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第33話 対決! フレンチ候国 VS 銀河帝国

 軽身隊の小型艇が、傭兵部隊と接触した。泡を食ったのは軽身隊である。傭兵部隊はたちまち軽身隊をストラッグルで艇ごと吹き飛ばした。軽身隊は隊列を乱し、苦戦を強いられた。ベスドムは傭兵部隊出現を知り、仰天した。

「何故トムラーの傭兵部隊が帝国にいるのだ?」

「連中は金で動く私兵です。帝国に雇われたのでしょう」

 マリアンヌが言った。ベスドムは歯ぎしりし、

「ではこの戦い、とんでもない誤算が生じた事になるぞ」

 それを聞いたマリアンヌはフッと笑い、

「いくら傭兵部隊でも、あの男の名前を聞き、あの男の姿を見れば逃げ出します。ジョー・ウルフを出します」

「わかった。そうしてくれ」

 ベスドムは右手を額に当てて言った。マリアンヌは軽く頷いた。


 ジョーは小型艇を発進させ、アステロイドベルトを通り抜けた。傭兵部隊は、ジョーの小型艇に気づいて度肝を抜かれた。

「あ、あれは……」

「間違いねえ、ジョー・ウルフだ。メルトがたちどころにやられたって聞いたぞ」

「冗談じゃねえ、あんな化け物と戦えるかよ!」

 傭兵達は我先にと逃げ始めた。その様子を見て情報部長官は激怒した。

「何をしておるのだ? 敵前逃亡は銃殺刑だぞ!」

「ジョー・ウルフが現れたんだ。俺達は奴と一戦交えるつもりはねえし、契約書にもそんな事は書かれていねえ。手を引かせてもらうぜ。残金はいらねえよ」

 傭兵部隊のリーダーが通信機で答えた。長官は唖然とした。

( ジョー・ウルフだと? 奴がフレンチ軍にいるというのか? )

「バカな! 偽りだ! そんな事があるはずがない! ジョー・ウルフが人のために戦うものか! 偽者だ! ジョー・ウルフではない!」

 長官は怒鳴った。その瞬間、左前方の艦が光束で貫かれ、爆発した。それは明らかにストラッグルのものであった。一撃必殺の特殊弾薬は、戦艦でも三発で沈められる。長官は蒼ざめた。

「本物……。本物のジョー・ウルフか?」

 傭兵達が逃走してしまった今、帝国側の敗北は目に見えていた。


 エリザベートは謁見の間で側近から報告を受けていた。

「ジョー・ウルフがフレンチ軍に加担しているというのですか?」

「はい。如何致しましょう?」

「……」

 エリザベートは考え込んだ。

( ジョー・ウルフと互角に戦えるのは、ルイ・ド・ジャーマン只1人だと聞く。そのルイがいない今、帝国にはなす術がない )

 すると影の宰相の声が、

「撤退する事ですな。ジョー・ウルフ相手では、傷口を広げるばかりです」

「ええ……」

 エリザベートは目を伏せた。

「フレンチは放っておけば必ずジョー・ウルフに手痛いしっぺ返しを食らいます」

「……」

 エリザベートは黙って頷いた。


 ジョーはストラッグルを連射していたが、帝国側が撤退し始めたのを見て、撃つのをやめた。彼は小型艇を反転させ、フレンチステーションに向かい始めた。するとマリアンヌの声が、

「何故戻って来る、ジョー・ウルフ?」

「帝国は撤退し始めた。追撃は危険だ」

「何を言う? 火の粉は最後の一つとて消し止めておかねばならない!」

「……」

 ジョーは構わずステーションに帰還した。すると彼と入れ違いに軽身隊の小型艇が再び出撃し、追撃戦を開始した。帝国の艦船は全速力で逃げ始めた。軽身隊は容赦なくそれらに攻撃を仕掛け、撃破して行った。

「そうだ! 1隻たりとも帰還させてはならん! 1隻の帰還は10隻の反撃を呼ぶぞ!」

 ベスドムは叫んだ。マリアンヌはその横で不敵な笑みを浮かべていた。

「ジョー・ウルフの小型艇が第14ハッチから入ります」

と報告が入った。マリアンヌは、

「わかった」

と言うと、サッと司令室を出て行った。


 フレンチ軍と帝国の戦いを遠くから見ている者がいた。フレッドとバルトロメーウスである。彼らは戦闘宙域から50万kmの距離にいた。

「ジョーは無事かな?」

 バルトロメーウスが言うと、フレッドは、

「もちろんさ。今までどんな事があってもジョーは死なんかった。今度も生きとるよ」

「しかし今回はマリアンヌが相手だぜ」

「うむ……」

 フレッドもマリアンヌの名前が出ると、黙り込んでしまった。


 そのマリアンヌは、第14ハッチでジョーと向かい合っていた。

「どういうつもりだ、ジョー・ウルフ? 上官の指示なしで帰還するとは」

「てめえはいつから俺の上官になったんだ?」

 ジョーはニヤリとして言った。マリアンヌはムッとして、

「カタリーナの命が惜しくないのかい?」

「……」

 ジョーは黙って目を伏せた。マリアンヌはフッと笑って、

「カタリーナを助けて欲しければ、もう一度戦って来なさいよ」

「嫌だね」

 ジョーは目を上げて答えた。マリアンヌはキッとジョーを睨み、

「後悔する事になるよ」

 ジョーはマリアンヌの脇を通り、通路に行こうとした。するとマリアンヌの爪が後ろから襲いかかった。ジョーはそれをサッとかわし、マリアンヌの髪を鷲掴みにした。

「巫山戯た事をするなよ。カタリーナのいる所に案内してもらおうか」

「くっ……」

 マリアンヌはギリギリと歯ぎしりした。ストラッグルが彼女の背中に押し当てられていたのだ。


 宇宙(そと)では、帝国の巡視艇の部隊が全滅し、軽身隊が帰還しようとしていた。フレッドはスクリーンでこの様子を見て、

「よし、今だ!」

と言い、艦を発進させてフレンチステーションの向かった。バルトロメーウスは宇宙服を着てストラッグルを両手に持つと、ハッチに出た。

( ジョーはあの中か )

 彼は窓からステーションを見た。

 ステーションはフレッドの艦の接近を知り、攻撃をして来た。しかしフレッドの艦は戦艦並みの装甲の商船なので、直撃しない限りビクともしない。それどころか、甲板から砲塔が現れて、ステーションに反撃を開始した。

「バル、出てくれ。ステーションの攻撃はこっちに引きつけておく」

「了解!」

 バルトロメーウスはハッチを開いて外に出た。彼はブースターでステーションに向かった。


 アウス・バッフェンは、親衛隊員からフレンチ軍に帝国の巡視艇部隊が全滅させられた事を知らされた。

「軽身隊め、図に乗りおって。我々の出番が来たようだな。親衛隊員を300名召集し、直ちにフレンチ領に飛ぶぞ」

「はっ!」

 バッフェンはニヤリとして、

「帝国にはまだ親衛隊がいることを思い出させてやる」

と呟いた。


 ジョーはある扉の前にマリアンヌと立っていた。

「カタリーナはこの中にいる。連れて行け」

 マリアンヌは言った。ジョーは扉を開いて中に入った。そこにはベッドがあり、カタリーナが毛布をかけられて眠っていた。顔色は悪く、血の気がほとんどなかった。ジョーはマリアンヌを引き摺るようにして伴い、カタリーナに近づいた。

「遅かったんだよ、ジョー・ウルフ。もうカタリーナは助からない」

「どういう事だ?」

 ジョーはカタリーナを見たまま尋ねた。マリアンヌはニヤリとして、

「あんたに教えた時間は嘘だったのさ。本当は12時間でカタリーナは死ぬのさ」

「……」

 ジョーは無言でマリアンヌを睨んだ。そして、

「解毒薬はどこだ?」

 マリアンヌは哀れむような顔でジョーを見て、

「ここにあるよ」

と小瓶を見せた。ジョーはそれをバッと奪い取り、

「服用方法は?」

「内服だよ。せめて口移しで飲ませてあげな」

 マリアンヌが嘲笑して言うと、ジョーはまさにその通りにした。彼は薬を口に含むと、カタリーナの口に唇を押し当て、彼女の口の中に薬を入れた。マリアンヌは唖然として何もできないでいた。ジョーはやがてカタリーナから離れた。マリアンヌはハッと我に返り、

「バカめ、そんな事をしても無駄だ! カタリーナはすでに死んでいる」

「そうかな?」

 ジョーはフッと笑った。カタリーナの胸がスーッと膨らみ、息遣いが聞こえて来た。心臓の鼓動がはっきりと聞こえ始め、顔に赤みがさして来た。マリアンヌはすっかり狼狽えてカタリーナとジョーを見た。

「バ、バカな……。その女もビリオンス・ヒューマンなのか?」

「いや。これはてめえのミスさ」

「何!?」

 ジョーはカタリーナを見て、

「カタリーナは睡眠薬で眠らされていた。そのために毒薬が身体に回るのが遅れたのさ」

「くっ……」

 ジョーはマリアンヌを睨みつけ、

「さァて、たっぷり礼をしないとな、マリアンヌ!」

「黙れ、ジョー・ウルフ! 八つ裂きにしてくれる!」

 マリアンヌの爪が伸び、ジョーに襲いかかった。ジョーはサッと後退し、ストラッグルを撃った。マリアンヌの額は光束を弾いた。彼女は何歩か後ろに下がったが、無傷だった。

「ストラッグルは効かないと言ったのを忘れたのかい、ジョー・ウルフ?」

 マリアンヌが勝ち誇ったように言った。そして、

「仮にカタリーナを助けられても、あんたはここから生きて出られないよ」

と言い放った。彼女はジョーに突進しながら、

「死ねェッ、ジョー・ウルフ!」

 しかしジョーはニヤリとして、

「いくら完璧に武装したつもりでも、生身の部分がある以上、必ず弱点はあるんだぜ」

と言い返し、マリアンヌの口の中を撃った。光束がマリアンヌの口の中に飛び込んだ。しかし、光束はそのままジョーに跳ね返って来た。

「何!?」

 ジョーはかろうじてそれをかわし、唖然としてマリアンヌを見た。彼女はニヤリとして、

「私はビスとは違う。完璧なのさ。生身の部分は残っているけど、あんたに殺される程間抜けじゃないよ」

「……」

 ジョーはストラッグルを下げかけた。マリアンヌはフッと笑って、

「ストラッグルが使えないジョー・ウルフなんて、弱過ぎて話にならないけど、きっちり止めは差してあげるよ」

 もう一度ジョーに突進して来た。ジョーは下げかけていたストラッグルを再び構えた。彼はマリアンヌの爪で軍服を斬り裂かれながらも、間合いをつめ、マリアンヌの顔にストラッグルを向けた。

「無駄だよ、ジョー・ウルフ。額だけじゃなく、顔にもストラッグルは効かないよ」

 マリアンヌが高笑いをした。しかし次の瞬間、彼女は蒼ざめてしまった。

「うっ……」

 ジョーはストラッグルの銃口をマリアンヌの鼻孔に押し当てていたのだ。

「鼻の穴を撃ち抜けば、まっすぐ脳を貫く。いくらてめえが改造好きでも、鼻の中までコーティングや補強はしていねえだろ?」

 ジョーの言葉にマリアンヌは何も言い返せなかった。彼女の顔から血の気が失せて行くのがはっきりとわかった。

「なるほど、首から上はコーティングしてあるだけで機械じゃねえのか。血は流れてるみたいだな」

 マリアンヌは殺されると思った。しかしジョーはストラッグルをホルスターに納め、

「だがいくらてめえが化け物でも、女である事に変わりはねえ。俺は女は殺さねえ」

 ジョーはマリアンヌから離れ、カタリーナをベッドから抱き上げて、その部屋を出て行った。マリアンヌはしばらく呆然としていたが、

「ジョー・ウルフ、ステーションからは生かして帰さんぞ!」

と通路へ走り出た。しかしすでジョーの姿はそこにはなかった。マリアンヌは歯ぎしりした。

「うううっ……。ジョー・ウルフめ、私を愚弄しおって!」

 彼女の右拳が壁にめり込んだ。


 その頃ラルミーク星系第4番惑星では、テリーザが必死になってジョーを探していた。彼女はホルスターをつけ、ピティレスを下げていた。

「ジョー・ウルフ、お前のせいでルイは帝国を追われた。必ずルイの屈辱、私が晴らしてやる」

 テリーザは殺気立っていた。彼女は街の大通りの人混みの中に消えた。そのテリーザの後をつける男が2人いた。帝国の親衛隊員である。2人は顔を見合わせてニヤリとした。もちろんテリーザは2人がつけている事など全く気づいていなかった。


 ジョーはカタリーナを小型艇のサブシートにシートベルトで固定し、フレンチステーションを飛び立った。

「何?」

 その彼の目の前に帝国親衛隊の小型艇が現れた。

「どうする?」

 彼はカタリーナを見た。自分とカタリーナに宇宙服を着させている暇はない。ジョーが迷っていると、親衛隊の小型艇は、彼の小型艇をまるで無視して、フレンチステーションに向かった。ジョーはビックリしたと同時にホッとした。

 たちまち両者の間に戦闘が始まった。その時通信機から、

「ジョー、こっちだ」

 フレッドの声がした。ジョーはレーダーでフレットの艦を確認し、そちらに向かった。

( 全く、元気のいいじいさんだぜ )

 彼はフッと笑った。


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