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第37話 ジェット・メーカーの逆襲

 ジョーは歩きながら後ろからの殺気を感じていた。

( バカめ。どこのどいつだ? )

 彼はニヤリとしてそのまま宇宙港に向かった。ジョーを尾行している連中は5人おり、ジョーに気づかれているとも知らずに彼を追っていた。

 ジョーはやがてフレッドの艦の所まで来た。彼は小型艇をリフトで運び出すと、射出用カタパルトに載せた。

( 連中は? )

 ジョーは小型艇に乗り込みながら周囲を見回したが、尾行者の姿はそこにはなかった。

( 何者だったんだ? )

 ジョーは不思議に思いながら発進した。強力なGが身体にかかった。傷口が痛み、身体中が痺れた。しかしジョーは加速をやめなかった。

( やっぱり、奴は生かしておくべきじゃなかった。いつかこうして災いとなって降り掛かって来る事はわかっていたんだ )

 小型艇は大気圏を離脱し、惑星間航行速度に入った。やがて加速は終わり、ジョーはフーッと息を吐いた。

「待ってろよ、メストレス」

 彼は呟いた。


 その頃帝国の辺境域の各惑星で、次々と親衛隊を名乗る暴力集団が現れ、住民の虐殺が行われた。

「一体何者がそのような事を?」

 謁見の間で報告を受けたエリザベートが尋ねた。バッフェンは跪いて、

「フレンチの軽身隊だという事はわかっております。連中は帝国の地位をおとしめようとして、そのような行為に出たものと思われます」

 エリザベートは憤然として、

「ならばすぐに軽身隊を討ちなさい。帝国の名誉と尊厳を守るために」

「はっ」

 バッフェンはそう答えて退室した。

 彼はその足で謎の人物がいる部屋に行った。

「ならん。いくら皇帝の命令でも、今はいかん」

 その人物は言った。バッフェンはその人物に近づき、

「しかし、このままでは私の気がすみません。親衛隊を只の殺人集団と思われるのは、堪え難い屈辱です」

「熱くなるな、バッフェン。今は待つ事だ。ベスドムの後ろに誰かがいる」

「はァ……」

「そいつの正体がわかるまで、迂闊な行動はとるなよ」

「はい……」

 バッフェンは不満そうに頭を下げた。


 帝国秘密警察の署長室で、机を挟んでジェット・メーカーと署長が向かい合っていた。ジェット・メーカーは憤然としており、署長は爪を磨いていた。ジェット・メーカーは机をドンと叩いて、

「何故です? 何故ジョー・ウルフの追跡をしてはいけないのです?」

「お前に勝てる相手ではないからだ。ジョー・ウルフの事は親衛隊に任せておけばいい」

「しかし、その親衛隊は今疑惑の真っ只中です。動けはしません」

「だからと言って、お前らが動く事はなかろう」

 署長は爪を磨くのをやめて、ジェット・メーカーを見上げた。するとジェット・メーカーは胸のバッジをむしり取り、内ポケットから身分証を取り出し、

「ならば個人の資格で奴を追わせてもらいます」

 机の上に叩きつけた。署長は哀れむようにジェット・メーカーを見て、

「わからん奴だな。私はお前を死なせたくないのだ。ジョー・ウルフなどの事より、今はブランデンブルグの事を考えるのが先なのだ」

「ブランデンブルグと言うと、大マゼラン雲をたちどころに制圧したという?」

「そうだ」

 ジェット・メーカーは黙り込んだ。署長はニヤリとして、

「わかったな、ジェット」

 しかしジェット・メーカーは、

「いえ、わかりません。こう申しては帝国に対する忠誠心を疑われましょうが、私は自分の誇りも守れないような奴に帝国を守る事など出来ないと考えております」

「なるほど。だが、お前の誇りとやらは何に対するものだ? ルイ・ド・ジャーマンに対するものではないのか?」

「うっ……」

 ジェット・メーカーは図星だったので、グッと言葉に詰まった。署長はフッと笑って、

「わかった。好きなようにしろ。但し、責任は全てお前が取れ。間違ってもお前のせいでジョー・ウルフが帝国に向かって来るような事にはするなよ」

「もちろんです。私は奴と刺し違える覚悟です」

 ジェット・メーカーは、毅然として言った。


「ジョー・ウルフです」

 フレンチステーションの司令室で、監視員の1人が報告した。ベスドムはキャプテンシートから立ち上がり、

「恐れる事はない。今のジョー・ウルフなら、軽身隊で楽に始末できる」

 すぐさま軽身隊がステーションから出撃した。軽身隊の小型艇がジョーの小型艇に接近した時である。小型艇の銃座が開いていないのに、突然ストラッグルの光束が走り、軽身隊の小型艇2艘を貫いた。2艘は爆発し、周囲の何艘かを巻き込んだ。5艘が逃げ切り、ジョーの小型艇に向かった。またストラッグルの光束が走ったが、今度はかわされた。小型艇は入り乱れ、ジョーの小型艇に攻撃が仕掛けられた。しかしジョーの小型艇は、軽身隊の小型艇の機銃程度では傷もつかなかった。

「さすがにじいさんの小型艇は違うな」

 ジョーは感心して呟いた。しかもジョーの駆る小型艇は、その機動性でも軽身隊の小型艇とは比べ物にならなかった。たちまち軽身隊の小型艇は全滅し、ジョーはステーションに向かった。

「バカな……。いくら奴が不死身でも、瀕死の重傷を負っていれば……」

 ベスドムは顔面蒼白だった。

「ついでにこのステーションもぶっ潰すか。これの持ち主には、随分と世話になったからな」

 ジョーはストラッグルを連射した。光束が次々にステーションに突き刺さり、爆発が起こった。ジョーの小型艇は旋回してステーションの下部に回り込んだ。その時、小型艇の下部に光るものがあった。それは小型の超空間発信機であった。

「爆発箇所を切り離せ。反撃しろ!」

 ステーションから雨の如く砲火とミサイルがジョーの小型艇に襲いかかった。しかしジョーの小型艇は巧みにそれをかわしながら、ステーションの下部に向かい、ストラッグルを連射した。下部エンジンが火を噴き、ステーションの内部に爆発が及んだ。

「閣下、このままではメインエンジンも破壊されて、ステーション自体が爆発してしまいます」

 機関長の声が通信機から聞こえた。ベスドムは忌ま忌ましそうな顔をして、

「全力噴射だ。奴を近づかせるな!」

「了解」

 轟音と共にメインエンジンが噴射され、フレンチステーションはゆっくりと前進し始めた。ジョーの小型艇は噴射で吹き飛ばされ、回転した。

「ちっ!」

 ジョーは何とか体勢を立て直し、ステーションを追った。ところがステーションは忽然と姿を消した。

「ジャンピング航法か」

 フレンチステーションほどの巨大な物体が行うジャンピング航法は小型艇のそれの比ではない。到底追える距離ではないし、ジョーの小型艇には追跡用のシステムがなかった。

「逃げられたか……」

 その時彼の目の前に別の小型艇が現れた。それは帝国秘密警察のものだった。

「何だ?」

 ジョーはストラッグルの引き金に指を掛けた。

( 帝国か? )

 帝国の小型艇の攻撃が始まった。

「くっ……」

 ジョーは攻撃をかわし、小型艇に接近した。その時通信機に、

「聞こえるか、ジョー・ウルフ? 久しぶりだな」

 声がした。ジョーはフッと笑って、

「何だ、てめえか、ジェット・メーカー」

「今度こそ貴様を殺す」

 ジェット・メーカーの小型艇がジョーの小型艇の後ろについた。ジョーの小型艇は垂直上昇してジェットの小型艇の後ろに回った。

「うっ!」

 ジェットは泡を食って後方のミサイルを連射した。しかし全てかわされてしまった。

「こうなったら……」

 ジェット達の小型艇は急に逃げ出した。ジョーはこれを追った。

「罠か?」

 ジェット・メーカー隊は小惑星群がある宙域まで来ると、一番大きい小惑星に着陸した。ジョーの小型艇はそこから少し離れたところに着陸した。

「何のつもりだ?」

 ジョーは宇宙服を着込み、ストラッグルを構えると外へ出た。

「どこだ?」

 ジョーはフワリフワリと岩山を飛んだ。その時光束がジョーを掠めた。

「うっ!」

 ジョーは素早く岩陰に隠れてストラッグルの弾薬を確認した。

( どこだ? )

 しかし宇宙空間では空気の乱れがわからない。殺気さえも伝わって来ない。相手の動きを封じるのは難しかった。

( そうか。小型艇戦じゃ俺に動きを読まれるから、銃撃戦に持ち込んだのか )

 ジョーは岩山の一角をストラッグルで撃った。途端に周囲を黒い影が5つよぎった。

「バカめ、挑発に乗りやがって」

 ジョーはパッと地面を蹴って10m程飛び上がった。周囲を走るジェット・メーカーの部下達が見えた。

「食らえっ!」

 ストラッグルの光束がたちまち5人を倒した。ジョーはゆっくりと地面に降り立った。そのジョーの足下を光束が走った。彼はサッと身を退け、ストラッグルを撃った。岩山が崩壊し、その向こうにジェットの部下が現れた。その部下は仰天したが、次の瞬間ヘルメットを撃ち抜かれて倒れた。

「もう終わりか、ジェット・メーカー?」

 ジョーは通信機に言った。しかしジーッという雑音が聞こえるだけであった。

「どこにいる? コソコソ隠れていねえで出て来やがれ!」

 ジョーは当たりを見回した。しかしどこにもジェットの姿はなかった。その時小惑星の上空から光束が放たれた。

「はっ!」

 ジョーはそれをかわし、ストラッグルを撃ち返した。しかしそこには誰もいなかった。

( 自分から仕掛けて来ただけの事はあるな。考えやがったな、あのヤロウ )

 ジョーは周りを見た。ジェット・メーカーの姿はない。ジョーはジェットの小型艇が着陸した方へ進んだ。ジョーがフワリと地面に降りた時、後ろの岩陰からいきなりジェットが現れ、スタバンを構えた。ジョーはチラッと視線を送ったが、気づかないフリをして前進した。ジェット・メーカーはスタバンを撃った。しかしジョーはそれをスッとかわした。そして振り向き様にストラッグルを撃った。

「くっ!」

 ジェット・メーカーはスタバンを弾き飛ばされて右手を押さえた。ジョーはジェットに近づいてヘルメットをくっつけ、

「ここでこのまま死ぬか、それとも俺に殺されるか、どちらかを選べ」

「ククク……」

 ジェット・メーカーは不敵な笑みを口元に浮かべた。ジョーは、

「何がおかしい?」

 ジェットはジョーの後ろを指差した。ジョーが振り向くともう1人のジェット・メーカーが立っていた。

「何!?」

 ジョーは唖然としてもう1人のジェットを見た。

「そいつは囮だ。よく見てみろ、ジョー・ウルフ」

 ジョーは前にいるジェットを見た。それは精巧に出来たアンドロイドだった。ジョーはアンドロイドのヘルメットをストラッグルで撃った。

「勝負はこれからだ、ジョー・ウルフ」

 ジェットはスタバンを構えた。アンドロイドはブスブスと火花を散らし、やがてボンと爆発して散った。ジョーはジェットに近づいた。

「随分と手の込んだやり方をするじゃねえか、ジェット」

「お前のような化け物を倒すには、頭を使うしかないのでね」

 ジョーはニヤリとして、

「誰に考えてもらったんだ?」

「ほざけっ!」

 2人の睨み合いは凄まじく、火花が散るようであった。

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