みつれにみつれ片思をせむ
和歌のタイトルでめっちゃ和風ですが、クリスマスの短編です(*´▽`*)
昔から恋心は変わってないんだなぁとか、
いまSNSで140文字でいろいろ書いてるけど、和歌ってそれより少ないのにすごい密度で想いが詰まっててステキだなぁとか、
そんなことを考えながらストーリーに混ぜ込みました
2018年のクリスマスを前に、感想でいただいたアドバイスを元にして少し改稿してみました♪
「吉本」
「はいはい、またなにかご質問ですか」
私は女子たちにあらぬ誤解をされないように、いつもわざと嫌そうに返事をする。大人気メンズファッションモデルの「なぎゅ」に話しかけられて、ウザそうにしているのが余計に反感を買っているのは知っているけど、かといって嬉しそうにするのも絶対ダメだと思うから。
「あのさ、これ訳してみてくんね?」
「えー」
彼はそんな私の態度も気にせず、もちろん周りの女子たちの視線も気にせず、私の目の前にノートを差し出してきた。自分がモテてる自覚はしっかりあるくせに。
ノートには、和歌が一首。
『ますらをと 思へる我や かくばかり みつれにみつれ 片思をせむ』
急にこんな恋の歌なんか見せられて、びっくりして素で聞いてしまった。
訳して、って言うからてっきり英語だと思ったし。でも、万葉集とか詳しくはないけど、恋の和歌は結構好きで調べたりしてたから、これくらいなら知ってる。
「んと、いきなり万葉集とかどしたの? 受験対策?」
「イイ男のコト、ますらおって言うんだろ? 俺じゃんって思ってグルったら出てきて気になったからさぁ」
「はぁ? 自分でそれ言う? てか検索したんなら訳も調べればよかったのに」
「あはは、そーゆーのめんどくせーもん」
はあ、今日はいろんな意味でいつも以上に疲れる。
ほらほら。女子、目が怖いって。私、勉強のハナシしてるだけですよー。ここから恋になんて発展しませんからご安心下さーい。
「ふう。そのイイ男がね、俺はイイ男、つまり当時の感覚だと強くて男らしい人物だと思ってたけど、恋をしてテンパってしまってます、って感じ」
一言ずつ訳すのもダルいから、だいたいのニュアンスで意訳。
当時のますらおが今のイケメンかっていうとそうじゃないと思う……だから彼が俺じゃん、って思うのとはなんとなく違う気はするんだけど、ソコは深く追求するところでもないよね、って。
変に膨らませて会話が長くなっても女子たちのヘイト集めるだけだし。
「おー! さすが吉本、片思いって昔から片思いって言うんだな、おもしれー。さんきゅー!」
「どういたしまして」
だけど彼、撮影とか仕事で授業出られないこともあるのに、そんなに成績悪くないんだから、実は結構アタマ良いんじゃないかと思う。
小学校の時だって、よくは憶えてないけど勉強で困ってるイメージは全然ないし、むしろ国語は得意だったような……この歌くらいわかりそうな感じするんだけどな。
でも、片思い、私もおんなじこと思った。1000年も昔でも、片思いって言うんだなって。それに、これまで自分に自信満々だった人が揺らぐほどの片思いってどんなだろうって、たったこれだけの短い言葉にドキドキしたりもした。
「吉本ってさ、昔からマジ頭良かったよなー。どっかイイ大学とか受けんの?」
「頭良い……かはわかんないけど他に取り柄ないから必死にやってる感じだよ。それにうちお金ないから国立受からないとダメって言われてるし」
「そっかぁ、じゃ俺も国立行こうかな」
「何それ。やめてよね、なぎゅ様が受けるなんてわかったら倍率凄いことになっちゃうじゃん」
「あー……それはあるかもなぁ。あはは」
じゃあ、って何?
笑いごとじゃないよ、全く。冗談でもやめてほしい。こっちは必死で勉強してるのに、お金かからなそうだからちょっと国立受けてみよう、的な?
見た目が良くなったぶん、性格が悪くなった気がする。
昔の片思い引きずってる私がバカみたい。
どうせ実らない恋なんだし、このまま嫌いになれたらそのほうが私にとっては幸せなことなのかもしれないな、なんて思うけど、なかなか嫌いになんてなれないんだよね……
なぎゅ、つまりこの倉持渚。
モデル以外にもテレビ出たりして世の中的にはアイドルみたいな人気者。
見た目は最上級レベルだとは思う。髪質ひとつとったって、絹糸みたいに細くて艶がある栗毛が天パでウエーブしてるって奇跡。
ツヤツヤの白い肌、遊び毛のない整った眉と長い睫毛に、髪と同じで色素の薄い瞳。おまけに背が高くて全部が王子様要素で埋め尽くされてる。
ぱっと見、学校指定ぽく見えて実はブランド物なYシャツとVネックセーターを腕まくりして、持て余し気味な長い脚を投げ出して机にどっかりと座ってる。
その俺様キャラもあって男女問わずの人気なんだよね。
でも、なにくわぬ顔でつるむ男子もだけど、特にキャーキャー騒ぐ女子たちにうんざりする。
……昔は見向きしないどころかイジメに近い事してたくせに。
もちろん全員じゃないけど、地元の高校だから小学から一緒の子が何人もいる。
彼が中学2年の時に親の都合で転校して、みんな豚がいなくなって教室が広くなった、吸える空気が増えたとか散々言ってたの忘れちゃったのかな。
今でこそみんなが見惚れる奇跡のヘアスタイルと顔つきだって、丸々太ってた当時は外国産輸入豚とか、女の子みたいだからってブタ子とか言われてた。
本人はいつもニコニコ笑って流してたし、こないだなんかはテレビのバラエティ番組で昔の写真使ってネタにしたりもしてたからもう気にしてないのかもだけど。
でも……私は憶えてるんだ。彼が帰り道の遊歩道で泣いてた事。
私も彼も家が遠めだったから、その遊歩道を途中までいつも二人で帰ってた。分かれ道でバイバイした後、彼は一人になってこっそり泣いてた。
だから転校は淋しかったけど、もう彼が傷付かないなら、ってホっとしたんだ。
高校に入って彼が戻って来てたのには驚いた。
戻って来た事と、すっかり見違えるその見た目に。
あまりの変化に戸惑って、話しかけるきっかけを失っていたら、あっという間に人気者になって、ますます話しかけられなくなってしまった。
でも夏休みが明けてから、なぜか向こうからやたらと話しかけてくるようになって。
クラスの女子たちからの視線が痛い。
会話の内容は勉強のことばっかりだから、何も特別なことはないし、そもそも私って存在は容姿も並以下、地味で目立たない。
つまり彼女たちの心配には遠く及ばないものなのに。
私が彼を好きということを除けば。
もっとも単なる片思いだから、気にするのもおかしな話だけど。
読んでくださりありがとうございます!
あと、2話更新で完結なので
応援よろしくお願いします(≧∇≦)