第27話 ロボテクター隊散る
バルトロメーウスは、救助に来たロボテクター隊と共にようやく戦線に着いた。
すでに戦況は最終段階に入っていた。
「奴らの切り札も封じた今、我らの勝利は目前だ。突撃!」
とビスドムは叫んだ。
ドミニークス軍の司令長官も、
「閣下のご恩に報いるためにも、絶対にフレンチをこれ以上進攻させてはならん! 全艦砲撃開始!」
火も噴かんばかりに怒鳴った。
「一足遅かったか……」
バルトロメーウスが自分の艦のブリッジに入った時そう言うと、隊員は、
「いえ、まだ大丈夫です。ロボテクターは半数をやられましたが、何とか……」
「半数?」
バルトロメーウスは仰天した。
( まさか……。今までロボテクター隊がそこまで苦戦した事はない。ビスドム・フレンチめ、ロボテクターの弱点を知り尽くしているな )
ジョーはある修理工場の前に来ていた。そこがフレッド・ベルトという男の住まいである。
「久しぶりだ。じいさん、元気でいるかな」
ジョーはフッと笑って中に入って行った。ところが、工場の中は無人だった。
「誰もいないみたいね」
カタリーナが後ろから来て言った。ジョーは苦笑いして、
「それにしても不用心だな。何か盗まれても知らねえぞ」
「ホントね」
カタリーナはクスッと笑った。
「他に修理を頼める人はいないの?」
「いるにはいるが、危なくて無理だ。安心して任せられるのは、フレッドのじいさんだけだよ」
「そう……」
ジョーとカタリーナは工場を出た。
「これからどうするの、ジョー?」
カタリーナが尋ねた。するとジョーは不意に立ち止まり、
「さァね。あいつに訊いてくれ」
と元来た道の方を見た。カタリーナは道の先に誰かが立っているのに気づいた。それはムラト・タケルだった。
「俺の部下を随分と丁重に扱ってくれたようだな、ジョー・ウルフ」
「礼はいらねえよ、狸の飼い犬さん」
「何ィッ!?」
ムラト・タケルはムカッとしてホルスターに手をかけた。カタリーナもホルスターに手をかけた。ジョーは鼻で笑って、
「帝国と狸の両方に尻尾を振って、てめえには人間の誇りってもんがねえようだな」
と言い放った。ムラト・タケルは、
「聞いたような口を利くな、ジョー・ウルフ!」
ストラッグルを構えた。カタリーナがピティレスを抜こうとすると、ジョーの手がそれを止めた。ジョーはカタリーナの前に出て、
「あんたは下がってな。このバカは俺が片づける」
ジョーとムラト・タケルは睨み合ったまましばらく動かないでいた。カタリーナはそれを離れて見ていた。
( ムラト・タケルという男、ルイともジェットともケン・ナンジョーとも違う。何を考えているのか全くわからないわ )
「俺は貴様を殺すためにこの星に来た」
ムラト・タケルが言うと、ジョーはフッと笑い、
「てめえに殺される理由はねえぜ」
「これは命令だ。狸と影の宰相のな」
ジョーはニヤッとして背中を向けた。ムラト・タケルは激怒した。
「貴様、背中を向けるとはどういうことだ?」
カタリーナもビックリしていた。するとジョーは、
「てめえなんか、背中を向けてたって勝てるぜ」
「何だと!?」
ムラト・タケルの指が引き金にかかった。ジョーはホルスターに手をかけさえしなかった。ムラト・タケルのストラッグルが吠えた。しかしジョーはそれをまるで予期していたかのようにかわした。ムラト・タケルは仰天した。
「おらおら、しっかり狙えよ。こんな至近距離で外しちまうようじゃ、ストラッグルのライセンスを返上した方がいいぜ」
「黙れ!」
またストラッグルが唸った。しかし光束は空しく宙を切っただけだった。次の瞬間、ジョーの右ストレートがムラト・タケルの顔面にヒットしていた。
「ぐわっ!」
ムラト・タケルはそのまま後ろに飛ばされて倒れた。ストラッグルが投げ出され、地面を転げた。ジョーはムラト・タケルに近づいて襟首をねじ上げ、
「狸と影の宰相とかいう奴に伝えな。これ以上俺にちょっかい出すと、本当に只じゃおかねえってな」
ムラト・タケルのストラッグルを自分のストラッグルで撃ち抜いた。
「くっ……」
ジョーはそのまま街へと歩き出した。カタリーナも彼を追うように歩き出した。
「ジョー・ウルフめ、このままではすまさんぞ!」
ムラト・タケルは腫れ上がった頬を触って立ち上がった。
軽身隊とロボテクター隊の戦いは、バルトロメーウスの参戦で一気にロボテクター隊有利に変わった。バルトロメーウスはストラッグルを両手で連射し、次々に軽身隊を吹き飛ばした。軽身隊はさっきまでの勢いが嘘のように総崩れとなり、撤退を始めた。
「逃がすか! 部下達の屈辱、全て晴らしてやる!」
バルトロメーウスのストラッグル2丁が吠え、フレンチの艦を一隻二隻と粉砕して行った。ストラッグル2丁の同時攻撃など誰にも出来ない事だ。その破壊力は特殊弾薬には劣るが、凄まじいものだった。
「後退! 全速後退だ!」
ビスドムはバルトロメーウスの鬼神の如き強さに泡を食って指示した。
フレンチ軍は次々に戦艦が撃沈し、遂にビスドムの旗艦のみになってしまった。
「フレンチ軍を壊滅させるぞ。総員、ビスドムの旗艦へ向けて突っ込め!」
バルトロメーウスを先頭にして、ロボテクター隊はビスドムの旗艦の砲撃をかいくぐりながら接近した。軽身隊が再び現れ、交戦状態に入った。バルトロメーウスのストラッグルが吠えた。しかしビスドムの旗艦は少し損傷しただけだった。
「畜生……。やはり大将の艦は違うようだな」
バルトロメーウスはストラッグルをしまい、旗艦のハッチを探した。
「ストラッグル如きにやられる艦ではない。軽身隊、反撃に移れ!」
ビストムは通信機に怒鳴った。
軽身隊は無重力をうまく利用して、ロボテクター隊に上下左右からの攻撃を仕掛けた。動きの鈍いロボテクター隊にとって、宇宙戦は悲劇だった。しかしそれでもバルトロメーウスの恐ろしいまでの怪力が軽身隊を投げ飛ばし、何とか一方的な敗退は阻止されていた。
「ロボテクター隊の全滅は時間の問題だ……。しかし、俺はジョーに会うまでは絶対に死なない!」
バルトロメーウスは再びストラッグルを構え、連射した。
「あった!」
彼はハッチを見つけて接近し、ストラッグルで撃ち抜いた。装甲は軽身隊のスーツと同じもので、通常の銃撃では傷もつけられないが、バルトロメーウスはストラッグル2丁で零距離射撃をしたのだ。いくら特殊な装甲でも、その熱量には耐えられなかった。バルトロメーウスは噴き出す空気をかいくぐり、中に突入した。
「総員退避しろ。後は俺がやる」
バルトロメーウスはロボテクター隊に戦線離脱を命じた。
「敵が1名、艦内に侵入しました!」
「モニターに映せ」
ビスドムは画面に映ったバルトロメーウスに仰天した。
「奴は軽身隊では無理だ。私が行く」
彼はニヤリとしてブリッジを出た。そして、
「奴を第一格納庫に誘導しろ」
と通信機に言った。
「はっ!」
バルトロメーウスはストラッグルで各所を破壊しながら進んでいた。彼の行く先は、隔壁が閉じたり、壁が動いたりして変形した。バルトロメーウスは誘導されているとも知らず、先へと進んだ。
ジョーは宇宙船ドックに戻り、自分の小型艇の修理状況を眺めていた。カタリーナはそのジョーを後ろから見ている。
「何だ?」
1人の修理工がジョーに近づいた。
「はい、バルのいるロボテクター隊が全滅寸前のようです。フレンチの軍艦に乗り込んでいる私の友人が知らせてくれました」
「それで、バルは?」
カタリーナが尋ねた。修理工は言いにくそうな顔で、
「はァ、生死は不明みたいです」
ジョーは金貨をその修理工に渡し、
「ありがとう」
修理工はペコリとお辞儀をして立ち去った。ジョーは小型艇を修理している男に何か話し、小型艇を射出用のカタパルトに移動した。カタリーナはハッとしてジョーを追いかけた。
「私も行くわ、ジョー」
彼女は小型艇に乗り込もうしているジョーに言った。ジョーは無言のまま下がり、カタリーナを先に中に入れた。彼はカタリーナをサブシートに座らせ、自分は操縦席に着いた。
「出るぞ」
エンジンが始動し、小型艇がブルブルと震えた。カタパルトが動き、空に向けられた。
「最大加速で出る。舌を噛み切らないようにしてくれ」
「えっ、ええ」
ジョーの言葉に、カタリーナはビクッとして答えた。小型艇の噴射が増した。
「行くぞ」
「キャッ!」
小型艇は凄まじい勢いで発進した。カタリーナは体重の何倍ものGに耐えながら、斜め前にいるジョーを見ていた。
「バル……」
ジョーはそう一言呟いた。
軽身隊は、ついに最後のロボテクターを3人で追いつめていた。バルトロメーウスの指示にも関わらず、ロボテクター隊は追いつめられて全滅しようとしていた。
「やれ!」
3人の軽身隊員はロボテクターに特殊なロープを巻きつけた。それは磁力線を発し、ロボテクターは気絶した。3人はそのロープを持って力任せに引き、そのロボテクターを引き裂いてしまった。遂にロボテクター隊は全滅した。
バルトロメーウスは、艦からの連絡で、ロボテクター隊が全滅したのを知った。
「ビスドムめ! 必ず仕留めてやるぞ!」
彼は罠とも知らずに第一格納庫に入った。そこはガランとしていて、何も置かれていなかった。
「はァッ!」
ビスドムが不意に上から舞い降りて来た。彼の爆弾のように強烈な右ストレートが、バルトロメーウスの宇宙服のヘルメットを砕いた。バルトロメーウスはその衝撃で後ろに倒れてしまった。
「ここは重力が発生させてある。宇宙服を着ている貴様は圧倒的に不利だ、バルトロメーウス!」
ビスドムは勝ち誇って言った。バルトロメーウスはヘルメットをかなぐり捨て、
「ほざけ、ビスドム!」
と言い返して立ち上がった。ビスドムは突進してバルトロメーウスの顔面にまたパンチを放った。しかしそれが届く寸前に、バルトロメーウスの右フックがビスドムの顎に炸裂していた。
「どわァッ!」
ビストムは壁に激突し、頭から血を流した。バルトロメーウスはバリバリと宇宙服をむしり取り、
「これでハンディなしだ、ビスドム!」
ビスドムは頭を押さえてバルトロメーウスを見た。
ジョーの小型艇は大気圏を離脱するとすぐにジャンピング航法に入った。
「遅かったか?」
彼の小型艇が戦域に到着した時、フレンチ軍とドミニークス軍の艦隊は、全力射撃の応酬をしていた。
ドミニークス軍の司令長官の艦も、これを援護しながらフレンチ軍の艦隊に接近していた。しかし彼はジョーが現れたのを知ると、
「フレンチより奴だ! ジョーを殺せ!」
と叫び、艦をジョーの小型艇に向かわせた。
「宇宙服を着てくれ。後ろにある」
カタリーナは後方のラックの中の予備の宇宙服を着た。ジョーも宇宙服を着て銃座を出し、ストラッグルを構えた。
「てめえらに用はねえ!」
ストラッグルが吠え、司令長官のいるブリッジをぶち抜き、彼を焼失させた。艦は爆発を起こし、四散してしまった。ジョーは銃座を戻し、操縦席に座った。そして針路をビスドムの旗艦に向けた。
「雑魚に用はねえ!」
迫り来る軽身隊の小型艇を次々に突破して、彼はバルトロメーウスの待つビスドムの旗艦に接近した。ビスドム艦からの攻撃が始まった。ジョーはそれを巧みにかわしながらさらに接近した。
果たしてジョーとバルトロメーウスは再会できるのか?