第八章 ドミニークス軍
銀河系の第二の勢力であるドミニークス軍、通称「新共和国」の中心にあるフランチェスコ星域の一角に、ジョーの宇宙艇がジャピングアウトした。
「凄い艇だな。何万光年も一気に跳躍するなんて……」
補助席に座っているケン・ナンジョーが言った。ジョーは彼を見ずに、
「さァてと。狸の館の位置を教えてもらおうか」
「プラネト・フランチェスコは人工惑星群の中心にある。真っ直ぐに進めば、見えて来る」
ケンは前方を見据えて答えた。ジョーはニヤリとして、
「なるほど。そうかい」
と応じた。
ドミニークス三世は、謁見室の巨大な椅子に身を沈め、ジョーを待っていた。彼の右脇には側近が控えている。
「遂に来たか、ジョー・ウルフ」
ドミニークス三世は呟き、ニヤリとした。
「ジョー・ウルフが到着しました」
衛兵の一人が現れ、敬礼した。
「良く来た、ジョー・ウルフ」
ドミニークス三世は椅子から立ち上がり、ジョーを迎えた。ジョーは謁見室に入って来ながら、
「俺に何の用だ、狸親父?」
「た、狸親父ィッ!?」
側近が真っ赤な顔をして叫んだ。しかしドミニークス三世はニヤリとして椅子に戻り、
「用というのは他でもない。お前に帝国打倒の先兵となってもらいたいのだ」
するとジョーはギラッと目を光らせて、
「嫌だと言ったら?」
「言えぬ。いくら貴様でも、断る事はできぬ」
ドミニークス三世は、右手で合図する。すると巨大なスクリーンが天井から降りて来た。
「見よ、ジョー・ウルフ。お前は儂の言う通りにするしか道がないのだ」
「何っ!?」
ジョーはスクリーンを見た。そこには、二人のドミニークス軍の兵士に取り押さえられたカタリーナの姿があった。
「カタリーナ!」
ジョーは思わず叫んだ。ドミニークス三世は高笑いをして、
「どうだ、ジョー・ウルフ? これでも断れるか?」
「てめえ……」
ジョーは右拳を握りしめた。ドミニークス三世は、
「ジョー・ウルフよ、すぐに我が軍と共に出撃しろ。そして、ストラード・マウエルを討つのだ」
ジョーは目を伏せて、
「わかった。言う通りにしてやる。だが……」
と言ってから、ドミニークス三世を睨みつけた。ドミニークス三世はその眼光の鋭さにギクッとした。
「カタリーナに傷一つ負わせてみろ。その時は必ずてめえを殺す!」
ジョーの殺気と怒りが、謁見室を破壊しそうだった。
「わかった……。約束しよう」
ドミニークス三世は答えた。すると、ジョーはドミニークス三世に背を向けた。
「すぐに我が軍の司令長官に会い、作戦指示を受けるのだ。出撃は、二十四時間後だ」
「お断りだ」
ジョーはそう言うと歩き始めた。
「どういう意味だ?」
ドミニークス三世は肘掛けをギシッと握りしめた。
「俺は俺のやり方でやる。ストラードを殺るのなら、俺のやり方で行く」
ジョーは背を向けたままで答えた。ドミニークス三世はフッと笑い、
「わかった。お前が作戦を考えて指揮しろ。軍は好きなように使うがいい」
ジョーはチラッと振り向き、フッと笑った。
ケン・ナンジョーは、ドミニークス軍司令本部の作戦会議室の円卓に着き、司令長官と話をしていた。
「気に入らん。閣下は一体あの男をどうするおつもりなのだ?」
司令長官は、口髭を引っ張りながら言った。
「奴は桁外れに強い。奴がいれば、我が軍は勝ったも同然だ。閣下はそれを承知されているからこそ、奴に作戦を任せられたのだ」
ケンは答えた。しかし、司令長官はフンを鼻を鳴らして、
「どれほどの男か知らんが、我が軍の参謀達が立てた作戦を上回るものが、あの男に立てられるとは到底思えんな」
「あの男って、誰の事だ?」
その声に司令長官はビクッとして会議室のドアを見た。そこには、ジョーがドアを開いて立っていた。ケンが、
「お前の事らしいぞ」
と笑って言った。ジョーは一番手前の椅子に座って、
「そうかい」
と司令長官を見た。司令長官は、
「お前に我が軍の完璧な侵攻作戦を説明してやる。もし、もしもだ、落ち度があったら、指摘してみろ」
と言い放ち、立ち上がる。円卓上にスクリーンが現れ、帝国の中枢であるタトゥーク星付近の図が映る。
「タトゥーク星付近は、まさに鉄壁に近い防護システムで守られている。我が軍も迂闊に侵攻できなかった。ところがだ。最近になって、この防護システムに盲点がある事に我が軍の情報部が気づいたのだ」
誇らしげに語る長官を、ジョーは頬杖を着いて見ている。長官は続けた。
「盲点とは、タトゥーク星から我が新共和国方向へ百万キロのポイントにある、小惑星群だ。この小惑星群は磁気を帯びており、レーダーが役に立たない。よってここにジャンビングアウトしすれば、帝国軍に気づかれずにタトゥーク星をミサイルの射程に捉える事ができる」
長官はニヤリとして、
「ここからは我が軍の誇る電撃部隊が宇宙艇で侵攻し、レーダー衛星やレーザー砲を破壊。戦艦はタトゥーク星に威嚇の長距離ミサイルを発射し、帝国軍の迎撃部隊が出て来る前に小ジャンビング航法で更にタトゥーク星大気圏のすぐ近くへ飛ぶ」
スクリーンのタトゥーク星が拡大投影され、軍本部の敷地が映し出された。
「大気圏外から中距離ミサイルを発射し、地上からの迎撃と衛星軌道上に待機している帝国の近衛艦隊の攻撃をかわすため、空中機雷を放出する」
ジョーはフッと笑った。司令長官は、
「更に戦艦は大気圏突入を敢行し、軍本部にイオンミサイルを発射。ストラード・マウエルもアウス・バッフェンも、原子単位で切り刻む、というものだ」
と円卓を叩いた。
「どうだ? ケチのつけようがあるまい? つける事ができるとしたら、どこだ?」
司令長官は得意満面に言い放った。
「全部だ」
ジョーは頬杖を着いたままで言った。
「何? 今何と言った?」
長官は激怒していた。
「聞こえなかったのか? 全部だよ、全部。最初から終わりまで、全部ダメだ」
ケンもこれには仰天し、
「お、おい、いくら何でも全部とは言い過ぎだぞ、ジョー」
「貴様、この私をバカにしているのか!?」
長官はジョーに詰め寄った。ジョーはバッと立ち上がり、
「待てよ。どこがどう悪いのか説明してやる。座りな」
と鋭い目で長官を見た。長官はビクッとして椅子に戻ってしまった。