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第49話 悪魔の行軍

 ブランデンブルグの配下は、丸腰であった。ジョーは不信に思った。

( こいつら、一体どういうつもりだ? )

 配下の1人が、

「この2人を殺されたくなかったら、この星で大人しくしていろ。まもなく殿下がお戻りになる」

「殿下って、あの生っ白い男の事か?」

 ジョーが言うと、もう1人が、

「殿下を侮辱する事は許さんぞ!」

と怒鳴った。

「おい、お宅ら。人質がいるからって油断していると、酷い目に遭うぜ」

 フレッドが口を挟んだ。配下の1人は、

「何をっ!?」

 フレッドの襟首をねじ上げた。ジョーはニヤリとして、

「死にたくなかったら、フレッドとマリーを放せ」

「巫山戯るな、ジョー・ウルフ! 貴様如き、我々のみで十分だ。人質などいらぬ!」

 フワッと配下の2人が空中に飛び上がった。ジョーは上を見てストラッグルを構え、2人の胸を撃ち抜いた。2人はドサッと地面に落ちた。周囲にいた人達がギョッとしてジョー達を見た。バルトロメーウスとカタリーナもジョーを見た。

「終わったか」

 フレッドがマリーを促してジョーのところに行こうとした時、ムックリと2人が立ち上がった。ジョーは仰天した。2人の胸から血は出ていなかった。

「何!?」

 カタリーナとバルトロメーウスも驚愕していた。フレッドはビックリしてマリーと立ち止まってしまった。周りの人々は腰が抜ける程驚き、逃げ出した。配下の2人はニヤリとした。

「我々は新種の人類だ。どこを撃ち抜かれても死なない」

「何だと?」

 ジョーはストラッグルを下げた。

( 何かある。そんな化け物、いくら何でも存在する訳がねえ )

「ヤロウ!」

 バルトロメーウスが2人に突進し、2人同時に殴り倒した。グキッと頭蓋骨が砕ける音がし、配下の2人は倒れた。

「今度こそ……」

 バルトロメーウスは倒れた2人を睨みつけた。ところが、また2人は立ち上がった。

「ゾンビだな」

 フレッドが呟いた。2人はニヤッとしてジョーを見た。バルトロメーウスはゾッとして退き、

「こいつら、まだ生きてやがる!」

 その時、ジョーの目が輝いた。

(そうか……)

「わかったぜ、てめえらの弱点!」

「何!?」

 2人はギョッとしてジョーを見た。ジョーはストラッグルを構えて1人の右腕を肩から撃ち落とした。

「グギャッ!」

 男の右腕は爆発し、本体は倒れて動かなくなった。もう1人は仰天して逃げようとした。

「待てよ」

「うっ……」

 配下はギクッとして立ち止まった。ジョーはストラッグルをホルスターに戻し、

「人間に機械をくっ付けるサイボーグっていうのは知ってるが、機械に人間をくっ付けるってえのは初めてだぜ」

「そこまで見破ったのか……」

 配下はニヤッとして振り向き、

「確かにお前の言う通り、俺の本体は機械だ。生身の部分はカムフラージュに過ぎん。しかし、ブランデンブルグ公国の恐ろしさを知るのはこれからだ、ジョー・ウルフ!」

 言うや否や、右腕を飛ばした。右腕はジョーの首を目がけて突進した。ジョーはストラッグルを抜き、右腕を撃った。右腕は爆発し、配下は倒れた。ジョーはフーッと溜息を吐き、

「バッフェンやストラードの事で手一杯だってえのにな」

と呟いた。


 一方、宮殿の庭ではバッフェンとブランデンブルグの睨み合いが続いていた。

「そうか。貴様がブランデンブルグ公か。陛下が恐れられていただけの事はある。確かに貴様から強力な圧迫感を感じる」

 バッフェンが言うと、ブランデンブルグはフッと笑い、

「ストラード・マウエルの事か? どこにいる?」

「陛下がどこにいらっしゃるのか貴様に教える必要はない」

「何故だ?」

 ブランデンブルグは恍けて尋ねた。バッフェンはカッと目を見開き、

「貴様はここで私に殺されるからだ!」

 肘、膝から鋭い両刃の剣を出し、ブランデンブルグに襲いかかった。

「八つ裂きにしてくれる!」

 バッフェンの両肘が前に突き出され、ブランデンブルグの鼻先で上下左右に動いた。しかし、ブランデンブルグは目を伏せたままそれを悉くかわした。そして両手をスッと上げると、ガシッと剣を人差し指と親指で挟んだ。

「うっ!」

 バッフェンは額から汗が流れた。

(化け物だ……。私の剣の動きを捉えるとは……)

「食らえっ!」

 バッフェンの右膝の剣がブランデンブルグの腹に向かった。しかしブランデンブルグはスッと飛び上がり、バッフェンの右膝の剣から逃れると、その反動を利用してバッフェンの顔面に両膝蹴りを見舞った。

「ぎゃっ!」

 バッフェンの鼻と口から血飛沫が上がり、彼は地面に倒れた。

「うっ……」

 その時ようやくルイが立ち上がった。

「貴様がブランデンブルグだったのか……」

「やっと気がついたか、ルイ・ド・ジャーマン。お目当てのバッフェンは私が片づけるぞ」

「えっ?」

 ルイは口と鼻から血を滴らせているバッフェンを見て驚いた。

(あのバッフェンがこんな無様な姿に……)

「私はどうやら貴様を見くびっていたようだ。今度は今のような訳にはいかんぞ」

 バッフェンは再びブランデンブルグに突進した。ブランデンブルグはまた目を伏せた。バッフェンはニヤリとし、

「もらった!」

 右肘の剣を飛ばした。しかしブランデンブルグは目を伏せたままでそれをかわしてしまった。バッフェンはギョッとしたが、続けて左の肘の剣を飛ばした。だがそれもまたブランデンブルグにスッとかわされた。バッフェンは唖然とした。

「バカな……」

「終わりか?」

「うっ……」

 ブランデンブルグはニヤリとして目を上げ、

「では次はこちらから行くぞ」

 スッと消えた。バッフェンはまた驚き、

「消えた?」

 狼狽えて叫んだ。しかしブランデンブルグは消えたのではない。それは後ろで見ているルイにははっきりとわかった。

(奴は一瞬逆に動いてから上に飛んだ。だからバッフェンには消えたように見えたのだ)

「アウス・バッフェン、私はここだ」

「はっ!」

 バッフェンが上を見た時、すでにブランデンブルグの右手の5本の指が彼の目の前に来ていた。

「ぐわっ!」

 バッフェンは両目を突かれ、後ろによろけた。ブランデンブルグはスッと着地し、

「バッフェン、お前はジョー・ウルフより自分の方が優れていると思っているようだが、それは大きな誤りだ」

「何ィッ!?」

 バッフェンは目から血を拭ってブランデンブルグを睨んだ。ルイも顔を強ばらせた。

( 何だ? )

「ジョー・ウルフがお前に勝てなかったのは、奴が自分のビリオンス・ヒューマン能力を認めていないからだ。もしジョー・ウルフが100%ビリオンス・ヒューマン能力を発揮すれば、お前など一たまりもない」

「何だとォッ!?」

 バッフェンは怒りに我を忘れた。ブランデンブルグは嘲るように笑い、

「ジョー・ウルフに劣るお前に、私の部下たる資格はない。その上、お前は私を憎悪している」

「何を訳の分からんことを!」

 バッフェンはブランデンブルグにステルスを向けた。ブランデンブルグはギラッと眼を光らせて、

「憎悪を抱いている以上、死んでもらわねばなるまい」

 再びフッと消えた。バッフェンは迷わず上を見た。

( バカめ )

 しかし、そこには誰もいなかった。ブランデンブルグはバッフェンの足下にいた。

「何!?」

 ズオオオッという気流が巻き起こり、バッフェンの顎にぶち当たった。

「ぐえっ!」

 バッフェンの顎の骨が砕け、彼はそのまま後ろに吹き飛ばされて倒れた。ブランデンブルグのあまりにも速い拳の動きが、バッフェンの顔付近に一瞬真空状態を作り出したのか、バッフェンの顔が真ん中から切れ、血飛沫が上がった。

「グゲェッ!」

 バッフェンは動かない顎の奥から叫び声を絞り出した。その直後、防弾服の胸の部分が真ん中からバサッと切れた。ストラッグルの光束をも弾く特殊素材にも関わらず……。ブランデンブルグの攻撃は全く容赦がなかった。

「止めだ、バッフェン!」

 ブランデンブルグの右正拳が、バッフェンの胸元に迫った。

「フグオッ!」

 バッフェンはササッと転がり、ブランデンブルグの攻撃を避けた。彼はヨロヨロと立ち上がった。

「お前の身体、きれいに片づけてやる」

 ブランデンブルグは瞬時にバッフェンに近づき、右の突きで左胸を貫いた。

「ゲフッ!」

 バッフェンは口から大量の血を吐き出した。突きは背中を突き抜けていた。鮮血が飛び散り、辺りが赤黒く染まった。

「さァてと」

 ブランデンブルグは不敵に笑い、突きを抜くと、

「今度はここだ!」

 両拳をバッフェンの顔面に叩き込んだ。

「ブベッ!」

 バッフェンの顔面はグシャッと潰れて、彼は後ろにドサッと倒れた。彼は絶命していた。ブランデンブルグはニヤリとして、

「お前など、片手でも殺せたがな」

 ルイは呆然としていた。

(バッフェンがまるで子供扱いだ……。何という男なのだ……)

「ルイ・ド・ジャーマン」

 声をかけられ、ルイはビクッとした。ブランデンブルグは手から血を滴らせてルイを見ていた。

「お前は私に憎悪を抱いてはいないようだな」

「しかし、それは貴様の腹の内如何だ。もし貴様がジョー・ウルフをも殺そうとしているのなら……」

 ルイがストラッグルに手をかけると、ブランデンブルグはフッと笑って、

「私はジョー・ウルフを殺すつもりはない。只、跪かせたいだけだ。私の忠実な部下としてな」

「ジョー・ウルフは誰の部下にもならない」

「そうらしいが、私には屈服せざるを得んよ。それはお前にはよくわかっているはずだ」

 ブランデンブルグが言うと、ルイはグッと詰まった。


 ジョーは自分の小型艇に乗り込もうとしていた。カタリーナがその傍らに立っていた。

「今度は連れて行く訳にはいかねえ」

 ジョーが言うと、カタリーナは、

「わかったわ。わかったから、必ず生きて帰るって約束して」

「それはできねえ」

「何故?」

 カタリーナが涙声で叫ぶと、ジョーは、

「俺は守れない約束はしたくないんだ」

 スッと小型艇に乗り込み、ハッチを閉じた。カタリーナはハッとした。ジョーの小型艇は轟音と共に港を飛び立って行った。

「ジョー、無事に帰って……」

 カタリーナは祈るように呟いた。


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