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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学試験編
10/474

幕間

  異能島の中心に建てられた、ひときわ目立つ大きな建物。


 セントラルタワーと呼ばれるその建物の地上90階では、スーツを着た男たちが集まり、深刻な表情を浮かべていた。


 第1の入試から3日後のことである。


「やはり今年の第1の入試はやり直すべきでは?」


「だから何回も言ってるだろ!前例がない上に時間もない!必ず批判も出てくる!」


「まったく…黒の王が余計な事をしてくれたおかげで」


 まるで小学校に飾られている音楽家の肖像画のように、長い髪をセンターで分けた白毛の男と、少しだけ前髪が後退している小太りの男、そして眼鏡をかけたやや若めの男が口々に呟く。


 議題の内容は3日前の、第1の実技入学試験の件についてだ。


「そんな事、言い始めたらキリがないだろう。毎年、何のアピールも出来ずに行動不能になる生徒は腐るほどいる。今回その人数がいつもの倍居たからと言って、簡単にやり直していいものじゃない」


「確かに。間宮さんの言う通りですな。実力がない生徒を振るいにかけるのが実技試験。そして、レベルが低い生徒たちの救済措置として、携帯端末を配布したのですから」


「与えられたものを利用できないような生徒は必要ないだろう。それに、第1の実技試験は占い師という役職をまともに扱えたのが2人だけだと聞くが?本当に大丈夫なのか?」


 話題は悠馬の話から、今回の第1の入試の話へと変わっていく。


 結局、先日の実技試験で占い師として機能したのは2人だけで、しかもそのうちの1人である美月は、悠馬にしか情報を共有していなかった。


 つまりは自分の持っている占い師という役を最大限に利用できたのは、実質1人しかいなかったのだ。


 しかもその1人は、その王との接触を回避するのではなく、2色の混合チームを急造で作り、大失敗した。

 評価としてはプラマイゼロだ。


「むむ、そうだな。他の学校の入試と比べて、第1は良くも悪くも差が激しかった。粒は揃っているが、それらが目立ちすぎて周りの評価が非常にし難い」


「何か忘れてはおらんか!第1の黒の王はわざと負けたのだぞ!その事については言及せぬのか!?」


 机をバン!と叩き、立ち上がった昔の音楽家のような髪型をした男は、大きな丸いテーブルに座っている全員を見渡して尋ねる。


「王が負けて試験終了というのは今までにないパターンだったな」


「そうですな、今まで王は幾度となくピンチを迎えてきましたが、全ての王は制限時間まで生き残っていましたからな!」


「あの黒の王を倒した女を入学させる気か!?」


「当然だ。黒の王も自分の役職を最大限利用しての計画だったのだろう。あの2人は試験中に接触していたし、そういうこともあり得る」


「そう…か」


 男は納得がいかないのか、微妙な表情を浮かべながらガタン、と椅子に腰を下ろした。

 モニターに映し出された、第1から第9までの実技試験の映像。


「しかし、こうして見てみると第1以外はどんぐりの背比べじゃないか?」


「当然だろ。今年の第1の入試にはレベル10が3人もいるのだぞ。それに対して他の高校は第7の特待生と青の王の松山を除けばレベル10は0人。あまり面白いものは見れはしない」


 呑気に戦っている映像を観ていると、先ほどまで問題として取り扱っていた黒の王の異能が強烈すぎて、他はまるで小学校のお遊戯会でも観ているような気分になる。


 昔の音楽家のような髪型をした男は、9つの画面で再生される映像を観て、何かを悟ったようだ。


「そうだな。王が負けようが、負けまいが、あの時点で殆どの生徒の評価が終わり、残っていた生徒たちの合格も決まっていた。関係ないか」


「しかし死神、お前、第1だけ合格者数が2名ほど少ないがどういう事だ?まさか採点ができなかったと言うわけではあるまい?」


 先ほど間宮と呼ばれた男が、終始無言で座っていた黒いスーツに、怪しげな道化の仮面を被った男の方を見つめ問いかける。


 その様子を見て、理事の面々も仮面の男、死神へと目を向けた。


「ああ、その事か。悪いな。今後編入させたい奴がいて枠を残させて貰った」


「キサマ、新参者の分際で勝手ができると思っているのか!」


 悪びれもせずに両手を広げながらアピールをした死神に激昂する、前髪が後退した小太りの男。


「そうカッカするなよ。前髪が無くなっちまうぜ?」


「なにィ〜?ワシの前髪は無くならんわ!クッ、相変わらずふざけた奴だ!」


 前髪が後退していることを認めたくないのか、それとも本気で気づいていないのか。


 手鏡を取り出した男は、ワシの前髪は後退しておらんわ!なぁ?と隣に座っていた男に問いかける。


 横の男は、小太りの男よりも立場が低いのか、冷や汗を流しながらコクコクと頷いていた。


「死神、編入予定と言ったな。レベルは幾つだ?」


「どちらもレベル10だ。問題ないだろ?」


 怒ったそぶりもなく、純粋に疑問に思ったことを問いかける間宮。

 その疑問に即答した死神をみて、辺りはまたどよめいた。


「ふ…いいだろう。認めよう。今年の入学試験、第1の合格者は二枚削る」


 間宮がそう告げると、理事の面々は拒否することもなく黙って頷いた。

 どうやらこの中で一番位が高いのは、間宮のようだ。


「ではこれで本日の議題は終了。それぞれ、各学校の合格結果の発表準備を」


 間宮が終了を宣言すると同時に、席を立つ理事たち。


 小太りの男が振り返り、死神の席を見たときには、そこにはもう誰もいなかった。


「クッ、素顔も晒さずバケモノめが」


「やめておきなさい。十河くん。あの男はアレでも我々より地位的に上だ」


「ですが間宮さん!いくら総帥命令と言えど、あんな新参者にこの異能島のほとんどの権限を、本当に譲り渡す気ですか!?」


 小太りの男、十河は、背後から肩を叩いて注意をした間宮に対して、唾を飛ばしながら不安そうに問いかける。


 まるで飼い犬が飼い主から捨てられるような、それを知ってしまった哀れな犬のような眼差しで。


「ああ。今年の4月からはあの者がこの島のトップとなり、取り仕切っていくはずだ。だが、私もクビというわけじゃない。あの者の監視をしなければならないし、何か問題があればすぐに私が対処しよう。それに、あの者とは話してみると、存外に面白い」


「そう、ですか。ワシはあの者が嫌いです」


「ははは、君らは顔を合わせるたびに小言を言い合っているからな」


 前髪が後退しているだの、仮面がダサいなどと。

 間宮はその光景を思い出しながら笑ってみせた。


「ですが、間宮さんがそういうならこのワシ十河も、死神に付いていこうと思います。まぁ、あの者が危険だと判断すれば、間宮さんに止められても直ぐに総帥へ連絡しますが」


「ああ。頼んだぞ。十河くん。どうか公正なジャッジを」


「はい」


 間宮は十河の肩を再びポンと叩くと、ほんの少しだけ笑みを浮かべ、書類を片手に去っていった。


 気づけば、セントラルタワー90階の会議室には、十河と呼ばれた小太りの男だけがポツンと残されていた。


「さて。ワシも仕事に取り掛かるかのぅ」



 ***




 どこかの学校の教室。

 その中で、本年度の入学生の名前を見ているスーツを着た女教師の姿があった。


 真っ黒なスーツに身を包み、髪はポニーテール。長さは肩甲骨のやや下までだろうか?色は黒だ。


 パソコンのマウスを操作しながら、第1の入学生一覧を見た女教師は、一番上に出てきた名前を見て、少し驚いたのちに笑ってみせた。


「暁闇か。日本支部政府に生贄にされた男」


 1番上に表示されている暁悠馬という名前を見た女教師は、それで満足したのかパソコンをパタンと閉じると、教卓から立ち上がり何処かへと向かった。


 暁闇。それは第5次世界大戦終盤に起きた、日本支部解放軍のテロに巻き込まれて生き残った少年のことだ。


 そのテロを治めた、というか、鎮火させたのは悪羅百鬼による大虐殺だった。


  だが、いくら戦争で兵力が減っていたとしても、偶然現れた先代異能王殺しである、大犯罪者の悪羅に救われたという事実はあってはならない。


 日本支部が他の支部に顔向けできなくなるからと、そのテロでたった1人生き残った少年を、テロから日本支部を救った英雄とし、悪羅百鬼とも戦い生き残ったという嘘の情報をでっち上げた。


 その影響でマスコミは大騒ぎ。悪羅と互角に戦える人間が日本支部にはいると、大々的に報道された。


 だが幸いなことに、少年の情報は法律により守られ名前も実態も表に出ることはなかったが、日本支部ではいつしかその少年のことが噂になっていた。


 悪羅を悪の闇だとするなら、暁闇は正義の闇だ。正義の執行者だと。


 大人はその噂を利用して、悪さをした子供には、悪さをすると暁闇来るぞと脅し文句にするほどだ。


 他国も他国で、その情報を聞いてから、暁闇のことを信じ、根強く支持する信者たちもいる。


 だが反対に、暁闇を危険視する人も多い。

 どこから漏れたのかはわからないが、名前の由来になっているように、暁〝闇〟と闇が含まれている。


 暁闇が闇堕ちだという情報が漏れてしまっていたのだ。

 その為、暁闇は危険因子だ、悪羅に次ぐ強さを誇る闇堕ちなんじゃないか。と、暁闇を迫害する声も少なくはない。


 誰1人として殺してはいないのに、日本支部の顔を立たせる為に、やってもいない殺害と、英雄という称号を押し付けられた少年。文字通り、日本支部の顔を立たせる為の、生贄。


 それが暁悠馬だった。



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