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第56話 囚われのカタリーナ・パンサー

 宇宙港のパニックは次第に緩和され、人々は宇宙へと飛び立って行った。

「やっぱり脱出しなきゃならねえのか」

 バルトロメーウスはマリーを伴い、ムラト・タケルを背負って現れた。ジョーはバルトロメーウスを見て、

「バル、エンジンを頼む。フレッドの艦をすぐにでも飛べるようにしてくれ」

「わかった。さァ、マリーさん」

「はい」

 マリーはチラッとルイを見てからバルトロメーウスについて行った。フレッドはカタリーナに、

「カタリーナさん、マリーさんについていてくれないか。儂もすぐ行く」

「ええ」

 カタリーナは何の疑問も抱かずにフレッドの艦に向かった。フレッドはルイを見て、

「さっ、あんたも」

「私はここに残る」

「何だって?」

 フレッドはギョッとしてルイを見た。ルイはジョーをチラッと見て、

「ジョー・ウルフも残るのだろう? 私は生涯の好敵手(ライバル)をこんな下らん形で失いたくないのでね」

 フレッドはジョーを見た。ジョーはニヤッとして、

「残る残らねえはルイの勝手だ。フレッド、カタリーナやバルが悟らないうちに発進してくれ」

「わかった。無事でな」

「ああ」

 フレッドは艦に駆け寄り、サッと飛び乗った。やがてメインエンジンが噴射し、フレッドの艦は港を飛び立った。

「これからどうするつもりだ?」

 ルイはフレッドの艦を見送りながら尋ねた。ジョーは踵を返して、

「ブランデンブルグの出方次第だ。もっとも、この星ごと吹き飛ばすんだったら俺もあんたも犬死にだけどな」

と答えた。


 メルト・スクリューは、ドミニークス軍司令本部のある人工惑星に連れて行かれ、カール・ラビーヌの部屋に通された。彼はソファにふんぞり返り、テーブルの上に両脚を載せていた。そこへラビーヌが入って来た。

「よォ、待ってたぜ、おっさん」

 メルトが見上げて言うと、ラビーヌはサッとメルトの髪を掴んで、

「何だ、その態度は!? それが上官に対する態度か!?」

「何するんだ、このジジイ!」

 メルトはベルトから電気鞭を取り出そうとしたが、右手をねじ上げられてしまった。

「ぐうっ!」

 メルトの顔が苦痛で歪んだ。ラビーヌはニヤリとし、

「口程にもないヒヨッコめ」

 手を放した。メルトは、

「てめえ!」

 また右手をベルトにやったが、電気鞭はラビーヌが抜き取っていた。ラビーヌは鞭をメルトに見せ、

「これが欲しいのか?」

「いつの間に……」

 ラビーヌは鞭をメルトに放った。

「メルト・スクリュー。噂程でもないな。貴様など無芸大食かも知れん」

「何だと、クソジジイ!」

 メルトは激怒して立ち上がった。ラビーヌはメルトにグッと詰め寄り、

「大声を出す前に貴様の腕前を見せたらどうだ?」

「くっ……」

 メルトは一歩退いた。ラビーヌは踵を返して、

「まァ、良かろう。お前の腕、この私が磨いてやる」

 サッと部屋を出て行った。メルトは呆然としてそれを見送っていた。


 フレッドの艦が大気圏を離脱し、惑星間航行に入った時、カタリーナはジョーとルイがいない事に気づいた。

「フレッド! ジョーとルイはどうしたの?」

 カタリーナに強く詰め寄られて、フレッドは操縦席から転がり落ちそうだった。

「か、格納庫にいると思う……」

「大気圏離脱の時に格納庫になんかいたら、死んじゃうわよ! 2人共、乗らなかったんでしょう?」

「ま、まさか……」

 フレッドは冷や汗を垂らした。マリーが、

「本当ですか、フレッドさん?」

 バルトロメーウスまでが、

「じいさん、隠したってダメだ。あんたはすぐ顔に出るんだからな」

「参ったな。2人共乗ってないよ」

「何ですって!?」

 カタリーナとマリーが同時に叫んだ。バルトロメーウスはフレッドの襟首をねじ上げ、

「やい! 何で俺に話さなかった!? そうすりゃ、3人で残って……」

「ジョーとルイは、お前にカタリーナさんとマリーさんの事を任せたんだ。2人を護るのがお前の仕事だ」

「……」

 バルトロメーウスは黙ってカタリーナとマリーを見た。カタリーナが、

「フレッド、すぐに戻って! 私も残るわ!」

「いや、それはできない。そんな事をしたら、儂は一生ジョーに顔向けが出来なくなっちまう」

「でも……」

 カタリーナは涙ぐんでフレッドを睨んだ。フレッドはその顔に胸が締め付けられたが、

「カタリーナさん。ジョーは死んだりしない。今までだってそうだった。今度だってきっと無事でいるさ」

 フレッドは優しくカタリーナの肩に手をかけた。カタリーナは涙を拭って俯いた。

「でも、今度は相手が悪過ぎるわ。ブランデンブルグは本当に血も涙もない男よ」

「そりゃわかっとるよ。しかし、邪悪な奴に殺される程、ジョーは弱くないよ」

 フレッドはカタリーナの顔を覗き込むようにして言い添えた。マリーは窓の外を見て、

「ルイ様、ご無事でいて下さい……」

 目を閉じた。


 ラルミーク星系の外周付近に、忽然とブランデンブルグ軍の旗艦が姿を現した。ジャンピング航法など及びもつかない迅速にして長距離の星雲間航法である。ブランデンブルグは、

「ジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマンのいる惑星に向かえ。カタリーナ・パンサーを手に入れる」

 司令室の椅子に座りながら命じた。すると側近が、

「密偵の報告によりますと、惑星の住人はほとんどが脱出したそうです。ジョー・ウルフらも脱出したのではないかと思われます」

「いや、奴は惑星にいる。私を待ち構えているのだ。しかしどうやら、カタリーナ・パンサーはおらんようだ。あの女は脱出したな」

「では?」

「もちろん、ジョー・ウルフなどどうでもいい。カタリーナ・パンサーが乗っている艦を探し出せ。商船や客船ではない。戦艦のはずだ」

 ブランデンブルグは目を細めて言った。側近は跪いて、

「ははっ!」

と応じた。


「むっ!?」

 ジョーは空を見上げた。

( 何だ!? 奴が来ているのか? )

 ルイも空を見上げて、

「どうやら、御大のお出ましのようだな?」

「ああ。しかし、この出し抜かれたような不快感は……」

 ジョーは、カタリーナの身が危ない事に思い至らなかった。

「何か、何かある……」

 ジョーは眉をひそめた。


「何? ブランデンブルグ軍の旗艦が?」

 ラビーヌは司令室に入るなり、ブランデンブルグ軍の動向を知らされた。

「はっ。ラルミーク星系にはジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマンがいます」

「なるほど。ブランデンブルグめ、余程ジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマンが恐ろしいらしいな」

 ラビーヌはニヤリとして、

「こちらにとっても好都合だ。戦力を建て直し、軍を統率する時間が稼げる」

と呟いた。

「傭兵達は如何致しましょう?」

「作戦会議室に集めろ。私の忠実な部下にしてやる」

「はっ!」

 部下は敬礼した。ラビーヌの顔は自信に満ち溢れていた。

( ブランデンブルグ軍は、大部隊である事が最大の弱点なのだ )


 カタリーナ達は静まり返って宇宙を航行していた。すると付近を航行していた船が何隻か爆発した。

「何だ?」

 バルトロメーウスが慌てて外を見た。フレッドがレーダーを覗き込んで、

「前方に巨大な飛行物体がいる。フレンチステーション並みの大きさだ」

「でかいな、そりゃ」

 それは紛れもなく、ブランデンブルグの旗艦であった。旗艦は、フレッドの艦以外をほとんど撃破し、ゆっくりとフレッドの艦に接近して来た。

「来るぞ!」

 マリーは震えて身を屈めた。カタリーナはマリーに腕を回し、支えた。ブランデンブルグの旗艦はたちまちのうちにフレッドの艦を収容してしまった。


 ジョーは港の片隅のスクラップ処理場の小型艇のスクラップに腰を下ろしていたが、ピクッと身を起こし、立ち上がった。

「しまった!」

「どうした?」

 外を見ていたルイが振り向いた。ジョーはギュッと右手を握りしめて、

「奴はここに来ない。奴の狙いは俺達じゃなかったんだ」

「どういう事だ?」

 ルイはジョーに近づいた。ジョーは外に出て空を見上げ、

「フレッド達が捕まった」

「何!?」

 ルイも外に出て空を見上げた。ジョーは処理場を見回し、

「ブランデンブルグの嘲笑が聞こえて来る。すぐにこの星を出よう。5人の命が危ない」

「そうだな」

 ジョーはカタリーナがブランデンブルグの妃にされようとしているとは夢にも思っていなかった。


 フレッド達4人はブランデンブルグ軍の兵に退艦を強制され、艦を降りた。兵達はムラト・タケルの事を知らず、また他に誰か乗っているのかとさえ尋ねなかった。兵の1人が、

「お前達3人はここにいろ。陛下はカタリーナ・パンサーのみにお会いになる」

「どういうつもり?」

 カタリーナが尋ねると、兵はカタリーナの脇腹に銃を突きつけ、

「黙って言われた通りにしろ」

 バルトロメーウスは歯ぎしりして悔しがった。

「畜生、何て事だ……」

 3人を残し、やがてカタリーナは兵2人と共に格納庫から立ち去った。


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