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第53話 ブランデンブルグ軍の進撃

 ラルミーク星系第4番惑星のフレッドの工場には、奇妙な人間関係が複雑に入り組んでいた。

 カタリーナはジョーとルイが戦うつもりがないらしいと思って、すっかり上機嫌で、せっせと料理を作ったり、2人の世話を焼いたりしていた。

 一方バルトロメーウスは、ルイをもう一つ信用し切れていないため、常に警戒心を解かずにいた。それに彼は、カタリーナがルイに妙に優しいのが気に入らないのだ。要するに男の嫉妬である。

 また、フレッドは工場でルイのストラッグルを修理したり、彼に新しい小型艇を進呈したりして、ルイと話していた。

「あんたのストラッグル、放熱コートをすれば、もっと連射が正確にできるようになるはずだ」

 フレッドは得意そうに解説した。するとルイはフッと笑って、

「ジョー・ウルフと互角に渡り合えるものにしてもらいたいな」

 フレッドはギクッとした。カタリーナは工場の入口でハッとして立ち止まった。バルトロメーウスは修理中の小型艇から顔を上げてルイを睨んだ。フレッドは作り笑いをして、

「あんた、まだジョーと戦うつもりなのかね?」

「そうだ。決着はつけなくてはならない」

 ルイはフレッドを見て答えた。ジョーは離れた所にある椅子に座って眠ったフリをしていた。

( ルイの奴、まだやる気か。そうでなきゃ、面白くねえ )


 銀河系の辺境星域に大艦隊が現れた。言うまでもなく、ブランデンブルグ公国の艦隊である。その中央には巨大な旗艦が陣取っていて、ブリッジにはブランデンブルグが大きな椅子に座っていた。

「攻撃開始」

 彼は命じた。大艦隊から無数の小型艇が発進し、辺境星域の惑星に向かった。

「大掛かりな戦闘は我が方にも多大な犠牲を出す。しかし、この作戦なら、安全確実だ」

 ブランデンブルグは美女に酒を注がせながらそう呟いた。

 小型艇はごく普通の艇のフリをして宇宙港に入港した。中から出て来たのは、あの恐るべき戦闘要員である。無表情で、無感情。彼らの戦闘行為は、全く容赦がない。彼らはいきなり奇妙な形の銃を構え、港にいる人間を殺し始めた。

「うわァッ!」

「ギャーッ!」

「きゃーっ!」

 人々は逃げ始めた。しかし戦闘要員は、次々に光束を放ち、誰彼構わず殺戮して行った。港には死人の山ができ、通路は血の海になった。戦闘要員は全員、胸に三日月と星形が重なった紋章を着けていた。


「何てこった!」

 2人の工員が必死になって酒場に走った。

「賞金稼ぎの先生に頼むしかねえ」

 年寄りの工員が言った。若い工員も頷いて、

「ああ。それしかないな」

と答えた。

 2人は酒場の中のバーに飛び込んだ。

「先生!」

 カウンターの隅に座っている男が背を向けたまま、

「どうした?」

 老工員は息を整えながら、

「先生、助けて下さい。おかしな連中が銃を撃ちまくって、街の人間が皆殺しにされているんです」

 男は手に持っていたグラスをカウンターに置いて、

「わかった。で、いくら出す?」

「金貨1000枚でも2000枚でも」

「なるほど。それでは相当の敵らしいな」

 男は立ち上がって振り向いた。ムラト・タケルだった。彼は帝国とドミニークス軍の追手から逃れて、辺境星域に身を潜めていたのである。


「ルイ、ジョーと対決するのなら、その前に会って欲しい(ひと)がいるわ」

 カタリーナが工場に入って来て言った。ルイはカタリーナを見て、

「誰だ?」

「マリー・クサヴァー。テリーザさんの妹さんよ」

「マリー? 彼女がここにいるのか?」

「いいえ。彼女は病院にいるわ。著しい環境の変化と恐怖で、一時的に錯乱状態に陥っていたのよ」

 カタリーナは答えた。ルイはカタリーナに近づき、

「その病院はどこにある?」

「工場を出て左に行けば、建物が見えて来るわ」

「案内してくれ」

 ルイが言うと、バルトロメーウスがヌッと近づき、

「俺が案内するよ」

 バルトロメーウスは相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。ルイはフッと笑って、

「わかった。頼もしい案内人だな」

と応じた。


 ムラト・タケルは2人の工員を従えて、港に向かっていた。

「むっ?」

 彼は前方から伝わる奇妙な殺気を感じ、立ち止まった。老工員が、

「どうしたんです?」

「伏せろ!」

 ムラト・タケルは2人の工員を押し倒し、地面に伏せた。それとほぼ同時に、光束がいくつも3人の頭上を走った。

「もうこんな所まで来たのか」

 ムラト・タケルはストラッグルを抜き、サッと建物の陰に隠れた。工員2人も慌ててそれに続いた。

「奴らか?」

 5人の戦闘要員は全く無表情のまま銃を構えて歩いて来た。ムラト・タケルはダッと飛び出し、素早くストラッグルを連射し、5人をたちどころに倒した。彼はストラッグルをホルスターに戻すと、死体に近づいた。

「はっ!」

 ムラト・タケルは胸の紋章に気づいた。

( こ、これは……。まさか…… )

「どうしたんですか?」

 2人の工員が走って来た。ムラト・タケルは2人を見て、

「死にたくなかったら、一刻も早くこの星を出る事だ。さもなければ、お前らは必ず殺されるぞ」

「ど、どういう事です?」

 老工員が尋ねると、ムラト・タケルはキッとして、

「そんな事はどうでもいい。とにかく、生き残った連中に知らせて、この星を出るんだ。いいな」

「はァ……」

 2人の工員は何が何だかわからない様子だったが、頷いた。

( この紋章はブランデンブルグ公国のもの。以前帝国のデータベースで見た事がある。奴らはもう銀河系に来ているのか。そして、根絶(エクスタミネーション) が始まっているのか? )

 ムラト・タケルの額に汗がにじんだ。


 ルイとバルトロメーウスはマリーのいる病室の前に来ていた。

「この中だ。まだ彼女は完全に落ち着いた訳じゃない。変な刺激をしないでくれよ」

 バルトロメーウスが言うと、ルイはドアを開き、

「大丈夫だ」

 中に入った。それを見届けると、バルトロメーウスはサッと踵を返し、廊下を歩いて行った。

「マリー」

 ルイは窓際のベッドに寝ているマリーを見つけた。マリーはルイの声で彼の方を見た。彼女は少し驚いて、

「ルイ様……」

 ルイはマリーに近づいて、

「マリー、お前は何故この星に来たのだ?」

「それは……」

 マリーは目を伏せた。ルイは窓の外を見て、

「テリーザから聞いたよ。父上が亡くなって、お前達は離れ離れに暮らしていたのだそうだな?」

「はい……」

「答えてくれ。一体この星に何をしに来たのだ?」

 ルイが重ねて言うと、マリーは目を上げて、

「ルイ様に私の気持ちを知って頂きたくて……」

「お前の気持ち?」

 マリーは目に涙を浮かべて、

「私、ずっとルイ様の事をお慕いしていました。それが言いたくて……」

「バカな……。お前は自分が今何を言っているのかわかっているのか?」

 ルイは憤然として言った。マリーは涙を流して、

「わかっています。姉が亡くなったばかりなのにこんな事をいうのは許されない事だというのは……。でも私、自分の気持ちが押さえ切れなくて……」

「マリー……」

 ルイの脳裡をテリーザの言葉がよぎった。

「ルイ……。最後のお願いを聞いて……。マリーを……マリーを……」

 ルイはハッとした。

( テリーザ、お前はマリーの心の内を知っていたというのか? )


 工場でうたた寝をしていたジョーは、ハッとして跳ね起きた。

( 何だ? )

「どうしたんだ、ジョー?」

 外から戻って来たバルトロメーウスが尋ねた。ジョーは辺りを見回して、

「どこかで人が叫んでいないか? 断末魔って奴だ……」

 バルトロメーウスはキョトンとして、

「断末魔? 何も聞こえないけどな」

「おかしいな。起きてみると、何も聞こえない。夢か?」

 ジョーは椅子から立ち上がった。するとフレッドが奥から現れて、

「いや、夢じゃないようだ、ジョー。ブランデンブルグ軍が銀河に侵攻したらしい」

「何だって!?」

 ジョーとバルトロメーウスは仰天してフレッドを見た。フレッドは声をひそめて、

「辺境星域にいる仲間と通信していたんだが、奴の得意先の惑星が、ブランデンブルグ軍によって全滅させられたらしい」

「全滅?」

 ジョーはストラードの言葉を思い出した。

( 銀河系の人間は根絶やしにされる )

「とうとう本隊がやって来たのか……」

 バルトロメーウスは腕組みした。ジョーは黙ったまま外を見た。


 帝国のインペリアル・ウォーシップの皇帝の間で、エリザベートは思案に暮れていた。それを侍女2人が心配そうに見つめていた。

「ブランデンブルグ軍と和平交渉をする事はできないのですか?」

 彼女は側近に尋ねた。側近は、

「まず不可能です。連中には血も涙もありません。バッフェンの殺され方を見てもそれがわかります」

 エリザベートは椅子に深く沈んで、

「根絶やしになるのだけは、何としても避けなければ……」

と呟いた。


 ブランデンブルグは司令室の椅子に座り、側近から報告を受けていた。

「すでに2000の惑星を全滅させ、さらに部隊は次なる惑星の根絶に向かいました」

 側近は跪いて言った。ブランデンブルグは目を細めてフッと笑い、

「なかなか順調のようだな。その調子で銀河系根絶作戦を進めよ」

「はっ!」

 側近は深々と頭を下げた。


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