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第30話 揺れる宇宙

 ルイとムラト・タケルは、バーのカウンターにいた。

「何故親衛隊と戦っていたのだ?」

「ジョーを殺せなかったからだ」

「奴はまだこの星にいるのか?」

「ああ。多分な」

 ムラト・タケルは目を伏せてフッと笑った。ルイはサングラスをかけ、

「ならば今度は私がジョー・ウルフと決着をつける番だ」

と言って立ち上がった。ムラト・タケルはルイを見上げて、

「あんたなら勝てるかも知れないな。ジョー・ウルフ対ルイ・ド・ジャーマン。銀河系最高の名勝負になりそうだ」

 ルイはその言葉にニヤリとした。


 その頃ジョー達はフレッドの工場の一室にいた。そこは客室で、ソファがあり、ガラスのテーブルの上にグラスが4つあった。

 ジョーはソファで眠っていた。カタリーナはそんなジョーを気遣いながら、グラスを片づけ始めた。

「カタリーナさん、あんたはいつからジョーと一緒なんだね?」

 フレッドがバルトロメーウスとカードで賭けをしながら尋ねた。カタリーナは片付けをしながら、

「まだそんなに経っていないわ。会えなかった時間に比べればね」

「そうか……」

 フレッドはバルトロメーウスを見た。バルトロメーウスは、そんな話するな、という顔でフレッドを見た。しかしフレッドはそれに気づかず、

「あんた達が別れ別れになっちまったのは、一年半くらい前かな」

 カタリーナは黙ったままである。フレッドは続けた。

「ストラード・マウエルが、突然ビリオンス・ヒューマン追放令を出したんだったな。それでジョーは帝国を追われ、親父さんは銃殺された。ジョーがストラードを殺そうと思っていた矢先に、ストラードが病死しちまった。ジョーは狸にも嵌められて、ドミニークス軍からも追われる事になっちまった」

 バルトロメーウスはフレッドの話を遮って、

「その頃だよ。俺が帝国を出たのは。ストラードのやり方に我慢ならなかったんだ。それでドミニークス軍に行ったんだが、どこも似たり寄ったりだったよ」

「そんなもんさ」

 フレッドは目を伏せた。

「そればかりじゃない。カタリーナさん、あんたまで帝国を追われた。ジョーと婚約していたって理由でだ。表向きは、あんたは失踪した事になっているらしいが」

 バルトロメーウスはもう一度フレッドの話をやめさせるために話し出した。

「ストラードがどうして突然ビリオンス・ヒューマン追放令を出して、その家族や親類縁者まで弾圧したのか、全く見当がつかないぜ」

「ストラードにとって、ビリオンス・ヒューマンは脅威だったんじゃろう」

 フレッドの言葉にバルトロメーウスは黙って頷いた。

 

 ジョーは、そばでフレッドがそんな話をしていたせいなのか、帝国時代の夢を見ていた。

 それは父親と一緒に宮殿の回廊を歩いていた時の事であった。

「ジョー・カンスタル・プランテスタッド、貴様をビリオンス・ヒューマン追放令に基づき、逮捕する」

 5人の親衛隊員が現れて言った。ジョーはムッとして、

「何? どういう事だ?」

 5人は3人と2人に分かれて、2人はジョーの父親を取り押さえた。父親は、

「何をする!?」

ともがいたが、たちまち連行されてしまった。ジョーは3人にステルスを突きつけられ、連行された。

 2人は宮殿の地下にある処刑場に連れて行かれた。ジョーの父親はジョーの見ている前でステルスによって蜂の巣にされた。

「親父ーッ!」

 ジョーはもがいたが、親衛隊員3人から逃れる事は出来なかった。

 

 次の瞬間、彼はパッと目を覚ました。身体中にベットリと汗が滲んでいる。

「ジョー、大丈夫か、随分うなされていたが?」

 フレッドが声をかけた。カタリーナは片付けを終えて戻って来たところらしく、心配そうにジョーを見ていた。ジョーはフッと笑って、

「ああ、大丈夫だ。ちょっと昔の夢を見たんでね」

と答えて起き上がった。するとその時、部屋の隅にあるランプが点滅した。フレッドはサッと立ち上がり、

「誰かが来たらしい」

「あっ、私が見て来るわ」

 ドアのそばにいたカタリーナがいい、ピティレスを手に持ち、修理工場の方に出て行った。


 修理工場に入って来たのはルイだった。しかしマントの襟を立て、サングラスをかけているため、カタリーナには誰かわからなかった。ルイはカタリーナに気づき、懐かしそうに笑顔を見せた。カタリーナは訝しそうに、

「どなた?」

「私だ」

 ルイはそう言ってサングラスを外した。カタリーナはハッとして、

「貴方は……」

「ジョー・ウルフはいるか?」

 ルイは尋ねた。カタリーナはピティレスをホルスターに戻して、

「ええ。何の用?」

「決闘を申し込みに来た」

「決闘? 随分と古めかしいことを言うのね」

 カタリーナが笑って言うと、ルイはニヤリとして、

「かも知れんな。しかし私は自分以上の腕を持った者がこの銀河系に存在するのが我慢ならないのだ。だからジョー・ウルフには消えてもらいたい」

「……」

 カタリーナはギクッとした。ルイは真顔になり、

「前にも言ったはずだ。私はこの手でジョー・ウルフを倒したいのだ」

「それで?」

 カタリーナは押し問答をしても仕方がないと判断し、話を促した。

「この先に宇宙船のスクラップが置かれている廃工場がある。そこに今夜12時に来るよう、ジョー・ウルフに伝えてくれ」

「わかったわ」

 ルイはフッと笑うとサングラスをかけ、歩き去った。カタリーナはルイの姿が見えなくなったのを確認してから、客室に戻った。


「誰が来たんだ?」

 フレッドが尋ねた。カタリーナは肩を竦めて、

「道を尋ねられただけ。お客さんじゃなかったわ」

「そうかい」

 フレッドは少し疑いの眼差しでカタリーナを見て言った。カタリーナはチラッとジョーを見てソファに座った。

(ジョーとルイとの戦い、私はしてほしくない。彼はジョーを本当に倒してしまうような気がする……)

一方ジョーは全然違う事を考えていた。

( 今、何を警戒すべきなんだ? ルイか? いや、違う。狸か? 帝国か? フレンチか? どれでもない )

 ジョーは目を閉じた。

( 今警戒すべきは、自分自身だ。俺の身体は限界まで来ている。今はいいが、きっとそのうち身動き取れなくなる )

 ジョーはそのまままた眠りについた。カタリーナがそれに気づき、毛布をかけた。

( ジョー、悪く思わないで )


「何ィッ? ルイ・ド・ジャーマンに邪魔されただと?」

 隊員の報告に親衛隊長であるバッフェンは大声を出した。ここは親衛隊の本部の隊長室である。

「まさか奴があの星にいるとは思いませんでした。それにテリーザ・クサヴァーもいました」

 バッフェンはテリーザの名前にニヤリとし、

「テリーザ・クサヴァーか。クサヴァー元枢密院幹部の愛娘……。面白い」

 バッフェンは隊員を見て、

「テリーザにルイが追放されたのはジョー・ウルフのせいだと吹き込め。あの気丈な女は、ジョーのところに行くはずだ。ムラト・タケルなどどうでも良い。ルイとジョーを潰す方が先だ」

「はっ!」

 部下は敬礼した。バッフェンは、

「私も行こう。この目で、奴がくたばるのを見てやる」

と言った。


 ベスドム・フレンチは、居室の中をウロウロしていた。

「この怒り、どこへぶつけてくれよう……。ジョー・ウルフめ、八つ裂きにした程度では気がすまん!」

 するとそこへ全身黒づくめの特殊な素材のスーツを着込んだ美女が入って来た。長い黒髪に漆黒の瞳。どうやらベスドムの奥方のようである。彼女はフッと笑って、

「貴方、ビスがジョー・ウルフに殺されてしまったのですってね」

「何がおかしい、マリアンヌ!?」

 ベスドムは目を見開いて怒鳴った。マリアンヌは逆に目を細めて、

「あの子の身体も、不死身のものではなかったようですわね。本当に不死身なのは、この私ですわ」

と言うと、着ていたスーツをバッと剥ぎ取った。その下から現れたのは、首から下を完全に機械化した身体だった。しかもそれはアンドロイドでもなく、ロボットでもなく、ロボテクターのそれとも違っていた。表面は光沢があり、キラキラと光っている。ベスドムは不機嫌そうに彼女を見て、

「お前がそんな身体になったために、ビスドムも自分の身体を機械化していった。あいつが死んだのはお前のせいだ」

と言い放った。するとマリアンヌは笑って、

「随分と身勝手な事をおっしゃいますのね。私に永遠の美を求めて、身体を機械化するように言ったのは貴方でしてよ」

と言い返した。ベスドムとマリアンヌは睨み合ったまま何も言わなくなった。2人はもはや夫婦ではなかった。ただの憎しみ合う人間同士に過ぎなかった。


 夜になった。

 ジョーは寝室の一つで横になって考え事をしていた。

(まずいな。カタリーナ、バル、フレッドと昔の仲間に会ってから、俺の頭の中で何かが変わり始めている……)

 ジョーは自分の運命の過酷を呪った。

(親父は犬死に同然の最期を遂げた。俺もそれを踏襲するのか……)

 ジョーはいつになく弱気になっていた。今までの彼だったら、そんな発想は決してしなかったはずだ。しかし今のジョーは以前のジョーではなかった。カタリーナとの愛は確実に取り戻しつつあった。ふとこのまま2人で静かに暮らせたら、と思う瞬間もあった。しかしそれは所詮無理な話だった。時代が、そしてジョーの運命がそれを許さないのだ。

「ジョー……」

 カタリーナはジョーの寝室の前に立っていた。

(ルイとなら……。でも彼は相手が私だとわかったら、撃っては来ない。そして彼はジョーの事を軽蔑するかも知れない……。それはあってはならない事……)

 彼女はその考えを振り切るように頭を横に振り、修理工場の方へ歩いて行った。それを廊下の角からフレッドが見ていた。

 カタリーナは工場内を歩き回り、ストラッグルを探した。ようやく見つけたストラッグルは、ジョーのものとは違い、帝国の粗悪品の一つであった。彼女は弾薬を探して装填し、ピティレスをホルスターから抜いてストラッグルを差した。ピティレスは近くにあった道具箱に隠した。そしてフード付きのマントを羽織ると、修理工場を出て行った。フレッドがそこに現れ、

「カタリーナさん、どこへ行くつもりだ?」

 彼はその足でジョーの寝室に向かった。


 ルイは約束の時間の30分前に廃工場に来ていた。周りには宇宙船のスクラップが山積しており、その間から星が見え、さらに第4番惑星の衛星が2つ見えた。2つとも大きさは地球の月の半分くらいしかない。

「ジョー・ウルフ、私は今度こそ負けん。引き分けもない」

 彼はストラッグルをホルスターから抜き、銃身を眺めた。

「殺すか、殺されるかだ。同じビリオンス・ヒューマンとわかった以上、尚の事負ける訳にはいかぬ」

とルイは呟いた。彼は近づいて来る足音に気づき、外の方を見た。

( 来たか、ジョー・ウルフ )

 しかしルイは直感的にそれがジョーでないことに気づいた。右手がストラッグルを構え、左手がそれを支えた。

「誰だ、貴様は? ジョー・ウルフではないな?」

 ルイが叫ぶと、カタリーナはギクッとして立ち止まった。

( 見破られてしまったの? )

 カタリーナはストラッグルを構えて撃った。光束は空しく宙を切り、彼女は反動でズズッと後ろに下がってしまった。ルイはフッと笑い、

「ストラッグルもまともに扱えない奴がこの私に挑んで来るとはいい度胸だ」

 工場の中から出て来た。月明かりでルイの顔が青く浮かび上がった。カタリーナはギョッとしてストラッグルを下ろした。


 その頃ジョーとフレッドとバルトロメーウスは、カタリーナが歩き去った方へと走っていた。

「何故止めなかったんだよ、フレッド!?」

 バルトロメーウスが怒鳴った。フレッドは、

「何しに行くかよくわからんかったからだ。それにジョーに知らせた方がいいと思ったんだよ」

 ジョーは黙って走っていた。バルトロメーウスは、

「はっ! 全く頼りにならねえじいさんだ」

「うるさいわい!」

 フレッドは息を切らせながら言い返した。


 ルイはストラッグルを構えて、

「顔を見せろ。何者だ?」

 しかしカタリーナはフードを取ろうとしなかった。ルイは、

「ならば見させてもらうぞ!」

と言い、ストラッグルでフードを弾いた。バサッと長い髪が現れ、カタリーナの顔が月明かりの下に浮かび上がった。ルイはハッとして、

「カタリーナ・パンサー? お前が何故ここに……?」

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