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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学試験編
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ある日の悪夢

 いつの日の夢だろうか。


「悠馬?」


 太陽がちょうど真上に差し掛かり、人通りもかなり増えてきた新博多の街中。


 俺の手を引いてくれているのは、自分自身の父親だ。

 俺なんかよりもずっと大きく暖かい手のひらで、小さな手を包み込んでくれる。


 前には、お母さんと弟の悠人が手を繋いだ歩いているのが見えた。



 そういえば、今日は何をしに出かけたんだっけ?



 何故自分自身がここにいるのかすらわからない悠馬は、父親に手を引かれながら新博多駅のビルに埋め込まれている、大型モニターを凝視した。


 モニターのテロップには、第5次世界大戦と書かれ、アナウンサーが何かを話してるのが見えた。


「今日って…いつだっけ…?」


「ははは、おかしなことを言うなぁ、悠馬は。今日はお前の入学式だったろ?今から入学祝いで家族みんなでご飯を食べにいくんだ。珍しくお父さんとお母さんも休みが取れたからな!」


 父は笑いながら答えた。



 そうだった。そんな気がする。



 自分の入学式が終わったことを思い出した悠馬は、そのまま家族と合流してご飯を食べにいく予定だった。


 そして戦争の話だが、戦地はロシア支部だ。


 この戦争は、最初こそ日本支部への飛び火も危惧され国民たちの不安の声も多く出ていたが、蓋を開けてみると案外平和な日常が広がっていた。


 たしかに被害が出ている場所はあるのだが、新博多の街を見ればわかる通り、みんないつも通りの生活を送っている。



 西暦2698年現在、世界では異能、超能力、魔法と呼ばれる非科学的な能力が流行していた。


 事の発端は300年前に遡るらしいが、その異能の発生原因は定かではなく、唯一残っていた一冊の文献も、世界の王が保管している為詳しいことについては何もわからない。


 第三次世界大戦までは科学での戦争。核兵器や焼夷弾を用いた戦争だったが、今やそれをほとんど使わない戦争となってしまっていた。



  異能が原因だ。

 今起こっている戦争。第5次世界大戦で、科学兵器は時代遅れの産物として世間に認知されることとなってしまったのだ。


 あの大量に人を虐殺する核兵器ですら、異能の前には敵わなかったらしい。


 詳しくは知らないが、ロシア支部は自国の領土の一部を焼き払うと同時に、核爆弾を落とし連合国軍を排除しようとしたようだが、それは1人の異能力者の前に無力と化してしまった。


 そんな噂が流れたのだ。


 現に、モニターには春のはずのシベリアが、永久凍土のように凍りついて映し出されていた。

 科学兵器に頼った戦争は、もうここで終わってしまうのだ。

 各国は兵器に頼った戦争ではなく、異能に頼った戦争へとシフトしていた。


 新たな兵器を作るコストよりも、軍人を育てた方が安上がりだし、廃棄なく兵器よりも役に立つのだから当然だろう。


 そんな理由もあって、ミサイルが逸れて日本支部にも当たる心配などは無くなっていたのだ。


 呑気なものだ。

 昼間から酔っ払い、道路で騒いでいる大人を見ながら、そんな言葉が浮かんだ。


 旗を持って何かに抗議するデモ隊や、それを支持する若者たち。

 新博多の街並みはいつもよりも、何倍も騒がしかった。

 まるで、軋み出した何かが、音を立てて壊れ始めたような。


「政府は異能力者を道具として扱っている!」


「今すぐ戦地に赴いた兵士たちを連れ戻せ!」


「我々は道具ではない!人間だ!」


 拡声器をもって大きな声で演説をする人々。

 確か名前は日本支部解放軍だった。

 今の政府じゃダメだ。軍人を道具として扱っている!と結構な頻度で演説をしているが、その全てに実態がなく、信憑性がないものばかり。

 所謂ホラ吹きというやつなのかもしれない。


 数ヶ月前から始まったこの演説は、次第に賛同者を増やしているものの、悠馬や家族の心には全く響くものではなかった。


 何せ、日本支部の軍というのは志願制だ。

 強制されているわけでもないのだから、嫌なら逃げることも許されているのだ。


「今日!我々は政府機関に宣戦布告をする!」


「この新博多を制圧し、我々の拠点とする!」


 拡声器から告げられた機械のような声。

 それと同時に、拳銃が何発か発砲された音が響く。


 先ほどまで酔っ払って騒いでいた大人たちもそうでない人たちも、ギョッとした顔で解放軍の方を見たり、我先にと走って逃げたりしている。


「我々には力がある!あのお方から賜りし力が!共に日本を変えよう!共に世界を変えよう!」


 悲鳴をあげながら行き交う人々。

 そんな中、解放軍の演説は続き、解放という名目の虐殺が始まった。


 解放軍の1人が、悲鳴をあげながら逃げる男性の頭を撃ち抜いたのだ。


 男の頭から飛び散る鮮血が、近くにいた人たちに赤いペイントを施し、人々は腰を抜かして倒れたり、悲鳴をあげながら走って逃げたり、そのまま気絶したりと、初めて見る光景に辺りは騒然となった。


「逃げろ!この場にいたら殺されるぞ!」


「まだ死にたくねぇよ!!退け!」


「キャ!ちょっと何すんのよあんた!私が先よ!」


 解放軍が動き出したことにより、誰よりも早くこの場から逃げようと、近くに留まっていたタクシーに乗ってその場から逃げようとしたり、駅へと向かっていく人や、物陰でしゃがみこむ人も見える。


 なぜか俺は、その景色を前に見たことがあったような気がした。



「悠馬、しっかり手を握っていなさい」


「え…?うん」


 父親に手を引かれながら、その場を足早に去る。


 俺の足は、思ったように動かなかった。

 まるで自分の足じゃないような、急に泥沼にハマったように足が重くなり、それでも一生懸命に父親に続いた。


 後ろからは爆発音や悲鳴が聞こえたが、俺は振り返らないように、見ないようにしてその場から逃げようとした。


 一度、長く目を瞑り恐怖を忘れようとする。

 次に目を開いた先には、黒い影が立っていた。


 全部思い出した…

 黒い影を見て、俺が今何をしているのか。これから何が起こるのか全てを察した。


 引き返さないと。逃げないと。黒い影を目の前にした俺は、この事態を回避するべく父親に何かを言おうとした。


 が、俺の口から声が発声出来なかった。

 立ち止まろうとしても、動き出した足は止まらない。


「すみません、どいてくだ…え?」


 お母さんが黒い影の男に、道を譲ってもらおうとしたその瞬間。

 俺は目を見開いた。

 絶対に忘れることのない光景。

 銀色の刃物が、母の腹部を貫き、背中まで突き抜けたのだ。


「母…さん?」


「っ!悠馬!悠人!離れなさい!」


 そう言って、お父さんが俺を突き飛ばした。


「ま…」


 待って!だめだ父さん!

 声を出し、手を伸ばそうとするがその2つは拒否される。

 腹部から刃物を抜かれ崩れ落ちる母さんと、男に掴みかかろうとして、頭を吹き飛ばされるお父さん。そして…それを横で見ていた弟も、呆気なく殺された。


 僅か数十秒の光景。

 生き残ったのは、遠くに突き飛ばされた俺だけだった。

 気づけば周りに人はいなくなっていた。

 黒い服に身を包んだ男と俺との間に、静寂と言う名の絶望が走る。


 何かが焦げたような匂い。ガラスは割れ、壁が抉れた建物たち。


 数分前まで大人が酔っ払って騒いでいたとは思えないほど醜い光景に変わっていた。


 車からは火が上がり、電光掲示板も付いていない。道路を通る車すらなかった。


 そこにまるでアリのように散らかっている、夥しい数の人間の死体。

 2人の静寂を破るように、背後から声が響いてくる。


「解放を!解放を!」


「外野は黙ろうか?」


 黒い服の男が何かの異能を使用すると同時に、背後から聞こえてきた声も途絶える。


 振り返った先には、先ほど演説をしていた男と、その仲間たちが氷漬けになったり、燃えたり、灰になったりしている光景が目に入る。


「おま…え…」


 やっと声が出た。でも、俺が出したかった声じゃなかった。

 まるで身体が言うことを聞かない。

 ゆっくりと立ち上がった俺は、床に転がっていた小さなナイフを手にして、黒い服の男に突き刺そうとした。

 僅か数メートルの距離。俺はかつてないほど全力で走り、ナイフを両手で持ち男へと向ける。


「おまえ…!おまえぇ!」


 声を上げながら、男に駆け寄る。

 男は俺の方を向くと、口元に笑みを浮かべながら蹴っ飛ばした。


 俺は数メートル転がった。

 鳩尾を蹴られ、うまく呼吸ができない。

 俺よりも遙か遠くに転がっていったナイフを眺めながら、腹部を抑える。

 苦しい。痛い。気持ち悪い。


 色々な感情が押し寄せては、俺の心の中を、頭の中をぐちゃぐちゃにする。まるで脳みそを掻き回されているような、そんな最低最悪の感覚だ。



「殺す…絶対に殺してやる…!」


 呼吸もうまくできず最悪の気分の中、俺はゆっくりと歩み寄ってくる男にそう叫んだ。

 男は楽しそうに笑って見せると、異能を発動させながら俺の首を掴んだ。


「放…せ」


 俺は男の手を振りほどこうとした。だが、所詮は子供と大人。俺の力ではその手をどうにかすることはできず、次第に意識は薄れていった。


「君が強くならないと、誰も救えないよ。今みたいに、僕がみーんな殺しちゃうからね」


 男はそう告げて、狂ったように笑い続けた。

 俺の意識が途絶えるまで。俺の視界が暗転するまで。


 絶対に忘れない。俺はこいつに復讐をしてやる。

 俺の中に残ったのは、憎悪だけだった。

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