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第26話 ビスドムの逆襲

 軽身隊は小型のブースターを背負い、ドミニークス軍の艦隊に向かった。

「ロボテクター隊はまだか?」

 司令長官が怒鳴った。通信兵が、

「来ました! あと30分で合流します」

「うむ。攻撃開始だ」

 ドミニークス軍からミサイルと砲火の嵐がフレンチ軍に向かった。フレンチ軍の艦は次々に撃破された。しかし軽身隊は確実にドミニークス軍に接近していた。

「長官、ロボテクター隊が先発するそうです」

「わかった。あとはロボテクター隊と軽身隊の肉弾戦になろう」

 司令長官はブリッジのキャプテンシートに座って言った。

 バルトロメーウスの艦は、ドミニークス軍艦隊の前に出てロボテクター隊を出撃させた。

「フレンチめ、ロボテクター隊は貴様らが思っている程弱くはないという事を思い知らせてやる」

 司令長官は呟いた。


 遂に軽身隊とロボテクター隊が接触した。ビームが飛び交い、ロボテクター隊が前進した。しかし軽身隊は素早く、ロボテクター隊は苦戦した。ロボテクター隊は軽身隊の動きに対応できず、次々に首を捻られたり背骨をへし折られたりして脱落して行った。


「ドミニークス軍の要はロボテクター隊だ。連中を全滅させればドミニークス軍など滅んだも同然だ」

 ビスドムは叫んで、ニヤリとした。


 その頃ジョーは中立領まで来ていた。

( 弾薬の手持ちがなくなって来た。そろそろじいさんのところに行かねえとな……)

 彼は中立領の中の惑星であるラルミーク星系第4番惑星に降下した。

「やっぱりここに来たわね、ジョー」

 ジョーが宇宙船ドックに小型艇を修理に出して外に出て来ると、後ろから声をかけられた。ジョーはハッとしてその声の主を見た。そこにはカタリーナが腕組みをして立ち、こちらを睨んでいた。

「何故わかったんだ?」

「貴方は戦い続きだったから、そろそろ弾薬の補充が必要でしょ?」

「……」

 ジョーは無言のままカタリーナに背を向け、歩き出した。カタリーナは慌ててジョーを追いかけた。

「どうして私を置いて行ったのよ!?」

 カタリーナが愚痴を言い始めた時、ジョーはガクッと膝を折り、倒れかけた。

「ジョー!」

 カタリーナはビックリして駆け寄り、ジョーを支えた。

「どうしたの? そう言えば、服があちこち焼け焦げているわね」

 ジョーはカタリーナの手をスッと押しのけて立ち上がり、

「メルトとか言うヤロウにやられたのさ」

「メルトですって!?」

 カタリーナはジョーを引き止めて、

「メルトの電気鞭を受けたのね? あれは時間が経つと、また痺れが出て来るのよ。でも、大丈夫。少し休めば治るわ」

「メルトを知っているのか?」

 ジョーはカタリーナを見た。カタリーナは頷いて、

「ええ。あいつもジェット・メーカーと同じで、士官学校の同期よ。嫌な同期ばかりなのよね、私」

 ジョーはまた歩き始めた。カタリーナはジョーの腕を取って、

「とにかく、どこかで休みましょう。フレッドなら、私が連れて来るわ」

「そういう訳にはいかねえ。俺が出向かねえと、じいさんの二度手間になる。俺はストラッグルを修理して欲しいんだ」

「わかったわ。わかったから、私が手を貸すのを拒まないで」

 ジョーは何も言わずに歩き続けた。カタリーナも無言でジョーに肩を貸して歩いた。


 ロボテクター隊と軽身隊との戦いはまだ続いていた。

 どちらかと言うと軽身隊の方が有利だった。ロボテクター隊は半滅し、軽身隊はまだ3分の2くらいが残っていた。

「ロボテクター隊の援護をしろ。各員、宇宙服を着用し、出撃せよ」

 司令長官の最後通告のような命令が下された。艦隊の通常戦闘要員が宇宙服を着込み、ブースターを背負って宇宙(そと)に出た。軽身隊は、増援が現れた事で一瞬隊列が乱れた。ロボテクター隊はこの機を逃さず反撃に出た。

「フレンチに援軍を出させるな! ミサイル残弾撃ち尽くせ!」

 嵐のような勢いで、ドミニークス軍の艦隊からミサイルが発射された。


「迎撃しろ! 軽身隊の増援部隊を必ず前線に送り込むのだ!」

 ビスドムが通信機に怒鳴った。しかしドミニークス軍のミサイルは次々にフレンチ軍の艦に命中し、爆発炎上させた。

「しかし、私は肉を斬らせたのみ……。奴らの骨を断ってやるぞ」

 ビスドムは歯ぎしりして呟いた。

 

 フレンチ軍の残存艦隊から、反撃のミサイルが発射された。軽身隊とロボテクター隊の上下左右をミサイルが飛び交った。

 ドミニークス軍の艦隊も、その多くが被弾し、脱落し始めていた。

「フレンチめ、我が艦隊を落としたからと言って、新共和国そのものが潰れてしまう訳ではないぞ!」

 司令長官は絶叫した。


 帝国では、エリザベートが謁見の間で憂鬱そうな顔でウロウロしていた。

「ジョー・ウルフの出現で、戦局が大きく変化したと聞いている。同盟を結んでいる以上、ドミニークス軍に援軍を差し向けない訳にはいかないのでしょう?」

 彼女は立ち止まって言った。影の宰相の声が、

「もちろんです。しかし今以上の援助は必要以上にドミニークス軍を立ち直らせてしまいます」

 エリザベートはハッとして顔を上げた。

「ドミニークス軍の存在は両刃の剣。我々にとって危険ではありますが、他の反乱軍にとっても脅威なのです。我々は最小限度の援助をして、双方が潰れてくれるのを待つしかありません」

 するとそこへ親衛隊長のアウス・バッフェンが現れた。エリザベートは椅子に座って、

「何事です?」

 挨拶もせずに入って来たバッフェンを非難するような声で尋ねた。バッフェンは跪いて、

「たった今入った情報によりますと、トムラー軍が全滅したようです」

「全滅?」

 エリザベートはビックリして鸚鵡返しに尋ねた。宰相の声が、

「して、傭兵どもはどうした?」

「散り散りになって逃亡したようです」

「わかった。親衛隊を差し向けて、すぐにそやつらを帝国に引き入れよ」

「はっ!」

 バッフェンが退室すると、エリザベートは、

「宰相、どういうつもりです? 傭兵達を帝国軍に入隊させるのですか?」

「はい」

「何故です? 危険だとは思わないのですか? 放っておきなさい、あのような野蛮人の集まりは」

 エリザベートはキッとして言い放った。すると宰相は、

「放っておく方が危険です。奴らは金で動く連中です。ブランデンブルグ公国が銀河系に接近しつつある今、もし連中が公国についたりすると、大変な戦力になるのです」

「ブランデンブルグ公国……」

 エリザベートは蒼くなった。

( 宇宙最強の大軍団と聞く……。そのような国が、銀河系に……)


 廊下を歩くバッフェンに宰相が声をかけた。

「ムラト・タケルを使い、ジョー・ウルフを抹殺させよ」

「しかし奴は狸の密偵。危険だと思いますが……」

「だからこそ奴はやらねばならんのだ。恐らくドミニークスからもジョー・ウルフ抹殺の命令を受けているはず。ここで帝国から命令されたとあれば、奴は大手を振ってジョー・ウルフ抹殺に向かえるというもの」

「はっ」

「それに奴にはバウエル暗殺の罪を償ってもらわねばならん」

「ははっ」

 バッフェンは深々と頭を下げた。宰相はさらに、

「ジョー・ウルフはドミニークス以上の脅威。奴がもし私の秘密に気づけば、間違いなくここに来る。そして帝国は滅ぼされる」

「は……」

 バッフェンは頭を下げたまま、

「奴は必ずこの私が仕留めてみせます。ムラト・タケルがしくじったとしても、私がおります。閣下にはご心配なさいませんように」

「わかった」

 バッフェンは不敵な笑みを浮かべた。


 ロボテクター隊は次々に軽身隊に取り付かれて身体の自由を奪われ、首を捻られて殺された。

「バルトロメーウスはどうした?」

 司令長官は焦り始めて、この戦闘の責任を誰に押しつけようかと考え始めた。

「は、隊長はトムラー軍の最後の戦艦を撃破、只今こちらに向かっております」

 通信兵が答えた。司令長官は落ち着きを取り戻し、

「そうか。早く来んと、本当に全滅してしまうぞ」

 彼は窓の外を見て、

「ハイパーキャノン用意!」

「し、しかし、ロボテクター隊が……」

 通信兵が言った。すると司令長官は、

「構わん。今は一刻を争う時なのだ。用意しろ!」

「はっ」

 通信兵はすぐに関係各所に伝達した。


「ムッ? 奴ら、あのビーム砲を使うつもりか?」

 ビスドムはドミニークス軍の反撃が弱まったのを感じて呟いた。そしてニヤリとし、

「軽身隊を引き上げさせろ。マグネットシールド作戦を開始する」

と指示した。


「どうした?」

 司令長官は外の様子がおかしいのに気づいて尋ねた。するとレーダー係が、

「軽身隊が撤退して行きます」

「今更遅いわ! 逃がしはせんぞ」

 司令長官はキャプテンシートの肘掛けにある発射レバーに手をかけた。

「ロボテクター隊は?」

「はい、圏内からは離脱しました」

 司令長官はニヤリとして、

「発射!」

とレバーを引いた。

 ハイパーキャノンが放たれ、フレンチ軍の艦隊に向かった。


「高エネルギー体、接近して来ます!」

 レーダー係が伝えた。ビスドムはフッと笑って、

「マグネットシールド弾、発射!」

 ビスドムの旗艦から小型ミサイルが発射され、粉微塵に砕けた。それは磁気を帯びた破片で、その破片がフレンチ軍艦隊の前方を覆った。そこにハイパーキャノンがぶち当たった。ビームは磁気のせいでねじ曲がり、拡散してしまった。


「何だ、どうした?」

 司令長官は、フレンチ軍を直撃したはずのハイパーキャノンが、爆発を一切起こさずに消滅した事に仰天していた。

「何があったのだ? すぐに調べろ!」

 彼は蒼ざめて命令した。


 ジョーとカタリーナは、街の大通りを歩いていた。道行く人々は皆、2人の事を微笑ましく見ていた。カタリーナは嬉しそうだったが、ジョーは相変わらず無表情だった。

「!」

 その時、突然ジョーが立ち止まった。カタリーナはビクッとして、

「どうしたの、ジョー?」

 ジョーはスッと上を見た。2人の両側には、高層ビルが建ち並んでいる。

「上から何者かが俺を狙っている」

「えっ?」

 ジョーはカタリーナを突き放した。そして、

「後ろにも前にも、建物の中にもいやがる。それもみんな、ボスが違うようだ」

 ビルの屋上にいるのは軽身隊、前と後ろにいるのは帝国情報部の工作部隊、建物の中にいるのはジェット・メーカーの部下達だった。

「出て来いよ。顔も見せねえで殺されるのは嫌だろうが」

とジョーが挑発すると、軽身隊が5人、屋上から飛び降りて来た。そして帝国情報部の工作部隊が人混みの中から10人現れ、両側の建物からジェット・メーカーの部下が10人現れた。

「ジョー・ウルフ、覚悟!」

と一同が一斉に叫んだ。ジョーはホルスターからストラッグルを抜いた。ストラッグルが吠え、ジェット・メーカーの部下達が一瞬にして吹き飛び、軽身隊も粉々になった。周囲にいた人達は、慌てて逃げ出した。工作部隊は立ち止まり、鉄の爪やスタバンやピティレスを構えた。ジョーはニヤッとして、

「さすがその道のプロだな。俺の息が続くかどうかを計算して突進して来るとはな」

「減らず口もそこまでだ、ジョー・ウルフ!」

 鉄の爪の男が2人、ジョーに襲いかかった。しかし2人はジョーに指一本触れる事は出来なかった。カタリーナのピティレスが2人を吹き飛ばしていたのだ。

「こんな連中、私で十分よ」

「そうかい?」

 ジョーはフッと笑って一歩退いた。工作部隊の8人はムッとしてカタリーナを見て、

「女、情報部工作部隊を甘く見るな!」

「甘く見ているのはあんた達の方さ!」

 ピティレスがたちどころに8人を打ち倒した。彼らは何も出来ずに地面に倒れ伏した。その衝撃で銃が暴発し、彼らは消し飛んでしまった。カタリーナは悲しそうにジョーを見て、

「行きましょう、ジョー」

と言った。ジョーは頷きもせず、歩き出した。

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