第52話 新たなる戦いの始まり
「ククク……」
ストラードの笑みがパッと止んだ。次の瞬間、ストラードの精神波がジョーとルイに襲いかかっていた。ところが、精神波は2人の手前で砕け散った。
「何!?」
ストラードは思わず目を見張った。
「バカな……。効かぬはずがない!」
ジョーはニヤリとして、
「効かねえぜ、全くな」
ルイもストラードを見て、
「私にも見えたぞ。貴様の力が、私とジョー・ウルフの前で砕け散ったのをな」
「ぬうっ!」
ストラードはバッと両手を振り上げ、
「精神的能力が通用しないのなら、戦法を変更するまでだ!」
2人に飛びかかった。ジョーとルイは右と左に分かれ、ストラードをかわした。ストラードの手刀は壁を突き破った。彼はくわっと目を見開いて2人を睨み、
「私の突きは単なる拳法とは訳が違うぞ。指先から出る精神波が、あらゆる物を破壊し易くするのだ!」
と右手を突き出した。ジョーはフッと笑い、
「ルイ、こいつはもう俺1人で十分だ。それにこいつは俺が先に見つけた。俺の獲物だ」
ルイはフッと笑って、
「良かろう。私が手を貸すまでもないようだな」
ストラードはその言葉に激怒し、
「お前ら、この私を愚弄しおって!」
ストラードの顔が険しくなった。ジョーはストラッグルを構え、
「俺はブランデンブルグに言われた事を思い出したんだ。自分がビリオンス・ヒューマンだという事を認めれば、その能力が100%発揮できるという事をな」
「ブランデンブルグめ、余計な事を!」
ストラードはジョーに突進した。ジョーはストラッグルの引き金に指を掛けた。その時ストラードはニヤッとした。
( バカめ )
ストラードの眼が再び輝いた。ジョーは、
「死んでもらうぜ、ストラード!」
ストラッグルを撃った。光束がストラードの顔に向かった。ところが命中する寸前にねじ曲がってしまったのだ。
「何?」
唖然とするジョーにストラードが仕掛けた。
「ぐっ!」
ストラードの手刀がジョーの胸に決まった。
「うおっ!」
ジョーは壁に叩きつけられた。
( 何故だ? 奴の前で光束がねじ曲がった…… )
ストラードは不敵な笑みを浮かべてジョーに近づき、
「愚か者め。ストラッグル如きで、この私を倒せると思ったか!」
「くそう……」
ジョーはもう一度ストラッグルを構え、撃った。何度も何度も。しかしその全てが、ストラードの前でねじ曲がってしまった。
「何て事だ……」
ジョーの額を汗が伝わった。後ろで見ていたルイは、
( 一体どうしたのだ? 何故ジョーのストラッグルがああも簡単にかわされるのだ? しかもジョーは一点を狙って撃っている。どういう事だ? )
不思議に思っていた。
「無駄だ。ストラッグルの光束如き、私の精神波でねじ曲げてしまう。やめておけ」
ストラードのその勝ち誇った言葉にルイは全てを悟った。
「ジョー、騙されるな! 奴は光束をねじ曲げているのではない! 奴はお前に精神波をぶつけて、お前の視神経を狂わせ、光束がねじ曲がっているように見せているのだ。本当は奴は光束をかわしているだけだ」
ルイは大声で言った。ジョーはハッとした。
「そうか」
ストラードはルイを睨んで、
「ルイ・ド・ジャーマンめ!」
やがてフッと笑い、
「しかし、謎が解けても、お前は私を撃つ事は出来ない」
ジョーは歯ぎしりした。
( 確かにそうだ……。タネは割れても、当てる方法がねえ。どうすりゃいい? )
ストラードはクククと低く笑い、
( お前の緊張が解けた時がお前の最期だ。最強の精神波で、脳細胞を一気に粉砕してやる )
一方、カタリーナ、フレッド、バルトロメーウスの3人はフレッドの艦で帝国中枢部に向かっていた。宙域は嘘のように静かだった。
「出迎えがないな。こりゃ、よっぽどの事が起こっているんだぜ」
バルトロメーウスが言うと、フレッドは、
「そりゃあな。帝国存亡の危機だからな」
「ジョーはこの先にいるわ。反応が強くなっているから」
カタリーナがフレッドにもらったGPSを見ながら言った。
「しかし、こんな長時間小型艇で飛び回っていられないしな……」
フレッドは腕組みをした。
ジョーとストラードの睨み合いは遂に終わった。ジョーが目を閉じたのである。ストラードは、
「むっ?」
と警戒した。ジョーは、
「眼が信用できねえのなら、使わなきゃいいんだ」
「バカめ。気配だけで私を撃てると思っているのか?」
ストラードはジョーの行動を嘲笑した。そして、
「それほど死にたいのなら、今すぐ地獄に送ってやる。バッフェンやジェット・メーカーが待っているぞ」
ススッとジョーに近づいた。ジョーのストラッグルがストラードを確実に追っているのをルイは見た。
( この勝負、見えたな )
「死ね、ジョー・ウルフ!」
ストラードの手刀がジョーの顔に向かった。ストラッグルの動きがピタッと止まり、ジョーは目を開いた。
「うっ!」
ストラードの手刀は空振りに終わった。そしてジョーのストラッグルが吠えた。
「ぎゃあ!」
ストラードは右肩を貫かれ、後ろに倒れた。ジョーはすかさず前に出て、ストラードにストラッグルを向けた。しかしストラードも、
「させん!」
精神波を放った。ジョーもストラッグルを撃った。ジョーの鼻と口と耳から血が噴き出した。ストラードもストラッグルを左胸に喰らい、血を吐いた。
「ぐほっ!」
ジョーは両膝を床に着いた。ストラードは血にむせ返りながらもニヤリとしてジョーを見上げ、
「ジョー・ウルフ、お前が私を殺したので、ブランデンブルグはさぞ喜んでいるぞ」
「何!?」
ジョーはストラッグルをホルスターに戻した。ストラードは仰向けに倒れ、
「奴の通った後は、虫一匹、草一本残らぬ。銀河系の人間は根絶やしにされる」
ジョーとルイは思わず顔を見合わせてからストラードを見た。ストラードはジョーを見て、
「私が銀河系統一を急いだのは、ブランデンブルグ公国を何とか防ごうと考えたからだ。根絶やしにされるよりは、多少の犠牲を払ってでも統一する方が良い。だからこそ私は、我が子バウエルまで犠牲にして、内乱を引き起こし、統一戦争を始めようとしたのだ」
「てめえのやり方が正しいっていうのか?」
ジョーは血を拭って尋ねた。
「そうだ。少なくとも、種の保存という観点からなら、私のやり方の方が正しい」
「……」
ルイがジョーに近づいた。
「ジョー・ウルフ、お前が私を倒した事で、銀河系の民は地獄を味わう事になる。その責任、とってもらうぞ」
ストラードは言い、血をガハッと吐いて絶命した。
「終わったな」
ルイが呟いた。すると後方から、
「いえ、今から始まるのです」
2人はハッとして振り返った。そこには侍女2人を従えたエリザベートが立っていた。
「あんたは……」
ジョーは意外な人物の登場に目を見開いた。エリザベートはキッとして、
「私は帝国皇帝、エリザベート・プレスビテリアニスト・マウエルです」
「やっぱりそうか。で、何が始まるって言うんだ?」
ジョーは立ち上がって尋ねた。エリザベートは2人に近づきながら、
「義父の話、聞かせてもらいました。私も同感です。貴方達2人に、銀河系を救って頂きたい」
「何だって?」
ジョーとルイは異口同音に言った。エリザベートは、目を伏せて、
「義父のして来た事が正しいなどとは思っていません。しかし、今のままでは銀河系は只滅びの道を歩むだけです」
「それもまたいいじゃねえか」
ジョーはフッと笑って言った。エリザベートは目を上げて膝を着き、
「この通りです。銀河系を救って下さい。銀河系の民に成り代わってお願いします」
頭を下げた。ジョーはエリザベートを見て、
「よしなよ。皇帝陛下が俺なんかに頭を下げないでくれ」
「でも、私にはこれ以外に出来る事がないのです」
顔を上げたエリザベートの眼には涙が光っていた。ジョーはそれに気づき、俯いた。エリザベートは自嘲して、
「私は皇帝とは言っても、形式だけの存在です。何の力もないのです。帝国が滅びるのは時間の問題。それは仕方ありません。もう帝政の時代は終わるのですから。でも、銀河系の民には、何の責任もないのです」
ジョーは無表情にエリザベートを見ていた。一方ルイはエリザベートを見ていたが、やがて、
「私には関係のない事だ。銀河系の人間が根絶やしにされようとされまいとな」
背を向けた。エリザベートはビックリしてルイを見上げた。
「貴方は……。根絶やしにされるという事は、テリーザも殺されるという事なのですよ!」
「彼女はもう死んだのですよ、陛下」
ルイはぼそりと言った。エリザベートは目を見開き、
「テリーザが?」
「だから私には失う者は何もない」
彼は歩き出した。ジョーもルイの後を追うように歩き出した。エリザベートは立ち上がって、
「貴方達には、情けというものがないのですか!? 自分さえ良ければそれでいいのですか!?」
するとジョーが振り向き、
「そうさ。自分さえ良ければそれでいいんだ。だから俺はこの前の借りを返すために、ブランデンブルグのヤロウをぶっ倒す」
「私もだ。あの屈辱は必ず晴らさせてもらう」
ルイは振り向かずに言った。2人が立ち去った後、エリザベートは涙を流して、
「ありがとう……」
頭を下げた。
ブランデンブルグは、自分の艦の居室で美女達を侍らせて酒を飲んでいた。しかしどの美女も彼に触れる事は許されていない。
「ストラード・マウエルが死んだか。いよいよ、進撃の時が来たようだな」
ブランデンブルグは椅子の肘掛けに着いている通信機に、
「銀河系に向けて進撃を再開しろ」
と命じた。
ジョーは小型艇でフレッドの艦に行き、格納庫に降り立った。そこにはカタリーナとバルトロメーウスが立っていた。
「お客さんが一緒だ」
ジョーはルイをチラッと見た。ルイはフッと笑ってカタリーナとバルトロメーウスを見た。
「久しぶりだな、カタリーナ・パンサー、バルトロメーウス・ブラハマーナ」
「お久しぶりね、ルイ」
カタリーナは笑顔で答えたが、バルトロメーウスはムスッとしたままで何も言わなかった。