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第23話 ブランドール・トムラーの進撃

 ジョーの傷は昼頃にはかなり回復していた。昼食をワゴンで運んで来た老人は、ジョーの回復の早さに仰天した。

「あんた、本当に不死身だな。銃で脇腹を撃たれて、あれほど出血したのに。しかも毒で体力も落ちていたろうにな」

「自分でも呆れてるよ」

 ジョーはソファから起きて座った。カタリーナはワゴンをジョーの前に引き寄せて、

「食べられるの、ジョー?」

「ああ、大丈夫だ」

「私が食べさせてあげましょうか?」

 カタリーナは大真面目に言ったのだが、ジョーはビックリして目を見開き、

「じょ、冗談だろ」

と言うと、食器を持って食べ始めた。カタリーナは少し寂しそうな顔をして、

「そう……」

 老人は、

「何かあったら声をかけてくれ」

と言い残して立ち去った。カタリーナはそれを見届けてから、

「こんな生活、いつまで続けるつもり、ジョー?」

「さァね」

 ジョーは目を伏せた。カタリーナはジョーをジッと見て、

「貴方、全快したら私を置いてどこかに行くつもりでしょ?」

 ジョーは表情を変えずにカタリーナを見た。カタリーナは、

「でも私は嫌よ。もうどんなことがあっても貴方から離れない」

「死ぬかも知れないぞ」

「貴方と離れるのは、死んでいるのと一緒よ」

 ジョーは目を伏せて、

「わかった。一緒にいよう」

「ジョー!」

 ジョーが承諾してくれた。カタリーナはその時、単純に喜んだ。何も深読みせずに。

「でかい戦争が始まったらしい」

と老人が戻って来て言った。

「戦争が?」

 カタリーナが顔を上げて尋ねた。老人は頷いて、

「フレンチとトムラーが同時にドミニークスに仕掛けたんだ。また戦乱が起こるぞ」

「トムラー……」

 ジョーはその名前にハッとした。

「そうか。やっと思い出したぜ。ケン・ナンジョーの着ていた軍服がどこのものなのか。あれは、トムラー軍の傭兵部隊の物だ」

「傭兵部隊?」

 カタリーナと老人は鸚鵡返しに尋ねた。ジョーは2人を見て、

「帝国の親衛隊、狸のロボテクター隊、エフスタビードの暗殺隊、フレンチの軽身隊と並び称される殺人のプロ集団だ。恐らく組織としては銀河系最強だろう」

「ええっ!?」

 カタリーナと老人は驚愕して顔を見合わせた。ジョーは続けた。

「連中は歴戦の勇士ばかりだ。怖い物知らずで、情け容赦がない。只、金に流され易いのが欠点だがな」

 カタリーナはジョーを見て、

「ケン・ナンジョーがその1人だったということ?」

「ああ。奴なら入りかねねえ組織だ。ケン・ナンジョーを差し向けといて、その後は知らん顔をするつもりのようだな」

 ジョーはギュッと拳を握りしめた。


 ドミニークス領とトムラー領の境界線付近で、双方の艦隊が大激戦を展開していた。

 数多くの艦が爆発、大破し、被弾して行った。

 ブランドールは旗艦で先頭に立って指揮をとっていた。

「何としてもこの前線を突破するのだ。懐に飛び込めば、ドミニークス軍など脆い!」

 彼は怒鳴りつけるように命令した。

 トムラー軍の艦隊は、遂にドミニークス軍の艦隊を破り、進撃を続けた。


 前線を突破されたことを執務室で知らされたドミニークス三世は激怒した。

「バカ者め! すぐに増援を送れ! それから、フレンチ軍の方ももっと戦力を投入しろ。連中とて恐らく決死の覚悟のはずだ」

「はっ!」

 側近はドミニークス三世の怒りに圧倒されていた。彼は、

「エフスタビードが消滅したと思ったら、息吐く間もなくフレンチとトムラーが……。何という事だ」

と呟いた。


 トムラー軍はまさしく破竹の勢いでドミニークス軍の艦隊を撃破し、「新共和国」の中枢に迫っていた。

 これに対してドミニークス軍は遂にロボテクター隊を投入し、白兵戦を仕掛けさせた。トムラー軍も傭兵部隊を繰り出した。

 トムラー軍の艦の外と中でロボテクター隊と傭兵部隊の肉弾戦が始まった。

 傭兵は誰も彼も2mを軽々と超す巨漢ばかりで、ロボテクター隊はその装備の上からねじ伏せられて殺されてしまった。

「ロボテクター隊、苦戦しています!」

 バルトロメーウスは部下からの報告を本部で受けていた。

「わかった。俺が行く」

と言うと、彼専用の小型艇に乗り込み、前線に向かった。


「あれは?」

 ブランドールはたった1機で向かって来る小型艇に気づいた。

「おい、あの小型艇、誰のものだ?」

「ロボテクター隊隊長のバルトロメーウス・ブラハマーナのものと思われます」

 通信兵の返答に、ブランドールはギョッとした。そして、

「すぐに傭兵部隊の半数を奴のところに向かわせろ。バルトロメーウスは別格だ」

「はっ!」


 バルトロメーウスはトムラーの艦の一つに接近すると、小型艇を出てハッチに取り付き、想像を絶するような怪力でそれをこじ開けてしまった。すると彼の前と後ろから、傭兵部隊が数十人現れた。

「ほォ。こいつは暴れがいがありそうだな」

 バルトロメーウスは指をボキボキ鳴らしながら前にいる傭兵部隊に突進した。

「ウオーッ!」

 巨漢の傭兵達がまるで子供のように投げ飛ばされた。後方にいた部隊も突撃したが、相手にならなかった。

「何だ、身体が温まったらもうおしまいか?」

 バルトロメーウスはその艦のブリッジを制圧し、ブランドールのいる旗艦を探した。

「大将の首を取るのが一番早い戦争終結だな」

 彼は艦を操縦し、ブランドールの旗艦に向かった。


 ブランドールはバルトロメーウスが乗っ取った艦がこちらに向かっているのを知って驚愕した。

「何としても奪還しろ!」

 彼は狼狽えて叫んだ。


 バルトロメーウスが乗艦している艦は、まっすぐにブランドールのいる旗艦に向かっていた。

「戦争はできるだけ早く終わりにする。ロボテクター隊は各個に敵を撃破。無駄死にするなよ」

と彼は全部隊に命じた。


 カタリーナは食器をワゴンに片づけながら、

「ジョー、このままこの星で一緒に暮らす事はできないの?」

「……」

 ジョーは何も答えなかった。彼自身、戦いが好きなわけではない。できればカタリーナの望むようにしたい。しかし、彼に関わって来る連中が、決して彼を安穏な生活に落ち着かせる事はない。

「?」

 カタリーナはジョーが遠くを見ている気がした。

「どうしたの、ジョー?」

「いや、別に」

 ジョーは目を伏せた。

( バル、お前は今戦っているのか? 死ぬなよ、バル……)

 バルとはバルトロメーウスの事だ。ジョーはバルトロメーウスに絶大な信頼を寄せていた。だからロボテクター隊を任せた。しかし今になって考えてみると、それは途方もなく大変な事だった。

「戦争か。あの時の血の臭いが甦って来るようだ……」

 ジョーは自嘲気味に呟いた。カタリーナはワゴンを押して部屋を出て行きながら、

「戦争はもうたくさんよ。私、今まで何人殺してしまったか、わからないくらいよ」

「……」

 ジョーは黙ってカタリーナの後ろ姿を見た。

( 彼女にも辛い過去がある。俺は身勝手なのかも知れないな )


 ブランドールはバルトロメーウス以下多くのロボテクター隊が旗艦に接近しているのを知り、愕然としていた。

「何故だ? たった1人のせいで、戦況が変わってしまった……」

「ロボテクター隊、接近して来ます!」

 ブランドールはいきり立って、

「何としても撃退しろ! 傭兵部隊はどうした?」

「現在こちらに向かっています! しかしロボテクター隊の方が先行しています」

「……」

 ブランドールはブリッジから出て、緊急脱出用の隠し通路に向かった。そして通信機に、

「バルトロメーウスをブリッジにおびき寄せて、殺せ!」

と命じた。


 バルトロメーウスは数十人のロボテクター隊と共にブランドールの旗艦に乗り込み、敵を撃退しながらブリッジを目指した。

「敵は只1人、この艦にいるブランドール・トムラーのみ。傭兵達は雇い主が死ねば戦いをやめる。無駄に人を殺すな」

 バルトロメーウスは無線でロボテクター隊に呼びかけた。

「突入!」

 バルトロメーウスはブリッジの扉を破り、隊員と共に中に飛び込んだ。しかしそこはもぬけの殻だった。

「くそっ、逃げたか、ブランドールめ!」

 バルトロメーウスはすぐに脱出を各隊に命じた。

「ここに奴がいない以上、この艦に長居するのは危険だ。各員すみやかに脱出しろ」

 バルトロメーウスは隊員を先に行かせ、自分はブリッジに残ってブランドールの行方を探った。

「奴だけは何があっても仕留めなければ……」

 彼は艦内のあらゆるルートを検索した。

「どこだ? 奴はどこから逃げたんだ?」

 そして遂にバルトロメーウスはブランドールの脱出ルートを探し当てた。

「そこか!」

 彼はその巨体に似合わない速さで走った。


 ブランドールはバルトロメーウスが接近している事を艦内モニターから伝えられる情報で把握していた。

「奴を殺せ。何としても殺すんだ!」

 彼は傭兵部隊と正規軍の兵に命じた。


 バルトロメーウスはブランドールの辿ったルートを全速力で走っていた。

「ムッ?」

 前方に傭兵部隊と正規軍の兵が現れた。傭兵達は銃を構えている。

「あんなおもちゃに何が出来る!」

 バルトロメーウスは怯まずに走った。

「撃てっ!」

 一斉射撃が始まった。バルトロメーウスは近くにあった部屋の扉をバキンと引き剥がすと、それを楯代わりにして突進した。

「退け!」

 兵達は退却をした。バルトロメーウスは構わず走った。すると次に現れた傭兵達は、ストラッグルを持っていた。

「何?」

 バルトロメーウスは一瞬立ち止まった。しかし、

「これならどうだ!」

ともう一つ扉を引き剥がして二重の楯を造った。傭兵達はストラッグルを撃ったが、扉2枚を撃ち抜く事は出来ず、バルトロメーウスに体当たりされて後ろに飛ばされた。

「偽物だが、少しは使えそうだな」

 彼は扉2枚をストラッグル2丁に持ち替え、傭兵達を威嚇射撃した。傭兵達は不利と悟ると一目散に逃げ出し、正規兵達もなすすべなく後退した。

「タイムアウトだな」

 バルトロメーウスはブランドールが脱出した事を他のロボテクター隊の連絡で知った。

「この艦だけは沈めさせてもらう」

 彼はストラッグルを連射してあちこちを破壊し、脱出した。

「ジョーが言ってたよな。ストラッグルを2丁同時に撃てるのはお前くらいだって……」

 

 ブランドールの旗艦が機能を停止してしまったので、トムラー軍の艦隊は隊列を乱し、劣勢に陥った。ブランドールは脱出に使った小型艇の中でそれを知った。

「ここは一旦撤退だ。体制を立て直して、もう一度来るぞ」

と彼は命令した。


 バルトロメーウスはロボテクター隊の小型艇に拾われ、帰還途中だった。

( ジョー、俺は死なない。もう一度あんたに会うまではな )

 バルトロメーウスはそう心に誓った。


 ジョー達のいるルイドンの街に夜が訪れていた。

 ジョーはソファに座り、じっと考え事をしていた。カタリーナは夕食の後片付けをしながら、心配そうに彼を見ていた。

( またどこかへ行ってしまうような気がする。ジョー……)

「明日の朝早く、ここを発とう」

 ジョーは出し抜けに言った。カタリーナはハッとして、

「明日の朝早く?」

「ああ。じいさんにこれ以上迷惑はかけられねえしな。それと気になる事がある」

「ドミニークス軍とトムラー軍の戦争の事?」

「そうだ」

 カタリーナは手を休めてジョーの隣に座り、

「何故気になるの?」

 ジョーは窓に目をやり、

「バルの事、覚えてるか?」

「ええ。覚えてるわ。士官学校で私の一級下だった人でしょ? ジョーの古い友人よね?」

「ああ。あいつは今ロボテクター隊の隊長だ」

「そう」

 カタリーナはまた不安になった。ジョーはカタリーナを見て、

「奴には大変な事を押しつけちまったからな。無事かどうか気になるのさ」

「バルなら大丈夫よ。彼も不死身だもの」

 カタリーナの言葉にジョーはフッと笑って、

「確かにな」

 カタリーナはその時、ジョーが夜中に1人でホテルを出るつもりだなどと夢にも思っていなかった。

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