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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第二章:依頼は選んで請けましょう
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第40話 異世界転生

第08節 嵐の女帝〔3/4〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 不思議な、(ひと)だった。


 夢の中(どこか)()った、ような。厳しい表情の中に見え隠れする、懐かしくも優しい顔。

 ショウくんの悪戯(いたずら)逆手(ぎゃくて)に取って悪戯をし返すときの、小母(おば)さまの、慈愛に満ちた表情にそっくり。一所懸命怖い顔を作っているけど、気を抜いたら噴き出しちゃいそうだから必死に表情を取り(つくろ)って、だから余計怖く見える、あの表情。

 もしかしたら、ショウくんも無意識で気付いているのかも。だって、ショウくんが質問された時、ショウくんは(すご)くリラックスして答えているから。


 武田くんや柏木くんへの質問は、この世界での美奈たちの足跡を問うものばかりだったのに、ショウくんに対する質問は、ご家族の事、特にお母さまの事ばかり。

 それにさっき、〝ダウト〟って言った。この世界には無い、翻訳不可能語を、この世界の人でありながらそう発音したんだ。

 多分間違いない。騎士王国でも、魔術師長が言っていたじゃない。「二人ほど心当たりがある」って。そして、艦長さんは西大陸の出身だって言っていた。なら、一人目は〝魔王(サタン)〟さんで、二人目は艦長さんで決まり。そしてきっと、〝魔王(サタン)〟さんは、艦長さんに会いに西大陸に行ったんだ。

 なんか嬉しくなってきて、(ほお)が緩むのを抑えられなかったら。


「そこの貴女。髙月さんといったかしら?

 何ニマニマしているの?」


 うぅ、怒られちゃった。


「ごめんなさい。でもでも、艦長さんが思ったほど怖い人じゃなくって良かったです」

「……どういう脈絡でそんな感想が出て来るのか、良かったら教えてくれるかしら?」

「今は嫌です。他の人がいるところでは、言いたくありません」

「ここには、貴女たちとあたししかいないけど?」

「そうですね、残念です。ならそう遠くない未来に、美奈たちが自分の足で〝魔王(サタン)〟さんの(もと)辿(たど)り着いたら、ゆっくりお話しする時間を作ってくださいますか?」

「貴女は、今自分がどういう立場にいるかわかっているの? あたしの機嫌を損ねたら、貴女たち全員(サメ)の餌、よ?」

「え? ショウくんにそんな酷いことをするんですか? あ、わかりました。サメ漁のやり方を教えてくださるんですね?」

「だからどうして貴女はそう前向きなのよ……?」


 だって、小母さまがショウくんを危険な目に()わせるはずがないもの。

 一見危険なことでも、ちゃんと細かく気を使って安全に配慮してくれている。

 昔は子供だったから気付かなかったけど、でも今はもう美奈もショウくんも知っている。そこに危険があるのなら、小母さまの話を聞かなかったときだけだって。


 でも。

 それは、今ここでばらしていい話じゃない。誰かに教えられるんじゃなく、何となく気付くんでもなく。

 ショウくんが自分の足で〝魔王(サタン)〟さんの許に辿り着き、その果てに知るべきことだから。


◇◆◇ ◆◇◆


 小母さま……じゃなく、艦長さんは、美奈の能天気な返答で毒気を抜かれたみたい。

 尋問は結局、それでお開きになっちゃった。残念。もう少しお(しゃべ)りしたかったのに。


「美奈。何故そんなに余裕を持っていられるんだ? あたしたちの運命は、あの艦長が握っているんだろう?」

「うん、だから大丈夫だよ? ショ……美奈たちが今ここにいるのは、艦長さんと〝縁〟を(つむ)ぐ為だから」

「どういうことだ?」

「言葉通りだよ? 美奈たちは、このマキアの港に来なきゃいけなかったの。艦長さんに会う為に。

 だって、そうじゃなきゃ〝魔王(サタン)〟さんは、美奈たちが会いに行こうと旅していることをいつまで経っても知らないままじゃない」

「艦長さんが、あたしらの旅の意味を理解して、あたしらのことを〝魔王(サタン)〟に伝えてくれる、と?」

「うん。艦長さんは厳しいから、このまま船に乗せて真直ぐ〝魔王(サタン)〟さんの(もと)に連れて行ってくれる、ってことはしてくれないと思う。けど、ちゃんと自分の足で辿り着いたら、歓迎してくれるよ?」

「まるで、知り合いのような口ぶりだな?」

「うん、よく似た人を知っているの。その人ならそうしてくれる。

 けど、それはショウくんには内緒にして。その人のことはショウくんも知っているから。その人の話をしちゃったら、ショウくんはその印象に引き()られちゃうから」

「『先入観に(とら)われる』、か」


 それは、騎士王国で初めて〝魔王〟という言葉を使った時の話だね。


「うん。美奈は一つの確信があるけど、それだって美奈の思い込みかもしれないから。

 だから、ショウくんには真っ新(まっさら)な立場で考えてほしいから」

「わかった。ならこの話は、あたしの胸に留めておこう。そして美奈自身が、何かの思い違いをしていたり(だま)されていたりしないかどうか、監視させてもらうことにしよう」

「うん、そうして。それで美奈が間違っていたら、指摘してね?」


◇◆◇ ◆◇◆


 そして翌日早朝(ひのでまえ)。美奈たちは船を降りるように命じられたの。

 それに先立ち、美奈たちの服や装備一式を返してもらえた。すぐにスマホを確認したところ、何故か(笑)充電完了しているし。またボイスレコーダーに、音声データが増えている。〝誰か〟が何かを吹き込んだに違いない。


「艦長さん、有り難うございました。

 また、お会いします。今度は、〝魔王(サタン)〟さんの国で」

「捕虜にされたことを喜ぶなんて、貴女はどこか変わっているわね。

 でもそうね。ちゃんと自分の足で、あたしたちの国に来る事が出来たら。またたくさん語り合いましょう」

「はい、是非!」

「もっとも、それは貴女たちが無事にこの国を出れたら、の話でもあるけどね」

「……どういうことですか?」

「言ったでしょう? マキアの王党派が、貴女たちの引き渡しを要求しているって。

 すぐに追捕(ついぶ)の手がかかるわ。けどその逃避行に、貴女たちはスイザリア軍を頼ることは出来ない」


「何故、でしょうか?」


 艦長さんの不穏な言葉に、おシズさんが問い返す。


「合流しても構わないわよ? だけどこれから、日の出と同時に、あたしたちはスイザリアの野営地を攻撃する。間に合えば、貴女たちもその攻撃に巻き込まれることになるし、間に合わなかったら貴女たちが目の当たりにするのは兵士の死体の山でしょう」


 それは、恐ろしい予告。


「わかりました。じゃぁ美奈たちは生存を優先させてもらいます」

「そうしなさい」


 船から降り、すぐに〔倉庫〕を開き。飛びついてきたエリスちゃんをあやしながら。


「これからどうする?」

「スイザリアの野営地は、多分ロウレスの町の東側。攻略時に本陣を置いた場所だと思う」

「何故、そうだと?」

「カンポリデの丘は見晴らしが良過ぎる。飛竜(ワイバーン)(よう)する艦長にとって、これほど攻め易い場所はないだろう。

 なら、せめて空からの目を(さえぎ)る森の中に本陣を置くんじゃないかな?」


 おシズさんの問いかけに、ショウくんが答える。でも、スイザリア軍に合流するのは絶対に反対。小母さまが危険だと言った以上、それを無視しても良いことなんかあるはずがない。


 だから美奈たちは、ロウレスの南の丘に行くことにした。あそこからなら、ロウレスの町とスイザリアの野営地の両方を見下ろせるから。

(2,995文字:2018/01/28初稿 2018/08/01投稿予約 2018/09/14 03:00掲載 2023/10/29美奈の一人称が間違っていたので修正)

【「夢の中(どこか)()った、ような」は、〔新房昭之監督・テレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』〕の第一話のタイトルのオマージュです】

・ 髙月美奈さんは、〝ダウト〟を「翻訳不可能語」と考え、それを発音したリンドブルム公爵の素性を推理しました。けど、仮にアメリカ人が〝doubt(ダウト)〟と発音した場合、これは正しく翻訳されます。カタカナ語が翻訳不可能語になるのは、あくまで「それが日本語に取り込まれた結果、その意味が歪曲され本義からかけ離れてしまったり発音が変わってしまったり」した言葉です。だから、〝ダウト〟が翻訳不可能語かどうかは実は微妙。

・ 〝サメ漁〟は、サメをターゲットにした漁業ではなく、マグロをターゲットにした結果『外道』として獲れるサメを指して言います。ヒレ目当てで、ヒレだけとって本体を捨てる〝フィニング〟が世界的に問題になっているそうですが、日本のサメ漁は本体も食材。カマボコのネタが定番ですが、中国地方山間部では「わに」と呼ばれて親しまれています。ついでに、「因幡の白兎」に出てくる「和邇(わに)」はサメのことです。

・ ここで一つ、ネタばらし。髙月美奈さんの辿る〝縁〟は、この世界にはありません。そして彼女をこの世界に導いた〝縁〟は、変わらず彼女の隣にあります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうしてもわからない、たしかに主人公達の考えは立派に聞こえるけども縁を辿るというなら魔王(転生者だと疑っているなら)が現状一番に関係する自分たちの縁だと考えると思うんだけど、それに転生…
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