第07話 「はじめてのおつかい」
第02節 魔王国から来た少女〔1/3〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ボクらがギルドの建物に足を踏み入れたら。冒険者たちの空気が揺れました。
「おい、〝大弓使い〟とその一党だ」「マキアから生きて帰って来たのか」「生存能力は既に一流ってか?」色々な囁きが聞こえます。
取り敢えず無視してプリムラさんのいる窓口に向かうと。
「おかえりなさい、ユウさん、ヒロさん、ショウさん、シズさん、ミナさん。
早速ですが、ギルドマスターがお待ちです。執務室までご同道ください」
有無を言わせず、連行されました。
◇◆◇ ◆◇◆
「よう、お前ら。随分遅かったな。どこで寄り道してたんだ?」
「……ボクらが生還したことに驚いていないみたいですが、どなたから情報を得たんですか? もしかしたら、そうそう簡単に会いに行くことは出来ないところに住むという、〝古いご友人〟に、ですか?」
モリスのギルドでは、生還者の情報はなかったって言っていました。モビレアではもう少し情報を入手出来たでしょうけれど、なら余計ボクらの生還確率が絶望的であることもわかっていたはず。にもかかわらず生還を疑っていないという事は、〝誰か〟から情報を得ていた、という事です。
「さすがに気付くか。お前たちの思っている通り、〝サタン〟に聞いた」
「〝魔王〟は、何と?」
「お前たちが辿り着く日を、楽しみに待っているってさ。
その道中で、お前たちが何を見て、何を知り、何を考え、そしてどんな答えを見出すか。
それが楽しみで仕方がないってさ」
何でしょう、この「はじめてのおつかい」に子供を出した、親の気持ちのような物言いは。
「徹底的に子供扱いですね」
「〝アイツ〟にとって、お前らはただの子供だろ?」
「ボクらは〝魔王〟を討つ為に旅をしているんですが」
「だからだ。お前たちは、まだ〝アイツ〟の前に立つ水準にまで到達していないってことだよ。
そもそも、お前らの〔契約〕では、お前らの使命は『〝サタン〟の討伐』だろう?
だが、どういう状況を指して『討伐した』と言うんだ? もしそれが『〝サタン〟の殺害』じゃないのなら、〝アイツ〟に負けを認めさせれば、それは〔契約〕を果たしたことにはならないか?」
〝魔王〟討伐。確かに「殺せ」と言われた訳ではありません。否、最初に聞いた時は「斃せ」でしたが、〔契約〕の文言は「討伐」でした。そして、「討伐」の本来の意味は、「敵対勢力を政治的に無力化すること」であり、必ずしも「殺害」の意味が込められるとは限りません。
なら、もしかしたら殺さなくても「討伐」を果たしたと〔契約魔法〕が認証する可能性はあります。一方で、「討伐」=「斃す」という認識をお互い持っていることから、殺さなければ「討伐」とは認められないかもしれませんが。
「なら、まずは〝アイツ〟に認めさせることを考えてみろよ。それで〔契約〕が果たされればそれで善し、そうでなければ次善の策を練れば良い。
〝アイツ〟にさ、『子供扱いして申し訳ありませんでした』って、頭を下げさせろよ。それが出来れば、〔契約〕がどう言おうと、お前たちにとっては一つの勝利だろ?
それにさ、〝アイツ〟の下になら、〔契約〕を無効化する方法があるかもしれない」
! それは一体どういう事でしょう?
「あのリンドブルム公爵。あの女性は、昔は〝サタン〟の奴隷だったらしい」
「え?」
「それも労働奴隷じゃなく、終身奴隷だ。けど、今のあの女性の首には〝誓約の首輪〟は無い。なら、何らかの方法でそれを解除したってことだろう」
その言葉を聞いた直後、髙月さんが食いつくように尋ねました。
「一体どうして、おb……、じゃなく、艦長さんが〝魔王〟さんの奴隷になっていたんですか?」
「〝アイツ〟と騎士王が、決闘したらしい。〝アイツ〟が負ければ〝アイツ〟は自身の身柄を騎士王国に移籍する。勝てばあの女性が〝アイツ〟の奴隷になる、ってな。
騎士王にとっては、勝てば〝遠い国〟の知識を二人分得られる。だから大人気なくも、近衛騎士団全軍で〝アイツ〟一人と勝負した。
だが、『一対多数』『一対軍勢』って言うのは、むしろ〝アイツ〟の最も得意とする戦況なんだ。結果、近衛騎士団が全滅してあの女性が〝アイツ〟の奴隷になった。
一方で、たった一人の他国の騎士相手に近衛騎士団全軍をぶつけた挙句全滅したとなれば、国の面目が立たない。で、騎士王国はその報復に陸軍師団と海軍艦隊を差し向けたら、こちらも壊滅状態となってしまったって訳だ。
そう考えると、お前たちという少数を〝アイツ〟にぶつけるという戦略は、〝アイツ〟を攻略するには正しい選択と言えるだろうな」
それが、騎士王国と〝魔王〟の縁の始まり、という事ですか。それにしても。
「それって、歴とした逆恨みじゃないですか!」
髙月さんが怒ってます。と言うか、そんなくだらない理由で召喚された、ボクら全員怒る権利がありますね。
「だが、今となっては騎士王の思惑なんぞ、お前らにはどうでも良いことだ。違うか?
そしてお前ら自身にとっても、〝アイツ〟の真正面に立つことは、それ自体が難行だ。
〝アイツ〟は戦士としては、一介の冒険者から始めて、戦争の武勲で一国の王女の守護騎士となり、一人で騎士王国の軍団を事実上壊滅させ、最後は世界最強の魔物である龍さえ屈服させた。
男としては、身寄りのない自分を受け入れてくれた町が滅びたのち、元その町の住民だった難民一万余を受け入れ、また仕えていた国の王女たちや幼い王族を保護し、彼らを守る為の国を興した。
学者としては、この世界の歴史を繙き、魔法の本質を解明し、新たな魔法体系の構築に成功した。
こんな男の正面に立ち、その頭を下げさせる。これは、〝アイツ〟を殺すより難儀だぞ?」
言われて、確かにそれが、とんでもなく大変なことだと気付かされました。
「殺す」だけなら、やりようはあります。極端な話、一服盛れば人は死にます。
けど、〝魔王〟に頭を下げさせる。つまり、〝魔王〟に認めさせる。
その為には、〝魔王〟を真正面から超えなければならないという事ですから。
ボクらは、年齢的にも立場的にも、〝魔王〟から見て子供です。
その時点で、ボクらは〝魔王〟に負けているんです。なら、勝つ為には何をしなければいけない?
戦略の、練り直しです。
◇◆◇ ◆◇◆
「それから。お前たちに紹介したい人物がいる」
ギルマスはそういって、プリムラさんに合図をしました。
そしてプリムラさんは一旦退出し、一人の女性を連れて来たのです。
その女性は、ボクらより一つ二つ幼く見える容貌。長い茶色の髪をヘッドドレスで抑え、フリルがたくさんついたメイド服を身に纏い……って、
「メイドさん?」
秋葉原風ではなく、本場ヴィクトリア調のメイドさんが、そこにいました。
(2,969文字:2018/02/06初稿 2018/09/01投稿予約 2018/10/06 03:00掲載予定)




