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第19話 再会

 ジョー、ルイ、ケン・ナンジョー。運命の悪戯である。3人は同じ星の同じ街にいたのだ。それもそう遠くない所に。

「……」

 ジョーはソファから身を起こした。カタリーナはまだ戻っていない。彼は立ち上がり、よろけながらも部屋を出るとフロントに向かった。

「おい」

 ジョーは居眠りをしている老人に声をかけた。老人はハッとして目を覚まし、

「あ、あんたか。何だね?」

「連れの事を頼む。それから、彼女がここに戻って来たら、すぐ帰ると言っていたと伝えてくれ」

 ジョーは老人に金貨を数枚渡した。老人はそれを受け取って、

「これだけあれば、1ヶ月泊まれるぞ」

 ジョーを見た。

「本当にすぐ戻るのかね?」

「いや」

 ジョーは入り口に歩き出した。老人が、

「どうしてあのお嬢さんを置いていくんだね?」

「あんたには関係ない事だ」

 ジョーはサッと外に出て行った。老人は手の中の金貨を見つめて、

「ジョー・ウルフとカタリーナ・パンサーか。どこかにたれ込めば、もっと金になるだろうが、その後の事を考えると、とてもそんな気にはなれねえな」

 彼はジョーの出て行った入り口を見て、

「それに例えそんな心配がなくても、とてもたれ込めねえ。そんなことしたら、儂は人間の屑になっちまう」

と老人は苦笑いして呟いた。


 ドミニークス三世は居室で寛いでいた。すでに銀河系は我が物ととでも思っているのだろうか、心なしか顔はほころんでいた。

「閣下!」

 側近が入って来た。ドミニークス三世はムッとして彼を見た。

「何事だ?」

「はい、エフスタビード軍の残存艦隊を発見しました」

 いちいちそんな報告はいらん、と言おうとしたが、ドミニークス三世は口にするのをやめて、

「どこでだ?」

「中立領付近です。連中の絶対勢力圏とも言うべき領域です」

「そうか」

 ドミニークス三世は思案した。

( どうしたものかな。叩くには絶好のチャンスだ。しかし相手はメストレス。しかもこの戦争の仕掛人は影の宰相。そう事がうまく運ぶとは思えんな )

「監視をつけろ。しばらく様子を見るのだ」

「はっ!」

 側近が退室すると、ドミニークス三世は目を閉じた。


 カタリーナは街の中にある薬局に行ったが、彼女が持ち込んだジョーの血液のサンプルでは、その毒が何なのかを解明する事が出来なかった。薬局の薬剤師によると、この星にはそれだけの機材がある薬局はないという。カタリーナはガッカリした。

「ジョー……」

 彼女はジョーの力になれると思っていたのに何もできない自分が不甲斐なかった。

「あっ」

 カタリーナがホテルのフロントに行くと、老人は慌てて顔を背け、何かをしているフリをした。

「何よ、わかり易いわね。何か隠し事?」

 カタリーナに詰め寄られて、老人はギクッとしたが、

「あ、ああ、伝言を頼まれたんだ。あんたの連れ、出かけたよ。すぐ戻るって言ってた」

「何ですって?」

 カタリーナは仰天した。

「どこに行ったの?」

「だからすぐ戻るって……」

「どこに行ったのか正直に言いなさい!」

 ピティレスが老人の顔に押し当てられた。老人は蒼くなって、

「本当に知らねえんだよ。すぐ戻るって言うのは、あの人がそう言えって言ったんだ。あの人は戻るつもりはねえらしいよ」

 カタリーナはピティレスをホルスターに戻した。

( ジョー……。どうして私を避けるの? 足手まといにはならないつもりなのに……)

 カタリーナはジョーとの距離が近づいたと思っていた。しかしそれは自分の思い込みだと知った。彼女は寂しそうに部屋に歩いて行った。

「全く、ジョー・ウルフも罪な男だぜ。あれほどの美人を邪険にしてさ」

 老人が呟いた時、ホテルに軽身隊が5人入って来た。老人はそれに気づいてビクッとした。

「じいさん、このボロホテルにジョー・ウルフとカタリーナ・パンサーがいるって聞いたんだけどな」

 軽身隊のリーダーが尋ねた。

「あ、あ……」

 老人は恐怖のあまり声が出せなかった。リーダーは老人に詰め寄り、

「いるのか、いないのか?」

「いるわよ」

 カタリーナが現れた。彼女は不機嫌そうに軽身隊を見てピティレスを構えていた。リーダーはそれを見てせせら笑い、

「よしな、カタリーナ・パンサー。そんな水鉄砲みたいな銃を使ったって、何もならないぞ」

「そうかしら?」

 ピティレスが唸り、軽身隊の1人の顔に当たった。

「ウワァッ!」

 その隊員の顔は、ゴム状の流動物で覆われていた。カタリーナはニッと笑って、

「その流動物は1分で固まるわ。そして3分で窒息死よ」

 流動物で顔を覆われた隊員は必死になってそれを引き剥がそうとしたが、無駄だった。他の隊員とリーダーは焦ってカタリーナを見た。

「さァ、お次はどなた?」

 軽身隊はもがく隊員を連れて、逃げ去った。カタリーナは溜息を吐いた。

( ジョー……。その身体で、どこに行ったの? 貴方も狙われているのよ)


 ドミニークス三世は、執務室に出向き、側近達からエフスタビード軍の動向について報告を受けていた。

「フレンチもトムラーも仕掛けて来るつもりはないらしいな。全軍を中立領方面に回し、エフスタビード軍殲滅に当たらせよ」

「はっ!」

 ドミニークス三世はそれでも不安だった。

( フレンチやトムラーが動いても、それは別に大した事ではない。不気味なのは帝国だ。我が軍とエフスタビード軍を戦わせた上で、どうしようというのだ? )

 ドミニークス三世は、影の宰相への雪辱戦を考えていた。

( あの時の恥辱、忘れはせんぞ。必ず帝国は我が手で……)

 思いが高まったせいで、ドミニークス三世はふらつき、椅子から落ちてしまった。

「閣下!」

 側近達が驚いて駆け寄ったが、ドミニークス三世はそれを手で制して立ち上がり、

「心配せずとも良い。少し目眩がしただけだ」

 ドミニークス三世の顔は土色になっていた。


 ジョーはルイとケン・ナンジョーがいるバーの前で立ち止まった。

「何だ? この中から殺気が……」

 ジョーはよろけながら店に近づいた。その時中から悲鳴が聞こえた。

「何があったんだ?」

 ジョーはドアを押し開けて中に入った。

「……」

 そこはまるで修羅場だった。客の何人かがストラッグルの餌食になり焼け焦げて死んでいた。酷い臭いが店の中に立ち込めている。

「こいつは……」

 ジョーはバーの奥で睨み合うルイとケンに気づいた。

( あの2人か? )

「ケン・ナンジョー、何のマネだ? こんな人混みでストラッグルを撃つとは、正気とは思えんな」

 ルイはホルスターに手をかけていたが、抜く気配はなかった。ケンはニヤリとして、

「あんたを殺すためには手段を選ばないのさ。死んでもらうぜ、ルイ・ド・ジャーマン!」

 ストラッグルを構えた。

「くっ……」

 次の瞬間手を押さえていたのはケン・ナンジョーだった。ジョーのストラッグルがケン・ナンジョーのストラッグルを吹き飛ばしていたのだ。ルイとケンはその時初めてジョーに気づいた。

「ケン・ナンジョー、ルイ・ド・ジャーマンはてめえのようなカスにはやらせねえぜ」

 ジョーはストラッグルをホルスターに戻して言った。ケンはあまりにも意外な役者の登場に狼狽えていた。

「貴様、どうしてここに?」

 ジョーはニヤリとして、

「ほんの偶然さ」

 ルイはジョーを見て、

「礼は言わんぞ、ジョー・ウルフ」

「俺も言ってもらおうとは思っちゃいねえよ」

 ジョーとルイは同時にケンを見た。ケンは真っ青になった。

( こ、殺される……。俺はこの2人の男に……)

「てめえの命なんか取りゃしねえよ、ケン・ナンジョー。てめえは殺す価値もねえクズだ」

「……」

 ケンはホッとしたが、これ以上にない屈辱を感じた。

「むっ?」

 ケンはジョーがよろけながら立ち去るのに気づいた。

( 何だ、奴は弱ってるじゃねえか。チャンスだ。折りを見てこの礼をさせてもらう )

「待て、ジョー・ウルフ」

 ジョーが外へ出た所でルイが呼び止めた。

「何だ?」

「お前、ふらついているが、どうした?」

 ジョーはフッと笑って、

「あんたも変わった奴だな。俺の身体の心配より、自分の身の安全を考えた方がいいぜ」

 ストラッグルを向けた。ルイはギョッとした。

( ま、まさか? )

 しかしストラッグルはルイの遥か上に向かって撃たれて、軽身隊の1人が店の屋根の上から落ちて来た。ルイはその隊員を見て、

「こいつはフレンチの軽身隊か?」

「俺のそばにいると、引きも切らずに命を狙われるぜ」

 たちまち軽身隊が2人を取り囲み、屋根から落ちた隊員も立ち上がった。

「ストラッグルは効かねえぜ」

「そのようだな」

 2人は軽身隊を睨んだ。

「へへ、2人共、フレンチの殺し屋にやられちまえ」

 物陰から見ていたケンはそう呟いた。

 軽身隊が一斉に2人に飛びかかった。ジョーとルイはストラッグルを抜いた。リーダーが、それに気づき、

「バカめ、ストラッグルは通用しない!」

 ジョーに襲いかかった。ジョーはストラッグルのグリップでリーダーの顎を殴った。ルイはストラッグルの銃身で隊員の1人を殴り倒した。

「ぐわっ!」

 リーダーはそのまま後ろに飛ばされて倒れた。ジョーはニヤッとして、

「ストラッグルは、たった三発で戦艦級を沈められる弾薬を使えるんだぜ。どのくらい頑丈に出来ているかわかるだろう?」

「うう……」

 軽身隊はササッとリーダーを抱え上げて退いた。

「てめえらは暗殺のプロだ。しかしてめらには一つの戦法しかねえ。身の軽さを利用して、相手の隙を突くやり方だ。そんな姑息な戦い方が、俺やルイに通用するとでも思ってたのか?」

「ル、ルイ?」

 リーダーはビクッとして改めてルイの顔を見た。ルイはフッと笑って、

「ようやく私が誰かわかったようだな」

「ひ、退け!」

 リーダーは隊員達と共に逃げ去った。

「……」

 ジョーはルイを見た。ルイもジョーを見た。

「決着をつけたいところだが、今日はやめておこう。お前は今完全ではない。私が倒したいのは、100%の状態のお前だ」

「そうかい」

 ルイはサッと背を向けると立ち去ってしまった。ジョーはしばらくルイが立ち去った方を見ていたが、やがて背を向けて歩き出した。まだ彼は少しよろけていた。いや、先程より酷くなっていたかも知れない。

( くそ……。毒が抜けねえな。何とかしねえと)

 ケン・ナンジョーは、2人が助かったのを知って歯ぎしりした。

「チッ、2人が戦うどころか、軽身隊まで消えちまいやがった。こうなったら奴が回復する前に、俺が奴を殺してやる」

 ケンはジョーの後ろ姿を睨みつけて呟いた。


「何?」

 メストレスは自分達の同志が潜伏しているアーマンド星という惑星にジョーばかりでなくカタリーナもいることを知って驚いていた。

「そうか。アーマンド星にいるのか。よし、アーマンド星に行くぞ。船を乗り換えて、身分を隠してな」

「はっ!」

 エレトレスはメストレスのそばで不安そうに彼を見ていた。

( 兄さん。また何か考えているのか?)

「ジョー・ウルフだけならばともかく、カタリーナ・パンサーがいるとなれば、奴を利用する手はあるというもの……」

 メストレスは部下を見て、

「すぐに暗殺隊を差し向けて、カタリーナ・パンサーを捕えろ。ジョー・ウルフ自身にいくら弱点がないとは言え、奴とて人間。カタリーナの命が危ないとなれば、必ず助けに来る」

「はい」

 メストレスの艦から、暗殺隊の小型艇が飛び立ち、ジョー達のいるアーマンド星に向かった。


「カタリーナ・パンサーがいたのは、ルイドンの街だったな」

「そうだ」

 暗殺隊の小型艇は、アーマンド星に降下し、ルイドンに降り立った。


 カタリーナはホテルの部屋でガックリと項垂れてソファに座っていた。彼女は人の気配を感じて、ハッとしてドアを見た。

「ジョー!」

 ドアに寄りかかるようにして、ジョーが立っていた。カタリーナは立ち上がってジョーに近づき、

「戻ってくれたのね……」

「あのじいさんを嘘つきにしたくなかったんでね」

 ジョーは言いながら中に入ったが、倒れ込むようにしてソファに座った。

「ジョー!」

 カタリーナはジョーの身体を起こし、ソファに座らせた。ジョーは目の焦点が定まらないようで、額からは汗が噴き出しており、呼吸は短くて荒かった。

「毒が効いて来たみたいだ。病原菌はともかく、呼吸器系がやられちまって、息がうまくできねえ……」

「待ってて!」

 カタリーナはフロントに走った。老人はカタリーナの顔を見ると、ビクッとした。

「ねえ、お医者さんはこの街のどこにいるの?」

 カタリーナが尋ねた。すると、

「医者ならここにいるぜ」

 エフスタビードの暗殺隊が3人、カタリーナを取り囲んだ。

「何? 誰よ、あんた達?」

 カタリーナはピティレスに手をかけた。しかし敵は3人ではなかった。

「くっ!」

 知らぬ間に後ろに回り込んだ暗殺隊が、カタリーナの口を塞いだ。

「うう……」

 カタリーナは睡眠薬を嗅がされ、意識を失ってしまった。暗殺隊の1人が、

「ジョー・ウルフに伝言だ。カタリーナは預かった。連絡を待て、とな」

「……」

 老人は悔しそうな顔で暗殺隊を睨んだ。暗殺隊はスッと姿を消してしまった。

「くそ!」

 老人はすぐさまジョーのいる部屋に走った。

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