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第67話 大宮の刺客達

 ジョー、ルイ、バルトロメーウスの3人が乗ったフレッドの艦は、ラルミーク星系を後にして、ブランデンブルグの大宮へと向かった。バルトロメーウスが操縦席で、

「勢いで出て来ちまったけど、勝算はあるのか、ジョー?」

「今のところはないな。だが、ブランデンブルグに会ってみれば何かわかるかも知れねえ」

 ジョーはシートにもたれて答えた。ルイはバルトロメーウスの後ろに立っていたが、窓の外に目をやり、

「見えて来たぞ。あの光、ブランデンブルグの城のものだ」

「でけえな。フレンチステーションの何十倍もありそうだ」

「うむ」

 ルイはバルトロメーウスの言葉に頷いた。


 当然の事ながら、ブランデンブルグ軍もジョー達の接近を察知していた。ブランデンブルグは真っ黒な軍服に黒マントを羽織って司令室の席に着き、

「早くも来おったか、ジョー・ウルフ」

と呟いた。


 ジョー達の艦に、漂流して近づく艦があった。それはトムラー軍の艦で、ほとんど原型を留めていなかった。

「こいつは……」

 3人は身を乗り出してそれを眺めた。トムラー艦は蜂の巣のように穴を開けられて、外壁はズタズタにされていた。ルイが、

「間違いない。ストラッグルだ。ストラッグルによって開けられたものだ」

「ああ。しかも数百は撃ち込まれている。こんな事ができるのは奴だけだ」

 ジョーは言って、大宮を睨みつけた。


 ブランデンブルグはジョーの強烈な圧迫感にハッとした。

「まさか……。奴がここまで成長するとは……」

 しかしすぐにニヤリとし、

「だがそうでなければ殺しがいがないというものだ」

と呟いた。


 カタリーナは監禁室のベッドの上で、衰弱し切っていた。美しさは消え失せ、見るも無惨なほどに痩せさらばえていた。しかし彼女は死など少しも考えていなかった。

「ジョーが必ず助けに来てくれる。彼より強い男はこの銀河系にはいない……」

 カタリーナは弱々しい声で呟いた。


 大宮の入口の一つが大きく開き、ジョー達を迎え入れるかのように光を点滅させていた。バルトロメーウスが、

「入って来いって事か?」

「遠慮なく入るぜ。余分な戦闘はごめんだ」

 ジョーは言った。フレッドの艦は大宮の中へと進んだ。


 一方工場に残ったマリー、フレッド、ムラト・タケルは、ソファのある部屋に集まり、ジッと黙ったままでいた。

「あの3人なら、ブランデンブルグを倒せるかも知れない。万に一つ奴が負けるとは思えないにしてもな」

 ムラト・タケルがそう言うと、祈るように手を組んでいたマリーが目を上げて、

「ルイ様にもし万一の事があったら……」

「大丈夫。ジョーもルイもバルも、ブランデンブルグの首を獲って凱旋するさ」

 フレッドは優しい眼差しでマリーを見て言った。


 ジョー達は大宮の格納庫に降り立ち、通路へと歩き始めた。

「お客さんだ」

 ジョーが言った。バルトロメーウスがハッとして上を見た時、飛び降りて来た5人の兵はすでにストラッグルで撃たれていた。バルトロメーウスは仰天して、

「二人共、いつの間に撃ったんだよ?」

「先は長いぜ」

 ジョーはバルトロメーウスの問いかけに答えずに通路へと進んだ。ルイが続き、バルトロメーウスがそれを慌てて追いかけた。再び上から影が舞い降りて来た。

「ちっ!」

 ジョーとルイは素早くストラッグルを抜き、影を撃った。その間隙を縫って、壁から別の兵が現れ、ジョーとルイに襲いかかった。しかしそれはバルトロメーウスの鉄拳に阻まれた。

「こんのヤロウ!」

 バルトロメーウスの拳を食らった兵達は10メートルほど吹っ飛ばされて床に落ちた。

「こんな子供騙しで、俺達を殺せるつもりでいるのか」

 バルトロメーウスが興奮気味に言うと、ジョーは前を見据えて、

「奴は楽しんでやがるのさ。殺しのゲームをな」

と答えた。


 ブランデンブルグは確かにジョーの言う通り、監視カメラで3人の行動を見ていた。

「やはり足止めにもならんか。新人類共を差し向けろ。3人をバラバラに行動させるのだ」

 ブランデンブルグは椅子の背もたれに寄りかかって命令した。


 ジョー達は通路がT字になっている所に出た。バルトロメーウスが左右を見て、

「どっちへ行く?」

「右だ。左からは何も感じねえ」

 ジョーはそう言うと右へと進んだ。ルイとバルトロメーウスもこれに続いた。


 カタリーナはジョーが来ている事をはっきりと感じていた。

「ジョー……。来てくれたのね……」

 彼女の目から涙が溢れた。

「ブランデンブルグを倒して……」

 カタリーナは息も絶え絶えに呟いた。


 3人が通路を進んで行くと、やがて広々とした大きなホールのような場所に出た。きらびやかなシャンデリアが下がり、数々の名画が飾られ、スパンコール付きの垂れ幕が白い石柱の間に下げられていた。

「何だ、ここは?」

 ルイが呟くと、ホールの上から声がした。

「ここは死舞の間。お前達は私の手で死ぬまで舞い続ける事になる」

「むっ?」

 3人は天井を見た。天井に1人に男が逆さに立っていた。バルトロメーウスが大声で、

「コウモリヤロウ! さっさと降りて来やがれ!」

 天井の男はその細い目をカッと見開いて、

「すぐに降りて行ってやる」

 言うや否や、バッと身を翻すと、3人目がけて急降下して来た。バルトロメーウスが右拳を構えて、

「脳天ぶち砕いてやる!」

 男はバルトロメーウスの振るった右拳をかわして着地するとニヤリとし、

「さて。舞踏会の始まりだ」

 ジョー達には奇妙な音が聞こえていた。次の瞬間、床と言わず、壁と言わず、天井と言わず、四方から細長い金属の棒が飛び出して来た。

「ぐはっ!」

 ジョーは顎、ルイは右肩、バルトロメーウスは腹に棒を食らった。男は3人を見てニヤリとし、

「どうだ、死舞の間は? 面白いだろう? すぐには殺さん。ジワリジワリと殺してやる」

 男の目がギラッと光り、またいくつもの金属の棒が四方から飛び出した。ジョーは右頬と左脇腹、ルイは左肩と背中、バルトロメーウスは右腿と左胸を突かれた。

「うう……」

 バルトロメーウスは右膝を着き、男を睨んだ。男はバルトロメーウスを嘲笑し、

「私は新人類ロムルス! その棒は私の力で操られている。いわば私の手足だ。逃れる術なし! 死あるのみ!」

 大声で言った。ジョーは口から流れ出た血を右手で拭いながら、

「もう一度やってみろよ、その棒の手品をよ」

「何ィッ!? 私の力を手品と言ったかァッ!?」

 ロムルスが怒り狂ってジョーを睨むと、ジョーはニヤリとして、

「それほど高級じゃないな。せいぜい子供騙しだな」

「うおおっ!」

 ロムルスの目が再び光り、金属の棒がジョーに無数向かった。バルトロメーウスは驚愕して、

「ジョーッ!」

 しかし心配は無用だった。金属の棒は全て、ジョーの両手に握られていたのである。ロムルスはギョッとして、

「き、貴様、一体いつの間に……」

「前にどこかの間抜けに言った事があるが、俺を殺したければ一撃必殺だ。何度も同じ事は通用しねえよ」

 その言葉が終わるか終わらないうちに、ロムルスはジョーのストラッグルに眉間を撃ち抜かれていた。

「な、何て速さだ……」

 ロムルスは後ろへドサッと倒れた。

 

 ブランデンブルグはその様子をモニターで見ていたが、

「ジョー・ウルフ、ロムルスはその程度では死なんぞ」

と呟いた。


「むっ?」

 ルイがロムルスの身体がピクンと動いたのに気づいた。ジョーも眉をひそめた。ロムルスは額から血を滴らせて立ち上がり、

「言ったはずだ。私は新人類だとな」

 ニヤリとした。バルトロメーウスはゾッとして、

「またゾンビかよ」

「いや、こいつ、今までの連中とは違う。どうやらブランデンブルグが自ら造り出した化け物らしい。奴の臭いがプンプンして来るぜ」

 ジョーが言った。ロムルスは額の血を右手の甲で拭い、

「さすがジョー・ウルフだ。確かに私はブランデンブルグ様によって造られた。そしてお前達には死しかない」

 ロムルスの額の傷は完全に塞がっていた。ルイはハッとして、

「何という再生能力だ……。化け物程度ではないぞ」

「はァッ!」

 ロムルスの口から霧のようなものが噴き出した。バルトロメーウスは霧から退き、

「何だ、これは……?」

「デスフォッグ。死の霧だ。通常人で3秒と保たぬ」

 ロムルスは悪魔のような形相で3人を見た。バルトロメーウスは口を右手で覆い、一歩二歩と退いた。

「また子供騙しか?」

 ジョーはせせら笑って言った。ロムルスはより強く霧を吐き出しながら、

「貴様、また私を愚弄するか!?」

 ジョーはスッと前に出て、

「深呼吸してみるか?」

 スーッと霧を吸い込んだ。バルトロメーウスが仰天して、

「ジョー、何て事を!」

 ルイはフッと笑ってロムルスを見て、

「バカめ。私達を誰だと思っているんだ?」

「何!?」

 ジョーはその一瞬を見逃さなかった。ジョーとルイのストラッグルが、ロムルスの頭を粉微塵に打ち砕いた。バルトロメーウスはやっと、

「どうして死の霧が効かなかったんだ?」

「俺やルイは帝国の暗殺団にいた事がある。そこで教えられたのは、毒に対して抵抗力を身につける事だった。帝国暗殺団出身の奴を毒殺できるのは、そうはいねえよ。まだビスドム・フレンチの方が強烈な毒を使っていたぜ」

 ジョーが答えた。ルイはフッと笑って、

「いくら新人類でも毒が効かないはずがない。それを口から出すのだから、大した毒ではないのはすぐにわかった」

 バルトロメーウスはすっかり驚いていた。3人は通路を先へと進んだ。

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