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第9話 迷いの中で

 家に戻ったハーフィドは、靴も脱がずにベッドに倒れ込んだ。

 まだ午前中で日も高かったが、何も手につかない気持ちだった。今すぐにシャクールに会いたい気持ちもあったが、しかしすぐに結論を出してしまう勇気もない。


(何でこんなことになったんだよ。そりゃ俺たちのしていることは百パーセント正しいわけじゃない。でも多少の矛盾なら目をつむったっていいだろ。どうしてわかってくれないんだ)


 ハーフィドは突然の展開にうろたえていたが、次第にシャクールへの苛立ちを募らせた。

 自分と同じ決断を下してくれなかったシャクールに対して、彼にも彼の理由があるのだと思いながらも怒りを感じた。


(だけどもしシャクールがわかっていて、それでも自分は組織から抜けると言うのなら、俺はあいつを殺さなきゃならない。そんなこと、本当に俺にできるのか?)

 よく話せばわかってくれると自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせようとすると、今度は不安の方がわき上がる。


 シャクールはハーフィドにとって、何よりも特別な存在というわけではない。

 もしもこれが単なる別れであるなら、あれこれと思うことがあったとしても、きっと最終的にはさみしさを感じるだけですんだはずだ。


 だが殺すとなると話は別である。


 シャクールはいつだって、どこまでもいいやつだった。どんなに軽く考えようとしても、やはりハーフィドはシャクールのことが好きなのだと思う。その命を一体どんな覚悟で殺せばいいのか、ハーフィドにはわからない。


 後悔しないために、ハーフィドは考えた。どうすればシャクールに考えを変えてもらえるのか、その時が来てしまったときにはハーフィドはどう決心をつけるべきなのか。


 確証はなかなか見つからず、答えは遠い。


 ハーフィドは染みだらけの古い天井を見上げて、目を閉じた。


 ◆


 そしてその日の夜。ハーフィドはシャクールに電話をした。


「俺だ。シャクール」

「ハーフィドか。急に何だよ」


 電話口のシャクールは少し驚いていた。シャクールとは常に顔を合わせていたので、電話をしたことはほとんどなんかった。


「お前に不都合がもうなければ、ちょっと遠出でもしないか? この国に来てそこそこたったわりには、今までどこも行ってなかったし」


 ハーフィドは何も知らないふりをして、シャクールを誘った。

 やるべきことをやるために、ハーフィドはある機会を用意することにした。


「遠出?」

「あぁ、行き先はジュベイルでどうかと思っている」


 突然の話に聞き返すシャクールに、ハーフィドはさらに提案した。

 シャクールはしばらく黙り、答えた。


「……わかった。じゃあその何とかって所に行ってみるか」


 何に気付いていて何を知らないのかはわからないが、シャクールも誘いに乗った。それは、ラティーファと海の方へと出掛けるのとはまったく意味の違う約束だ。

 この約束により、二人がどうなるのかは明日に決まることになったのである。

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