第十四章 策謀
ラルミーク星系第三番惑星は、地球によく似た大気成分で、海も多く、快適な星だ。
その星の大陸の一つにそびえる山脈に、ジョーの旧知の銃工であるフレッド・ベルトの武器庫がある。フレッドが戦艦の中から遠隔操作すると、山肌の一角が動き、強大な武器庫が現れた。
「凄いな。確かに帝国と渡り合えそうだ」
ブリッジの窓からそれを眺めているジョーが言った。
「まあな」
フレッドは誇らしそうに鼻の下を擦った。
一方、帝国軍の罠によって艦隊を壊滅させられたドミニークス三世は、ジョーに対する威嚇とするため、彼の婚約者であるカタリーナを自分の部屋に連れて来させた。彼女は拘束具で腕を後ろに留められている上、足首は枷で固定されていて、まともに歩く事ができない。
「貴方が、ドミニークス三世?」
カタリーナは嫌悪の表情で彼を睨みつけた。ドミニークス三世はカタリーナの感情を読み取ったように、
「そうだ。お前にとっては、儂は憎い存在だろうな?」
「そうね。ジョーを殺そうとしたんですものね。この場で撃ち殺してやりたいくらいよ、狸オヤジ!」
カタリーナは思いつく限りの毒舌でドミニークス三世を罵った。
「静かにせんか!」
衛兵が彼女を押さえつけようとする。しかしドミニークス三世は、
「構わぬ。言わせておけ。いずれにしても、死ぬ女だ」
「……」
カタリーナは、更に怒りを込めてドミニークス三世を睨んだ。
「ジョー・ウルフは儂を殺しに来るだろう。何を置いてもな。しかし、儂にも銀河系征服の夢がある。奴如き小者に易々と殺されるつもりはない」
ドミニークス三世は、カタリーナをにらみ返して言い放った。
「なるほどね。貴方、随分とジョーが怖いみたいね? だから私をそばに連れて来て、楯にするつもりね?」
カタリーナは皮肉を込めて言い返す。ドミニークス三世はフッと笑い、
「奴は恐ろしい。お前の言う通りだ。そして、奴に唯一弱点があるとすれば、それはお前だ」
「……」
一番聞きたくない事を言われ、カタリーナは歯軋りした。
(ジョーの足手まといみたいに言われるの、本当に癪に障るけど、何も言い返せないのが悔しい……)
「悔しいか? そうだろうな。愛する男の邪魔をしているのだからな。さぞ無念だろう、お前としては」
ドミニークス三世は何が目的なのか、カタリーナを挑発する。
「だからこそ、お前は人間の楯となり得るのだ。どれほどの敵にも怯まないあのジョー・ウルフでも、お前という楯をかざされれば、無力となる」
「うるさいわよ!」
カタリーナは遂に我慢し切れなくなって怒鳴った。するとドミニークス三世は笑い出し、
「そうだ、もっと叫べ。お前のその絶望に満ちた声を、奴に嫌というほど聞かせるためにな!」
「……」
カタリーナは唖然とした。
(こいつ、変質的だわ……)
アウス・バッフェン率いる帝国軍艦隊は、ドミニークス軍との国境付近にジャンピングアウトした。
「フランチェスコ星域は、そう簡単には落とせぬ。我々は、まず先鋒に道筋をつけてもらう事にする」
バッフェンが言った。すると彼の乗る旗艦の艦長が、
「先鋒、ですか?」
と不思議そうな目で尋ねる。バッフェンはニヤリとし、
「そうだ。ジョー・ウルフという、強力な先鋒だ」
と答えた。
「それまでは、我々はここで待機する」
バッフェンの言葉に、艦長は唖然としていた。
ジョーとフレッドは、戦艦に積めるだけの武器弾薬を搭載し、第三番惑星を飛び立った。
「ドミニークスと帝国、どう対処するつもりだ、ジョー?」
操縦桿を握ったままで、フレッドが尋ねた。ジョーは前方を見据えて、
「狸はカタリーナを人質に取っている。そいつをまず何とかしないとな」
「そうだな」
ジョーには秘策があった。
「狸は、とんでもない爆弾を抱え込んでいるのを思い知る事になるさ」
フレッドは、ジョーが落ち着いているのを見て、安心していた。