第十五章 激突
銀河帝国の大艦隊は、拮抗する勢力であるドミニークス反乱軍(帝国側の呼称である)を威嚇するように砲門とミサイル発射孔を展開させていた。しかし、進撃の気配はない。
ドミニークス軍、彼等自身の公称の「新共和国」の中枢であるフランチェスコ星域の中心の人工惑星で、帝国軍の大艦隊をスクリーンを通じて見ているドミニークス三世は、
「連中は、どうやらジョーを使って我らを切り崩すつもりのようだな」
その言葉に、カタリーナがピクンと反応した。
「嬉しいか、カタリーナ? 愛しい人が我らの攻撃をものともせず、ここにお前を助けに来るぞ」
「……」
先程はドミニークス三世の挑発に乗り、大声で反論したカタリーナだったが、その声がジョー攻略に利用されると知り、口を噤んでいる。
「黙っていてはつまらんぞ。先程の如く、叫べ。喚くのだ、カタリーナ」
ドミニークス三世はニヤリとした。しかし、カタリーナは彼から視線を逸らし、何も言葉を発しない。
「まあ、良い。奴が現れ、我らの攻撃で追い詰められれば、そんな強がりも続くまい」
「……」
カタリーナはキッとドミニークス三世を睨む。
「いい目だ。只殺してしまうには惜しいな」
ドミニークス三世の挑発は続くが、カタリーナは何も言わなかった。
ジョーとフレッドの乗る戦艦は、帝国軍の遥か後方にジャンピングアウトした。
「帝国軍のレーダーには儂らの艦は映っとらんはずだ。このまま仕掛けて全滅させるか、ジョー?」
フレッドがレーダーに映る帝国軍の大艦隊を見て言った。しかしジョーは、
「それも面白いが、奴らには後で活躍してほしいから、今はこのままやり過ごす。それにバッフェンの奴、多分俺が狸のところに突撃するのを待っているんだ。その期待にも応えないとな」
「なるほどな」
フレッドはニヤリとした。
フレッドの戦艦は対レーダーコートを施してあり、特別なレーダーでないと捕捉されない。ジョー達はそれを利用し、帝国軍をやり過ごすと、そのままドミニークス領へと侵入した。
帝国軍のレーダーはフレッドの艦を捕捉できていないが、アウス・バッフェンはジョーの気配を感じ取っていた。
(今、狸の領域に入ったか、ジョー・ウルフ。精々、活躍してくれ)
バッフェンはフッと笑った。そして、
「半舷休息にて待機せよ」
と命じ、ブリッジを出た。
そしてジョーも、バッフェンの強力な悪意に満ちた気配を感じていた。
(奴め、わかっていて攻撃させないのか。相変わらず汚い考えだ)
しかし今、バッフェンと戦う時間はない。カタリーナはドミニークス三世の手の中にある。彼女の救出が最優先なのだ。
「爆弾て、何を仕掛けたんだ、ジョー?」
フレッドが尋ねた。ジョーはフッと笑って、
「本当に爆弾を仕掛けた訳じゃない。連中は、俺が乗っていた帝国の駆逐艦をそのままにしているって事さ」
「そうか。なるほど、そいつは確かにとんでもない爆弾だな」
フレッドは合点がいったのか、ニヤニヤした。
「おっと、そろそろ狸の方のレーダーに捕まる頃だぞ。奴らのレーダーは帝国のものより数段優れている。隠れん坊はもう終わりだな」
フレッドは対空監視モニターを作動させ、周囲を警戒する。
「出るぞ」
ジョーが立ち上がった。フレッドはジョーを見上げて、
「予備の宇宙艇は一機だけだ。あれを潰されたら、もう終わりだぞ」
「わかった。俺はともかく、カタリーナを助けるためには、どうしても潰される訳にはいかないな」
ジョーはニヤッとして、ブリッジを出て行った。
「ま、儂が心配しても始まらんか」
フレッドは肩を竦めて前を見る。
「どちらかと言うと、脱出後のバッフェンの動きを予想した方が良さそうだな」
彼は後方モニターに小さく映る帝国軍艦隊の光を見た。
「フレッド、援護を頼む」
カタパルトに降りたジョーが通信機に言った。
「了解。思う存分戦ってくれ。蠅共は儂が全部叩き落とすから」
「ありがとう」
ジョーの言葉にフレッドは照れ笑いして、
「その言葉はカタリーナさんを救出してからにしてくれ」
「そうだな」
ジョーの宇宙艇は、轟音と共にフレッドの戦艦から射出され、高速でドミニークス領を進んだ。
「ジョー・ウルフです!」
ドミークス軍の監視員が叫ぶ。
「最大望遠! 全艦、ジョー・ウルフに向けて全砲門を集中! 続いて、戦闘艇発進! 何としても奴を叩き落とせ!」
ドミニークス三世は額に血管を浮き上がらせて怒鳴った。
「ジョー……」
カタリーナはモニターに映るジョーの宇宙艇を見て祈った。
(私のために危険な目に遭わせてごめんなさい。でも、もう一度貴方に会いたい……)
「ほお、なかなかに手荒い歓迎だな!」
ジョーはまさしく雨のように降り注ぐ砲火とミサイルを巧みにかい潜りながら、フランチェスコ星域を目指す。
「そんな大雑把な攻撃が当たるかよ!」
彼は弾幕をすり抜け、次に現れた戦闘艇との交戦に入った。
「ジョー、蠅に構うな! そいつらは儂が叩き落とす!」
フレッドの声と共に、彼の戦艦から多弾頭ミサイルが発射され、戦闘艇を撃墜して行く。
「了解、フレッド」
ジョーは前に立ち塞がる数機の戦闘艇を機銃で撃墜すると、更に中枢へと向かった。
ドミニークス三世はジョーが真っ直ぐに自分のところに向かっている事を知り、狼狽えていた。
「何をしているのだ? いくら相手がジョー・ウルフと言っても、あれだけの物量を注ぎ込んで、足止めもできんのか!?」
ドミニークス三世の声は絶叫に近かった。彼はキッとしてカタリーナを睨み、
「ならば、仕方あるまい。例の手を打つか」
と言った。カタリーナはその目を見て、
(こいつ、何を企んでいるの?)
と睨み返した。