、思考停止に陥る。


「ほら、見てみろよ92位。502点で最下位!赤点ギリギリだなー!がはははは!」


 順位表の1番左端、つまり最下位を指差しながら、高笑いする通。


 異能島の国立高校の赤点は、10教科平均が50点に満たない生徒が補講を受けることとなる。


 つまり八神は、あと3点ほど低ければ赤点となり、補講を受けなければならない状況に陥っていたのだ。


 ちなみに、91位の生徒は541点だ。


 まぁ、国立高校に入学できるほどの学力を持ち合わせているのだから、赤点になる生徒なんて、まずいないと考えるのが常識なのだが。


「八神ってそんなに頭悪かったのか…」


「ああ!アイツ中学1年間学校に来てないしな!勉強はできねえんだよ!ほんと、猿以下だぜ!」


「誰が猿以下だって?」


「ぎくっ…!?」


 あ、こいつ終わったな。


 笑いながら八神をバカにする通の背後から、ご本人登場。


 八神はにっこりと笑みを浮かべているものの、その笑顔には感情がないというか、狂気を感じる。


「あ…いや…相変わらずバカだなーって…じゃあな!」


 そんな八神を見るや否や、一目散に駆け出す通。


 身体能力的に、自分が締められる未来を予測したのだろう、逃げるのが早い。


「あ!待てコラ!逃げんなッ!」


「賑やかだなぁー…」


 逃げ惑う通を、追いかける八神。


 それを見送った悠馬は、横で順位表を見ていた生徒が知り合いであることに気づき、声をかける。


「久しぶりだな。碇谷。異能祭以来か?」


「お!暁!そうだなー、お前が停学になってたから、そのくらいか?」


「ぅ…そうだな…」


 未だに停学になった話題を持って来られると、ほんの少しの精神的ダメージを受ける悠馬。


 碇谷は、合宿の神宮の攻撃で骨折した右腕が、すっかりと完治したのか、腕を動かしながら微笑む。


「そういや、俺の順位見てくれよ!88位!ゾロ目だぜ!すげぇだろ!」


 自信満々に、88位を指差す碇谷。


 そこには碇谷の名前と、総合得点の586点と記されている。


「お前もバカだったんだな…」


 ここまでくると、なんかこう、今まで自分が常識だと思っていたことが、全部常識じゃないみたいだ。


 通が学年最下位なのだろう、なんて考えていた悠馬だが、フタを開けると八神が最下位。通はど真ん中だし、碇谷も下位だ。


「んだとぉ?そういうお前はどうなんだよ!どうせ70位とかなんだろ?どんぐりの背比べやめろ!」


「残念だが、俺はお前と違ってちゃんと勉強してるんだよ」


 バカだと言われ憤慨する碇谷に、自分の順位を指差す悠馬。


「なん…だと…?」


 どうやら悠馬が8位にいるというのは、よっぽど意外らしい。


 通の反応も然り、碇谷の反応も見た悠馬は、自分がどれだけバカだと思われてるんだというショックを受けながら、唖然とする碇谷を見つめる。


「は!?お前、何!?将来総帥にでもなる気なのか!?」


「いや…俺より上はたくさんいるから…」


「Aクラスの美哉坂とか、篠原とか、Cクラスの真里亞ちゃんとかだろ?」


「そうそう」


 1学期期末試験のトップ3の名前を口にした碇谷。


 順位表に記されている順番で言うなら、1位は夕夏だ。総合得点は998で、単純に考えると、1つの科目を除いて全部100点ということになる。さすがは前総帥の娘とでも言っておくべきか。


 さして2番目は、真里亞。総合得点は978点と、こちらもかなり優秀な成績を修めている。

 レベルも9だし、父親の船の会社を継がなくても、そこそこいい就職先は見つかるんじゃなかろうか?


 最後に3位は美月。総合得点は977で、惜しくも真里亞に1点届かず、3位という成績で終わっている。

 いつも湊たちと遊んで帰っているような気がするものの、さすがは警視総監の娘、やるときはきちんとやる女だ。


「すげぇよな、3人ともレベルも高いし、可愛いし、頭もいいって…なんか近寄りがたいなぁ」


「はは。お前レベル8で頭悪いもんな!」


「お、おい!俺のことは関係ないだろ!」


 成績上位者3人と比較され、怒る碇谷。


 男として、せめて1つくらいは彼女たちに勝っていたかったのだろう、ちょっと悔しそうな顔をしている。


「にしても、もう夏か」


「いや〜、ほんと、学校生活はあっという間だよな。お前、夏休み予定とかあんのか?ほら、彼女2人もいるしさ」


「予定〜、か」


 悠馬の予定といえば、夏に花蓮と海に行く約束をしたくらいだ。


 他にすることといえば、お盆に実家に帰ることも出来ないため、正直な話、夏休みはそこまで長くなくていい。と言うのが悠馬の意見だ。


「その様子だと、あるんだろ?いいよなぁ、あんなに可愛い彼女2人はよぉ!俺もお前みたいになりたいわ〜」


「あまりオススメはしないよ」


 悠馬は、碇谷が思っているほど現実は甘くないということを知っている。


 なにしろ可愛い子と付き合っているだけで文句を言われるし、湊など男嫌いの女子からも冷たく罵られるのだ。


 決して、容姿が整っているからといって、人生薔薇色になるとは限らない。


「おいおいー、お前ら2人で何話してんのさ?バカリヤと悠馬〜」


「ぁあ!?誰がバカリヤだクソバカアダム!底辺ザコが調子に乗ってんじゃねえよ!」


 悠馬と碇谷が呑気にお話をする中に入ってくるアダム。


 アダムは碇谷のことを、バカリヤと呼び始めているらしい。


 合宿でもそこそこ仲が悪かったが、2人の仲はさらに悪くなっているようにも感じる。


「ははぁん?88位程度の順位で、オレの上に立ったつもりか〜?」


「当たり前だろ!お前90位だろうが!」


 碇谷、お前さっきどんぐりの背比べとかいってたくせに、自分が比べ始めてるじゃないか。


 そして、なんとなくわかっていたというか、薄々感づいてはいたものの、どうやらこの2人は学力は同レベルらしい。


 猿以下とバカにされていた八神と並ぶ程度だ。


「落ち着けよバカリヤ!オレは今日、いい知らせを持ってきたんだ!」


「んだよ?どうせしょうもない話なんだろ?」


 あまり期待していないご様子の碇谷。


 悠馬も碇谷と同じく、アダムの話には一切期待していない。


 なにしろ、アダムは自由奔放すぎる。いい知らせと称して、勉強会を開くレベル、もしくはいい知らせなどといって、銀行強盗をやらせるレベルだ。


 まぁ、偏見だけど。


 しかし2人の考えは、アダムの次の発言を聞いて、前言撤回となった。


「今日の夜、Aクラスの女子と遊ぶんだ」


「はっ!?なんだよそれ!お前いつの間に…!」


 Aクラスの女子と遊ぶ。


 Aクラスの女子といえば、夕夏に美月、美沙などなど、他クラスからも人気の高い女子生徒が多くいる。


 そんなAクラスの女子と遊ぶというのだから、碇谷だって驚くだろう。


「んでよ、ほら?オレってアレじゃん?アルカンジュ…のこと狙ってるんだけど…1人じゃ緊張するから、手伝ってくれないか?」


「おーおー!いいぜいいぜ!手伝う!俺ら友達だもんな!」


 アダムのアルカンジュ狙い宣言。


 合宿で女子部屋にトランプをしに行った時に、薄々感づいてはいたが、やはりアダムはアルカンジュのことが好きなようだ。


 まぁ、この異能島にいる外国人といえば、アダムとアルカンジュのみ。


 そんなアダムからしてみると、同じ国籍の女子に強く惹かれたのかもしれない。


 つい先ほどまで乗り気じゃなかった碇谷はノリノリで、アダムのお誘いを承諾した。


 この男、本当にちょろいし手のひら返しが凄い。


「あ、暁も手伝ってくれるよなぁ!?」


「え、俺も?」


 アダムと言えば、碇谷と南雲。


 きっとその三人衆でAクラスの女子と遊ぶのだろうと考えていた悠馬は、まさか自分が誘われるなどと思っていなかったのか、驚いてみせる。


「当たり前だろ!彼女持ちのお前なら、なんの心配もなさそうだし!」


 なるほど、つまりは数合わせ要員ということか。


 彼女がいない、飢えた男子なら、もしかするとアルカンジュに手を出されて、奪われるかもしれない。


 おそらくそんなことを考えて、彼女持ちの悠馬を誘ったのだろう。


「いいけど…何するんだよ?お出かけか?」


 女子とお出かけをするなら、夕夏と花蓮には一言連絡を入れておくべきだ。


 まともな判断を下した悠馬は、携帯端末を取り出しながら、アダムに訊ねる。


「夏といえば、肝試しだろ?」


「へ…?」


 テストも終わり、あとは夏休みを待つのみ。


 好きな女子と距離をぐっと近づけたいと考える男子ならば、一度は考える肝試しの吊り橋効果というやつだ。


 アダムの今日の予定を聞いた碇谷は、口をぽかんと開けて立ち尽くす。


 碇谷はアダムと違って、お化けや怖い話という類のものが苦手なようだ。


 合宿のときもかなり怯えていたしな。


「ライト!ライト持って行ってもいいよな!なぁ!?」


 慌てる碇谷。きっと、怖いという気持ちよりも、女の子と遊びたいという気持ちが優ったのだろう。


「おっけーおっけー!んじゃ、時間は折り入って連絡するわ!ありがとな!」


 アダムは2人に向かって大きく手を振ると、廊下を足早に駆けていった。


 今日の夜は、肝試しで盛り上がりそうだ。

八神くん、実はとんでもなくバカでした…

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