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第51話 大敵 ストラード・マウエル

 ストラード・マウエルは、エリザベートを皇帝の席に座らせ、その横に立っていた。

「3人共脱出したか」

「はっ」

 ストラードは眉間に皺を寄せて、

「作戦は中止だ。これより、ジョー・ウルフの小型艇の撃墜作戦を開始する」

と命令した。


「撃って来るのか?」

 インペリアルウォーシップの数多くの砲塔が展開するのを見てルイが呟いた。ジョーはフッと笑って、

「ならば懐に飛び込むまでだ」

 小型艇をインペリアルウォーシップに接近させた。次の瞬間、無数の光束とミサイルが、小型艇に向かって来た。ジョーはそれを巧みにかい潜りながらインペリアルウォーシップに向かった。

「でかい船は死角もでかいのさ」

 ジョーはストラッグルをセットし、撃った。特殊弾薬の光束が、艦体をぶち抜き、大爆発を起こした。

「早く突入しないと、液化金属ですぐに塞がってしまうぞ」

 ルイが指摘した。ジョーはニヤリとして、

「わかってるよ」

 ジョーの小型艇は速度を増し、砲弾を避けながらインペリアルウォーシップの中へ突入した。その直後、装甲板の穴が液化金属で塞がれ、空気の流れがやんだ。

「ジョー・ウルフの小型艇が内部に侵入しました!」

 通信兵が叫んだ。ストラードはエリザベートをチラッと見て、

「よし。すぐに戦闘要員を2人の侵入ルートに向かわせろ。白兵戦だ」

 エリザベートは恐る恐るストラードを見ていた。

( 何故お義父様は影の宰相と名乗って帝国を操っていたの? )

「私も出るぞ」

 ストラードが言うと、側近が仰天して、

「陛下、何も貴方様が……」

「私以外、ジョー・ウルフが始末できる者はいない。奴はどこだ?」

 ストラードはモニター係に尋ねた。モニター係は12あるモニターを切り替えながら、

「第13ハッチから突入、現在第11ブロックで戦闘中です」

「わかった。奴らを第9ブロックの小型艇格納庫に誘い込め」

「はっ!」

 ストラードは黒いマントをバッと翻すと、司令室を出て行った。エリザベートはそれを呆然として見ていた。

( お義父様は一体何を考えているの? )

 ジョーとルイは小型艇を出て何人かの敵をストラッグルで倒すと、通路を進んだ。やがて道はY字路になった。

「二手に分かれよう。そして先にストラードに出会った方が、奴を始末する。それで怨みっこなしだ」

 ルイが言うと、ジョーはフッと笑って、

「わかった。それでいい」

 2人は目配せして二手に分かれた。ジョーは右に、ルイは左に。

「ジョー・ウルフはどこだ?」

 ストラードは第9ブロックの入り口にいる戦闘要員に尋ねた。彼はストラードを見上げて、

「はっ、もうすぐこちらに来ます。ルイの方は如何致しましょう?」

「雑魚はいい。ジョー・ウルフさえ殺してしまえば、銀河系は完全に安定し、ブランデンブルグと対決できる」

 ストラードは前方を見据えた。


「ダメだ、絶対にいけねえ、カタリーナさん」

 工場の片隅でフレッドが大声で言った。カタリーナはフレッドに詰め寄り、

「確かにジョーは来るなって言ったわ! でも、でもね、私は行かなければならないの! 彼を愛しているから!」

 フレッドはカタリーナの迫力に圧倒されていたが、

「そう言われても……。ジョーが行ったのは帝国中枢部で、情報によると宮殿が爆発したって事だ。ジョーとルイがそのくらいの事で死ぬ訳はないが、あんたが行ったところでどうにもならないよ」

「助けようとか、何とかしようとか、そういう事じゃないの! 私は彼のそばにいたいのよ!」

 カタリーナは涙を流しながら言った。フレッドは溜息を吐いて、

「わかったよ。そう惚気られちゃ、こっちも敵わねえ……」

「ありがとう、フレッド!」

 カタリーナはフレッドに抱きついた。心なしか、フレッドはにやついていた。


 ジョーは第9ブロックに入り、先に進んだ。その時、小型艇格納庫の入り口から、銃声が聞こえた。

「むっ?」

 ジョーはハッとして入り口に向かった。彼が入り口の前に来た途端、まるで脳を鷲掴みされたかのような激痛が頭の中を駆け抜けた。

「ぐっ!」

 ジョーはストラッグルを投げ出して頭を抱え、膝を着いた。彼は人影が近づくのに気づき、顔を上げた。そこには実験動物を観察する冷徹な生物学者のような眼をしたストラードが、口元に微かに笑みを浮かべて立っていた。

「て、てめえは、ストラード……」

「よく来たな、ジョー・ウルフ。さすがに私が見込んだだけの事はある」

「何?」

 ジョーはようやく頭の痛みから解放され、ゆっくりと立ち上がった。ストラードはジョーを哀れむような顔で見て、

「何故今日までお前を生かしておいたのかわかるか?」

「何!? どういう意味だ?」

 ジョーはそう問い質しながらストラッグルを探した。

「お前のビリオンス・ヒューマン能力は半分発揮されただけで、銀河系に並ぶ者がいなくなる程だった。だからこそ私はお前を利用し、この銀河系の統一しようと考えたのだ」

「そうか。そのために俺を生かしておいたのか。フレンチやドミニークスの狸と俺が戦ったのも、結局はてめえの思惑通りだったって訳か」

「そのとおりだ」

 ストラードは高笑いをした。ジョーはギラッと目を光らせ、

「ビリオンス・ヒューマン追放令は粛清だったんだな。自分を超えたビリオンス・ヒューマンが現れては、皇室が危ないからな」

「そうだ。私は帝国維持のために、危険と思われる人物にビリオンス・ヒューマンのレッテルを貼り、追放した。中には本物のビリオンス・ヒューマンもいたが、実際は反皇帝派の連中を抹殺するための口実だったのだ」

「その中に俺の親父がいたんだな?」

 ジョーはストラッグルを拾って言った。ストラードはフッと笑い、

「お前の父親は真の反皇帝派だったのだ。あの男は、帝政自体を否定しようとしていた。だからバッフェンに命じて、奴をお前の目の前で銃殺させたのだ」

「……」

 ジョーの眼が怒りでグングン鋭くなった。ストラードはバッと黒マントを剥ぎ取ると、

「そしていつしかお前はこの私に向かって来ていた。それも計算通り! お前ら親子は帝国建て直しの人柱となり、礎となるのだ!」

 ジョーはハッとして一歩退いた。

「ブランデンブルグがどんな力を使うのかは知らんが、能力的に言って私が劣るとは思わん!」

 ストラードの両目がギラッと光った。途端にジョーの頭の中を猛烈な一撃が襲った。

「ぐわっ!」

 ジョーはヨロヨロとして壁にもたれた。額から汗が滲み、目が霞んだ。

「何だ、今のは……?」

 ストラードはジョーの様子を見てニヤリとし、

「今の衝撃が私の力だ。精神波とでも言うべきかな」

「精神波、だと?」

 ジョーは上目遣いにストラードを睨んだ。ストラードは上体を少し後ろに反らせて、

「ブランデンブルグの力は、恐らく物理的能力だろう。しかし私の力は精神的能力だ。奴は相手に接触しなければ相手を倒せんが、私は相手に接触しなくても相手を倒す事が出来る」

「それがこの、脳を鷲掴みされたような痛みか?」

「その通り。通常人なら、私の精神波を5回も食らえば脳細胞が破壊されて死んでしまう。しかし、お前は10回食らっても死なんだろう。但し、正気でいるとは思えんがな」

 ジョーはさすがに焦った。

( 掴みどころのない攻撃じゃ、防ぎようがねえ。どうする? )

 ストラードはジョーの心を見透かしたかのように、

「そう慌てる事はない。時間をかけて、じわりじわりとなぶり殺しにしてやる」

 再びジョーの頭の中を強力な衝撃が走った。ジョーは跳ね上がり、壁に激突した。

「うぐっ!」

「そら、もう一度!」

 ストラードの眼がギラッと光った。ジョーは白目を剥き、膝を床に着いた。彼はそのままドサッと倒れ伏した。

「まだ気を失うのは早いぞ、ジョー・ウルフ!」

 目も空ろなジョーの頭を、またしても衝撃が通り抜けた。ジョーはピクンと動いて仰向けになった。

「ビリオンス・ヒューマンは今のところ部分的変異人間(パーシャルビリオンスヒューマン)しか存在しない。ある特定の能力を持っている者しかいないのだ。要するに、絶対的変異人間(トータルビリオンスヒューマン)はいないのだ。私にしてもブランデンブルグにしても、そこまで行き着いていない」

 ジョーは微かに目を開いた。

( 何言ってやがるんだ、こいつは……? )

「その絶対的変異人間に到達しかけているのが、今のお前だ。物理的能力も、精神的能力も、半人前ながら有している。だから私はお前の事を使えると思った反面、危険とも思ったのだ」

「くっ……」

 ジョーは何とか身体を起こした。

( やられてたまるか…… )

 しかしまたしてもストラードの精神波が頭の中を襲った。

「うわっ!」

 ジョーはまた仰向けに倒れた。ストラードはジョーにゆっくりと近づき、

「超能力とは、あくまで普通の人間の潜在能力の開放に過ぎん。しかし、ビリオンス・ヒューマン能力は、その人間の誕生段階で通常人とは違うものが遺伝子に存在するのだ。よって、超能力者など足下にも及ばぬ力を有する事が出来る」

「……」

 ジョーは仰向けのままでストラードを見上げた。ストラードはフッと笑い、

「さてと。そろそろ終わりにしようか、ジョー・ウルフ」

 ベルトに下がっていた剣を抜いて振り上げ、ジョーの額目がけて振り下ろした。

「!」

 ジョー・ウルフの最期か、と思われた。しかし剣はジョーの額を割る前に、ストラッグルで弾き飛ばされていた。剣は床を転がり、壁に当たった。ストラードは右手をギュッと握りしめて、光束が来た方を見た。

「何者!?」

「私をお忘れか、ストラード・マウエル」

 そこにはルイがストラッグルを構えて立っていた。ストラードは歯ぎしりして、

「そうか、お前がいたか。まァ、いい。お前から片づけてやる」

 眼をギンと光らせた。

「ぐうっ!」

 ルイの頭を精神波が貫き、彼はガクッと右膝を着いた。

( 何だ、今のは? )

 しかしルイの思考はそこで破られた。

「うっ!」

 再び類の頭の中を精神波が襲った。ルイは左手を床に着き、ストラッグルを下ろした。

( くそ、この激痛は…… )

「フフフ……」

 ルイにすっかり気を取られていたストラードは、後ろにいるジョーがギラッと目を輝かせて立ち上がったのに気づいていなかった。ジョーの髪はその身体から発するビリオンス・ヒューマン能力で逆立っていた。ストラードはようやく後方の異変に気づき、振り向いた。

「ジョー・ウルフめ、まだ立てる余力があったか!?」

 ジョーはフラッとしながらも、

「俺はてめえなんぞに殺されねえ! まだ約束がいくつか残ってるんでな」

「くくっ」

 ストラードはルイとジョーを見比べながら壁を背にして下がった。

( もっとお互い近づいて来い。一緒に殺してやる! )

 ストラードはニヤリとした。そうとは知らないジョーとルイは、ジワジワとストラードに近づいて行った。

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