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第62話 天才銃工マイク・ストラッグル

 ジョーは只メルトの鞭を受け、よろめいて行くだけだった。

「ジョー、何故反撃しないんだ? 殺されちまうぞ!」

 フレッドが思いあまって叫んだ。マリーは見ていられなくなり、ルイの肩に顔を埋めた。ルイはマリーを優しく抱き、

「目を背けるな。ジョーは負けはしない。負けてはならない男だからな」

と言った。

「さァ、フィニッシュにとりかかろうかね」

 メルトの鞭から無数の針が飛び出した。彼は高笑いをし、

「これには毒が仕込んである。のたうち回って死ぬんだ、ジョー・ウルフ!」

と再び鞭を振るった。ジョーはストラッグルを抜き、メルトの鞭を銃身で受けた。

「ほォ、役立たずの銃も、そんな使い道があったのか」

 メルトはバカにしたような口調で言い放った。

「役立たずなんかじゃねえぜ。ストラッグルは万能銃なんだよ」

 ジョーは鞭を振り解きながら言い返した。メルトは眉をひそめ、

「狂ったか、ジョー・ウルフ?」

 ジョーは目を閉じ、ストラッグルを構えた。フレッドがハッとした。

( そうか。ジョーのストラッグルは儂のところにある出来損ないとは訳が違う。ストラッグルの開発者、マイク・ストラッグルが自分の手で造った本物だったな )

 ジョーは心の中で呟いた。

( マイク・ストラッグル、あんたの造った銃は絶対に宇宙最高だ。この銃を超える銃は未来永劫出来はしないよ )

「バカめ空の弾薬が詰まった銃を俺に向けて、どうしようっていうんだ?」

 メルトはもう一度鞭を振るった。その時ジョーの身体が輝き出し、ストラッグルがガオンと吠えた。まさしく吠えたのである。凄まじい轟音と共に放たれた光束はメルトにぶち当たった。

「ぐはっ!」

 しかし光束はメルトを貫く事なく、そのまま彼を後ろへ弾き飛ばし、地面に叩きつけた。叩きつけられたメルトの首に毒針付きの鞭が絡み付き、メルトは自分に止めを刺してしまった。

「くっ……」

 ジョーは目を開いてストラッグルをホルスターに戻し、メルトに近づいた。

「な、何だったんだ、今のは……?」

 悶絶しながらメルトが呟くと、ジョーは、

「今のは俺のブランデンブルグに対する苛立ちと怒りだ。てめえの俺に対する憎しみなんか、ものの数じゃねえほどのな」

「そ、そうか……」

 何故かメルトは清々しい顔をしてニヤリとし、

「ジョー・ウルフ、死ぬ間際になって素直になれたぜ」

 息絶えた。ジョーは片膝を着いてメルトの手から鞭を取り、

「てめえも結局は孤独だったな」

 フレッドがジョーに駆け寄り、

「ジョー、マイクの夢は実現したな。人間の生命エネルギー、すなわち、ビリオンス・ヒューマン能力とストラッグルの結合。見事だった」

「いや、マイクの天才が、俺にストラッグルを撃たせたのさ。ストラッグルはやっぱり宇宙最高最強の銃だぜ」

 ジョーは答えた。フレッドは肩を竦めて、

「儂が何十年もかかってヒントも得られんかった事を、あのマイクは10年前にすでにやってのけていたんだな。悔しいが、あの若造はやはり天才だった」

 ジョーはマイクの容姿を思い出した。細い腕、細い脚。やたらと大きな手と足。度の強い眼鏡。だらしなく伸びたボサボサの髪と無精髭。生きていれば30代後半の、気の弱そうな銃工だった。

 彼は8年前、自作の銃を帝国の軍用拳銃として献上し、ライセンス制導入を進言、それが受け入れられ、彼の名を取って銃は「ストラッグル」と命名された。

 マイクが死んだのはそれから間もなくだった。彼の死は謎に包まれており、死因は未だに不明である。

 マイクは自分では5丁しかストラッグルを造らなかった。そして誰にもストラッグルの秘密を教えていなかった。

 彼の死後、たくさんの研究者がストラッグルを調べたが、ブラックボックスのような箇所があり、分解不能で、その性能は謎のままだった。

 ジョーの父は、マイクと親しく、彼から手製のストラッグルを2丁譲り受けていた。その2丁をジョーが受け継ぎ、使用して来たのだ。

「マイクは始めから弾薬のいらない、つまり、人間の体内エネルギーによる銃撃が可能な銃を造ろうと考えていた。それに辿り着いたのが、ストラッグルだった」

 フレッドは昔を思い出しながら語った。するとルイが、

「ジョー、そのストラッグルなら、ブランデンブルグに勝てるぞ」

 ジョーはルイを見て、

「ああ。少なくとも、勝利の可能性が見えて来た」

 フレッドは腕組みをして、

「ジョー、今の銃撃、再現できるか?」

「いや。俺にもどうして弾薬なしで撃てたのか、理由がわからねえ。もう一度できるかと問われれば、返答に困るな」

 ジョーの答えに、ルイとフレッドは顔を見合わせた。


 ブランデンブルグは大浴場の浴槽に浸かっていたが、突然雷に打たれたかのように半身を起こした。

「何ィッ!?」

 ブランデンブルグは仰天していた。ジョーのイメージが強大になって、彼の脳裡を駆け抜けたのである。

「何だ!? 奴の後ろに、何か私の知らぬ力が備わったような気がしたが……」

 ブランデンブルグはサッと立ち上がり、バスローブを身に纏うと、浴場を出た。彼は湯に浸かっている時、極力人を近づかせない。

「ジョー・ウルフ、少しは私を楽しませてくれる男になったか?」

 彼はニヤリとして言った。


「マイクの故郷は儂らと同じ地球じゃ。何かわかるとすれば、地球に行くしかないが、あそこは神に見捨てられた星と言われる程荒れ果てているからな」

 フレッドがそう言うと、ジョーはメルトの墓にバルトロメーウスと2人で墓標をザクッと立て、

「行くぜ、地球へよ。マイクが待ってる」

「わかった」

 ジョーはスッと身を翻し、墓地を離れた。それにフレッド、バルトロメーウスが続いた。ルイはマリーと共にテリーザの墓の前にいた。

「ジョー、必ずマイク・ストラッグルの遺志を継いでくれ。でなければ、私はお前と戦えなくなる」

 ルイは呟いた。


 ジョーとフレッドとバルトロメーウスは、宇宙港に来ていた。

「地球へは、ここから銀河の反対側に向かう事になる。ブランデンブルグに察知されないかな?」

 フレッドが言った。ジョーは、

「大丈夫だ。それよりフレッド、着替えはあるか?」

「あるとも。バル、お前も着替えろ。元の服がわからんほど血に染まってるぞ」

「ああ」

 バルトロメーウスは自分の服を見ながら答えた。


 ブランデンブルグは司令室に来て、自分の椅子に座った。彼は側近を見下ろし、

「報告しろ」

「はっ。ジョー・ウルフは連中の祖先の故郷、地球に向かっております。何が目的なのかは今のところ不明です」

「地球か。我が故郷だ」

 側近はビックリしてブランデンブルグを見た。ブランデンブルグはフッと笑って、

「ビリオンス・ヒューマンというのは、人類が宇宙に出てから誕生したものではない。元々人が身体の中に潜ませていたものなのだ。眠っていた遺伝子の中の情報が、無重力の中を漂っているうちに呼び起こされたのだ」

 彼は窓の外に目をやり、

「同じ地球系の人間だからこそ、ジョー・ウルフを放っておく訳にはいかぬ。奴が地球でヒントを得る前に殺せ」

「はっ!」

 側近は跪いた。


「これが、地球か……」

 ジョーとフレッドとバルトロメーウスは、荒れ果てた大地に立っていた。地球。緑と水に溢れ、生命が満ちていた星は、今や草1本、虫一匹生存していない星となっていた。そのため3人は、宇宙服なしでは地上に出られなかった。

「マイクはここでストラッグルを造った。秘密が解明できるとすれば、ここしかない」

 フレッドが言った。ジョーは前を見据えて、

「マイクの工場に行こう。帝国の新兵器の実験場だった地球上で、唯一昔のままのところは、あそこだけだ」

「ああ」

 ジョー達は荒れ果てた大地を地上艇で進み、幽霊も逃げ出すような瓦礫の山に向かった。そこには死すら存在し得ないような廃墟があった。

「こいつはひでえ。マイクの工場、無事かな?」

 バルトロメーウスが呟いた。フレッドは、

「奴の工場は、ストラッグルと同じ金属で出来ているんだ。核の直撃でも受けん限り無事だよ」

「へえ」

 確かに3人はマイクの工場を見つける事が出来た。砂埃と灰で多少薄汚れてはいたが、傷んだ様子もなく、工場は廃墟の中に建っていた。

「ここか」

 ジョーは工場の入口に近づいた。フレッドが入口の電子ロックを見て、

「こりゃ故障しているな。開けられんぞ」

 バルトロメーウスが進み出て、

「こうすりゃいいんだよ!」

 右の拳で殴った。電子ロックは粉々に砕けて、解除された。

「うおおおおっ!」

 バルトロメーウスは力任せに扉を引いた。ギシギシと軋みながら、扉は開いて行った。

「奥だ」

 フレッドは自分が通れる広さになると、懐中電灯を照らして中に入って行った。ジョーとバルトロメーウスは顔を見合わせてから、それに続いた。

「今明かりを点けるぞ」

 フレッドの声がし、パッと中が明るくなった。そこにはストラッグルの山がいくつもあった。何百、いや、何千とあるのかも知れない。フレッドは驚愕していた。

「儂の半分も生きていなかったのに、いつこんなに多くの銃を造ったんだ、あいつは? 全く、信じられん事をする男だ」

「確かにな。1日1丁造ったとしても、5年はかかるぜ」

 ジョーはストラッグルの1つを拾い上げて言った。バルトロメーウスがドアを見つけて近づき、

「あのドアの向こうは?」

「むっ、あそこだな」

 フレッドはバルトロメーウスを押しのけてドアに近づき、

「ダメだ。バル、出番だぞ」

「全くよォ」

 バルトロメーウスはムッとしたが、

「おらっ!」

 ドアを蹴破った。そして感嘆の声を上げた。

「ここもストラッグルの山だぜ。同じくらいあるぞ」

「何だって?」

 フレッドが覗き込んだ。確かにそこには、今いる部屋と同じくらいの数のストラッグルの山があった。

「こりゃ恐れ入ったな。あいつは、人生の半分以上をストラッグル造りに捧げたと言ってもいいな」

「いや。人生のほとんどだぜ。こっちにもある」

「えっ?」

 2人がジョーの方を見ると、ジョーはさらに奥の部屋のドアを開いて中を見ていた。やはそこにもストラッグルの山があった。

「マイクはこれほどの数のストラッグルを造っておったのか。それでも気に入ったのは5丁しか出来んかったのか」

 フレッドは感慨深そうに呟いた。ジョーはフッと笑った。

( マイク、あんたに今会えたら、俺のブランデンブルグへの苛立ちなんか消し飛びそうだよ )


 地球にもう1人の男が降りようとしていた。傭兵の軍服を着て、肩まで髪を伸ばした、いかつい顔つきの大男である。

「ジョー・ウルフ。貴様に陛下は殺らせはせんぞ」

 大男は呟き、ニヤリとした。

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