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第40話 ルイとテリーザ

 ジョーは工場でバルトロメーウスと共にフレッドの仕事を手伝っていた。

「むっ?」

 ジョーは工具を置いて入り口の方に目を向けた。誰も視界にはいないが、付近に殺気が漂っている。バルトロメーウスもハッとして手を止め、

「誰か来たな」

 ジョーはフッと笑って、

「全く、この工場には道を訊きに来る奴が多くて困るな。ちょっと教えて来るぜ」

 ストラッグルに手をかけて入り口に向かった。その時、軽身隊が3人、いきなり飛び込んで来た。

「やっぱりてめえらか!」

 ジョーのストラッグルが吠えた。軽身隊3人は工場の壁に叩きつけられた。しかしスーツが光束を弾いてしまう。3人はすぐさまジョーに突進した。

「キリがねえ!」

 ジョーは軽身隊の攻撃をかわしながら舌打ちした。そこへバルトロメーウスがやって来て、

「このヤロウ!」

 右ストレートで1人を後ろに吹っ飛ばし、他の2人も続けざまに殴り倒した。しかし軽身隊はその程度ではやられない。

「畜生、何て奴らだ」

 バルトロメーウスは拳を握りしめて悔しがった。さらに残りの17人がどやどやと工場内に入って来た。ジョーはニヤリとして、

「今日は迷子の多い日かよ。こんなにバカがいるのか?」

 次の瞬間、軽身隊が一斉に2人に襲いかかって来た。そこへカタリーナとフレッドが駆けつけた。

「ジョー、これを!」

 カタリーナがカートリッジを投げた。ジョーは素早くそれをストラッグルに装填し、軽身隊を撃った。それは以前カタリーナがアーマンド星のルイドンのホテルで軽身隊を撃退した時に使った流動物弾であった。流動物は軽身隊の1人の顔を覆った。軽身隊は突進をやめ、後ずさりを始めた。カタリーナはバルトロメーウスにストラッグルを2丁投げた。

「バル、それにも同じカートリッジが入っているわ」

「了解!」

 ストラッグル3丁が次々に軽身隊の顔面に流動物弾を撃ちつけた。軽身隊は遂に退散した。

「二度と来るなよ!」

 逃げ去る軽身隊にバルトロメーウスが叫んだ。彼はその時、通りの端にルイが立っている事に気づいた。

「あ、あんたは……」

「しばらくだったな、バルトロメーウス・ブラハマーナ」

 バルトロメーウスは何かを思い出したように、

「ちょうど良かった。中に来てくれ」

「どういう事だ?」

 ルイはバルトロメーウスの意外な言葉に眉をひそめた。

「いいから!」

 バルトロメーウスはそう言って中に入って行った。ルイは不思議に思いながらも、工場に入った。そしてジョーと目があった。ジョーは何も言わずに奥を見た。

「何だ?」

「ルイ、貴方に会わせたい(ひと)がいるのよ」

 カタリーナが言った。ルイはカタリーナを見て、

「会わせたい? 誰だ?」

「テリーザ・クサヴァーよ」

 ルイはあまりにも意外な名前に仰天した。

( テリーザ? 何故彼女がここに……? )


「軽身隊がまたジョー・ウルフを襲撃したのか」

 部下からの報告を受けて、バッフェンは呆れ顔でそう言った。彼は椅子に沈み込んで、

「何度やっても奴らにジョー・ウルフを殺す事は出来ん。陛下が奴に目をつけたのはそのためだ」

 部下がさらに、

「このままで宜しいのですか、隊長?」

「何の事だ?」

 バッフェンは恍けて尋ねた。部下は身を乗り出して、

「ジョー・ウルフの事です。このまま放っておけば、必ず帝国に害をなします」

「ではどうしろというのだ?」

「それは……」

 部下は言葉に詰まった。バッフェンはフッと笑い、

「闇雲に奴を殺そうとしても何もならん。お前らは私の命令に従っていればそれでいいのだ」

「はァ……」

 バッフェンは立ち上がると部屋を出て行ってしまった。


 テリーザが目を覚ますと、そこにはルイの顔があった。テリーザはびっくりして起きようとした。するとカタリーナが、

「寝てなくちゃダメよ。貴女はとても疲れているんだから」

 肩を押さえた。テリーザはルイを見たままで、

「ルイ、私一体……」

「お前はジョー・ウルフに助けられてここに運ばれたのだ。礼を言っておけ」

 ルイはそう言うとテリーザから離れて部屋を出て行こうとした。ジョーとバルトロメーウスとフレッドは、部屋の隅でそれを黙って見ていたが、

「待ちなさいよ、ルイ!」

 カタリーナが呼び止めた。ルイは立ち止まってチラッとカタリーナを見た。カタリーナは憤然として、

「この(ひと)は貴方の恋人なんでしょう? どうしてそんな冷たい態度をとるの!?」

「その女に訊くのだな」

 ルイはドアに手をかけた。カタリーナはムカッとして駆け寄ると、ルイの左頬に平手打ちを食らわせた。ルイの顔は右に大きく動き、右足が一歩横に動いた。カタリーナは怒って、

「何よ、その態度は!? あの(ひと)が死にかけていたっていうのに、どうしてそんな事が言えるの!?」

 ルイは左頬を撫でながら、

「お前には関係ない事だ、カタリーナ・パンサー。これは私とその女の問題だ」

「そうです。カタリーナさん、ありがとうございます。でも、ルイが私の事をこんな風に扱うのも私のせいなんです。仕方がないのです」

とテリーザが口を挟んだ。カタリーナはテリーザに近づいて、

「そんな事って……。何があったのかは知らないけど、そんなあっさり結論を出してしまっていいの? 貴女、彼を探していたんでしょう?」

 テリーザが何かを言おうとした時、ルイが、

「何故私を探していた?」

 テリーザはルイを見て、

「貴方のそばにいたかったから……。貴方を愛しているから……」

「……」

 ルイは黙ってテリーザに近づいた。カタリーナはテリーザから離れて、ジョーのそばに行った。テリーザは涙を流していた。

「いくら謝っても許してもらえない事はわかっているわ。でも、貴方に会いたかった……。どうしても……」

「バカな……。どうしてこんな事になるまでこの星にいたのだ? この星は働けない者が来る星ではない。ましてやお前のような女が暮らせる星ではないのだ」

「ルイ、私……」

 ジョーがカタリーナの肩に手をかけた。カタリーナはハッとしてジョーを見た。ジョーはフレッドやバルトロメーウスに目配せし、部屋を出て行った。カタリーナもそれに続いて外に出て、静かにドアを閉じた。

「他に思いつかなかったの……。たとえ飢えて死んでも、貴方と同じ星にいたかった……」

 テリーザの言葉にルイは唖然とした。

「お前は……」

 彼の顔は相変わらず冷たかった。彼にはテリーザの気持ちが理解できなかった。

( この女は何故それほどまでして私のそばにいようとするのだ? 全くわからん )

 ルイはテリーザに背を向けて、

「身体が回復したら、すぐにこの星を出ろ。お前のような女が生きて行ける星ではない。父上も心配していよう」

 するとテリーザは、

「父は……亡くなりました」

「何?」

 ルイは振り向いた。

「亡くなった? 病気でか?」

「いいえ。自殺です。クサヴァー家は借金で家も土地も全て抵当に入っていて、父は借金を返す事が出来ず、自殺してしまったのです。父にとって、枢密院の幹部が借金をしていると他人に知られるだけでも、自殺する理由に値したのです」

「それではお前とマリーは一体……?」

「マリーは帝国内で借家暮らしをしています。あの子は私と違ってしっかりしているし、稼ぎもありますから……。借金の方は家と土地とその他の財産を売却して何とか完済しました」

「……」

 ルイは何も言えない程驚いていた。

( そこまで落ちても、この女は私を追って来たのか? )

「何故家の一大事の時に私を追って来たのだ?」

「私にとって、クサヴァー家など束縛するものでしかありません。それはマリーにとっても同じ事……」

「バカな……。家を捨てるという事はどんな事なのかわかっているのか?」

「わかっています。命を賭けるという事です」

 テリーザは少し起き上がって言った。ルイは目を細めて、

「何に命を賭けるというのだ?」

「貴方に」

 ルイは目を見開いた。彼は額に手を当てて、

「わからん。全くわからん。お前の考えている事は……」

「それは私も貴方に対してそう感じるのです。何故貴方はそうまでしてジョー・ウルフを追うのですか?」

「……!」

 ルイはハッとした。

( ジョー・ウルフを追う私と、私を追うテリーザは同じだというのか? )


 ベスドムはステーションの司令室で部下の報告を受けて激怒していた。

「バカ者め! 何とかせんと、我々は帝国とドミニークス軍の双方から攻め込まれてしまうぞ……」

「はァ、しかし……」

 部下はビクビクして言った。ベスドムは司令室を歩き回りながら、

「帝国打倒の絶好のチャンスなのだ……。今この機会を逃したら、二度と帝国を打倒する事は叶わぬ」

と呟いた。


 ルイとテリーザは無言のまま見つめ合っていた。

( 私とテリーザはこんなに互いがわかっていなかった。何故だ? )

「わかって、ルイ。私は貴方を愛しているのです。只、それだけなのです……」

 テリーザは言った。ルイは目を伏せて、

「迷惑だ。お前とはもう二度と会いたくない」

「ルイ……」

 ルイは再び背を向けるとドアに近づいた。彼はドアを開きながら、

「今度私の前に姿を現したら、お前を殺す」

 言い残して部屋を出て行った。テリーザは泣き伏した。

「ううう……」

 ルイは誰もいない廊下を工場の方へと歩いて行った。


「やっぱり気になるわ。見て来る」

 カタリーナが工場の休憩室からテリーザのいる部屋に行った時には、すでにルイの姿は廊下にもなかった。カタリーナは部屋のドアを開いて、そこにテリーザが泣き伏しているのを見てビックリした。

「テリーザさん、どうしたの?」

 カタリーナは近づいて尋ねた。しかしテリーザはすすり泣くだけだった。カタリーナはドアの方を見て、

「ルイ・ド・ジャーマン! 許さない!」

と叫んだ。

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