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第55話 第二帝国建国す

 手術中のランプが消えた。ルイはハッとして立ち上がった。ストレッチャーに乗せられて、ムラト・タケルが出て来た。彼は酸素吸入器をあてがわれて眠っていた。ストレッチャーはそのまま病室の方へ向かった。ルイは執刀医を呼び止め、

「手術はどうだったのだ?」

「成功です。患者の身体が鍛え上げられていましたので、出血量の割にはうまくいきました」

「そうか。話はできるか?」

「いえ、まだ当分は……」

 執刀医はそう言うとルイに会釈し、立ち去った。そこへジョーがカタリーナと共に現れた。

「終わったようね?」

 カタリーナが声をかけた。ルイは彼女を見て、

「ああ。どうやら奴は助かったらしい」

「奴は何故この星に?」

 ジョーが尋ねると、ルイはジョーを見て、

「お前に会いに来たのだと思う」

「どうしてそう思うんだ?」

「他に理由がないからだ」

 ルイはそう言ってフッと笑った。ジョーも苦笑いをした。


 帝国滅亡の報告を受け、ドミニークス軍の首脳達は騒然としていた。

 彼らは緊急会議を開き、すでにドミニークス領にもその魔手を延ばしつつあるブランデンブルグ軍に対する作戦を話し合っていた。

「トムラー軍の傭兵部隊の生き残りが、何人か中立領や辺境星域にいるはずです。連中を集めて精鋭部隊を結成し、戦うしか方法はありません」

 カール・ラビーヌが言った。側近は頷き、

「確かに。正攻法では、数で優るブランデンブルグ軍に勝てる訳がないからな」

「問題はどうやって連中を集めるか、ですな」

 首相が口を挟んだ。ラビーヌは首相を見て、

「連中は金に流されます。金儲けの話を中立領や辺境星域に流せば、光に集まる虫の如く、新共和国に来ます」

「そうだな。しかし、ブランデンブルグ軍に流れたらどうする?」

 側近の言葉に、首相や軍の幹部達は蒼ざめた。しかしラビーヌは、

「傭兵とて、その後自分達がどうなるかくらい考えるでしょう。ブランデンブルグ軍は、協力者すら殺すと聞いております」

 反論した。一同はブランデンブルグ軍の兇悪さに改めて戦慄した。


 ムラト・タケルが眠っているベッドの脇に、ジョーとカタリーナとルイが立っていた。ムラト・タケルは包帯だらけの身体をベッドに沈めて、静かに眠っていた。ジョーはムラト・タケルを見ながら、

「この男の傷、尋常じゃないな」

「火傷だな。それもかなり高熱なものによる……」

 ルイが言った。ジョーは窓の外を見て、

「宇宙で何が起こっているんだ?」

「ブランデンブルグだ……」

 ムラト・タケルの声に、3人はハッとして彼を見た。ムラト・タケルは、薄目を開けて、

「奴らの本隊はすでに銀河系を侵略し始め、エクスタミネーションを始めている」

「エクスタミネーション!?」

 カタリーナが仰天して叫んだ。ムラト・タケルは3人を見て、

「文字通り、根絶やしだ。奴らの戦闘部隊が降下した惑星は、子供1人生き残った者はいない」

「ストラードが言っていた事が現実に起こっているのか」

 ルイが呟いた。ジョーはムラト・タケルを見て、

「何故この星に来た?」

「お前に会うためだ」

「俺に?」

 ムラト・タケルはウウッと呻いてから、

「奴らを阻止できるのはお前しかいない」

「何で俺がそいつらを阻止しなくちゃならねえんだ?」

 ジョーが言った。カタリーナはビクッとして彼を見た。するとムラト・タケルは、

「それがお前の運命だからだ。お前がこの世に生を受けた理由だからだ」

「何訳のわかんねえ事言ってるんだよ?」

「戦わなければ、愛する者を失うぞ」

 ムラト・タケルはそう言ってカタリーナを見た。カタリーナは探るようにジョーを見た。ジョーはフッと笑った。

「変わったな、ムラト・タケル。昔のお前はもっと非情だった」

 ルイが口を挟んだ。ジョーは窓に近づき、

「お前さんに言われるまでもなく、俺は戦うつもりさ。人の命を何とも思わねえような奴は、虫酸が走る」

 ルイが、

「そして仮に戦うつもりがなくても、奴らは我々の所にやって来るからな」

「銀河系最強のコンビだな。ジョー・ウルフとルイ・ド・ジャーマン。お前達なら、ブランデンブルグ軍を滅ぼせるかも知れない」

「トリオかも知れんな」

 ルイがドアの方を見て言った。いつの間に来たのか、そこにはバルトロメーウスが立っていた。彼は不満そうにルイを見ていた。

「ブランデンブルグ軍を滅ぼしたら、あんたはジョーと戦うつもりだろう?」

「だとしたらどうする?」

 ルイは鋭い目つきでバルトロメーウスを見た。バルトロメーウスはジョー達に歩み寄り、

「俺は命を張ってあんたとジョーの戦いを止める。2人の戦いに勝者はあり得ないからな」

「なるほど」

 ルイはフッと笑ってジョーを見た。ジョーもフッと笑ってルイを見た。


 ブランデンブルグ軍の大艦隊は、銀河帝国の中枢のあった惑星付近に来ていた。

「私はここに銀河系の第二帝国の建国を宣言し、初代聖皇帝の位に就く」

 ブランデンブルグは通信機を使って全軍に伝えた。ブランデンブルグ軍の兵士達は沸き上がる事もなく、只冷静にブランデンブルグの「お言葉」を拝聴していた。ブランデンブルグはニヤッとして、

「これより第二次作戦を展開する。邪悪な惑星、役に立たぬ惑星は、我が帝国の誇るグランドビーム砲により殲滅する」

と言った。

「直ちに全艦出撃! 銀河系の人間を根絶やしにしろ!」

 ブランデンプルグの命令の下、無数の艦隊が銀河のあらゆる星域へと出撃して行った。


 ムラト・タケルの病室を出ようとしたジョーの脳裡をブランデンブルグの狡猾な顔がよぎった。

「奴が……。動いている。奴が銀河系をぶっ壊し始めた」

「どういう事、ジョー?」

 カタリーナが尋ねると、ジョーは目を伏せて、

「わからねえ。訳はわからねえが、ブランデンブルグのヤロウがとんでもねえ事を始めたようだ」

 バルトロメーウスが、

「とにかく、じいさんの所に戻ろう。ムラト・タケルの話じゃ、奴らは容赦がないって事だ。この星が襲われるのも時間の問題だぜ」

「そうね。私、マリーさんを連れて来るわ。バルは病院の人達や街の人達に緊急事態が迫っている事を伝えて、避難するように言って」

 カタリーナが言うと、バルトロメーウスは嬉しそうに頷いて、

「わかりました、カタリーナさん」

 駆け出した。カタリーナもマリーの所に行くために歩き出した。するとルイが、

「あの男が私に無愛想なのは、お前に惚れているからのようだな」

「何言ってるのよ」

 カタリーナはニッコリして歩き去った。ルイはジョーを見て、

「どうするつもりだ?」

「どうするもこうするもねえよ。降り掛かる火の粉は払わなくちゃならねえ」

 ジョーはフッと笑って言った。


 中立領のカーマイル星系のある惑星の繁華街で、1人の黒装束の男が、ドミニークス軍の密偵と路地裏で話していた。

「金貨500枚出そうと言うのだぞ。ドミニークス軍のために戦ってはくれぬか?」

「何度も同じ事を言わせないでくれ。俺はもう、人のために戦うのはご免だ。俺の殺りたい相手は只一人。ジョー・ウルフだけだ」

 黒装束の男の顔が繁華街の明かりの中に浮かび上がった。男はメルト・スクリューだった。密偵は、

「ならば我が軍のために戦ってくれれば、必ずジョー・ウルフと戦わせてやる」

「本当か?」

 メルトの顔つきが変わった。

「本当だ。しかし、お前如きがジョー・ウルフに勝てると思っているのか?」

 メルトは密偵の襟首を掴んで、

「確かに奴はあのストラード・マウエルを倒した程の男だ。だが、俺の実力をなめてもらっちゃ困るぜ」

「わ、わかった……」

 メルトはニヤリとして手を放した。

( 面白くなって来たぜ。俺がこの何ヶ月間、どれほどの屈辱に耐えて来たのか、奴に思い知らせる時が来たんだ )


 ラルミーク星系第4番惑星の宇宙港は、人でごった返していた。誰もが我先にと宇宙船に乗り込もうとしているのだ。

「パニックは予想していたが、これほどとはな」

 ジョーとルイは港の端でその騒動を眺めていた。ルイはジョーを見た。

「ひょっとすると、奴らが派手に銀河系を荒し回っているのは、パニックそのもので自滅を誘うという計画なのかも知れねえな」

 ジョーは言った。ルイは再び港に目を向けた。

「ジョー」

 そこへフレッドとカタリーナがやって来た。ルイが、

「他の3人は?」

「マリーさんとムラト・タケルはフレッドの工場のシェルターにいるわ。惑星ごと破壊されない限り、絶対に安全よ」

 カタリーナが説明すると、ジョーは、

「それじゃダメだ。奴らは惑星もぶっ壊しかねねえ。やっぱり、脱出した方がいい」

「いくら何でもそこまでやらんだろう?」

 フレッドが口を挟むと、今度はルイが、

「いや、ジョーの言う通りかも知れん。ブランデンブルグ軍に躊躇はあり得ない」

 カタリーナはフレッドと顔を見合わせた。ジョーが、

「バルはどうした?」

「バルは儂の艦だ。エンジンのチェックをしとる」

 ジョーはフレッドを見て、

「話がある」

「うん?」

 ジョーはフレッドと共にルイとカタリーナから離れた。カタリーナは港の騒ぎを見ていたが、ルイはジョーとフレッドの方を見ていた。


「奴はどこにいるかわかったか?」

 ブランデンブルグは側近に尋ねた。側近は深々と頭を下げて、

「ジョー・ウルフはルイ・ド・ジャーマンと共に、ラルミーク星系第4番惑星におります」

「なるほど。そこにはカタリーナ・パンサーもいるな?」

「はい、もちろん」

 ブランデンブルグはニヤリとして、

「ならばカタリーナをさらって来い。あの女、美しいばかりでなく気も強い。エリザベートのようなバカな女とは違う。カタリーナを私の第一皇妃とする」

「ははっ!」

 ブランデンブルグは一体何を目論んでいるのか? 彼は不敵に笑った。

( ジョー・ウルフなどいつでも殺せる。しかし、カタリーナ・パンサーほどの美女は早々手に入らぬ )

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