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第69話 バルトロメーウスの戦い

 ブランデンブルグはマントを脱ぎ捨て、椅子から離れた。側近は跪いていたが、ハッとして立ち上がり、

「陛下、まさか……」

「あの三つ子が倒された今となっては、現段階でジョー・ウルフを止められるのは私しか残っておらぬ。お前は新人類の開発研究を急がせよ」

 ブランデンブルグは振り向かずに言った。側近は深々と頭を下げて、

「ははっ」

と答えた。


 バルトロメーウスはエレベーターの終点に着き、廊下に出た。遥か彼方に巨大な扉が見える。どうやらそれがブランデンブルグの部屋らしかった。

「あそこか」

 バルトロメーウスは扉に突進し、体当たりした。しかし扉は軋みもしなかった。彼は扉を見上げて、

「何て頑丈なんだ……。俺のタックルを食らえば、戦車でも後退するのに……」

と呟き、

「もう一度だ!」

と廊下を戻った。


 ジョーはようやく迷路を抜け、バルトロメーウスが乗ったエレベーターの扉の前に来ていた。彼はそこに倒れている戦闘要員達を見て、

「バルか。このエレベーターに乗って行ったな」

 中に入った。


 ルイは果てしなく続く螺旋階段を昇り続けていた。

( 全く進んだ気がしない。トリックにかかっているようだ )

 

 バルトロメーウスはボロボロになっていた。肩から血が流れており、息は荒く、身体中汗で濡れていた。

「畜生、信じられねえくらい頑強にできてやがる。どうすりゃいいんだ?」

「退がってろ、バル」

「えっ?」

 バルトロメーウスはその声にビクッとして振り向いた。そこにはジョーがストラッグルを構えて立っていた。バルトロメーウスが退くと、ジョーはストラッグルで扉の鍵の部分を撃った。鍵は壊れ、扉は少しだけ開いた。

「行くぞ」

 ジョーが扉に手をかけた時、バルトロメーウスの手刀がジョーの首に振り下ろされた。

「うっ……」

 ジョーはバルトロメーウスを見る間もなく、倒れ伏した。バルトロメーウスはジョーを扉の前から脇に動かし、

「すまない、ジョー。しかしあんたはカタリーナさんを助けなくちゃならない。あんたが死んだら、カタリーナさんが悲しむ。俺はあの(ひと)が悲しむ姿を見たくないんだ」

 扉を開いて中に入った。そして扉の内側に建っている巨大な悪魔のような像が持っている槍を閂代わりに扉の取っ手に差し、扉を閉ざしてしまった。

「ブランデンブルグ、姿を現せ! 俺がぶっ潰してやる!」

 バルトロメーウスが叫ぶと、前方からフッとブランデンブルグが現れた。バルトロメーウスはビクッとしたが、

「来たか……?」

「雑魚が一番早かったか。まァ良い。小手調べだ。かかって来い、バルトロメーウス」

 ブランデンブルグはニヤリとして挑発した。バルトロメーウスはムッとして右拳を握りしめ、

「貴様ァッ!」

 怒鳴って突進した。ブランデンブルグは両手をスーッと上げてバルトロメーウスに手の平を向けた。

「お前の突進など指1本で止めてやる」

「死ねっ、ブランデンブルグ!」

 バルトロメーウスの右拳がブランデンブルグに迫った。ブランデンブルグは右手の人差し指でそれをピタッと止めてしまった。

「うっ!」

 ガクンと止められたバルトロメーウスの右拳は次の瞬間血を噴き出した。

「ぐっ!」

 バルトロメーウスは右手を引っ込めて呻いた。ブランデンブルグはフッと笑い、

「雑魚だ。お前など私の真の力を使うまでもない。叩き殺してやる!」

 右拳を振り上げた。バルトロメーウスはハッとして尻餅をついてしまった。ブランデンブルグは、

「死ぬがいい!」

 右拳をバルトロメーウスの頭に振り下ろした。バルトロメーウスは咄嗟に左腕でそれを受け止めた。

「はっ!」

 バルトロメーウスの左腕は鈍い音を立てて砕け、ブランデンブルグの右拳がバルトロメーウスの顔面に炸裂した。

「ぐはっ!」

 バルトロメーウスは鼻の骨をへし折られて血を流し、後ろに倒れた。ブランデンブルグは目を血走らせ、悪魔のような形相で、

「もう終わりか、バルトロメーウス。そんな事では私に挑む資格はないぞ」

「くっ……」

 バルトロメーウスは両腕を潰され、なす術なくブランデンブルグを見上げた。


 ルイはようやく螺旋階段を昇り終わろうとしていた。その時彼は一つの影に気づいた。

「むっ?」

 ルイは螺旋階段を昇るのやめ、影を見た。影はやがて光の中に入り、姿を現した。ルイはハッとした。

「バ、バカな……」

 そこに立っていたのは、死んだはずのテリーザ・クサヴァーであった。テリーザはニッコリして、

「ルイ、待っていたわ。私、ずっと待っていたわ」

「テリーザか?」

「そうよ。私、ブランデンブルグ陛下のお力で甦ったの。ここで2人で幸せに暮らせるのよ」

 テリーザは語った。ルイは螺旋階段を昇り切ってテリーザの前に立ち、

「ブランデンブルグの力で甦っただと?」

 眉をひそめた。テリーザはフッと笑ってルイに近づき、

「そう。私は不老不死の人生を約束されたわ。貴方も陛下にお願いして、不老不死の力を手に入れなさい。そうすれば、永遠の幸福が約束されるのよ」

「お前は確かに見かけはテリーザそのものだ。だが、彼女は死んだ。それもジョー・ウルフと私のためにな。その気高い死を穢すような事をしたブランデンブルグを私は決して許さん!」

 ルイはストラッグルを構え、目の前のテリーザを撃った。するとテリーザはスッとそれをかわし、さっきとは打って変わったておぞましい形相でルイに襲いかかって来て、

「死ねっ、ルイ!」

 テリーザの右手の爪がグッと伸び、ルイの顔面に向かった。ルイは一瞬悲しそうな顔をしたが、

「ブランデンブルグ、私に感傷は通用しない!」

 ストラッグルでテリーザの額を撃ち抜いた。テリーザはストラッグルの光束で燃え、床に倒れ伏して消滅した。

「テリーザよ、お前の気高さを汚したあの男を私は絶対に許さん!」

 ルイは呟き、通路を目的地へと歩き始めた。


 バルトロメーウスはふらつきながらも立ち上がり、

「ブランデンブルグ、貴様が無傷のうちは、この俺は決して死なんぞ」

「強がりを言いおって。貴様如きにこの私を傷つける事が出来るものか」

 ブランデンブルグはフッと笑った。

「うおおおっ!」

 バルトロメーウスは再び突進した。ブランデンブルグはカッと目を見開いて、

「またそれか……。哀れな奴だ」

 しかしバルトロメーウスもロボテクター隊の隊長を務めた程の男である。そういつも同じやり方で行くはずがない。

「甘いぞ、ブランデンブルグ!」

 バルトロメーウスの軍服の右肩の部分から、無数の針が飛び出し、ブランデンブルグを襲った。

「うわァッ!」

「やったか?」

 バルトロメーウスはすれ違い様、ブランデンブルグを見た。ところがブランデンブルグはバルトロメーウスの放った針を全て右手で掴み、バラバラと床に落としていた。バルトロメーウスは驚愕した。ブランデンブルグはスーッと振り返り、

「愚か者が。この程度の小細工で、私を倒せると思ったのか?」

「くっ……」

 バルトロメーウスの額に汗が滲んだ。

「今度こそ止めを刺してやろう。それもお前の大好きなストラッグルでな」

 ブランデンブルグは腰のホルスターからストラッグルを取り出した。ブランドールJr.を葬ったものである。バルトロメーウスはギョッとした。

「そ、それは……」

「やはり気づいたか。お前の思っている通りだ。これは私がマイク・ストラッグルから奪った奴の最高傑作のストラッグルだ。これこそ宇宙最強の銃。私に相応しい銃だ」

 ブランデンブルグはスッとストラッグルをバルトロメーウスに向けた。バルトロメーウスは目を閉じ、

( カタリーナさん、ジョー、フレッド……。俺は…… )

「死ね、バルトロメーウス!」

 ストラッグルの光束がバルトロメーウスに命中した。

「うわァッ!」

 バルトロメーウスの全身が白く輝き、ブランデンブルグはその照り返しを受けて目を細めた。炎の中でバルトロメーウスは叫んだ。

「カタリーナさん!」

 バルトロメーウスの身体は遂に燃え尽き、軍服の燃えかすがボロボロと床に落ちた。


「はっ!」

 今まで臥せっていたカタリーナがハッとしてベッドから起きた。

「今のはバル……。まさか……」

 彼女はベッドから出てドレスに手をかけた。

( こんな所にいてはいけない )

「ジョーが来てくれたのだから……」

 彼女は背中に手を回し、ドレスを脱いだ。


 ジョーもビクンとして意識を取り戻した。

「バル……。まさか……」

 彼は立ち上がって扉の前に立った。扉は全てを拒否するかのようにしっかりと閉じられていた。押しても引いてもビクともしない。そこへルイが駆けつけた。

「今、バルトロメーウスの思惟が飛び散ったような気がしたが……」

「この中だ。ブランデンブルグのヤロウが!」

 ジョーはストラッグルに特殊弾薬を装填し、扉を撃った。しかし扉そのものは鍵とは違って全く傷つかなかった。

「手を貸そう。2人で撃てば、破壊できるかも知れん」

「ああ」

 2人はストラッグルを構え、同時に同じ箇所を撃った。するとあれほど頑強だった扉が粉微塵になり、1mはあろうかという太い光束が、中に飛び込んで行った。


「むっ?」

 部屋から立ち去ろうとしていたブランデンブルグは迫り来る光束を見てギョッとした。

「何だ、あれは?」

 彼はサッとそれをかわした。光束はそのまま部屋の壁を突き抜け、次々に隔壁を破壊して進み、大宮の中枢へと迫り、動力源を貫いた。動力源は爆発こそしなかったが、その全ての機能が停止し、大宮全体に闇が訪れた。

「しまった、動力源を……」

 ブランデンブルグは自分の部屋へと走った。

( 非常用の動力を作動させるまで何とか保たせねば )

 彼はブロックの端に来ると隔壁を素手で下ろし、ジョーとルイがいるブロックと遮断した。その時明かりが点いた。ブランデンブルグは通信機に、

「ジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマンのいる第20ブロックを切り離し、放出しろ。今のあの2人は危険過ぎる!」

 彼は初めて敗北を予感したのだった。


「何だ?」

 ジョーとルイは自分達のいるブロックが動いているのに気づいた。

「何のつもりだ、ブランデンブルグめっ!」

 遂にブロックは大宮を離れ、彼方へと飛ばされてしまった。

「ブランデンブルグ!」

 ジョーの怒りの叫びは、銀河系中に響き渡るかのようであった。

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