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第60話 新共和国滅亡す

 残骸が漂う元銀河帝国の中枢の宙域に、不気味で巨大な、空中城とも言うべき城が造られていた。言うまでもなく、ブランデンブルグの居城である。

 無重力の宇宙空間ならではの造りで、建造物は四方八方へと伸びており、ところどころにある紋章は、三日月に星形、そして大鎌が重ね合わされていた。まるで悪魔の紋章である。

「帝国の大宮(たいきゅう)にドミニークス軍の残存兵共が向かっております」

 部下が告げた。ブランデンブルグはバッと黒いマントを翻して、グロテスクな椅子から立ち上がり、その血走った狂気の眼をカッと見開き、

「返り討ちにしてやれ。一人残らず、叩き潰すのだ!」

 命令した。

「はっ!」

 部下は敬礼して答えた。ブランデンブルグはニヤリとして椅子に座り、

「カール・ラビーヌ、貴様の執念がどこまで我が軍に通用するか、見せてもらうぞ」

と呟いた。


 フレッドの艦はラルミーク星系に戻り、第4番惑星のフレッドの工場に直接向かった。

「港はもう使えないからな」

 フレッドは針路を修正しながら、ゆっくりと艦を下降させた。

「ジョーに勝ってもらうには、あれを使ってもらうしかない……」

 フレッドはいつになく真剣な顔で呟いた。

 ジョーはバルトロメーウスに肩を借りてフレッドの艦を降り、フレッドの先導で工場の地下に降りた。ルイとマリーが続き、ムラト・タケルは工場の外で見張りに立っていた。

「ここだ」

 フレッドはドアの一つの前に立ち、ガチャンと開いた。中は真っ暗で、フレッドは手探りで明かりを点けた。その部屋の中には、数え切れない程のストラッグルと防弾服があった。バルトロメーウスとマリーが目を見開いて、

「これは……」

 絶句した。フレッドはニヤリとして、

「儂の研究室だ。人間の潜在能力を使用する事によって、より強力なストラッグルを生み出すためのな。ビリオンス・ヒューマン能力は、装置でその値を計測する事が出来る。つまり、エネルギー源なんじゃよ」

「何の事さ?」

 バルトロメーウスが尋ねた。するとフレッドはストラッグルの一つを持って、

「つまりな、ビリオンス・ヒューマン能力と言う、形のないエネルギーを、ストラッグルの光束と言う形あるエネルギーに変換する方法を研究していたという事だよ」

「なるほど。もしそれが実現可能なら、ブランデンブルグを倒せる」

 ルイが頷いて言った。フレッドはルイを見て、

「そのとおり。奴の衝撃波も、エネルギー変換によるものだろう。とすると、儂の理論は正しかった事になる」

「しかし危険だな。下手をすると強制吸収現象を起こして、エネルギーを全て吸い尽くされてしまうかも知れない」

 ルイの言葉にジョーはニヤリとして、

「それもいいじゃねえか。このまま朽ち果てるより、その方がさっばりしているぜ」

「でもジョー、カタリーナさんはどうするんだよ?」

 バルトロメーウスが反論した。ジョーはバルトロメーウスを見上げて、

「心配いらねえよ。俺はまだ死んだりしねえ。その銃、ルイと決着をつける時まで、金庫にでもしまっておいてくれ、フレッド」

「ジョー、まさか……」

 フレッドは仰天した。ジョーはバルトロメーウスから離れ、

「俺はブランデンブルグを、俺の執念と怒りで倒す。そんな大袈裟な武器は使わねえよ」

と言った。


 カール・ラビーヌは司令室のキャプテンシートに座り、不敵な笑みを浮かべていた。

「ブランデンブルグよ、貴様はその絶大なビリオンス・ヒューマン能力故にこの私に敗れるのだ」

 カール・ラビーヌは虚勢を張らない。彼には彼なりの勝算があった。

「見えて来ました! ブランデンブルグの軍と宮殿です!」

 観測官が伝えると、ラビーヌはニヤッとし、

「6面攻撃、第一陣出撃せよ!」

と命じた。


「むっ?」

 ブランデンブルグは上方からの殺気を感じ、天井を見た。

「上か、カール・ラビーヌ!」

「上方より、ドミニークス軍が攻撃をして来ました!」

「反撃しろ! 一隻も大宮に近づかせるな!」

 ブランデンブルグの側近が命令した。ブランデンブルグは椅子に寄りかかり、

「妙だ。ラビーヌめ、何を考えている……?」

 眉をひそめた。

「前方より攻撃が! ドミニークス軍です!」

「むっ?」

 ブランデンブルグは、前方からもラビーヌの気配を感じた。

「これは一体どういう事だ? 奴が二手に分かれたというのか?」

 ブランデンブルグ軍の艦は次々にドミニークス軍の艦を撃破した。しかしドミニークス軍は一向に減らなかった。

「下方より攻撃が始まりました!」

「何!?」

 ブランデンブルグはバッと椅子から立ち上がった。

( わからぬ。奴がどこにいるのか読めぬ。一体どういう事だ?)

 ブランデンブルグの顔が険しくなった。額に汗が伝わり、握りしめた拳が震えた。

「ラビーヌめ、私を……私を翻弄しおった!」

 ブランデンブルグの苛立ちにも関わらず、軍は劣勢を強いられていた。

「後方よりドミニークス軍が展開! 反撃開始します!」

 ブランデンブルグは椅子に戻り、背もたれに寄りかかった。

「まさか……」

 彼の眼が細くなり、眉が寄った。

「そのまさかだ、ブランデンブルグ」

「何!?」

 ブランデンブルグの耳に、ラビーヌの声が聞こえた。

「わかるか? 私の声が聞こえる訳が?」

「そうか。貴様、ビリオンス・ヒューマンだったのか!?」

「そうだ。しかもその能力を隠す力を兼ね備えたな」

「ラビーヌ、貴様の策、確かに感服した。我が軍の全滅は免れまい」

「私がどこにいるのかわからない以上、お前の力で操られている部下共に勝機はない」

 ラビーヌの言葉にブランデンブルグはニヤリとした。

「仕方があるまい。使うつもりはなかったが、大宮を護るためにはあれしかない」


「何だ!?」

 今度はラビーヌがギクリとした。彼の額を汗が伝わった。

( ブランデンブルグ、まだ何か企んでいるのか? )


「艦隊が全滅しました! ドミニークス軍が左右からも攻撃して来ます!」

「大宮の攻撃システムを私の椅子の制御装置に回せ」

 ブランデンブルグは落ち着き払って命令した。


「作戦変更。第二次作戦を開始する。白兵部隊は小型艇でブランデンブルグの城に取り付き、内部から城を破壊せよ!」

とラビーヌは命じた。

( 私の気配を分散させる装置が役に立たぬ以上、白兵戦しか道はない )


 ジョーは自分の部屋のベッドで眠りにつけずに天井を見据えたまま考え事をしていた。

( ドミニークス軍のカール・ラビーヌがどこまで奴と戦えるかだな。少しでも時間が欲しい。今の俺ではブランデンブルグに勝てない )

 ジョーは目を閉じた。

「ジョーッ!」

 カタリーナの叫び声が聞こえたような気がした。ジョーはハッとして目を開いた。

( 俺もすっかり弱気になっちまったな。カタリーナは何としても助け出す。俺の生きる意味は、それしかない )

 ジョーはフッと笑った。


 ドミニークス軍の白兵戦が始まり、大宮のあちこちで爆発が起こった。しかしフレンチステーションの10倍はあろうかという巨大な城は、例え100万の兵が取り付いたとしても、擦り傷程度しか負わせられないだろう。

「白兵戦か。万策尽きたな、ラビーヌ」

 ブランデンブルグは装置に手をかけてニヤリとした。その時再びラビーヌの声が聞こえた。

「我が精鋭部隊を甘く見るな、ブランデンブルグ。貴様にそう簡単にやられはせんぞ」

「いくら策士と言えど、力が圧倒的に違うならどうする事も出来まい?」


「何!?」

 ラビーヌは再びギクッとした。

( 奴め、何をするつもりだ? )


「反撃開始」

 ブランデンブルグが言うと、大宮全体がビーンと唸って、輝き始めた。

「うわァッ!」

「ギャーッ!」

 大宮に取り付いていた傭兵達は、ブランデンブルグの発する力で精神を八つ裂きにされ、発狂してしまった。


「何だ、この妙な圧迫感は?」

 ラビーヌが呟いた時、前衛の艦隊が爆発を始めた。

「はっ!」

 ラビーヌはバッと立ち上がった。

「そうか、奴め、自分の力を外に向けて放ちおったな」

(精神波はストラードだけが使えると思っていたが、ブランデンブルグも使えたのか……)

 ラビーヌは全身汗まみれになっていた。

(何という事だ……。防御のしようがない……)

「自動操縦に切り替えよ。全員、機器類から離れるのだ」

 ラビーヌは叫んだ。しかしすでに手遅れだった。ラビーヌの乗艦にまで、ブランデンブルグの悪意に満ちた精神波が届いていたのだ。

「お、お前達!?」

 ラビーヌは狂気の眼を向ける部下達に驚愕した。その部下の後方に、嘲笑するブランデンブルグが見えた。

「おのれ!」

 ラビーヌは襲いかかる部下達を悔し涙を流しながら撃ち殺した。しかし司令室に次から次へとなだれ込んで来る「ゾンビ」共を退治するのに、銃一つでは用をなさなかった。ラビーヌは司令室の隅に追いつめられた。

「ブランデンブルグめッ!」

 ラビーヌの姿が狂った部下達の群れに呑み込まれた。そしてラビーヌの艦は大爆発を起こし、宇宙にラビーヌの悔しみと怒りの意志が飛び散った。


「はっ!」

 ジョーはベッドから飛び起きた。全身の傷の痛みすら忘れる程の衝撃が彼の身体を貫いた。ラビーヌの姿が脳裡をよぎった。

(ラビーヌ、負けたのか……)

「ブランデンブルグめ、とうとう銀河を食いつくしやがった……。だが、俺は奴に食われたりしねえ!」

 ジョーはベッドから出た。彼の身体はまだ完全ではなかった。

(畜生……)

 ジョーは歩けなかった。立っているのがやっとであった。

「ブランデンブルグめ!」

 彼は低く叫んだ。


 ブランデンブルグは酒をグラスに注がせて、祝杯を上げていた。

「銀河系は我が手に。残るはジョー・ウルフのみ。奴は我が手にカタリーナある限り、必ず来る」

 ブランデンブルグはニヤリとした。そしてバッとマントを翻して椅子から立ち上がり、

「宇宙の約4分の1は制覇した。ジョー・ウルフを私の部下にすれば、残りの4分の3は100年で制覇できる」

 窓に近づき、大宮の明かりを眺めた。

「私の手に『復活の椅子』がある限り、私は死を知らぬ無敵の男であり続ける」

 ブランデンブルグが口にした「復活の椅子」とは何であろうか?


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