第一章 ジョー・カンスタル・プランテスタッド
ジョー・カンスタル・プランテスタッド。
まだ二十代前半の彼は、帝国親衛隊に、結成以来の優秀な成績で入隊し、その優れた射撃と正確な状況判断において、他の隊員とは比較にならないほどの戦果を挙げていた。そしその成績に見合った見栄えのする容姿は、士官学校の女生徒はもちろんの事、軍内の女性兵士達にも圧倒的な人気を誇っていた。
しかし、当のジョーは硬派で、女になど目もくれない。それは、彼に幼い頃から決められていた婚約者がいたせいもあった。彼女の名は、カタリーナ・エルメナール・カークラインハルト。彼女もまた、士官学校を優秀な成績で卒業し、ジョーの後を追うようにして暗殺団の女子部隊に入隊し、ゲリラ戦において、「新共和国」軍の一個師団を壊滅させた実績を持つほどだ。そして、その容姿も気品に溢れていて、軍内の男共を虜にしている。しかし彼女もまた、幼い頃からジョーを本当に好きだったので、他の男のどんな甘い誘惑も、彼女の耳には届かなかった。
そんなジョーとカタリーナが、昼食を軍本部の食堂ですませて、廊下を歩いていた時の事である。ジョーはカタリーナと並ぶまいと早足で歩き、カタリーナはジョーと並んで歩こうと駆け足で歩いていた。
「ジョー、待ってよ」
少々剥れた顔でカタリーナが叫ぶ。しかし、ジョーは無言のまま歩き続ける。カタリーナは悪戯っぽく笑って、サッとジョーの左腕に自分の右腕をからめた。
「おい、カタリーナ!」
ジョーが慌てて言う。しかしカタリーナは、
「いいから、いいから」
とニコニコして腕をグイッと引っ張り、ジョーを先導した。
「はっ!」
二人は目の前に立ち塞がった親衛隊員二人に気づき、立ち止まった。ジョーとカタリーナはすぐに敬礼する。二人の親衛隊員も敬礼を返す。
「ジョー少尉、貴様を帝国に対する反逆罪で逮捕する」
親衛隊員の一人がそう言った時、ジョーとカタリーナは一瞬唖然とした。
「何だって? 反逆罪? 逮捕?」
ジョーがようやくそう言うと、もう一人の隊員が、
「そうだ。貴様は自分の能力に溺れ、力を過信し、帝国を打倒して自分のための国家造りを進めようとしている。これは皇帝陛下に対する重大な裏切り行為である。よって身柄を拘束する」
「ちょっと! 何言ってるのよ、貴方達は!?」
カタリーナが抗議をすると、二人の隊員は彼女を押しのけ、ジョーの両腕を両側から抑えた。
「何するんだ!」
ジョーは抵抗したが、親衛隊員は、
「逆らうとカタリーナの命はないぞ」
と銃口を彼女に向けた。
「くっ……」
ジョーは仕方なく抵抗をやめた。
「ジョー!」
カタリーナはその場に置き去りにされ、ジョーは軍本部地下にあるスパイ等の処刑場に連行された。そこは何百、何千の人間の血を吸った呪われた密室である。
「!」
ジョーは、そこの壁に鎖に繋がれ、全身傷だらけの自分の父親を見た。彼は目を見開き、
「親父ーッ!」
と叫んだ。しかし、血親は薄らと目を開けて彼を見ただけで、口を開く事すらできないほど衰弱していた。親衛隊員の一人が、
「貴様の父親も貴様と同罪。これから銃殺刑に処す」
とニヤリとして告げた。ジョーはその隊員を睨みつけ、
「何だと!?」
その時、ステルスと名づけられた親衛隊専用の自動小銃を持った隊員五人が父親の前に並んだ。
「撃て!」
ステルスの銃口から、無数の光球が放たれ、ジョーの父親は蜂の巣にされ、息絶えた。
「ウワァーッ!」
ジョーは絶叫した。
ジョーは処刑場の隅にある監禁室に押し込まれ、蹴倒された。隊員の一人がジョーに唾を吐きかけ、
「貴様の処刑は明日の朝だ。その間ここで、じっくりと死の恐怖を味わうがいい」
鉄格子がガシャーンと閉じられ、監禁室に暗黒が訪れた。
「何でこんな事に……?」
ジョーは考えた。しかし、いくら考えてみても、理由がわからなかった。