第十八章 再会
ドミニークス三世のいる人工惑星に突入したジョーを待っていたのは、無数の戦闘艇だった。
「まだ蝿共がいるのか」
彼はうんざりした顔で呟いた。戦闘艇は無人らしく、フォーメーションを組んでジョーの宇宙艇を攻撃して来る。
「面倒だな!」
ジョーは再びフードを開き、立ち上がった。すると戦闘艇はサーッと離れて行く。
「なるほど、こっちの考えはお見通しって訳か?」
しかしジョーは構わずストラッグルを撃った。戦闘艇はそれをかわすが、ストラッグルの光束はそのまま進み、人工惑星の外郭を貫いた。
「狸! いつまでこんなまどろっこしい事を続ける気だ!? ここを穴だらけにするぞ!」
ジョーが回線を開いて怒鳴った。
その頃ドミニークス三世は、カタリーナの追撃から逃れ、脱出の準備をしていた。
「ジョー・ウルフに乗り込まれた時点で、ここはもう捨てるしかない」
彼はあっさりと人工惑星を放棄するつもりだ。
「閣下、どうぞ」
脱出艦の発信準備が整い、ドミニークス三世は中に入った。
「やはり化け物か、奴は」
ドミニークス三世は、自分の読みの甘さを悔やんだ。
(ここは一旦退き、ジョー・ウルフとアウス・バッフェンを戦わせる方が得策だな)
彼は帝国軍艦隊を率いている親衛隊長アウス・バッフェンを利用しようと考えていた。
「出せます」
「よし、行け」
ドミニークス三世を乗せた小型艦は、人工惑星を出た。
「む?」
外で待機していたフレッド・ベルトが、その小型艦の動きに気づいた。
「何だ、あの艦は?」
彼はすぐにジョーに通信した。
「ジョー、妙な船が出て来たぞ」
「多分狸だ。放っておいてくれ。今はカタリーナの救出が先だ」
フレッドはニヤリとして、
「そうだな」
そのカタリーナは、ドミニークスを追いかけていたが、途中何度も武装兵に妨害され、見失ってしまっていた。
「あの狸、今度会ったら絶対許さない!」
彼女はムカムカしたまま廊下を走った。
「ジョー、来ているの?」
思いは最愛の人に向けられた。
「きゃっ!」
その時、再び武装兵が現れた。銃撃が始まり、カタリーナは近くの部屋に逃げ込む。
「しつこいわね!」
彼女は愛用の銃「ピティレス」を見た。替えの弾薬がもう少ない。閉じ込められた時、ドアをぶち抜くのに使い過ぎたのと、敵が多過ぎるのが災いした。
「やれるだけやるしかない!」
カタリーナが決心して飛び出そうとした瞬間、
「カタリーナ、そのまま!」
と声がした。
「え?」
立ち止まった彼女の鼻先を巨大な光束が通過した。一瞬目が眩んだカタリーナだったが、
「ジョー!」
と叫び、廊下に飛び出した。その先には、見間違えようのない大好きな男が立っていた。
「待たせたな」
ジョーはフッと笑ってストラッグルをホルスターに戻した。
「ジョー!」
カタリーナはピティレスを放り出してジョーに飛びついた。
「カタリーナ!」
ジョーはカタリーナのダイビングに驚きながらも、彼女を受け止めた。
「すまなかった。危ない目に遭わせちまったな」
「ううん、いいの。貴方は必ず助けに来てくれると思ったから」
カタリーナは涙ぐんでジョーを見上げた。
「そうか。さ、脱出するぞ」
ジョーはスッとカタリーナを突き放すと、走り出した。カタリーナはムッとしたが、
「ええ」
と彼に続いた。
「フレッド、カタリーナを救出した。この空域を離脱するぞ」
ジョーからの通信を聞き、フレッドはニッコリした。
「了解。すぐにでもジャンピング航法をできるようにしておく」
「頼む」
フレッドは後方から迫る帝国軍の艦隊を警戒しながら、準備を進めた。
その帝国軍艦隊の旗艦にいるバッフェンは、ドミニークス三世の逃亡とジョーがカタリーナを救出した事を知った。
「狸め、我が軍とジョー・ウルフの戦闘を望んでいるようだな。それは只の消耗戦になる」
バッフェンは通信機を取り、
「全艦帰還準備。帝国へ戻るぞ」
と命じた。
ジョーはバッフェンが仕掛けて来るかと思い、警戒していたが、帝国軍艦隊がドミニークス領から撤退し始めたのを知り、驚いていた。
「貴方が怖いのね、バッフェンも」
補助席のカタリーナが言うと、
「いや。奴はそんな男じゃない。無駄な戦いを避けたんだよ」
「そうなの?」
カタリーナはつまらなそうに応じた。
ドミニークス三世は、帝国軍が撤退し、ジョー達も追って来ない事を知り、ホッとしていた。
「各反乱軍の動きにも警戒を怠るな。帝国が退いたのをきっかけに仕掛けて来るかも知れん」
ドミニークス三世は険しい表情で側近に命じた。
(ストラード・マウエルめ。この借りは必ず返すぞ)
拳を震わせ、彼は思った。
その帝国皇帝ストラード・マウエルは、ドミニークス三世がジョーを仕留め損なった事を知り、ニヤリとした。
「愚かな事だ。あの男を殺そうなどと思うのは、まさに天に唾するのと同じ」
彼は椅子から立ち上がり、
「ジョー・ウルフはまた私を殺しに来る。警戒を続けろ。そして、親衛隊は組織を立て直し、ジョー・ウルフ抹殺に全力を注げ」
と命じた。
ジョーはフレッドの戦艦に戻っていた。
「いやあ、本当に良かった、カタリーナさんが無事で」
フレッドが操縦席から立ち上がって言った。
「ごめんね、フレッド。心配かけて」
カタリーナが神妙そうな顔で詫びると、フレッドは驚いて、
「とんでもない。謝らなきゃならんのは儂の方だよ、カタリーナさん。あんたを一人にして、申し訳なかった」
「いいのよ。お互い様でしょ」
カタリーナはフレッドを抱きしめた。心なしか、彼は嬉しそうだ。
「さてと、ラルミーク星系に戻るか」
フレッドは操縦席に座り、操縦桿を握る。ジョーとカタリーナも席に着いた。
「ジャンピング航法に入るぞ」
フレッドの戦艦はジャンピング航法で中立領のラルミーク星系に飛んだ。
バッフェンは帝国中枢のタトゥーク星に帰還すると、すぐさまストラードのところに行った。
「ジョー・ウルフは必ずここに来るはず。今度こそ確実に仕留めよ。もはやあの男の役目は終わった」
ストラードが冷徹な顔で言った。バッフェンは跪いて、
「はは!」
と頭を下げた。
フレッドの工場に着くと、カタリーナは疲れからかすぐにソファで眠ってしまった。
「無防備な姫だな」
フレッドは笑って彼女に毛布をかけた。
「じゃあ、またカタリーナを頼む、フレッド」
「ああ。今度は帝国か?」
フレッドはジョーを見上げた。ジョーはニヤリとして、
「ストラードはあのままにしておけねえ。必ず仕留める」
「そうか。死ぬなよ、ジョー」
フレッドが手を差し出す。ジョーはその手を握り、
「もちろんだ。こんな事で死ぬつもりはない」
と言うと、工場を出て行った。
「ジョー……」
カタリーナの寝言にフレッドはビクッとしたが、
「すまないな、カタリーナさん。またあんたを騙さなくちゃならん」
と呟き、毛布をかけ直した。