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『アホ』と『負け』を大切に  作者: 小島 剛
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大学進学の事情

 私は、埼玉県の高校から京都大学に行った。よく、「なんでいちいち関西の大学にいったん?」と聞かれたものである。理由には「実家から離れて、違うところを見てみたいから」「ラッシュが嫌だから」とかいろいろいい加減に答えていた。今思うと「なんであんなにムキになって京大に行こうとしたんだろう」という気もする。漠然とした一種のあこがれがあったのかもしれない。えてして、人間は行為を行うときに明確な動機があるものと思いがちであるが、実際にしっかりと動機を自覚したうえで行為を起こすことは少ない。わたしの場合も多分そんなところだと思う。しかし、実際に京大に行ってみて、つくづく思ったのは「西のモンというのは『うまくいく』という以上に『それ自体が面白い』とか『非合理なこと』に非常に大きく力点を置くな」という事である。


 京都に行った理由の中に「一人暮らしがしたいから」というのは入っていない。なぜなら、決して、豊かとはいえない出自であるので、下宿代を親に出してもらうくらいなら吉田寮に入ろうと思ったからだ。当時京大吉田寮の寮費は月2000円だったと記憶している。最近、PRESIDENT On Line(2018年1月29日号) のニュースで、「24時間対決グローバルエリートVS吉田寮」という面白いものがあった。兎角、グローバルエリートというのは、無駄を省くものであり、時間を効率的に使う。それに対し、吉田寮での行動は何事もムダばかり、会議に至っては「会議という意味では無制限でしたね。朝10時に始まった会議が、翌朝の7時まで続いたことがありました。お腹も空くし、会議に疲れてかなりの時間寝てしまったのですが、起きても延々と議論を続けている。途中でお酒も入った人が会議に参加して、議論が大混乱して、それを収拾するためにまた一から議論をはじめてとやっていたら、21時間かかりました」という始末である。私は、はじめ、吉田寮にいたが、住んでいる人の多様性には驚いた。1995年入学で、3月下旬に入寮したのだが、オウム真理教の人がいる。しかも丸坊主でいわゆるサティアン服を着ていたのですぐにわかったのだ。1995年3月20日と言えば、地下鉄サリン事件があった年である。寮の先輩に聞くと「ああ、あの人は前からいるけど大丈夫」とのこと。大学からもらった資料には統一教会系の学生団体もあり(なぜか大学当局から公認されている)、気を付けるよう指示を描いた説明書きまで入っているのに、このような状況になっていた。オウム真理教の人がいるのなら推して知るべし。数学オリンピックで銀メダルを取ったという人やら、学部生として留年と休学を繰り返し12年も大学に在籍している人もいた。


 もっとも、私は10日ほどして吉田寮を出た。オウムの人が原因という訳ではない。先住者が移動しないと新入生は、各自の部屋に入れない。「茶室」という大部屋に寝かされていて、私は、一番場所の悪い、入り口近くに布団を敷いていて、そこだけが自分のスペースだった。みんなが私の布団を踏んづけて入室するという状況、その中で「去年一年いて、取得単位がゼロの2回生」などに会い、「さすがにそういうのはまずいだろう。学費を節約するために入寮したのに留年などとんでもない」という事で寮を出て、アパートを借りた。何しろ、寮の生活はのんびりだ。だから、部屋に移れるのは早くて6月過ぎ、遅ければ10月になるという。これでは、単位取得どころか生活にならない。だが、吉田寮入寮が決まってすぐ、2、3人部屋に移れたら、吉田寮にそのままいたと思う。楽しいところだと思ったので、その後もよく出入りしていた。


 吉田寮で新鮮だったのは、何事もうまく、賢く、効率よくやればよいという発想の否定である。西の人は往々にしてそのような行為をとる。中島らもは、「関西人はヨシモト、アキンド、ヤクザのどれかに分類できる」などといい加減なことを言っていた。だが、このいい加減な説にも「んー、そういわれれば、そういうところがあるかもしれないなあ」と思うことがあった。その点、京大はヨシモトかあるいはヤクザの集団であろう。こんな感じである。

 「ギャングスターズ(体育会アメフト部)がやたら強く、社会人を負かす」

「月曜朝一限の講義(フランス語購読・必修)に定時に行くと、学生が誰もおらず、先生が一人でサンドイッチを食っている」

「機動隊がびっしり囲んでいるデモにうっかり行ってしまい、一生懸命機動隊の盾を蹴っている同胞を必死で取られないように引っ張る」

「語学以外のパンキョー単位はすべてカンニングで取る」

「専門の単位は、『講義の感想を書いてねー、どこで書いてもいいからねー』といってテストが始まった瞬間、先生がいなくなるので、カンニングする必要すらない」

「数学ができたら文学部なんか来ないよなあ、と文学部教授が言う」

「その人じゃない先生が、学生運動を頑張り、火炎瓶を実際作って投げた」

「またその人じゃない先生がもっと頑張りすぎて前科がある」

 ほかにもあるが、挙げるときりがないのでやめる。

だいたい、京大が総じて、間違って受け取られていることが多い。


×「京大は自由である」

〇「ただ、放置してるだけ」


×「かしこい」

〇「高校時代かしこかったが入学後、ほぼ全員だら下がり」


△「たまにノーベル賞を取る」

〇「無数のアホのしかばねの上にあることを忘れてはいけない」



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