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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
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第04話 新しい力・1 ~薙刀~

第01節 逃避行〔4/6〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 松村さんがエリスちゃんから受け取った薙刀(なぎなた)。それは、素人目にも一級品であることがわかります。〝ゴブリンドロップ〟の長剣や(ドレイク)王国の戦士が持っていた緋色の燐光を(まと)った剣よりも更に深い緋色の刃。そしてその燐光が魔力の放射光だと仮定するなら、この薙刀は刃のみならず柄からもその光を発しており、一体どれだけ高濃度の魔力にどれだけ長時間(さら)したものなのかと恐ろしくなるほどです。


「じゃぁ改めて戦術をおさらいしましょう。

 初撃はボクの微塵(みじん)。それから間髪を容れずに飯塚くんの〔火弾〕。

 その後ボクらは〔火弾〕のみ。飯塚くんは正面を(ヘイトを)受け持つ(とる)必要はありません。魔羆(マッドグリスリー)相手にレニガードは意味がないでしょうから。

 松村さんと柏木くんは、両側から。柏木くんの長柄(ポール)戦槌(ハンマー)は〔振動〕を付与して。

 髙月さんは一歩引いた位置からナンバー・システムでコール。実は一番重要な役目です。

 人間はまず『認識』して、それから『判断』して、そして『行動』に移します。『認識』の段階でパニックを起こすと、『判断』が出来なくなり、結果『行動』に移せなくなるんです。だけど『認識』の段階で〔倉庫〕を開く事が出来れば、外界では次の瞬間に『行動』出来ます。また、〔倉庫〕を使えば短距離の(ショートレンジ・)瞬間移動(テレポーテーション)が出来ることも確認されていますし、移動中であっても慣性を無視して別方向に針路を変えることも出来るでしょう。これは、攻撃と回避、どちらに於いても有効です。

 だから、コールは躊躇(ためら)わずに。攻撃機会(チャンス)より回避優先です」


 これは、(ドレイク)王国の戦士たちとの戦いの反省でもあります。あの時は、確かに装備の質も戦士としての技量もその経験も違い過ぎました。けど、〔倉庫〕を最大限活用出来ていれば、回復のみならず回避と攻撃にも〔倉庫〕の性質を応用出来ていれば、もう少し戦い方があったと思うんです。例えば〔倉庫〕を活用したショートレンジ・テレポーテーションで敵兵の後ろに回るとか、或いはそれを繰り返して離脱(逃走)するとか。それを思いつかなかったボクらは、あの時それこそ『認識』の段階でパニックを起こしていた、という事なんです。

 いくら膂力(りょりょく)があっても(わざ)の無いヒグマ程度では一線級の戦士の代わりにはならないでしょうけれど、ここはそれでも〔倉庫〕を活用した戦術の練習台になってもらいましょう。


◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 そして〔倉庫〕内でのミーティング(ブリーフィング)を済ませ、オレたちは外界、魔羆の前に進み出た。魔羆はやはり興奮しているようだ。

 初撃の微塵。これは打撃のダメージも〔電撃〕のダメージも浸透し(とおっ)ていないようだ。更に飯塚の〔火弾〕。これもダメージを与えた気配がない。さすがに魔獣の中でも一二を争う強靭(きょうじん)さだ。

 そして魔羆は真直ぐ飯塚に向かって突進する。


「0!」


 髙月のコールに従い〔倉庫〕を開き、そして全員の立ち位置を変えて外界へ。すると髙月は突進する魔羆の真後ろに、その両脇に既に投擲紐(スリング)を構えた飯塚と武田。オレと松村は突進している魔羆の真横で既にそれぞれの得物(えもの)を振り下ろしていた。


 ヒット。

 〔振動〕を付与した俺の長柄戦槌は確かな手応えで魔羆を痛撃した。そして松村の薙刀は、熱したナイフをバターに刺し込むように、ずぶずぶと魔羆の体内に刃を沈めていった。


「8! 3!」


 オレたちに散開を命じる8(コール)と飯塚たちに攻撃を命じる3(コール)

 そしてスリングから〔火弾〕が投擲(とうてき)され、それが命中するや(いな)や、


「0!」


 〔倉庫〕開扉の0(コール)

 次の位置取りは、現在の魔羆の位置から斜め前に髙月が立ち、ちょうど松村は魔羆と正対する位置に。

 けれど外界に出ると、〔火弾〕の命中で魔羆は後ろを振り向いた。つまり、松村に背中を見せる格好になった訳だ。


 もうここまで来ると、あとは詰将棋。〔火弾〕は魔羆にダメージを与えられないけれど、その怒りを買い視線を誘導する役には立つ。つまり「ヘイト・コントロール」が出来た訳だ。

 そして、オレの長柄戦槌は。


 どうも、〔振動〕の魔法の反動を、この質の悪い武具では受けきれなかったようだ。目釘が砕け、ハンマーヘッドが吹っ飛んでしまった。そしてただの棒で魔羆と戦うことは出来ない。

 仕方がなく、〝ゴブリンドロップ〟の長剣(ロングソード)を借りた。但し、剣術を(たしな)んでいる訳ではないオレが剣として使っても大した効果はない。だからヤクザのように剣を小脇に抱え、体当たり気味に突き出した。これも〔倉庫〕を使って至近距離の死角に回れたからと、既に充分なダメージを与えており、魔羆の反応が鈍っていたから出来ること。魔羆が健在なら、体当たり気味の接近戦など、腕の一振りで上半身と下半身が泣き別れしてしまう。


 結局、この一撃が(とど)めとなり、オレたちは魔羆を(たお)す事が出来たのだった。

 といっても、この一戦で何回〔倉庫〕を開いたのかわからない。それだけ一瞬の判断を要するシーンが連続したという事で、終わったときにはオレたちは皆、精根尽き果ててその場に座り込んでしまったけど。


◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 戦いが終わって。

 だけど俺は、深刻な劣等感(コンプレックス)(さいな)まれていた。


 松村さんと柏木は、攻撃(ダメージ)担当(ディーラー)として充分な戦力がある。

 武田は、魔羆のような大物相手では仕方が無いとはいえ、それ以下の相手に対しては充分以上の攻撃力を持つ微塵を使える。

 美奈は、〔泡〕を使った索敵とナンバー・システムによる戦術指揮で、戦闘力が無くても皆の役に立っている。

 けど、俺は?

 (クロスボウ)の一撃など、ちょっとした魔物にはもう通用しない。人間相手でもそうだ。戦場ではまるで役に立たなかった。

 槍などは、子供の遊びレベル。(ドレイク)王国の戦士たちにはまるで相手にされなかった。


 勿論(もちろん)、戦闘だけが全てじゃないだろう。けど、戦闘以外の局面でも、俺でなければならないと言えるものは、何もない。

 戦闘力では松村さんと柏木に劣り、知識では松村さんと武田に劣り、とっさの判断力では美奈と武田に劣り、対人交渉力では美奈と松村さんに劣り。


 俺は、皆の足手(あしで)(まと)いになっているんじゃないだろうか?

(2,393文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2018/02/05初稿 2018/08/01投稿予約 2018/09/30 03:00掲載 2021/04/18誤字修正)

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