第25話 トムラー軍滅す
「ジョー・ウルフめ。まさかこんなところで会えるとは思ってもみなかったぞ」
メルトは小型艦が着陸するや、ハッチを開いて小型艇で飛び出し、ジョーに向かった。
「何だ?」
ジョーは自分に向かって走って来る小型艇に気づき、ストラッグルに手をかけた。
「死んでもらうぜ、ジョー・ウルフ!」
メルトは小型艇のフードを開いて立ち上がり、小型艇から飛び降りるとベルトに差してある鞭を取り出して振るった。ジョーはその攻撃を後退してかわし、ストラッグルを撃った。
「当たらねえよ!」
メルトは鞭に電流を流し、ストラッグルのビームを弾いた。
「何だと?」
ジョーはそれを見て仰天してた。メルトはニヤリとして、
「お得意の銃は俺には通じねえよ。今度はかわせねえぞ!」
鞭をもう一本取り出し、同時にジョーに向かって振るった。
「くっ!」
ジョーはストラッグルをホルスターに戻し、鞭をかわそうと走ったが、鞭はまるでジョーを追うかの如く動き、その身体に巻きついた。
「ウワァッ!」
電流が流れ、ジョーの髪が逆立ち、軍服が焼け焦げる臭いがした。ジョーはそのままドサッと前に倒れてしまった。メルトはフッと笑って鞭を解き、
「どうだ、ジョー・ウルフ? 身体が動かんだろう?」
「てめえは誰だ?」
ジョーは顔を少しだけ上げてメルトを睨んだ。メルトは高笑いをして、
「俺はメルト・スクリューだ。昔はてめえと同じ帝国の軍人だった」
「そうかい」
次の瞬間ストラッグルが吠え、メルトの鞭を弾き飛ばした。メルトは呆然として飛ばされた鞭を見た。
「バカな。あの電流を食らって、銃を撃てるなんて……」
ジョーはスッと立ち上がり、
「ゴタゴタ言ってると、今度は腹に風穴が空くぜ」
「うっ……」
鞭を飛ばされてしまった今、メルトに勝ち目はなかった。しかしジョーはストラッグルをホルスターに戻し、自分の小型艇に向かって歩き出した。
「今はてめえのようなバカを相手にしている暇はねえんだよ」
「何!?」
メルトはムッとしてジョーを睨んだ。ジョーは振り返らずに、
「それからな、この人工惑星にはもう狸はいねえぜ」
小型艇に乗り込んで飛び立ってしまった。メルトはハッと我に返って自分の小型艇をリモコンで呼び戻し、ジョーを追った。その時、人工惑星を巨大な光束が走り、傭兵達が乗っている小型艦を貫いた。
「何?」
メルトが見上げた時、艦は爆発していた。
「くそっ!」
彼はジョーを追跡しながら、次々に走る光束をかわした。
「狸め、この人工惑星ごと俺を葬るつもりか!?」
ジョーは怒りに燃えて人工惑星を脱出した。
ジョーをまたしても罠に嵌めて逃げ出したドミニークス三世は、彼の専用艦のブリッジで悦に入っていた。
「トムラーはともかく、ジョー・ウルフを抹殺しなければ、儂は枕を高くして眠れんからな」
「ジョー・ウルフです!」
ドミニークス三世の喜びは束の間だった。レーダー係の声に彼はギクッとした。
「何? バカな。あの爆発の中、奴は脱出したというのか? 間違いではないのか!?」
ドミニークス三世は苛立って怒鳴った。
「間違いありません。スクリーンに投影します」
ブリッジのスクリーンには、ジョーとメルトの小型艇が映っていた。ドミニークス三世は唖然としていた。
「ロボテクター隊はまだか? 司令長官はまだか?」
側近が通信兵に怒鳴った。通信兵はギョッとしたが、
「まだです!」
冷静に伝えた。
バルトロメーウスは、ブランドールの旗艦のブリッジの上に来ていた。艦内の者は皆ロボテクター隊に気を取られていて、バルトロメーウスの動きに気づいていなかった。
「これで終わりだ、ブランドール!」
バルトロメーウスは銃をブリッジに向けて撃った。光束がブリッジの天井を貫き、真下にいた操縦士が燃え尽き、ブリッジ全体が炎に包まれた。ブランドールは真っ青になった。
「一体これは?」
天井に開けられた穴から空気が漏れ、ブリッジの一同は宇宙に放り出され、一瞬のうちに体温を奪われ、絶命した。ブランドールの引きつった顔がバルトロメーウスの前を通り、宇宙の闇に消えて行った。
「あばよ、ブランドール」
バルトロメーウスは敵将の遺体に敬礼し、旗艦を離れた。そして無線に、
「総員退却だ。ブランドールは殺った!」
ブランドールが戦死したのを知ると、傭兵達は我先にすぐさま戦線から離脱し始めた。
「隊長、閣下の艦にジョー・ウルフが接近中との事です」
無線から声が聞こえた。バルトロメーウスは、
「わかった。全員を収容次第、ジャンピング航法で新共和国中枢に戻るぞ」
「はっ!」
バルトロメーウスはニヤリとした。
( やっと動いてくれたな、ジョー。狸は俺も殺してやりたい奴なんだ )
バルトロメーウスは、自分の家族がすでに全員殺されているという情報を入手していた。
( 一刻も早くジョーに合流したい )
それがバルトロメーウスの願いだった。
ジョーのストラッグルの光束が、次々にドミニークス三世の艦の装甲を貫いた。
「このままでは本艦の撃沈は時間の問題です、閣下!」
側近が慌てふためいて言った。ドミニークス三世は、
「わかった。脱出艦を準備しろ」
「はっ」
ドミニークス三世は妙に陰険に笑った。
ジョーはドミニークス艦から脱出する小型艦を見つけた。
「狸め、また逃げる気か!?」
ジョーの小型艇が脱出艦を追った。それをさらに追うものがあった。メルトの小型艇である。
「ジョー・ウルフめ、今度こそ仕留めてやる!」
ジョーもメルトの小型艇に気づいた。
「あのヤロウも脱出したのか」
メルトの小型艇が撃って来た。ジョーは銃座を出してストラッグルを構えた。
「俺はしつこい奴が一番嫌いなんだよ!」
ストラッグルが吠え、メルトの小型艇を撃破した。
「うわっ!」
メルトは緊急脱出装置を使って難を逃れた。
「畜生、ジョー・ウルフめ……」
メルトは脱出装置のブースターを動かし、ジョーの小型艇を睨んだ。
「てめえの息の根、必ず止めてやるぞ」
ジョーの小型艇は、脱出艦に追いついた。ジョーはストラッグルを構えた。その時彼は、ドミニークス三世の高笑いを感じた。
「無人? どういう事だ?」
次の瞬間、脱出艦から幾筋もの光が漏れ、爆発が起こった。
「しまった、こっちが囮だったのか!」
ジョーの小型艇は爆発に煽られ、大揺れに揺れた。ジョーは何とか小型艇の姿勢を制御し、ドミニークス三世の艦を探したが、すでにその宙域には姿がなかった。
「狸め。今度こそ仕留めてやりたかったが……」
バルトロメーウスの艦がジャンピングアウトすると、そのすぐ後方に別の艦がジャンピングアウトした。
「後ろにトムラー軍の艦がいます!」
レーダー係が叫んだ。バルトロメーウスはスクリーンを見据えて、
「エンジン全開! 噴射で吹き飛ばせ!」
バルトロメーウスの艦は、メインエンジンの噴射を最大にして、トムラー軍の戦艦にその炎を浴びせた。しかしトムラー軍の戦艦はそれをかわし、逆に攻撃を仕掛けて来た。
「装甲のいくつかが大破しました!」
通信兵が叫んだ。バルトロメーウスは拳を握りしめて、
「全速で振り切れ! 今はあんな雑魚を相手にしている場合ではない」
バルトロメーウスの艦は、トムラー軍の戦艦を突き放しにかかったが、トムラー軍の戦艦はピッタリと張りついて、離れない。
「ダメです、振り切れません!」
操縦士が悲鳴を上げた。バルトロメーウスは立ち上がり、
「よし、俺が仕留めて来る。お前達は一足先に閣下のところに向かえ」
「しかし、隊長……」
「大丈夫だ。俺は不死身だよ」
バルトロメーウスは言い、ブリッジを出て行った。
ジョーの小型艇は、ドミニークス領の中枢から離脱しようとしていた。その時、彼の目の前にドミニークス軍の大艦隊がジャンピングアウトした。
「ジョー・ウルフ、貴様の悪運もここまでだ!」
司令長官は叫んだ。艦隊の全ての砲門がジョーの小型艇に向けられた。
「くっ……」
さすがのジョーもこれには狼狽えた。
「逃げるにしても、数が多過ぎて無理だ。ジャンピング航法も間に合わねえ……」
砲門が一斉に火を噴いた。ジョーの小型艇はその砲火の合間をまさしく縫うように飛び、艦隊に接近した。
「死角に飛び込むしかなさそうだな」
しかしドミニークス軍もそう間抜け揃いではない。艦隊がいくつかに分かれて、上下左右に散らばり、ジョーの小型艇を攻撃した。
「このヤロウ、死角をなくしやがったか!」
ジョーは焦っていた。
( このままじゃ、蜂の巣にされるのは時間の問題だ)
砲火が次第にその間隔を狭めて来た。
「ならば、死角を作り出すまでだ!」
ジョーは意を決して宇宙服を着込み、銃座を出してストラッグルを構えた。
「ジョー・ウルフがストラッグルを撃つつもりのようです!」
監視係が報告した。司令長官は、
「警戒しろ! 奴のストラッグルは、一撃で戦艦の機能を停止させるぞ!」
しかしストラッグルは撃たれなかった。
「どういう事だ?」
司令長官は何かの罠かと訝しんだ。
「くっ……」
ジョーは指が痺れて引き金を引けないでいた。メルトの電気鞭の攻撃が、今になって効いて来たのだ。
( 何て事だ。あのヤロウの電気鞭の攻撃が、今頃効き始めやがった……)
ジョーの小型艇はそのままドミニークス軍の艦隊の真ん中に突っ込み、そのまま後方へと飛び去った。
「くそ! ハッタリだったのか?」
司令長官は歯ぎしりして悔しがった。そして、
「全艦反転だ! ジョー・ウルフを逃がすな!」
命令した。
「畜生……」
ジョーは銃座を戻し、操縦席に着いた。
「ここんとこ、いろいろあり過ぎたからな……」
彼はジャンピング航法に入り、その場を一気に離れた。
「ジャンピング航法か。すぐに航跡を辿り、我らもそこへ飛ぶのだ」
司令長官は鬼の形相で言った。彼はこの作戦が成功しないと、失脚なのだ。だから必死であった。すると通信兵が、
「しかしフレンチ軍の艦隊がこちらにジャンピング航法で向かったとの連絡が入っています」
「何!?」
司令長官はグッと拳を握りしめて、
「何という事だ!」
怒鳴り散らした。
バルトロメーウスは宇宙服を着て外に出た。そしてストラッグルを両手に持ち、トムラー軍の戦艦を狙った。
( 今は一刻を争うんだ。俺は何としてもジョーと会って、狸の首を獲る! )
バルトロメーウスはストラッグルを連射した。光束が幾筋もトムラー軍の戦艦を貫き、大爆発を引き起こした。バルトロメーウスは後ろを見て、
「ジョー、待っていてくれ。あんたと一緒に狸の息の根を止めに行くんだから」
と呟いた。
フレンチ軍の艦隊の旗艦には、ビスドムが乗艦していた。彼は右目に眼帯をしていた。
「ロボテクター隊は確かに強いが動きは鈍い。我が軽身隊の方が機動力で優っているから、この戦い、ロボテクター隊を潰せば勝ったも同然だ」
彼は言った。レーダー係が、
「前方にドミニークス軍の艦隊を確認しました」
「軽身隊出撃!」
ビスドムはニヤリとして命令した。