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第75話 ブランデンブルグ帝国の崩壊

 ジョーの強さはまさにブランデンブルグを凌駕していた。ブランデンブルグの額を汗が流れた。

「くっ……」

 ジョーはストラッグルをホルスターに戻し、

「まだわかっていないらしいな。復活の椅子なんてものに頼っちまった恐ろしさをよ」

「何?」

 ブランデンブルグは血を拭いながら言った。ジョーは復活の椅子に目を向け、

「何故独裁者達は戦争をしたのか? それは復活の椅子、すなわちそれを組成している賢者の石を手に入れ、独占するためだった。そしてある独裁者が遂に賢者の石を手に入れた」

「まさか……。この復活の椅子は宇宙の意志が造り出したもののはず。人工物ではない」

 ブランデンブルグはジョーの話を否定した。ジョーはブランデンブルグを見て、

「いや。てめえも地球人なら、ある程度は知っているはずだ。歴史の闇に見え隠れしていた謎の財宝の噂をな。賢者の石は独裁者達の手で復活の椅子に形を変え、連中の間を渡り歩き、次々に力を与えた。しかし、賢者の石はパワーと若さを与える代わりに、とんでもないものを代償として奪っていた」

「……?」

 ブランデンブルグは全くジョーの話が理解できないようだった。ジョーはブランデンブルグを睨みつけ、

「良心さ。人間らしさ、人間として生きるための全てだよ。それを悉く奪ったのさ。賢者の石は邪悪な野心を抱く者には、滅びの道しか与えなかったのさ。良心を失った独裁者達は地球人類の敵となり、滅ぼされた。てめえもその1人だ。そして最後の1人にするぜ。賢者の石は宇宙に返す」

 するとブランデンブルグは高笑いをし、

「愚か者は貴様だ、ジョー・ウルフ。全宇宙を敵に回しても勝てる私に、良心などどうして必要あろうか。確かに貴様のパワーは凄まじい。だが、私を倒す事は出来ん!!」

 ジョーはブランデンブルグが身に着けているものに気づいた。

「それは……」

 ジョーはギョッとした。ブランデンブルグはニヤリとして、

「そうだ。マイク・ストラッグルが造った防弾服だ。これを身に着けている限り、貴様は私を倒す事はできんのだ」

「……」

 ジョーは眉を寄せた。カタリーナは怖くなってジョーを見た。

( どうするの、ジョー? )

「今度は私から行くぞ、ジョー・ウルフ!」

 ブランデンブルグは右手を後ろに振った。ジョーはストラッグルを構えた。

「塵と砕けよ、ジョー・ウルフ!」

 ブランデンブルグは渾身の力を込めて右手を前に振った。するとまたしても光球が放たれ、ジョーに向かった。

「砕けるのはてめえだ、ブランデンブルグ!」

 ジョーはストラッグルを撃った。

「ああっ!」

 カタリーナが叫んだ。ストラッグルの光束と、ブランデンブルグの光球が2人の間で激突し、強烈な閃光を発した。周囲の壁と床が亀裂を生じ、カタリーナのいるクリスタルの箱が振動で揺れた。ブランデンブルグはその閃光が消える前にもう一度光球を放った。

「止めだ、ジョー・ウルフ!」

 その時、光束と光球の激突に決着が着き、光束が次に来た光球も消し飛ばし、ブランデンブルグに向かった。

「何!?」

 ブランデンブルグは慌てて飛び上がり、光束から逃れようとした。ところが光束は彼を追跡し、壁に叩きつけた。

「ぐはァッ!」

 ブランデンブルグは口から血反吐を吐き、壁から落下して両膝を着いてしまった。

「くっ……」

 彼は憎々しそうにジョーを見た。ジョーはブランデンブルグに近づき、

「マイクの防弾服に救われたな。だが、それならてめえが息絶えるまで壁に叩きつけるのみだ」

 するとブランデンブルグはニヤリとして、

「まだ勝負はこれからだ!」

 サッと復活の椅子に駆け寄り、座った。ジョーは眉をひそめて、

「何のつもりだ?」

「復活の椅子の全てを私が吸収する。そして私は全能者となり、貴様は私によって永遠の彼方に消し飛ばされるのだ!」

 ブランデンブルグの身体が青白く輝き、形相がより険しくなった。ジョーは目を細めて、

「バカめ……」

と呟いた。

「ハハハ! これで私はもう完全無欠だ。貴様など相手にならぬ!」

 ブランデンブルグはそう言い放つと、復活の椅子から立ち上がり、ジョーに突進した。

「うっ!?」

 ジョーは一瞬対応が遅れてしまった。ブランデンブルグは素早く両腕を外側へ振った。するとその衝撃が空気に波動を起こし、ジョーにぶち当たった。

「うわっ!」

 ジョーは衝撃波に跳ね飛ばされ、床に仰向けに倒れてしまった。ジョーの胸、両腕から血が噴き出した。

「その出血量ではあと数分の命だな、ジョー・ウルフ。しかし、貴様にはその数分の命も残さぬ。今すぐ止めを刺してやる!」

 ブランデンブルグは再びジョーに向かって両腕の衝撃波を放った。ジョー・ウルフ遂に敗れるか、と思われた。

「まだだ!」

 ジョーはその衝撃波を一瞬の差で飛び退いてかわした。

「うっ?」

 ブランデンブルグは上を見た。しかしそこにはジョーの姿はなかった。

( 何? どこだ? )

「ここだよ!」

 ジョーはブランデンブルグの足下に片膝を着いていた。ブランデンブルグは目を見開いた。

「貴様! 瀕死のフリをして、この私を欺いたのか!?」

「違うよ!」

 ジョーはストラッグルをブランデンブルグの喉元に押し当てた。ブランデンブルグの顔が引きつった。

「終わりだ、ブランデンブルグ! ストラードやバッフェンに宜しく言ってくれ!」

 ストラッグルが吠えた。光束がブランデンブルグの喉を貫いた。

「ぐわァッ!」

 ブランデンブルグはその反動で後ろに飛び、床に倒れた。ジョーはガックリと両膝を着き、ブランデンブルグを見た。ブランデンブルグは喉から血を流しながら半身を起こし、

「見事だ、ジョー・ウルフ……。さすがに私が腹心の部下にしようと思っただけの事はある……」

 その言葉が終わるか終わらないうちに、彼の喉から閃光が走った。

「くわっ!」

 ブランデンブルグは苦しみ悶えた。彼は喉から噴き出す光を見て、

「な、何だ?」

 ジョーは哀れむようにブランデンブルグを見た。

「それが復活の椅子に取り憑かれた愚か者の辿る道だ。必要以上に力を手に入れようとし、その結果自分自身の崩壊を招くのさ」

 ブランデンブルグは自嘲気味に笑い、

「そうか……。結局私も狂える独裁者達の轍を踏んでいたのか……。愚か者は確かに私だったな、ジョー・ウルフ」

「……」

 ジョーは何も言わずにブランデンブルグを見た。するとブランデンブルグは突然カッと目を見開き、

「だが! 私はこのままでは死なぬ! 貴様らに、最後の災いを残して逝ってやる!」

 ブランデンブルグの左手が挙がり、光球が放たれた。

「何!?」

 光球はクリスタルの箱をかすめ、天井へと消えた。次の瞬間、大宮に大異変が起こった。

「うっ!」

 大宮が振動し、外から崩壊が始まったのである。ブランデンブルグは閃光と共に燃え尽きながら、

「フハハハハ! 貴様も逃げられぬ! 私と一緒、そしてカタリーナと一緒に地獄に堕ちるが良い!」

 叫ぶと遂に消滅した。ジョーは出血のせいで目が霞んで来ていた。

「ジョー!」

 カタリーナが叫んだ。その時、扉をぶち破って、ルイとムラト・タケルが飛び込んで来た。やっと破壊に成功したのだ。ルイはジョーに駆け寄り、

「奴は?」

「消し飛ばしたよ……。それより、このままじゃ、俺達も奴の後を追う事になりそうだぜ」

「わかっている。この宮殿、あと数十分で崩壊するぞ」

 ルイはカタリーナの入っているクリスタルの箱をストラッグルで撃ち、落下して来たカタリーナを抱き止めた。

「あ、ありがとう、ルイ」

 カタリーナは赤面して礼を言った。ルイはカタリーナを床に下ろし、

「ジョーは歩けそうにない。私が背負う。お前はムラト・タケルと先導してくれ」

「ええ」

 カタリーナはジョーの出血が酷いのを心配していた。


 大宮はその後数十分で完全に崩壊し、散ってしまった。不思議な事に爆発はしなかった。ジョー達の乗った戦艦は崩壊して行く大宮から離脱し、宇宙の闇の彼方へとジャンピング航法で飛んだ。こうしてブランデンブルグの脅威は消滅し、銀河は平安を取り戻した。


 ジョーは何とか無事医療施設のある惑星に辿り着き、すぐに手術を受けた。

「ルイ、ありがとう。それにムラト・タケルも。あなた達がいなかったら、ジョーも私も死んでいたわ」

 手術室の前で、カタリーナが涙声で礼を言った。ルイはフッと笑って、

「私はジョー・ウルフを助けたのではない。ジョー・ウルフの命は私が奪う。だから生かしてやっただけだ。勘違いするな、カタリーナ」

 サッと立ち去ってしまった。驚いて呆然としているカタリーナを見て、

「さてと。俺も行くとしよう。縁があったらまた会おう」

 ムラト・タケルも行ってしまった。カタリーナはしばらく何も言えずにその場に立っていた。


 銀河系の人々は、ジョーがブランデンブルグを倒し、平和がもたらされた事を知り、狂喜した。誰もが逃れる事の出来ない絶望に追いつめられたと思っていたのに、希望の光が射したからだ。人々は生きる意欲を取り戻し、ある意味では銀河系のために動いていたストラードやドミニークス三世等の行動を継承し、共和制の確立を目指す運動が始まって行った。


 手術は終わり、ジョーは助かった。カタリーナは最初からジョーが死んでしまうとは全く考えていなかったが。

「良かった……。本当に良かった。貴方が無事で……」

 ストレッチャーで手術室から出て来たジョーを見て、カタリーナは涙を流して喜んだ。

「俺は不死身さ。ブランデンブルグ以上のな」

 ジョーはニヤリとして言った。カタリーナはそれに釣られてニッコリした。


 ジョーは個室の病室に入った。カタリーナがドアを閉じ、他に誰もいないのを知ると、

「2人はどうした?」

 ジョーは尋ねた。カタリーナは言いにくそうにしていたが、

「ルイはまだ貴方との決着に拘っていたわ。ムラト・タケルも姿を消したの。どうなるのかしら、これから……」

「決着か……。つけなくちゃならねえかも知れねえな」

 ジョーは天井を見て言った。カタリーナはギクッとして、

「ダメよ! ルイとの戦いは、今までの戦いと違って、無意味だわ」

「だからこそさ。無意味な戦いをしてみたい。憎しみや敵対心からではない戦いをな」

 ジョーの言葉にカタリーナは何も言えなかった。

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