第十三章 反撃
自室の椅子に、ドミニークス三世は項垂れるようにして座っていた。額には深い皺ができ、目は異常に鋭くなっている。
「おのれ、帝国め……。この儂を騙しおったな……。最初からこうなると知った上で、ジョー・ウルフを……」
彼はそこまで考え、ハッとした。そして、
「まさか……。奴は……」
その時、目の前のスクリーンに側近が映った。ドミニークス三世はムッとして、
「何だ!?」
と怒鳴りつけた。側近はビクッとしてから、
「はっ、只今、タトゥーク星に潜入している軍情報部の者から、緊急連絡が入りました。口で説明するより、映像の方がよくおわかりいただけると存じます」
と言い、画面を切り替えた。
「何と!?」
ドミニークス三世は、思わず立ち上がってしまった。
「バ、バカな……。これは一体……?」
スクリーンには、皇帝宮のバルコニーに立ち、演説をしているストラードの姿が映っていた。ドミニークス三世は、肘掛けを叩き割って、
「どういう事だ!? 皇帝宮の爆発で、生きて脱出したのはジョー・ウルフのみ。他は生命反応はなかったというのが、最初の報告ではないか!?」
と怒鳴り散らした。側近は画面の半分に映り、
「そ、それが、確かに最初はそうだったのです。ところが、三時間程経ってから、爆発した皇帝宮の下から、別の皇帝宮が現れたのだそうです」
ドミニークス三世は、完全に呆気に取られていた。ストラードは死んでいない。しかも、ジョー・ウルフも敵に回してしまった。更に中立領を侵略しようとして、帝国軍に艦隊を壊滅させられた。恐らく、他の二つの反乱軍もこの機に乗じて事を起こすだろう。八方塞がりとはまさに今のドミニークス三世の事であった。
「すぐに国境付近の全軍に指令し、フランチェスコ星域の防衛に回らせろ。あと何時間もしないうちに、ジョー・ウルフばかりでなく、帝国軍、それに二つの反乱軍までもが攻めて来るぞ!」
ドミニークス三世は、絶叫のような声で言った。彼は椅子に戻り、
「何という事だ……」
と眉間に皺を寄せた。
ストラード・マウエルは、得意満面で帝国中の惑星の住民に呼びかけていた。
「知っての通り、ドミニークス軍は我が国との間で取り交わした中立領不可侵条約を無視し、中立領に侵攻しようとした。しかし、我が軍はこの動きを事前に察知し、事至る前にドミニークス軍を撃滅した」
ストラードはニヤリとして、
「今こそ、百年来の宿敵であるドミニークス反乱軍を殲滅する時である。銀河系の恒久の平和のため、そして帝国繁栄のために!」
と力強く語った。
(これでドミニークスは潰れる。そして、ジョー・ウルフも一緒に潰してしまえば、まさに一挙両得だ)
ストラードは笑いを堪え切なくなっていた。
その頃、ジョー達はラルミーク星系の第三番惑星に降下していた。
「まずは戦う準備をしないとな」
フレッドは戦艦を宇宙船ターミナルとは違う方向へと向かわせた。
「どこへ行くんだ、フレッド?」
横で見ていたジョーが尋ねた。フレッドは嬉しそうに笑い、
「カタリーナさんを助けに行くんだろう、ジョー? それなら、普通の武器じゃあ、ドミニークスの中枢へは入れないぞ」
「それはそうだが……」
ジョーはフレッドが楽しそうなのを見て、フッと笑った。
「まだまだ現役で行けそうだな、フレッド」
「いやいや、もう無理だよ。後方支援はできるが、前線に立つのはもう無理だ。儂は武器屋がいい」
フレッドはジョーを見て苦笑いした。
「そうかい」
ジョーは眼下に見えて来る山脈を眺めた。
「あの山の一角が、儂の武器庫だ。多分、帝国とも互角に渡り合えるだけの武器弾薬はあるぞ」
フレッドは得意そうに言った。