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第24話 トムラー軍 VS ドミニークス軍

 朝日を顔に感じてカタリーナは目を覚ました。向かいのソファに寝ていたはずのジョーの姿が見えない。カタリーナは驚いて立ち上がり、すぐにフロントへと走った。しかしまだ老人は眠っているらしく、カウンターには人気はなかった。

( ジョー、まだ傷が治り切っていないのに、一体どこへ行ったの? )

 カタリーナがカウンターの前に佇んでいると、老人が奥から現れた。彼はカタリーナに気づいてビクッとし、そっと戻ろうとしたが、

「ジョーはどこに行ったの?」

 カタリーナに呼び止められた。老人は苦笑いして振り返り、

「知らんよ。金はもらってる。追いかければまだ追いつけるかも知れんぞ。彼はこの星を出るつもりだ」

「ありがとう、おじいさん」

 カタリーナは部屋に戻ってピティレスをホルスターに入れると、ホテルを出た。

「のんびり暮らせるといいな、お嬢さん」

 老人はカタリーナの後ろ姿を見て呟いた。

 

 トムラー領とドミニークス領の境界線付近で、双方の艦隊の睨み合いが続いていた。

「バルトロメーウスめ、この屈辱必ず倍にして返してやるぞ」

 ブランドールは救援に来た後続の艦隊の旗艦に移っていた。


 ドミニークス軍は、主力をロボテクター隊に置き換え、バルトロメーウス達の乗る戦艦を中心にトムラー軍と対峙していた。

「この戦いを決戦とし、必ずトムラー軍を全滅させるぞ。総員、戦闘配置につけ」

 バルトロメーウスは命令した。

「連中が仕掛けて来るまで決して手を出すなよ」


 その頃ジョーは、小型艇が停めてある場所に辿り着いて乗り込んだところだった。

「……」

 彼はカタリーナの事を考えていた。

( 一緒にいた方がいいと思った。守ってみせると思った。だが無理だ。そばにいると巻き込むだけで、守るどころではない )

 彼は全ての敵を排除する事を考えていた。

( 今までは関わって来なければこちらから仕掛けるのは避けていた。だがそれじゃ限界がある。俺を利用しようとする者、そしてカタリーナを利用しようとする者、全部叩き潰す )

 ジョーは小型艇を発進させた。

「狸め」

 ジョーは憎らしそうに呟き、ドミニークス領に向かった。


 ドミニークス三世は、ジョーがやって来るなどとは夢にも思わず、居室で寛いでいた。彼はニヤリとして、

「フレンチとトムラーめ、焦りおったな。いくら戦力を集中したところで、敵ではない」

 すると机の上のモニターに側近が映り、

「閣下、フレンチ軍の攻撃が予想以上に激しく、進撃を止められません。増援の許可を願います」

「ならん。今の戦力で十分なはずだ。戦線を死守せよ、と伝えろ」

 ドミニークス三世は目を細めて言った。側近は唖然としたが、

「わかりました」

と返答し、消えた。ドミニークス三世は立ち上がって窓に近づき、

「戦いは短期決戦にせねばならん。ブランデンブルグの接近は予想以上に早い。それに儂の身体は……」

 ドミニークス三世は拳を握りしめた。


 エリザベートは、謁見の間で親衛隊長であるアウス・バッフェンから報告を受けていた。

「それで、戦況はどうなのですか?」

「はっ、ドミニークス軍は思わぬ苦戦を強いられているようです」

「そうですか」

 エリザベートは目を伏せた。

( また多くの人が死んで行く。どうして戦争などするのだろう? )

「いかがいたしましょう?」

 バッフェンが尋ねた。エリザベートはビクッとして目を開けた。すると影の宰相の声が、

「同盟を結んでいる以上、我々としても見て見ぬフリは出来まい。ドミニークス軍に打診し、返答次第では援軍を差し向けよ」

「はっ!」

 バッフェンが退室すると、エリザベートは、

「どうしても戦わなくてはならないのですか?」

 宰相に尋ねた。宰相の声は、

「当然です。もっともトムラーとフレンチに加担して、ドミニークスを潰すというやり方もありますが」

 エリザベートは身震いした。


 ドミニークス三世にとつて、ジョーの存在は全く視野に入っていなかった。

 そのため、ジョーは確実に「新共和国」中枢に接近していた。

「狸め。てめえが何を考えていようが、そんなことは俺の知った事じゃねえ。だが、今までの礼はきっちりさせてもらう」

 ジョーはいつになく怒りに燃えていた。


「何? ジョー・ウルフが? 何故今までわからなかったのだ?」

 ドミークス三世は、執務室に入りながら側近に怒鳴った。側近は恐る恐る、

「そ、それが、パトロール艦まで戦線に投入されているため、全くその……」

「フレンチ軍との戦いには、帝国の協力を要請しろ。戦力の半分を中枢に帰還させ、ジョー・ウルフを迎え撃つのだ!」

とドミニークス三世は怒鳴った。


 ジョーの小型艇は、「新共和国」中枢に到達していた。近衛師団の小型艇が現れて、ジョーの小型艇を攻撃したが、全く相手にならなかった。ストラッグルが次々に小型艇を撃破し、ジョーは先へと進んだ。

「急げ! 急ぐのだ! ジョー・ウルフに閣下のお命を獲らせるな!」

 フレンチとの戦いから帰還中の旗艦の中で、司令長官は叫んだ。

「エンジンが焼け付いても構わん! 閣下のお命の方が大事だ! 連続ジャンピング航法をせよ」

「はい!」

 ドミニークス軍の艦隊は、三次元から姿を消した。


 ジョーは遂にドミニークス三世がいる人工惑星付近まで進撃していた。

「今日こそ決着をつけてやるぞ、狸め!」

 ジョーは自分でも何故ここまで怒りに燃えているのかよくわからなかった。

( カタリーナのせいか? )

 彼はカタリーナを愛していた。それは確かだった。広い銀河の中で、心を許せるのはカタリーナとバルトロメーウス。ある意味では、ルイもそうなのかも知れない。

( 俺には今、守るべきものがある。迷いはない! )

「ジョー・ウルフが人工惑星内部に侵入しました」

と通信兵が告げると、ドミニークス三世は、

「よし、脱出する。奴に背中を見せるのは癪に障るが、今奴と関わっている時間はない」

 ドミニークス三世は、近衛兵2人と共に執務室を出た。


 他方、トムラー軍と交戦中のバルトロメーウスは軍本部からジョー・ウルフ出現の報告を受けていた。

「そうか。ジョーが中枢にか……」

「帰還命令が出ていますが」

と部下が言うと、バルトロメーウスは、

「とにかく、トムラー軍を撃退しなければならない。全ロボテクター隊、トムラー艦隊に白兵戦を仕掛けるぞ」

と指令した。彼もまた宇宙服を着て、格納庫に降りた。

「新共和国中枢にジョー・ウルフが現れた。この戦いを一刻も早く終わらせて、閣下を助けに行かねばならない。諸君の健闘を祈る」

「おーっ!」

 ロボテクター隊とバルトロメーウスはすぐさま宇宙に出て、砲火とミサイルをかいくぐり、トムラー艦隊に接近した。


「ロボテクター隊、接近して来ます」

「何?」

 ブリッジでブランドールは目を見開いていた。

( まだ連中がいたのか。ならば先発隊として傭兵部隊の精鋭をドミニークス領の中枢に行かせるのではなかった )

 先発隊はかなり遠回りをして着実に新共和国中枢に向かっていた。

「フレンチ軍も、帝国軍の増援で戦況が悪化したようです」

「そうか。この戦い、無駄だったのか……」

 ブランドールは歯ぎしりして窓の外を見た。いくつもの閃光が輝いていた。


「ブランドールめ、今度こそ!」

 バルトロメーウスはブランドールの乗艦に取り付き、ハッチを破壊して中に突入した。すると次々に傭兵部隊が現れ、攻撃を仕掛けて来た。

「正面から乗り込んだのではブリッジまで行くうちにまた逃げられてしまうな。お前らはここをあと5分だけ守れ。俺は外からブリッジに向かう」

「はっ!」

 バルトロメーウスは戦闘をやめると、艦の外に出てブリッジへと登って行った。


 ジョーは人工惑星の内部に突入した。

「この前みたいに閉じ込められたらかなわないからな」

 彼は北極側のハッチを特殊弾薬で撃ち抜き、破壊した。

「爆弾の反応もない。罠は仕掛けていないようだな」

 ジョーは惑星内を進み、総裁官邸を目指した。官邸を警護している近衛兵がジョーの小型艇に気づき、対空砲で攻撃して来た。

「邪魔するな!」

 ジョーは小型艇の機銃で反撃し、対空砲を破壊した。近衛兵達は官邸の中に逃げ込んだ。

「狸はまだ中にいるのか?」

 ジョーは半信半疑のまま小型艇を着陸させ、官邸の中に入った。しばらく進むと、近衛兵達の銃撃が始まった。

「ちっ!」

 ジョーはストラッグルで反撃し、先へと進んだ。


 その頃、同じ人工惑星にトムラー軍の傭兵部隊が乗り込んだ小型艦が入って来ていた。

「やけに静かだな。反撃がない」

と言った男がいた。この男の名はメルト・スクリュー。傭兵部隊最強の男だ。もう1人の男が、

「そうだな。警戒心では誰にも引けを取らねえはずの狸にしちゃ、どうにも警備が手薄だ」

と言った。この男の名はガンダ・ロムスコーで、メルトとは親友である。


 ジョーは遂にドミニークス三世の執務室まで辿り着いた。しかし中は無人だった。

「狸め、逃げやがったか」

 ジョーは仕方なく元来た道を戻った。


 メルト達の乗った小型艦はジョーの小型艇を発見していた。

「むっ? 先客がいるようだな。誰の小型艇だ?」

「見た事ねえな、あんな型は……」

 メルトとガンダが話していると、官邸の中からジョーが出て来た。

「や、奴は!?」

 メルトが目を見開いた。ガンダもジョーに気づいた。

「ストラッグルを持った男。もしかして、あいつ……」

「間違いねえ、ジョー・ウルフだ。軍のデータにあった」

 メルトの言葉に傭兵達はざわついた。

「ジョー? ジョー・ウルフだって?」

「あいつがいるのか? こいつはすげえぜ」

「奴をぶっ殺せば、正規軍に入れる。どうやらケンの奴は、しくじったらしいな」

 メルトはニヤリとした。

( 奴がどうしてこんなところにいるのかわからんが、これは神が俺に与えてくれたチャンスだ )

「艦を着陸させろ。ジョー・ウルフを殺る!」

とメルトが言うと、他の傭兵が、

「メルト、抜け駆けは許さねえぜ」

 メルトはその傭兵を睨んで、

「てめえらの腕で奴が殺れるか、バカヤロウ! よく考えてものを言え」

 傭兵達は反論できずに黙り込んだ。


「あれはトムラーの……」

 ジョーも傭兵部隊の小型艦に気づいていた。

( あいにくだが、狸はいねえぜ )

 ジョーはニヤリとした。

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