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第十二章 罠

 ジョーの宇宙艇は大気圏を離脱し、そのままジャンピング航法に入った。

(ストラード・マウエル……。俺は奴の(てのひら)で踊らされていただけなのか……)

 ジョーのそんな思索を打ち破るかのように、宇宙艇はドミニークス領にジャピングウアトした。

「カタリーナ……」 

 彼は自分のせいで人質になっているカタリーナの事を思い出した。その時である。

「何!?」

 ジョーは危険を知らせるアラームにハッとしてレーダーを見た。無数の飛行物体が、宇宙艇に接近して来るのが映っている。

「ミサイル?」

 ジョーは宇宙艇を上方へ進めて、ミサイルをかわした。ミサイルは雨のように宇宙艇に襲いかかり、ジョーの宇宙艇は次々に各所を破壊され、機能を低下させて行った。

「どういう事だ?」

 ジョーは必死にミサイルをかわしながら考えた。


 ドミニークス三世は自分の部屋の椅子に座り、スクリーンに映るジョーの宇宙艇を眺めていた。

「ストラード亡き今、儂にとって最大の脅威はお前だ。宇宙の塵となるがいい」

 彼はニヤリとして言った。


 ジョーの宇宙艇は遂に機関部を破壊され、航行不能になってしまった。

「これまでか……」

 ジョーは歯軋りした。すると、

「諦めるのはまだ早いぞ、ジョー」

とフレッド・ベルトの声が通信機から聞こえた。

「フレッド?」

 ジョーは意外な声にビックリした。


「むっ?」

 ドミニークス三世はスクリーンに割り込んで来たフレッドの戦艦を見て立ち上がった。

「あれは……」

 ドミニークス三世の額に汗が伝わる。

「フレッド・ベルトの武器の(ふね)……」

 フレッドの戦艦は、ドミニークス軍のミサイル攻撃に対し、迎撃ミサイルで対抗し、これを全て撃墜した。そしてさらに巨大な主砲が展開し、ミサイルを放ったミサイル艦五隻を一瞬にして消し飛ばした。

「ジョー、ハッチから中に収容する」

「わかった」

 フレッドの戦艦はジョーの宇宙艇の上に回り込み、開いて行くハッチにうまくジョーの宇宙艇を収容した。そして間髪入れずジャンピング航法で姿を消した。

「何という事だ……。あのフレッド・ベルトが絡んでいたとは……」

 ドミニークス三世はキッとして、

「ケン・ナンジョーめ、報告を怠りおって! 奴が関わっているとなると、我が軍も痛手を受ける事になるぞ……」

 ドミニークス三世は目を細めた。しかし、

「だが、ストラード亡き今、この銀河に恐れる者はジョー・ウルフのみ。奴を消さずして、銀河系征服の夢は果たせぬ」

と立ち上がった。彼は、

「すぐに艦隊を差し向け、中立領を叩け! フレッド・ベルトは我が国の領域を侵犯したのだ。我が国には制裁権がある。帝国にも他の反乱軍にも、大義名分が立つ」

 側近は跪いて、

「ははっ!」

と応じた。ドミニークス三世はニヤリとして、

「もはや帝国には我が国を威嚇する程の力も能力者も存在しない」


 ジョーとフレッドは格納庫で再会していた。

「ジョー、間に合って良かったよ」

 フレッドがにこやかに言う。するとジョーはフッと笑って、

「ああ。本当に助かった。礼を言う」

 フレッドはバツが悪そうに頭を掻いて、

「礼なんて言われる立場じゃない。カタリーナさんを拉致されちまって……。申し訳なかった。儂がちょっと出かけた隙を突かれてな」

「仕方ない。それにカタリーナが拉致されたのは、フレッドのせいじゃない」

「えっ?」

 フレッドはキョトンとしてジョーを見た。ジョーはフレッドに背を向けて、

「俺のせいだ」

と言い、歩き出した。フレッドはジョーを追いかけて、

「それで、これからどうする?」

「カタリーナを助け出す。それと、狸にもたっぷりと礼をしなくちゃならねえしな」

「そうだな」

 二人は格納庫を出てブリッジに向かった。

 やがてフレッドの艦は、ラルミーク星系に入った。


 一方、中立領の境界付近に、ドミニークス軍の大艦隊がジャンピングアウトしていた。艦隊の指揮を執っているのは軍の司令長官である。

「囮艦でディフェンスシステムを引きつけ、そこを一気に領域外から殲滅する。本隊の進撃はそれからだ」

 彼はマイクを通じて全艦に通達した。そして、

「遂に我が軍の力を銀河の民に知らしめる時が来たのだ。新共和国に栄光あれ!」

と続け、敬礼した。するとその時、

「次元レーダーに大量のジャンピングアウト反応です!」

 レーダー係が絶叫した。ブリッジの全員が一斉に彼を見る。

「何ィッ!? 一体どういう事だ?」

 司令長官は全身汗まみれになった。

「て、帝国軍です!」

「はっ?」

 司令長官はブリッジ天井のマルチスクリーンを見上げた。そこには、ドミニークス軍の艦隊より遥かに大規模の帝国の艦隊のジャンピングアウトの光景が映っていた。長官は思わずだらしなく口を開いたまま、スクリーンを見上げていた。

「数、我が軍の約三倍!」

 レーダー係が泣き出しそうな声で伝える。

「どういう事だ? どうして……?」

 司令長官の口からやっと出た言葉がこれだった。

「ドミニークス軍の艦隊に告ぐ。貴軍は、中立領を侵犯しようとしている。これは、我が国と貴軍との間で取り交わされた中立領不可侵条約に対する、重大な違反行為である。我が軍は。条約違反の貴軍に対し、制裁を加える」

 帝国軍艦隊の旗艦ブリッジで、狡猾な笑みを浮かべたアウス・バッフェンがマイクを片手に喋っていた。

「条約違反だとォッ!?」

 司令長官はギリッと歯軋りした。

 それに対し、バッフェンはニヤリとし、

「砲撃開始!」 

 帝国軍の艦隊から一斉に砲火やミサイルが放たれた。

「バ、バカな……。こんな事が……」

 司令長官のブリッジも炎に包まれた。ドミニークス軍の艦隊は、次々に爆発し、四散、全滅して行った。

「愚か者め。罠にかかったのは、貴様らとて同じ。ジョー・ウルフ同様、歴史の中で消えて行く運命なのだ」

 バッフェンはスクリーンに映る爆雲を見て呟いた。

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