第五章 離脱
「突入開始!」
バッフェンのエアーバギーを先頭に、次々に車両が敷地内に入った。
「来るぞ。どうするつもりだ?」
ケンが尋ねる。ジョーは、
「やるしかねえだろ」
とケンを見た。
バッフェンは通信マイクを掴み、
「仕掛けるのは、私が合図したらだ。まだ何もするな」
彼はエアーバギーから飛び降り、ゆっくりとジョー達のいる駆逐艦の方へ歩き出す。
「隊長、危険です!」
親衛隊員の一人が叫んだが、バッフェンはそれを無視して歩を進めた。
「誰か近づいて来るぞ」
ケンが外を見て言った。ジョーは、
「バッフェンさだ。奴め、何企んでやがるんだ?」
バッフェンはあと数メートルのところで立ち止まり、
「ジョー。聞こえているか? 貴様の、そのずば抜けたビリオンス・ヒューマン能力をもってすれば、私が何を言いたいのか理解できよう?」
ジョーは身を乗り出し、
「ヤロウ、俺を挑発するつもりだな」
バッフェンはニヤリとし、
「あと五分待ってやる。その間に降りて来ない場合は、一斉に攻撃を仕掛ける」
ジョーはフッと笑い、
「バカか、てめえは……」
「何!?」
バッフェンはムッとした。ジョーはニヤリとし、
「この駆逐艦には、対艦用のミサイルが二十基搭載されているんだぜ。そいつに火がついたら、てめえら全員消し飛ぶぞ」
「ぐっ……」
バッフェンは汗を滲ませた。
(奴がこの艦を選んだのは、そのためだったのか……)
彼は意を決した。
「ならば、私が素手で貴様を始末するまでだ」
バッフェンは駆逐艦に飛び乗り、たちまちのうちにブリッジの近くまで昇った。
「来るか?」
ケンが身構えた。ジョーはスッとストラッグルを構え、窓越しにバッフェンを撃った、光束が窓をぶち破り、バッフェンに向かう。
「やった!」
勝利を確信したケンが叫んだ。しかしジョーはストラッグルを構えたまま、
「いや、まだだ!」
バッフェンは光束をかわし、ブリッジに取り付いた。
「甘いぞ、ジョー! この私に銃などで立ち向かうつもりか?」
彼は開けられた穴からブリッジに飛び込んで来た。ジョーはストラッグルをホルスターに戻し、
「拳で十分か、てめえなんかよ」
「ほざけ!」
ケンは身震いして二人から離れた。
(この二人、どっちが上だ?)
バッフェンが先に仕掛けた。彼の右ストレートがジョーの顔に向かう。ジョーはそれを左手で受け止め、右アッパーを見舞う。バッフェンは素早く身を退けてこれをかわした。そのかわしながらの状態から、右脚を動かし、ジョーの左脇腹にトゥーキックを繰り出した。ジョーはそれを肘で捌いた。
「くっ!」
「うぬっ!」
二人は互いに離れ、相手を睨んだ。
「腕を上げたな」
バッフェンが言うと、ジョーはフフンと笑って、
「年食ったんじゃねえか、隊長さんよ」
「黙れっ!」
バッフェンはジョーに突進した。ジョーは窓の外へと飛び出し、甲板に降りた。バッフェンもそれを追いかける。
「おおっ!」
親衛隊員達がどよめいた。バッフェンの頬から、血が流れ出したのだ。バッフェンはその血を拭い、
「貴様、いつの間に……?」
ジョーはそれには答えず、ストラッグルを再び構えた。バッフェンはフッと笑い、
「ストラッグルで私は倒せんよ」
と走り出した。
「普通の弾薬だったらな!」
「何!?」
バッフェンは蒼ざめた。
「まさか!?」
ジョーはストラッグルを撃った。
「ぐはっ!」
巨大な粘着状のものがバッフェンを覆ってしまった。バッフェンはもがいて転げ回った。
「フグーッ!」
「そらよ!」
ジョーは甲板からバッフェンを蹴落とした。
「隊長!」
落下するバッフェンを隊員三人が受け止めた。ジョーはそれを見下ろして、
「あばよ、バッフェン。今はちょっと忙しいんでな。また後でゆっくり相手をしてやるよ」
と言うと、ブリッジに戻った。
「バッフェンを撃退するとは思わなかったぞ」
ケンが声をかけると、ジョーは防護シャッターを下ろしながら、
「さてと。長居は無用だ。一気に脱出するぜ」
と操縦席に座った。
「駆逐艦が!」
隊員の一人が叫ぶ。駆逐艦のエンジンが始動し、艦体がゆっくりと動き出した。
「何をしているのだ? 足を止めろ!」
やっと粘着物かを破ったバッフェンが怒鳴る。
「何としても食い止めろ! 親衛隊の名にかけて!」
「はっ!」
隊員達はエアーバギーに積んであったバズーカ砲や地対空ミサイルを撃った。しかし、駆逐艦はビクともしなかった。バッフェンは歯軋りして、
「ヘリにエンジンを狙わせろ! 機銃や小型ミサイルでは、そこを叩くしかない!」
ジョーはレバーをいっぱいに引き、垂直上昇用のエンジンを始動させた。駆逐艦はゆっくりと上昇を始めた。そこへ武装ヘリが接近して来た。ヘリはエンジン後方に回り込む。ジョーはこれをマルチスクリーンで確認し、
「エンジンを潰すつもりか……。そう簡単に!」
彼は噴射を最大にし、ヘリを威嚇した。ケンが、
「まずいぞ。エンジン付近には迎撃用の武器がない」
ジョーもさすがに焦っていた。大気圏内の速度では、小回りの利くヘリには敵わない。
(こんなところでやられてたまるか!)
ヘリの攻撃が始まった。ジョーは艦を動かして直撃をかわしたが、それにも限界があった。
「どうやら、修理中の艦だったらしいな」
ジョーはシステムエラーの表示が明滅するのを見て呟いた。
「おい……」
ケンも焦りの色を濃くした。駆逐艦はヘリを振り切ろうとするが、ヘリは執拗にエンジンノズルを狙って来る。
「畜生、しつこい奴らだ……」
ジョーは思わず舌打ちした。その時、前方からエアーバイクが一台、滑空して来た。
「むっ?」
ジョーとケンはスクリーンに映るそれに気づき、目を見張った。それには対ヘリ用バズーカを構えたカタリーナが乗っていたのだ。彼女はバズーカ砲でたちまちにうちにヘリを全滅させ。駆逐艦の前に出てテールを振る。
「乗せろって合図してるぞ」
ケンがジョーを見た。ジョーは通信マイクに、
「カタリーナ、後方ハッチを開く。そこから入ってくれ」
「了解!」
エアーバイクは、駆逐艦の後方のハッチに回り込んだ。
「何者だ、あのエアーバイクは?」
バッフェンが怒鳴った。隊員が、
「どうやら、カタリーナ・エルメナール・カークラインハルトのようです」
「うぬっ!」
バッフェンは拳を握りしめ、
「おのれっ! すぐに追撃隊を編成し、駆逐艦を追うのだ。奴らをこの星から生かして出すな!」
と命令した。
ハッチからエアーバイクが入り、中に着地した。ジョーがカタリーナを出迎えた。カタリーナはジョーを見るなり、バズーカを投げ出し、彼の胸に飛び込んだ。ジョーは驚いて、
「おい、カタリーナ、どうしたんだ?」
するとカタリーナは、
「どうして脱獄したのに、私のところに来てくれなかったのよ? 私、待ってたのよ。そしたら、軍からの密報で貴方がここにいるって聞いて……」
と涙ぐんで答えた。ジョーは溜息を吐いて、
「カタリーナ、あんたが今した事がどういう事か、わかっているのか?」
「だって……」
カタリーナはジョーを見上げた。
「あんたは、親衛隊、つまるところ、帝国に銃を向け、しかも撃っちまったんだぞ。今はもう、俺と立場は同じだ」
ジョーの厳しい表情に堪え切れず、カタリーナは俯いた。ジョーはカタリーナから離れ、
「とにかく、ブリッジに上がろう。ここは危険だ」
「ええ……」
二人は格納庫を出た。
駆逐艦は上昇を続け、次第に艦首を上に向け始めた。
「奴ら、宇宙艇を繰り出して来たぞ」
ブリッジに戻ると、ケンが言った。カタリーナはケンを見るとあっと叫び、
「貴方がどうしてここに?」
「知り合いか?」
ジョーはケンを見た。ケンは苦笑いして、
「士官学校で同期だったのさ。ジェット・メーカーも確かそうだったよな」
と答えた。ジョーは無言のまま操縦席に座った。カタリーナも補助席に座り、ケンも身体を前に向けた。