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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
断章:魔王とギルマス・1
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断章01 受付嬢は斯く語りき

断章 魔王とギルマス・1〔1/3〕

◇◆◇ プリムラ ◇◆◇


 ここは、スイザリア王国モビレア市の、冒険者ギルド。

 そこの受付に座ります、私の名前はプリムラ。ギルドマスター付きの秘書としての肩書もありますが、この受付で冒険者の皆さんを見守るのが好きなんです。ただ、もう三十路(みそじ)も半ばになって「嬢」と呼ばれるのはさすがにどうかとも思いますが。

 ちなみに、この歳になってもまだ独身です。えぇ、死別とか離別とかでもなく、まだ誰かとそういう関係になったことはないんです。


 多分それは、私の少女時代の体験に起因します。

 ようやく性を自覚し始めた頃。同年代の男の子に、全身を()で回され、身体の奥に変な器具を挿し込まれるという、酷い体験をしてしまいました。勿論(もちろん)それまでは、叔父であるマティアスにさえ裸を見せたことなんかありません。ましてや出会って数日の男の子に触りまくられたんです。もうお嫁になんか行けません。

 けど彼は、その責任を取りもせずに町を離れました。連れ歩いている少女奴隷と共に。そして伝え聞く話によると、今では奥さんが6人に、その他非公式の愛人が10人以上いるそうです。それなら私を囲ってくれてもいいのに……って、何を言っているんでしょうか? ともかく、そんな女にだらしのない、不誠実な男と関わりを持ってしまったのが、私の不幸の始まりなのでしょう。


 それはともかく。去年の夏の三の月。ちょっとした出会いがありました。

 私は、マキア独立運動鎮圧の為の徴兵依頼に関して、モリスの冒険者ギルドと打ち合わせをする必要がありました。モリスの町は『ベスタ大迷宮』の門前町でもあり、モビレアのギルドとは頻繁に情報を交換しているのです。

 そして、徴兵依頼についての調整が終わり、ふと冒険者たちの待合室を見てみると。


 そこに、〝奴隷の首輪〟をした少年少女がいました。

 この地方には珍しい、黒髪と暗色系の瞳の色。どこかからの、出稼ぎ奴隷でしょうか?

 彼らは冒険者登録を希望しているようでしたが、主人の紹介状などは持っていないみたいです。あれでは普通のギルドでは、登録することは出来ないでしょう。(いえ)何処(どこ)のギルドであっても、受付嬢の裁量で認められる案件ではありません。かといってギルドマスターが采配する案件だとしても、そこまで書類を回さなければなりませんから、コネの無いただの奴隷がどうこう出来る内容ではないのです。


 けど、私は。

 モビレアのギルドマスター秘書であり、ギルドマスターの実の姪である私は、この案件をギルドマスターに届けることが出来ます。当然、この少年少女が、それに(あたい)する人物であれば、の話ですけど。

 だから彼らに対し、私をモビレアまで護衛するという依頼を発注することにしました。

 当然ながら、これはモビレアギルドとしてとか、ギルドマスター秘書として発注したものではありません。そんな権限は私にはありませんから。ですからこれは、ギルドを介さない個人的な依頼。彼らがそれを反故(ほご)にしたとしても、違約条項(ペナルティー)を定めることさえしない。その一方で、この依頼を完遂したとしても、私が彼らのことをギルドマスターに紹介しなかったとしても文句を言われる筋合いのないもの。


 この依頼は、彼らにとってふたつの意味があります。

 一つは、目の前にあるチャンスを、ちゃんと捕まえられるかという事。

 地縁も血縁もなく、その知識・技能を保証してくれる第三者もいない人が、初対面で信用を得ることはまず不可能に近いことです。例外となるのは、そこに誰かの気紛(きまぐ)れが介在する場合。けど、その「気紛れ」は「悪意」と表裏一体。善意を期待して悪意に取り込まれる人は少なくないでしょうし、悪意を警戒して気紛れを取り(こぼ)す人もまた少なくないと思われます。

 ……私自身も少女時代、通りすがりの第三者の気紛れによって命を救われましたから、よくわかります。


 もう一つは、その「気紛れ」が「悪意」の化粧でしかない場合に備えることが出来るか。

 彼らが私のことを「善人」と評価して、無警戒で過ごすのなら。彼らは早晩本物の悪人に(だま)される末路しかないでしょう。


 結果的に、彼らは「未熟ながらも見どころ有り」、という評価に終わります。

 ならあとは、ギルドマスターの判断に任せれば良い。そう思って、叔父さんの執務室に彼らを連れて行きました。


 ……吃驚(びっくり)しました。

 20年以上前に、〝彼〟がよく口にしていた言葉を、この少年たちは口にしたのです。


 〝遠い国の言葉〟。


 勿論、他国特有の言い回し、というモノはあります。それを、そのように表現しただけだったのかもしれません。けれど。

 彼らが口にした〝遠い国の言葉〟という表現は、〝彼〟が口にしたそれと、同じ意味合いだと、素直に信じることが出来ました。

 そして、彼らが辿(たど)るという〝縁〟。それは、〝彼〟に至るものであると、確信しました。


 彼らが冒険者登録して、三ヶ月弱。彼らは彼らなりに色々な人たちとの縁を(つむ)ぎ、その評価は高いレベルで推移していました。当然ながらウマ(・・)が合わない依頼主(クライアント)も、いない訳ではありませんでしたけど。

 けれど、銅札(Cランク)への昇格試験の内容を聞いた時。彼らはそれを拒否しました。どんな理由であっても、「殺す為の殺しはしたくない」からと。


 彼らの気持ちもわからないこともないんですけどね。

 ギルドが求めるのは、「殺す覚悟を持てること」。けど、それを客観的に評価する為には、実際に手を下せ、と言うしかないんです。でも本当は、過去には引退するまで一人も殺さずに白金札(Sランク)に上り詰めた冒険者も存在しています。道は、あるんです。ギルド側からそれを教えることは出来ませんが。


 そうこうしているうちに、冒険者たちに対して、国から正式に徴兵命令が発令されました。けれど、うちのギルマスは貴族たちから嫌われています。勿論都市運営に関しては、個人的な好悪の念を超えて協力関係にありますが、それとは無関係の場に於いては、遠慮なく足を引っ張ってきます。今回も、それが理由で徴兵される冒険者の数が足りなくなりました。

 それを補うのは、鉄札(Dランク)の冒険者。けど鉄札(Dランク)であるという事は、その戦闘能力について未判定。兵士や騎士に対して足を引っ張ることになり兼ねません。それでも、雑用や人工(にんく)代わりにはなるはずだと、鉄札(Dランク)の動員が決まりました。そう、彼らもそこに含まれていたのです。


 出征してから、おおよそ二ヶ月。

 前線から送られる戦闘詳報では、彼らの活躍はほとんど報じられませんでしたが、その巨大な〔収納魔法〕で輜重(しちょう)(にな)ったことは、()れずに報告されていました。

 そして、ロウレス攻城戦。


 ……驚きました。まさか攻城兵器を、敵の攻撃を前にして城壁目前の位置に配置するという難業を成し遂げたというのですから。それにはシズの超遠的の弓射も不可欠の要素だったようですが、それだけで出来ることではありません。

 彼ら自身の戦闘能力はそれほど高くはないのかもしれませんが、けれど彼らの〔収納魔法〕は、間違いなく戦略級だという事になります。


 けれど。そのすぐ後。

 彼らは、ドレイク王国の部隊の襲撃を受け、捕縛されてしまったのだそうです。

(3,000文字:2018/01/29初稿 2018/08/01投稿予約 2018/09/18 03:00掲載予定)

【注:プリムラ嬢が少女時代に受けたセクハラ(笑)の詳細は、前作『転生者は魔法学者!?』(n7789da)の第三章第14話(第108部分)を参照してください。また、「身体の奥に変な器具を入れられ」たと言っていますが、入れたのは鉗子(かんし)です】

・ 少女時代のプリムラ嬢にセクハラした男の、「奥さん6人、非公式の愛人10人以上」というのは、あくまで噂話です。発信源はおそらく、某ニートメイドと某女艦長あたり。そのエピソードを、吟遊詩人が面白可笑しく尾鰭を付けて語ったのをプリムラ嬢は聞いたのでしょう。

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