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第28話 フレッド・ベルト登場

 ジョーの小型艇は、バルトロメーウスが破壊したハッチをさらに大きく突き破って、ビスドム艦に突入した。ジョーは小型艇を格納庫の隅に停止させ、カタリーナと共に外に出た。

「空気が随分薄くなっているな」

 ジョーは奥へと歩き出した。カタリーナもピティレスを手に持って彼に続いた。

「バル、大丈夫かしら?」

「奴が死んでいるくらいなら、俺はずっと前に死んでるよ」

 ジョーはカタリーナの問いにそう答えた。

 2人は通路を進み、エレベーターの前に来た。

「こいつに乗ると待ち伏せされる。階段を探そう」

「ええ」

 ジョーは走り出した。カタリーナは、

「待ってよ、ジョー!」

 彼を追いかけた。


 一方バルトロメーウスとビスドムは、第一格納庫で死闘を繰り広げていた。ビスドムの両手の突きがバルトロメーウスの両肩に突き刺さった。バルトロメーウスの右膝蹴りがビスドムの腹に決まった。両者は、

「うぐっ……」

 呻いてバッと離れた。ビスドムは後ろによろけ、バルトロメーウスは片膝を着いた。ビスドムはニヤリとして、

「私は生身の身体ではない。いくらタフとは言え、貴様は生身。この勝負、先が見えたようだな」

 バルトロメーウスは両肩の傷をベルトの医療器具で塞ぎながら、

「くっ……」

 歯ぎしりした。ビスドムは再び突進し、右拳を振るった。バルトロメーウスは左手でそれを受け止め、右ストレートをビストムの喉に叩き込んだ。

「ゲウワッ!」

 さすがのビスドムもこれはこたえたらしく、床をのたうち回った。バルトロメーウスはヨロヨロしながらビスドムに近づいた。

「止めだ、ビスドム!」

 バルトロメーウスのストラッグル2丁が、ビスドムの頭に押し当てられた。ビスドムはグッと身を捩った。ストラッグルが吠えた。しかし光束はビスドムの頭で弾け、飛び散ってしまった。

「何!?」

 バルトロメーウスは泡を食って退いた。ビスドムの頭は、ブスブスと音を立てながら表皮が剥がれ落ちた。その下から現れたのは、金属だった。

「言ったはずだ。私は生身の人間ではないとな」

「……」

 バルトロメーウスの額を汗が伝わった。


 ビスドム艦とバルトロメーウスの艦は、未だに砲撃戦を続けていた。そんな光景が見えるビスドム艦のブリッジには誰もいなかった。

「あの化け物ヤロウ、どこに行きやがった?」

 ジョーが呟いた。カタリーナは艦内モニターを操作して、

「これでわかるかも知れないわ」

 モニターが次々に切り替わり、遂にビスドムとバルトロメーウスがいる第一格納庫が映った。

「どこだ?」

 ジョーが尋ねた。

「ちょっと待って」

 カタリーナはプリンターを動かして艦内マップを出し、

「第一格納庫よ。エレベーターを降り切って右だわ」

 ジョーはカタリーナからプリントされた紙を受け取ると、走り出した。カタリーナも慌てて彼を追いかけた。


 帝国の宮殿の、どことも知れない部屋で、親衛隊の隊長であるアウス・バッフェンが跪いていた。彼の前には大きな椅子があり、何者かが座っていた。

「ムラト・タケルがしくじったか」

「はっ。いかが致しましょう?」

「構わん。放っておけ。奴は意地でもジョー・ウルフを殺そうとするはずだ。我々が命令するまでもない」

「はい」

 バッフェンは深々と頭を下げた。クククと何者かは笑った。


 ビスドムの両手がガッチリとバルトロメーウスの首に食い込んでいた。バルトロメーウスの顔から血の気が失せ始めていた。

「私の腕力をもってすれば、貴様の頭蓋骨すら砕く事ができるのだ。死ね、バルトロメーウス!」

「うぐぐ……」

 バルトロメーウスは朦朧としながらも必死になってビスドムの手を引き剥がそうとしていたが、どうにもならなかった。意識が遠のき始め、目が上を向いてしまった。もう俺はダメなのか。彼がそう考え始めた時だった。

 格納庫の中を光束が走り、ビスドムのこめかみに当たった。ビスドムはそのまま跳ね飛ばされて、床に叩きつけられた。

「大丈夫か、バル?」

「ジョー……」

 バルトロメーウスは夢でも見ているような気がした。格納庫の入り口にジョーとカタリーナが立っていたのだ。

「貴様、何故ここに!?」

 ビスドムはクワッと目を見開いて立ち上がり、ジョーを睨んだ。ジョーはストラッグルをホルスターに戻し、

「この前の決着をつけようと思ってな」

 ビスドムは、

「巫山戯たことを言うな! 貴様もまとめてぶち殺してやる!」

 ジョーに突進した。カタリーナとバルトロメーウスが同時に、

「ジョー、危ない!」

 しかしジョーはビスドムの突進をスッとかわし、ビスドムの背中を思い切り蹴飛ばした。

「うわァッ!」

 ビスドムは突進の勢いも手伝って、そのまま壁に激突した。ジョーとカタリーナはバルトロメーウスに近づいた。

「バル、生きてたな」

「あんたもな、ジョー。会えて良かった。カタリーナさん、お久しぶりです」

「お久しぶりね、バル」

 カタリーナはニッコリした。そんな3人に向かって、再びビスドムが突進して来た。ジョーはサッと振り向き、

「懲りてねえな、ビスドム!」

 身構えた。ビスドムは右手を突き出して、

「死ねェッ、ジョー・ウルフ!」

 飛びかかって来た。ジョーはその突き出された手をガシッと掴み、ビスドムの顔面にカウンターパンチを見舞った。

「ぐっ!」

 ビスドムは5メートル程後方に飛ばされて倒れた。バルトロメーウスはニヤリとしたが、カタリーナは仰天していた。ジョーはストラッグルを抜き、

「てめえも学習能力のねえ奴だな。今度はその左目をぶっ潰してやるぜ」

「フッ……」

 ビスドムは奇妙な笑みを浮かべて動かずにいた。ジョーのストラッグルが吠え、ビスドムの左目に当たった。すると彼の左目が輝き、ストラッグルの光束がジョーに跳ね返って来た。ジョーはかろうじてそれをかわした。しかし左肩をかすめられてしまった。

「バカめ。左目には特殊なレンズを入れているのだ。ビームは跳ね返してしまうよ、ジョー・ウルフ」

 ビスドムは立ち上がってジョーに近づいた。ジョーはハッと我に返ってストラッグルをホルスターに戻し、

「て事は、素手しかねえって事だな」

「そういう事だ」

 両者は身構えて睨み合った。カタリーナはバルトロメーウスにしがみついた。バルトロメーウスはカタリーナの体温を感じて少し赤面し、

「大丈夫ですよ、カタリーナさん。あんたの前で、ジョーが負ける訳がない」

「ええ……」

 カタリーナは一度ジョーとビスドムとの戦いを見ているので、不安だった。

( ジョーが負けるなんて考えられない。考えられないけど……)

「ジョー・ウルフ、覚悟しろ!」

 ビスドムの両手がジョーの首目がけて伸びた。ジョーはそれをサッとかわして、ビスドムの背後に回り、彼の首を左腕で締め上げた。

「無駄だ、ジョー・ウルフ! 私を殺せる者は、この宇宙にいない!」

「何!?」

 ビスドムの両手の指の爪が伸び、ジョーの左腕に突き刺さった。

「ううっ!」

 ジョーは思わず呻いた。バルトロメーウスは黙って見ていたが、カタリーナは

「ジョー!」

と叫んだ。ジョーはビスドムの首を絞めたまま、壁に走り、彼を激突させた。ビスドムはその衝撃でジョーの左腕を放し、床に突っ伏した。ジョーは左腕の血を拭ってビスドムから離れた。

「さてと。お遊びはやめにしようぜ。今度こそ止めだ、ビスドム」

「黙れ、ジョー・ウルフ!」

 ジョーは再びストラッグルを構えた。ビスドムは大声で笑い、

「バカめ、そんなもの効かぬと言っておろうが!」

 大口を開けてジョーに突進した。ジョーはカッと目を見開き、

「バカはてめえだ、ビスドム!」

と叫び、引き金を引いた。光束がビストムの口の中に飛び込み、後ろに突き抜けた。ビスドムはそのままドサッと床に倒れた。今度こそその化け物は死んだ。宇宙に殺せる者はいないと豪語した男の最期は哀れだった。

「ふう……」

 ジョーはストラッグルをホルスターに戻すと、ヨロヨロと後ろに下がった。カタリーナがすぐさま彼を支えた。

「さァ、脱出だ」

「でもあの小型艇、2人がやっとよ。バルはどうするの?」

 カタリーナが言った時、轟音が聞こえた。バルトロメーウスは周囲を見回して、

「この艦も限界らしいな。俺の艦も今頃はスクラップだろう。どうする、ジョー?」

「格納庫にある宇宙艇を使うしかないだろう」

「そうだな」

 3人は第一格納庫を出て別の格納庫に向かった。しかしすでに通路の空気は稀薄になり、3人は立ち往生してしまった。

「畜生……」

 バルトロメーウスが歯ぎしりした。そこへフレンチ軍の残存兵達10人程が襲撃して来た。

「ちっ!」

 ジョーとバルトロメーウスは素早くストラッグルを抜き、反撃に出た。たちどころに兵達は倒れ、事なきを得たが、脱出はいよいよ不可能になっていた。通路の先は炎に包まれてしまったのだ。

「……」

 ジョーとバルトロメーウスは顔を見合わせた。カタリーナが震えながらジョーに寄り添った。その時、通路の一部の壁を破って、エアパッセージが現れた。3人はハッとしてそちらを見た。エアパッセージの中に人影が見えた。やがてそれは老人の姿となり、

「わしら4人が揃うなんて久しぶりだな」

 ジョーはフッと笑って、

「フレッドか?」

「ああ、そうだよ、ジョー」

 老人はニッコリ笑って答えた。


 宇宙(そと)では、バルトロメーウスの艦もバラバラになっており、多くの人間が死んで漂っていた。ビスドム艦もやがて大爆発を起こし、離れて停止していたフレッドの艦を明るく照らし出した。

「しかしよく居場所がわかったな」

 ブリッジでそれぞれ着席した時、ジョーは言った。ようやく落ち着けたところだった。

「そりゃわかるさ。わしんとこに来たのはある筋からちゃんと情報が入っている。それにジョー、あんたはバルの隊が全滅しかけているっていう情報を手に入れていた。となりゃ、フレンチと狸の軍が戦っているとこしかいるところがないだろ?」

 フレッドはニヤリとしてジョーを見た。

「なるほどな」

 ジョーは目を伏せてフッと笑った。フレッドは、

「銃を見せてくれ」

 ジョーは無言でストラッグルを差し出した。フレッドはそれを受け取って眺め、

「ふーむ。大分銃身が痛んどる。それに薬室も取り替えんとな。カタリーナさん、あんたのピティレスもついでに見ておこう」

「ありがとう、フレッド」

 カタリーナはピティレスを差し出した。バルトロメーウスが、

「じいさん、俺のストラッグルも見てくれないか?」

と言うと、フレッドは肩を竦めて、

「お前はストラッグルが壊れたら、素手で戦えるんだから、修理の必要なんかないだろう?」

「は……」

 バルトロメーウスはムスッとしたが、カタリーナはクスクス笑った。フレッドも笑ったが、ジョーは窓の外を見た。

( ベスドムがビスドムの死んだ事を知ったら、きっと仕掛けて来るに違いない。それにムラト・タケルの事も気になる )

 ジョーに気の休まる暇はなかった。


 ドミニークス三世は、新しい人工惑星の邸で、ロボテクター隊の全滅、ビスドム戦死、ジョーとバルトロメーウスの接触の報告を受けていた。

「なるほど。バルトロメーウスめ、家族がもうすでに死んでいる事を知ったか」

「はっ。あの2人がここへ向かってくれば、大変な事になろうかと思います」

 側近が言った。するとドミニークス三世は椅子に腰掛けて目を閉じ、

「そのようだな。しかしそうなる前にムラト・タケルに奴らのどちらかを始末させろ。何ならカタリーナ・パンサーでも良い」

「はっ!」

 側近は深く頭を下げた。ドミニークス三世は目を開き、ゆったりと背もたれに寄りかかった。


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