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第54話 帝国滅亡す

 ブランデンブルグ軍の進撃は誰にも止める事ができず、惑星は次々と落とされ、その魔手は遂に帝国領内に及んだ。

「無駄とわかっていても、和平交渉を申し出ましょう。私に出来る事はそれだけです」

 エリザベートは皇帝の間の椅子から立ち上がって言った。側近の1人が、

「しかし陛下、どのようにして連絡を取るおつもりです? 連中の通信は、我々の想像を絶しているのです」

「インペリアルウォーシップで、本隊のいる所に向かいます」

「陛下!」

 2人の側近は仰天して叫んだ。エリザベートは2人をキッと見て、

「臣民を護る事が出来ずして、どうして帝国の皇帝でいられる! これは皇帝命令だ。早くこの艦をブランデンブルグ軍の本隊がいる所に向かわせよ」

 いつになく鋭い口調で言った。側近は恐縮して、

「ははっ、早速……」

 深々と頭を下げた。


 ムラト・タケルの操縦する小型艇は、中立領の宇宙空間を飛行していた。

「ようやく逃げ切れたか……」

 ムラト・タケルはレーダーを覗いてそう呟いた。

( ジョー・ウルフに会わなければ……。あの化け物共を片づけられるのは、あいつしかいない )

 小型艇はラルミーク星系に入った。

「確か第4番惑星だったな……」

 小型艇は第4番惑星に降下して行った。


 ルイはマリーのいる病室にいた。彼は窓の外を見渡して、

「ブランデンブルグ軍が遂に帝国領内に侵入したそうだ。帝国崩壊も時間の問題だろう」

「ええ……。私の嫌な思い出も、みんな一緒に消えてしまうわ……」

 マリーは呟いた。ルイはマリーを見て、

「やがてこの星も奴らに襲われるだろう。しかし私はこの星を離れない」

「どうしてですか?」

 マリーはルイを見上げた。ルイはフッと笑って、

「テリーザが眠っている。そしてマリー、お前を護らなければならない」

「ルイ様……」

 マリーの顔に喜びが満ち溢れた。ルイは病院の前に救急艇が来たのに気づいた。

( むっ? )

 彼は救急艇の中から運び出される男を見てハッとした。

「ムラト・タケル!」

 ムラト・タケルは大気圏突入時に再びブランデンブルグ軍の攻撃を受け、不時着したのだ。ルイはドアに走った。マリーが、

「ルイ様?」

「知っている男が今この病院に運び込まれた」

 ルイは言うと、病室を出て行った。


「何? 皇帝の艦が?」

 ブランデンブルグは大浴場のお湯に浸かったまま側近の報告を受けていた。側近は跪き、

「はい。如何致しましょう?」

「帝国が我々に何か話をしようとしているのかも知れぬ。接触したら私に伝えよ。皇帝と会おう」

「ははっ!」

 側近は頭を下げて退室した。ブランデンブルグはニヤリとして天井を見た。


「たった今、この病院に運び込まれた男はどこだ?」

 ルイは受付の女性に尋ねた。その女性はルイを見て顔を赤らめ、

「手術室です。出血が酷くて非常に危険な状態だそうです」

「そうか。ありがとう」

 ルイは廊下を手術室へと歩いて行った。

( ムラト・タケルのあの傷、ブランデンブルグ軍の侵攻と何か関係があるのか? )

「ここか」

 ルイは手術室の前にあるソファに座った。

( そしてもう一つ。奴はこの星に何しに来たのだ? )

 ルイは点灯する「手術中」のランプを見上げた。

「死ぬなよ、ムラト・タケル」

 ルイは呟いた。そして目を伏せた。

「どうしたの、こんな所で?」

 ルイはその声にハッとして、顔を上げた。彼の目の前に、花束を抱えたカタリーナが立っていた。ルイは立ち上がって、

「今ムラト・タケルが手術を受けている」

「えっ? ムラト・タケルが?」

 カタリーナはその名を聞いてビクッとした。一度はジョーを殺そうとした男だからだ。

「どうしたの、彼?」

「わからん。しかし、重傷を負っているらしい」

 カタリーナは手術室をチラッと見て、

「そうなの。私、このお花、マリーさんの所に持って行くわ」

 立ち去りかけた。するとルイが、

「それから、ジョー・ウルフを呼んで来てくれ。私の勘では、奴はジョー・ウルフに会いに来たに違いない」

「ジョーに? どういう事?」

 カタリーナは不思議そうにルイを見た。ルイはカタリーナを見て、

「わからん。わからんが、ムラト・タケルがこの星に来た理由が、それ以外にないと思われるのだ」

「わかったわ」

 カタリーナはそう答えて歩き出しながら、

「ルイ、その軍隊口調、何とかならない? もっと砕けた話し方出来ないの?」

「すまんな。生まれつきでね」

 ルイはフッと笑った。カタリーナはクスッと笑って歩き去った。


 エリザベートはブランデンブルグの乗艦内の大廊下を側近2人と共に歩いていた。周囲の装飾は、悪趣味の極致とも言うべきグロテスクな模様で、彼女は吐きそうだった。

「この先のようですね」

 エリザベートは前方に見える巨大な扉に気づいて言った。側近2人は黙って頷いた。

 扉がギギッと開かれ、エリザベートと2人の側近は中に入った。そこには、スパンコールの着いた白の軍服を着たブランデンプルグがきらびやかに飾られた椅子に座って優しく微笑んでいた。エリザベートは廊下の装飾とあまりにも違う内装に唖然とし、ブランデンプルグの妖艶な雰囲気に身震いした。ブランデンブルグはサッと立ち上がって深々とお辞儀をし、

「ようこそおいで下さいました、エリザベート皇帝陛下。私が、ナブラスロハ・ブランデンブルグです」

「丁重な挨拶、痛み入ります、ブランデンブルグ公」

 エリザベートは、ブランデンブルグに手を取られ、彼が座っていた椅子に導かれて腰を下ろした。ブランデンプルグは彼女の前に跪いた。そして、

「和平交渉のお話でしたね」

「そうです。お受けして頂けるのでしょうか?」

「もちろんですとも。貴女のような美しい方が、わざわざお越し下さったのですから、拒否する訳には参りません」

 ブランデンブルグはニヤリとして答えた。エリザベートはその笑みにビクッとしたが、

「それではすぐにでも銀河系から手を引いて頂きましょうか」

「わかりました。早速手配致しましょう」

 エリザベートはあまりにも事が簡単に運ぶのに戸惑いながらも、良かったと思っていた。

「お話が早くまとまって良かったです。それでは私はこれで失礼します」

 エリザベートは立ち上がった。ブランデンブルグはスッと脇に退いて、エリザベートを通した。エリザベートが扉の前に来ると、側近が扉の取っ手に手をかけ、開こうとした。ところが扉は全く動かず、側近2人は慌てた。

「こ、これは一体どういう事です?」

 エリザベートはキッとしてブランデンブルグを見た。ブランデンブルグはクククと笑い、

「銀河系から手を引く約束はしましたが、貴女を生かして帰す約束はしておりませんよ」

「何ですって!?」

 エリザベートは二の句を継げなかった。ブランデンブルグの放った剣が、彼女の左胸を貫いていたのである。側近は仰天した。

「陛下!」

 2人は倒れるエリザベートを支えた。エリザベートは虫の息でブランデンブルグに目を向け、

「私の……命なら……差し上げましょう……。でも、銀河系からは……手を引きなさい……」

 するとブランデンブルグは大笑いした。そして、

「それはできませんな」

「何故!?」

 エリザベートは最後の気力を振り絞ってブランデンブルグを睨んだ。ブランデンブルグは狡猾な笑みを浮かべて、

「我が公国の仕来りでは、約束をした相手が死亡した場合、その約束はなかった事になるからですよ」

「何て……」

 エリザベートは遂に息絶えた。屈辱に塗れての憤死であった。ブランデンブルグはエリザベートに近づいた。

「おのれ、陛下の仇!」

 2人の側近はエリザベートの遺体をソッと床に下ろして腰の短剣を抜き、ブランデンブルグに突進した。

「バカな連中だ」

 ブランデンブルグの両手がサッと上げられた。するとその手から発した衝撃波が、2人の側近の頭を粉微塵に打ち砕いてしまった。

「美しい」

 ブランデンブルグは涙を流して死んでいるエリザベートの遺体に近づいた。彼はエリザベートを抱き上げ、

「フフフ……。そんな清らかな心では、支配者に留まる事は出来ないのだよ、エリザベート」

と呟いた。


 ジョーは工場を出て行く所で、突然エリザベートのイメージが頭の中をよぎるのを感じた。

「エリザベート・プレスビテリアニスト・マウエル……。殺されたのか?」

「ジョー!」

 そこへカタリーナが走って来た。彼女は息を弾ませたまま、

「ムラト・タケルがマリーさんのいる病院に入院したわ」

「ムラト・タケルが?」

 ジョーは眉をひそめた。カタリーナはやっと息を落ち着かせて、

「ルイの話だと、彼は貴方に用があるらしいわ」

「俺に用?」

 ジョーは思案した。

( エリザベートの事と、ムラト・タケルの事、何か関係があるのか? )


 インペリアルウォーシップに、エリザベート達が乗って行った小型艇が戻って来た。艦内の乗員が全員格納庫に集まって出迎えた。ところが中から誰も降りて来ない。不信に思った警備兵の1人が、エアロックを開いて中に入って行った。

「わぁっ!」

 彼は腰を抜かした。中には、首のない側近2人の遺体と、左胸に剣を突き立てられたエリザベートの遺体が血の海に横たわっていた。


「攻撃開始!」

 ブランデンブルグは、インペリアルウォーシップに対し、容赦のない攻撃を仕掛けた。


 インペリアルウォーシップは、なす術もなく、ブランデンブルグ軍の攻撃で大破し、大爆発を起こした。

 こうして銀河帝国は完全に滅ぼされ、長きに渡った王朝の歴史が幕を閉じた。

「残るはドミニークス軍。そして、ジョー・ウルフか」

 ブランデンブルグはそう呟いてフッと笑った。


 ジョーはカタリーナと共に病院に向かっていた。

( 何が起ころうとしているんだ? ブランデンブルグの圧迫感が、また大きくなって来たような気がする )


 銀河系は、最大の危機を迎えようとしていた。


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