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第三章 奪還

 ジョーの邸も、カタリーナの邸と同じ地区にある。枢密院の委員をしているカタリーナの父の邸に比較して、ジョーの邸は小さく、どちらかと言うと武器庫を思わせる造りである。そんな邸の中を親衛隊員や暗殺団員、そして秘密警察の工作員達が我が物顔で歩いていた。

「まだ見つからんのか、ストラッグルは?」

 親衛隊の分隊長が怒鳴る。

「まだです。余程念入りに隠したようで……」

 隊員の一人が答えた。分隊長はその隊員を睨みつけて、

「当たり前だ! 敵に『ジョー・ウルフ』と呼ばれ、恐れられていた男が、そんな簡単に自分の銃を見つけられるところに隠しておくものか! もっとよく探せ!」

「はっ!」

 隊員達は机をひっくり返し、箪笥を全て開き、食器を投げ出して探した。

「やはり、奴らは俺のストラッグルが目当てか」

 邸の近くの茂みの陰から、中の様子を見てジョーが呟く。ケン・ナンジョーはフフンと鼻を鳴らして、

「お前のストラッグルは、俺や他の連中が持っている大量生産された二級品と違い、ストラッグルの開発者であるマイク・ストラッグルが自分で造った本物だからな。銀河系広しと言えど、トゥルー・ストラッグルを持っている奴はそうはいない」

「……」

 ジョーはそれには答えず、黙ったまま邸の中を見ていた。

「どうやってストラッグルを持ち出す? あの人数じゃ、いくら俺とお前でも、全滅させるのは無理だぞ」

 ケンが言った。するとジョーはニヤリとして、

「大丈夫だ。俺に考えがある」

「どうするんだ?」

 ジョーはケンを見て、

「ここから仕掛ける」

「えっ?」

 一瞬ケンは、唖然としてしまった。

「おい、ここから連中のいるところまで、五十メートルはあるぞ。どうする気だ?」

「お前の銃がある」

 ジョーはケンのストラッグルを指し示した。ケンはビックリして、

「ちょっと待て、まさか……」

「いいから、貸せ」

 ジョーはケンのストラッグルをホルスターから抜いた。

「本気かよ?」

 ケンは呆れ気味に尋ねる。ジョーは立ち上がってストラッグルを構え、

「本気だ」

 ガオオンとストラッグルが吠えた。凄まじい勢いの光束がジョーの邸に向かい、窓を貫いて中にいた連中全員を一瞬にして消し炭に変えた。

「す、すげえ……。こいつは一体?」

 ケンは腰を抜かしたように動けない。ジョーはケンを見下ろして、

「特殊弾薬さ。俺の軍靴の(かかと)に隠してあったんだ」

とニヤリとして言った。

「さすがジョー・ウルフだ……。すげえな」

 ケンはようやく立ち上がって言った。しかしジョーは、

「だが、お前のストラッグルではあと一発が精一杯だ」

と弾薬を詰める。

「あそこだ!」

 難を逃れた親衛隊員達がジョーとケンを発見した。

「ちょうどいい具合に束になってくれたな」

 ジョーは再びストラッグルを構えた。

「はっ!」

 秘密警察の工作員の一人であるジェット・メーカーが、ジョーの構えている銃に気づいた。彼は大声で、

「伏せろ、伏せるんだ!」

 しかし他の者はそれを無視して、我先にとジョーに向かった。

 ストラッグルが再び吠えた。ジェットは素早く伏せてこれをかわしたが、他の者は皆その化け物銃の餌食になってしまった。

「凄まじい破壊力だ……。特殊弾薬を隠し持っていたのか?」

 ジェットは身を伏せたまま、ジョーを見た。

「ちっ」

 ジョーは煙を出しているケンのストラッグルを投げ出し、ジェットに目を向けた。

「久しぶりだな、ジェット。元気か?」

 ジェットはゆっくりと立ち上がりながら、

「おかげ様でな。さすがジョー・ウルフと呼ばれた男だ。だった二発で、我々は壊滅しちまった」

 彼はケンを見て、

「連れは、どうやら狸の軍の奴らしいな。寝返るのか、ジョー?」

「寝返るかどうかは、まだ決めてねえよ」

 ジョーはチラッとケンを見て言う。ジェットはその一瞬の隙を突き、ホルスターの銃を抜くとジョーを撃った。

「甘いぜ、ジェット!」

 ジョーは素早くその光束を見切り、ジェットに小石を投げつけた。

「くっ!」

 銃を持っていた右手に小石を当てられ、ジェットは銃を投げ出してしまった。ジョーは電光石火の早業で、ジェットの銃を拾い、彼の喉に突きつけた。

「うっ……」

 ジェットの額を汗が流れ落ちる。

「ジェット、一度は同じ士官学校で学んだ間柄だ。今回だけは、命を助けてやる。二度と俺の前に姿を見せるな。次に顔を見た時は、必ず殺す」

 ジョーはそう言い放ち、銃を草むらに投げ捨てた。

「ぬ……」

 ジェットは歯軋りして悔しがった。

「さてと。ストラッグルを取りに行くか」

 ジョーはジェットを無視して、邸の中に入って行った。ケンがフッと笑い、

「ジェットさんよ、悪い事は言わねえ。間違っても(ジョー)と戦おうなんて考えない事だ。その方が長生きできるぜ」

と言うと、ジョーを追った。ジェットは目を血走らせて怒り狂い、

「ジョーめェッ! 何としてもこの屈辱は晴らしてみせるぞ!」

と叫び、姿を消した。

 ジョーは邸の中に入ると、床の上に放り出されている大型のマシンガンに目を留めた。

「むっ?」 

 ケンは、ジョーがマシンガンを拾い上げるのを見て不思議に思い、

「どうした? そのマシンガンが何かあるのか?」

「木は森の中に隠せ、さ」

 ジョーはマシンガンの銃把(グリップ)を分解し、中からストラッグルを取り出した。

 ストラッグル。マイク・ストラッグルと言う天才銃工が造り出した銀河系最高にして最強の銃。その性能は、全ての弾薬が撃てる、という一言に尽きる。更にジョーが使用した特殊弾薬を使えば、二百メートル級の宇宙戦艦をたった三発で沈められるのだ。しかも、ジョーのストラッグルは、その特殊弾薬を無限に撃てるものなのだ。

「さすがだ。銃の中から銃か。奴らがいくら探しても見つからないはずだ」

 ケンは感心して言った。

「さてと。この星もこれで用はなくなった。出発するか」

 ジョーはホルスターにストラッグルを挿し、ケンを見た。ケンはニヤリとして、

「手筈は整えてある。この星を出たら、衛星軌道上にある我が軍の巡視艇で帝国領を一気に離れて、新共和国に向かう」

「まだだ」

 ジョーはケンに背を向ける。

「何? 今度は何だ?」

 いささかムッとした顔で、ケンは尋ねた。ジョーは無表情な顔で、

「俺の宇宙艇が中立領にある。それを手に入れてからだ」

 ケンはその言葉にギョッとし、

「中立領だと? あんな無法星域に行ったら、生きて帰れないぞ」

「かも知れねえな」

 ジョーはフッと笑った。

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